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第一章 ド田舎は馴染むまで大変!
ノーヘル運転は危険!
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――北稲原署
刑事課は警察署の規模により、まちまちだ。
中小であれば生活安全課と合同で、『刑事生活安全課』が多い。
広域団体がいるエリアでは、組織犯罪対策課も加えての『刑事生活安全組織犯罪対策課』と長い名称にも……。
ここは過疎地域を担当していて、都心部と比べれば、犯罪の件数と凶悪犯は少ない。
ただ、ニュータウンの建設に伴い、一時的な治安の悪化が見られる。
元々の地縁がないからだ。
誰がいても不審がられず、自治会も機能しにくい。
落ち着くまでは、数世代かかるだろう……。
会社のオフィスのように、事務デスクが並べられたフロア。
奥に管理職のデスクがあるのは、ここでも同じ。
刑事課長が座ったままで、外を見た。
窓ガラスの外は、真っ暗だ。
と思ったら、明るい光。
ゴロゴロ
ピシャーン!
「ん? 雷か?」
天気予報では、夜も晴れだったはず……。
気になった刑事課長だが、モニターに視線を戻す。
「橋本課長! 弁当、届きました! 麦茶でいいすか?」
「ああ、ご苦労さん……。そこに置いてくれ」
デスクの隅に置かれた、出入り業者の弁当。
広いフロアーを見渡せば、まだ残っている刑事や捜査員が山積みの弁当をどんどん持っていき、自分の席に座る。
食える時に食うかと思い、透明な蓋を開け、割り箸でおかずとご飯を口に入れた。
公用の携帯電話が、鳴り出した。
「橋本です! ……はい。……すぐに、ウチのを向かわせます」
電話を切った刑事課長は、走り書きのメモを見ながら、大声で指示を出す。
「――で殺しだ! 広域団体の連中が相手だから、拳銃を忘れるな!!」
――廃工場のオフィス跡
「バカ! 吐くなら、外でやれ!!」
あまりの惨状に、気持ち悪くなる人間も続出。
警察の捜査は、難航している。
「課長! ここが連中のアジトなのは、間違いありません。バラバラ死体は複数で、構成員か、その手下のようです。幹部の木席皮もいて、そっちは逃げました。周辺の監視カメラに奴が映っていて……はい! 俺は引き続き、この現場にいます」
――北稲原町から外へ抜ける山道
「くそっ! くそっ! 何なんだ、あいつは!? あの化け物は!」
ビイイィッと、甲高いエンジン音。
春とはいえ、山に入れば肌寒い。
原付に乗っている木席皮はノーヘルのままで、ハンドルを握っていた。
もしも対向車が来れば、避けられないほどの狭さ。
見えているのは、ヘッドライトで照らされた、わずかな範囲のみ。
だが、彼はスピードを落とさない。
ここは、旧道だ。
物流から外れた、時代に取り残された遺物……。
木席皮は廃工場のオフィスで、自分の手下を虐殺した室矢カレナが怖い。
彼女は手で触れることなく、男たちを捩じ切り、吹き飛ばした。
「あれが、室矢だってのか!? どこかに閉じ込めておけよ!!」
恥も外聞もなく、大の男が泣き喚いている。
そうしなければ、発狂しかねないほど。
ブウウウンッと走れば、やがて封鎖されたトンネルに辿り着く。
原付のスピードを緩めた木席皮は、いったん足をつけて、そのバリケードを取っ払う。
ガコンッ ガシャンと、大きな音が響く。
「ふうっ……。あとは、ここを抜ければ、県外に出られるはずだ」
作業に集中したことで、木席皮は落ち着いた。
再び原付にまたがり、ヘッドライトを頼りに、あの世へ通じていそうなトンネルの中へ。
旧トンネルは山越えをしない道として、重宝された。
けれども、古い造りで、大型車両が通るには狭く、老朽化による崩落の恐れも……。
ドドドと、エンジン音が反響する中で、慎重に進む木席皮。
旧道も荒れていたが、封鎖されて灯りがないトンネル内には、何があってもおかしくない。
『ゾッとしない場所だな……』
気を紛らわすために声を出せば、マイクで喋っているよう。
やがて、遠くに明るい部分が見えてきた。
出口だろう。
ところが――
急に、目を開けていられないほどの眩しい光に!
『な、何だ……チッ! もう張り込んでいたのか!!』
警察の車両だと思った木席皮は原付を止め、手で隠しながら、前方の様子を窺う。
目潰しでかなり見えづらいが、重いエンジン音と、平べったい車高。
キュラキュラキュラ
タイヤにしては妙な音が、響いた。
下のアスファルトを抉っているようで、ガガガと嫌な音も。
『せ、戦車だああぁああっ!?』
木席皮は、前方を塞いでいる物体が主力戦車だと気づく。
前照灯が光っているものの、警察車両につきものの、赤の回転灯はない。
ブルンッ!
ガコッと、ギアが切り替わる音が続き、戦車は一気に加速した。
小さなトンネルゆえ、まさに壁が迫ってくる。
『じょ、冗談じゃねえぞ!』
反対方向にした木席皮は、トップスピードで逃げる。
身軽な原付ゆえ、先にトンネルを抜け――
次の瞬間、その原付は戦車へ突っ込む位置にいた。
『は?』
全く理解できない木席皮は、間抜け顔のまま、主力戦車にぶつかった。
仮にも戦車が、原付ごときモヤシに負けるはずもない。
まして、正面装甲だ。
厚さが違いますよ!
ノーヘルの代償として顎を砕かれ、後頭部を強打した木席皮は、車体の下へ滑り込む。
戦車は、内部から爆散。
その体に大量の破片が降り注ぎ、スキマから燃料が混ざった炎に覆われる。
『おうううあ゛あ゛えええええああ゛っ!』
この世で最も悲惨な死に方となった木席皮は、ようやく死亡。
せまい車長シートから、山の木の上に立った室矢カレナは頷いた。
「これでまた1つ、都市伝説が増えましたね……」
刑事課は警察署の規模により、まちまちだ。
中小であれば生活安全課と合同で、『刑事生活安全課』が多い。
広域団体がいるエリアでは、組織犯罪対策課も加えての『刑事生活安全組織犯罪対策課』と長い名称にも……。
ここは過疎地域を担当していて、都心部と比べれば、犯罪の件数と凶悪犯は少ない。
ただ、ニュータウンの建設に伴い、一時的な治安の悪化が見られる。
元々の地縁がないからだ。
誰がいても不審がられず、自治会も機能しにくい。
落ち着くまでは、数世代かかるだろう……。
会社のオフィスのように、事務デスクが並べられたフロア。
奥に管理職のデスクがあるのは、ここでも同じ。
刑事課長が座ったままで、外を見た。
窓ガラスの外は、真っ暗だ。
と思ったら、明るい光。
ゴロゴロ
ピシャーン!
「ん? 雷か?」
天気予報では、夜も晴れだったはず……。
気になった刑事課長だが、モニターに視線を戻す。
「橋本課長! 弁当、届きました! 麦茶でいいすか?」
「ああ、ご苦労さん……。そこに置いてくれ」
デスクの隅に置かれた、出入り業者の弁当。
広いフロアーを見渡せば、まだ残っている刑事や捜査員が山積みの弁当をどんどん持っていき、自分の席に座る。
食える時に食うかと思い、透明な蓋を開け、割り箸でおかずとご飯を口に入れた。
公用の携帯電話が、鳴り出した。
「橋本です! ……はい。……すぐに、ウチのを向かわせます」
電話を切った刑事課長は、走り書きのメモを見ながら、大声で指示を出す。
「――で殺しだ! 広域団体の連中が相手だから、拳銃を忘れるな!!」
――廃工場のオフィス跡
「バカ! 吐くなら、外でやれ!!」
あまりの惨状に、気持ち悪くなる人間も続出。
警察の捜査は、難航している。
「課長! ここが連中のアジトなのは、間違いありません。バラバラ死体は複数で、構成員か、その手下のようです。幹部の木席皮もいて、そっちは逃げました。周辺の監視カメラに奴が映っていて……はい! 俺は引き続き、この現場にいます」
――北稲原町から外へ抜ける山道
「くそっ! くそっ! 何なんだ、あいつは!? あの化け物は!」
ビイイィッと、甲高いエンジン音。
春とはいえ、山に入れば肌寒い。
原付に乗っている木席皮はノーヘルのままで、ハンドルを握っていた。
もしも対向車が来れば、避けられないほどの狭さ。
見えているのは、ヘッドライトで照らされた、わずかな範囲のみ。
だが、彼はスピードを落とさない。
ここは、旧道だ。
物流から外れた、時代に取り残された遺物……。
木席皮は廃工場のオフィスで、自分の手下を虐殺した室矢カレナが怖い。
彼女は手で触れることなく、男たちを捩じ切り、吹き飛ばした。
「あれが、室矢だってのか!? どこかに閉じ込めておけよ!!」
恥も外聞もなく、大の男が泣き喚いている。
そうしなければ、発狂しかねないほど。
ブウウウンッと走れば、やがて封鎖されたトンネルに辿り着く。
原付のスピードを緩めた木席皮は、いったん足をつけて、そのバリケードを取っ払う。
ガコンッ ガシャンと、大きな音が響く。
「ふうっ……。あとは、ここを抜ければ、県外に出られるはずだ」
作業に集中したことで、木席皮は落ち着いた。
再び原付にまたがり、ヘッドライトを頼りに、あの世へ通じていそうなトンネルの中へ。
旧トンネルは山越えをしない道として、重宝された。
けれども、古い造りで、大型車両が通るには狭く、老朽化による崩落の恐れも……。
ドドドと、エンジン音が反響する中で、慎重に進む木席皮。
旧道も荒れていたが、封鎖されて灯りがないトンネル内には、何があってもおかしくない。
『ゾッとしない場所だな……』
気を紛らわすために声を出せば、マイクで喋っているよう。
やがて、遠くに明るい部分が見えてきた。
出口だろう。
ところが――
急に、目を開けていられないほどの眩しい光に!
『な、何だ……チッ! もう張り込んでいたのか!!』
警察の車両だと思った木席皮は原付を止め、手で隠しながら、前方の様子を窺う。
目潰しでかなり見えづらいが、重いエンジン音と、平べったい車高。
キュラキュラキュラ
タイヤにしては妙な音が、響いた。
下のアスファルトを抉っているようで、ガガガと嫌な音も。
『せ、戦車だああぁああっ!?』
木席皮は、前方を塞いでいる物体が主力戦車だと気づく。
前照灯が光っているものの、警察車両につきものの、赤の回転灯はない。
ブルンッ!
ガコッと、ギアが切り替わる音が続き、戦車は一気に加速した。
小さなトンネルゆえ、まさに壁が迫ってくる。
『じょ、冗談じゃねえぞ!』
反対方向にした木席皮は、トップスピードで逃げる。
身軽な原付ゆえ、先にトンネルを抜け――
次の瞬間、その原付は戦車へ突っ込む位置にいた。
『は?』
全く理解できない木席皮は、間抜け顔のまま、主力戦車にぶつかった。
仮にも戦車が、原付ごときモヤシに負けるはずもない。
まして、正面装甲だ。
厚さが違いますよ!
ノーヘルの代償として顎を砕かれ、後頭部を強打した木席皮は、車体の下へ滑り込む。
戦車は、内部から爆散。
その体に大量の破片が降り注ぎ、スキマから燃料が混ざった炎に覆われる。
『おうううあ゛あ゛えええええああ゛っ!』
この世で最も悲惨な死に方となった木席皮は、ようやく死亡。
せまい車長シートから、山の木の上に立った室矢カレナは頷いた。
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