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第一章 ド田舎は馴染むまで大変!
入学式でもう固まっている人間関係
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『篠ノ里高校の生徒である自覚と誇りを持ち――』
古ぼけた体育館の中でステージ上の演壇に立つ男が、話を終えた。
おざなりの拍手が響きつつも、別の声が締めくくる。
『えー! 以上で、――回の入学式を終わります! 保護者の皆さまは、ご苦労様でした! 退席していただいても構いません。……生徒は自分の教室へ入り、担任が来るまで静かに待つように!』
後ろにいる保護者たちが、ゾロゾロと出て行く。
小さな傷だらけでスポーツ用のカラーテープが張ってある床に並べられたパイプ椅子をガタガタと鳴らして、新入生が立ち上がる。
「あー、終わった!」
「今日は、クラスで自己紹介ぐらいだろ?」
「明日から、夕方まで授業かよ! ダル……」
「ミカちゃん。別の高校かあ……」
「わざわざ篠里に入りたがる奴はいないって!」
真新しい制服の群れが、だるそうな雰囲気で、自分のクラスへ向かう。
どの顔も、憧れの高校に入れた! とは思えず。
その中で、黒髪ロングの女子に注目。
茶髪のショートヘアの女子にも……。
男子の声が、その注目ぶりを示す。
「なあ! 誰、あいつ? 初めて見たけど」
「篠里の一番人気になりそうだ……」
「俺、狙ってみよう!」
「茶髪のほうが好みだな……」
カシャッ
「うし! メッセージで流しとくか」
セーラー服の佳鏡優希は、隣を歩く室矢カレナを見た。
「大人気だねー?」
「いつもの事です……。同じクラスになるとは」
優希は歩きながら、肩を竦めた。
「情報がないから、私に丸投げする気でしょ! クラス決めも、なかなかに闇が深いらしいよ? 面倒な生徒を押しつけ合ったり、札付きにはイジメられ役をあてがったり……」
「私たちも、そうだと?」
ニュアンスだけで、『面倒な生徒』と示す。
首肯した優希は、教室に着いたと教える。
流れで、自分の席に座った。
お互いに横だから、話しやすい。
片肘をついた優希は、自分の横に座っているカレナを見る。
「睦月と朱美は、別のクラスだね? 他の3人も……。カレナと睦月が正体不明で私と朱美に押し付けるけど、それ以上をまとめたら、それはそれでクラスの最大派閥になっちゃうか」
あけすけに言う優希だが、カレナに怒る様子はない。
「でしょうね……。部活は?」
「私は立場があるから……。高校の部活でも、顧問や先輩に怒鳴られて理不尽に扱かれるのはマズい! そう言うカレナは?」
少し考えた後で、本人が答える。
「今のところ、入る気は……。別に全国を目指す気はなく、好きなスポーツや趣味もありませんから」
「強いて言えば、今の生活が趣味かな?」
「ええ!」
傍から見れば、仲が良い女子2人。
他の面々もそれぞれにグループを作り、高校のスタートダッシュとしての地盤固め。
ここは田舎だ。
どいつも生まれ育った場所で、大きな変化はせず。
親の転勤や引越しで訪れたマイノリティは周りの様子を窺いながら、早くどこかへ加えてもらおうと考えている。
今は自分の席で、周りを観察中。
美須坂町の代表である優希は、有名人だ。
彼女が言ったように、今はこの北稲原町との因縁が薄れたとはいえ、火がついたら爆発する存在に違いない。
同じクラスになったことを嫌がる生徒も……。
ともあれ、新入生の注目は、こんな田舎ではなく、都会でテレビカメラに映っていそうな美少女2人。
その片割れである、室矢カレナ。
同じクラスになったことで、テンションが上がる男子たち。
口さがない奴に言わせれば、優希を返品して、カレナだけ欲しい。
「室矢って、あの『室矢』?」
「そうじゃね?」
「室矢さん。部活に入らないのか……」
「まだ考え中と言っただろ?」
「一緒の部活になれば、まだチャンスが……」
男子は退屈なスクールライフの癒しに、さっそく声をかけるタイミングを窺う。
ガラガラガラ
「席に着け! 今日はもう終わるけど、その前に改めて言っておくぞ? このメンバーで1年間やっていくから、仲良くしろ! 順番に――」
覇気のない担任の指示で、窓際の先頭から自己紹介。
「佳鏡優希です。よろしくお願いします……」
弱みを見せないためか、優希はそれだけ言って、座った。
まばらな拍手。
「室矢カレナです。よろしくお願いしま――」
「あのさ! 室矢さんは、どこから来たの?」
優希に倣い座ろうとしたカレナは、男子に声をかけられ、そちらを向いた。
活発で自信がある様子から、リーダー格のようだ。
立ったままのカレナは、教壇のほうを見る。
前の椅子に座った担任は手に持つ資料を見たまま、視線を合わさず。
言外に、生徒同士で何とかしろ、と言っている。
戸惑っていると判断した男子は、勢いづく。
「あ、ごめん! でも、これから同じクラスだしさ――」
「佳鏡さんと同じ美須坂町に住んでいます」
その発言で、ようやく担任が動いた。
「北川! 今は自己紹介の時間だ。そういう会話は、後でやってくれ! じゃ、次!」
地元の対立に火がついたら、困る。
そう言わんばかりに、命じた。
カレナは無言のまま、着席。
入れ替わるように、後ろの生徒が立った。
古ぼけた体育館の中でステージ上の演壇に立つ男が、話を終えた。
おざなりの拍手が響きつつも、別の声が締めくくる。
『えー! 以上で、――回の入学式を終わります! 保護者の皆さまは、ご苦労様でした! 退席していただいても構いません。……生徒は自分の教室へ入り、担任が来るまで静かに待つように!』
後ろにいる保護者たちが、ゾロゾロと出て行く。
小さな傷だらけでスポーツ用のカラーテープが張ってある床に並べられたパイプ椅子をガタガタと鳴らして、新入生が立ち上がる。
「あー、終わった!」
「今日は、クラスで自己紹介ぐらいだろ?」
「明日から、夕方まで授業かよ! ダル……」
「ミカちゃん。別の高校かあ……」
「わざわざ篠里に入りたがる奴はいないって!」
真新しい制服の群れが、だるそうな雰囲気で、自分のクラスへ向かう。
どの顔も、憧れの高校に入れた! とは思えず。
その中で、黒髪ロングの女子に注目。
茶髪のショートヘアの女子にも……。
男子の声が、その注目ぶりを示す。
「なあ! 誰、あいつ? 初めて見たけど」
「篠里の一番人気になりそうだ……」
「俺、狙ってみよう!」
「茶髪のほうが好みだな……」
カシャッ
「うし! メッセージで流しとくか」
セーラー服の佳鏡優希は、隣を歩く室矢カレナを見た。
「大人気だねー?」
「いつもの事です……。同じクラスになるとは」
優希は歩きながら、肩を竦めた。
「情報がないから、私に丸投げする気でしょ! クラス決めも、なかなかに闇が深いらしいよ? 面倒な生徒を押しつけ合ったり、札付きにはイジメられ役をあてがったり……」
「私たちも、そうだと?」
ニュアンスだけで、『面倒な生徒』と示す。
首肯した優希は、教室に着いたと教える。
流れで、自分の席に座った。
お互いに横だから、話しやすい。
片肘をついた優希は、自分の横に座っているカレナを見る。
「睦月と朱美は、別のクラスだね? 他の3人も……。カレナと睦月が正体不明で私と朱美に押し付けるけど、それ以上をまとめたら、それはそれでクラスの最大派閥になっちゃうか」
あけすけに言う優希だが、カレナに怒る様子はない。
「でしょうね……。部活は?」
「私は立場があるから……。高校の部活でも、顧問や先輩に怒鳴られて理不尽に扱かれるのはマズい! そう言うカレナは?」
少し考えた後で、本人が答える。
「今のところ、入る気は……。別に全国を目指す気はなく、好きなスポーツや趣味もありませんから」
「強いて言えば、今の生活が趣味かな?」
「ええ!」
傍から見れば、仲が良い女子2人。
他の面々もそれぞれにグループを作り、高校のスタートダッシュとしての地盤固め。
ここは田舎だ。
どいつも生まれ育った場所で、大きな変化はせず。
親の転勤や引越しで訪れたマイノリティは周りの様子を窺いながら、早くどこかへ加えてもらおうと考えている。
今は自分の席で、周りを観察中。
美須坂町の代表である優希は、有名人だ。
彼女が言ったように、今はこの北稲原町との因縁が薄れたとはいえ、火がついたら爆発する存在に違いない。
同じクラスになったことを嫌がる生徒も……。
ともあれ、新入生の注目は、こんな田舎ではなく、都会でテレビカメラに映っていそうな美少女2人。
その片割れである、室矢カレナ。
同じクラスになったことで、テンションが上がる男子たち。
口さがない奴に言わせれば、優希を返品して、カレナだけ欲しい。
「室矢って、あの『室矢』?」
「そうじゃね?」
「室矢さん。部活に入らないのか……」
「まだ考え中と言っただろ?」
「一緒の部活になれば、まだチャンスが……」
男子は退屈なスクールライフの癒しに、さっそく声をかけるタイミングを窺う。
ガラガラガラ
「席に着け! 今日はもう終わるけど、その前に改めて言っておくぞ? このメンバーで1年間やっていくから、仲良くしろ! 順番に――」
覇気のない担任の指示で、窓際の先頭から自己紹介。
「佳鏡優希です。よろしくお願いします……」
弱みを見せないためか、優希はそれだけ言って、座った。
まばらな拍手。
「室矢カレナです。よろしくお願いしま――」
「あのさ! 室矢さんは、どこから来たの?」
優希に倣い座ろうとしたカレナは、男子に声をかけられ、そちらを向いた。
活発で自信がある様子から、リーダー格のようだ。
立ったままのカレナは、教壇のほうを見る。
前の椅子に座った担任は手に持つ資料を見たまま、視線を合わさず。
言外に、生徒同士で何とかしろ、と言っている。
戸惑っていると判断した男子は、勢いづく。
「あ、ごめん! でも、これから同じクラスだしさ――」
「佳鏡さんと同じ美須坂町に住んでいます」
その発言で、ようやく担任が動いた。
「北川! 今は自己紹介の時間だ。そういう会話は、後でやってくれ! じゃ、次!」
地元の対立に火がついたら、困る。
そう言わんばかりに、命じた。
カレナは無言のまま、着席。
入れ替わるように、後ろの生徒が立った。
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