5 / 74
第一章 ド田舎は馴染むまで大変!
ド田舎のスローライフ
しおりを挟む
『そう……。ともあれ、カレナお姉さまが復活して良かったわ! また、連絡してちょうだい』
室矢カレナがスマホの画面に触ったことで、アイの声は途切れた。
見渡す限りの木々。
避暑地のペンションと思われる、洋風のオシャレな戸建て。
1ヶ月前には人が住めない廃墟だったとは思えないほど、綺麗だ。
電動工具を用いたDIYで、チュウイイインと切ったり、釘を打ったり。
壁紙も、自分のお気に入りを選択。
職人と比べれば稚拙だが、自分で住む分には御愛嬌。
どうせ、元は廃墟。
売る時は、更地にすればいい。
見た目とは異なり、重機ぐらいの力を出せるため、どんどん進めていく。
建物の基礎については、さすがに素人では無理だから、権能で片付けた。
その1階。
裏庭に面したウッドデッキで、同じく洋風のテーブルと椅子にいる少女は、スマホを卓上に置いた。
深堀アイは港区の赤坂に豪邸を構えている、セレブの1人。
カレナの妹分で、海を支配している女神だ。
外見だけなら、彼女と同じ中学生。
現代経済にガッチリと食い込んでいて、この廃墟と周りの土地を買ってもらった。
曰く、広さのわりに冗談みたいな安値だったそうで……。
カレナは冷めた紅茶をポットから注ぎ、ティーカップで飲む。
せっかくのスローライフだ。
権能で熱くするのは、野暮というもの。
近場で揃えた家具も、それほど高価ではない。
周りを見れば、自作の畑に実る野菜や果物。
季節に関係なく、カレナが食べたいものが乱立している。
何と、小さな田んぼまで!
そこに、連作障害や土作りの苦労は見られず。
数日もあれば、収穫できる。
鶏小屋では、コッコッコッという鳴き声。
最近に作った小さな湖は、日光でキラキラと輝く。
釣り道具の一式も。
ピンポーン
『この区画で、自治会の組長をしている榊です! いい加減に、顔を出してもらえませんか!? あんたも、何かあった時に困るでしょう?』
怒気を隠さない、中年男の声だ。
けれど、アウトドア用のテーブルについている少女は、我関せず。
最初は玄関で応対したのだが、カレナは女子中学生の姿。
偉そうに説教されまくり、ご近所も無責任に囀ったことで辟易する。
こいつら、何様のつもりで?
バタンと玄関ドアを閉めて、お帰り願った。
今は、裏庭に結界を張っているから、回り込むことは不可能。
涼しい顔の少女がいる場所まで、辿り着けない。
『1ヶ月ぐらい、外に出ていないようだけど? 朝もカーテンを開けないし。何か事情があるのなら、力に――』
外の音声が聞こえないよう、片手を振ったカレナは釣り場へ移動して、ちょこんと座った。
手慣れた様子で、虫を刺した針をヒュッと投げる。
いちいち、人を見張っているのですか?
ド田舎、怖すぎ……。
しばらく待っていたが、愚痴を言いつつも、引き揚げていく組長。
思ったようにヒットせず、カレナは立ち上がった。
そうだ!
ちょっと、街の商店街へ行ってみましょう!!
新居の買い出しを除けば、ずっと自給自足だった彼女は、ようやく地元デビューをすることに。
――美須坂 商店街
美須坂町は山間部の村落で、限られた平地に田んぼ。
電車の最寄り駅に近く、外へ通じている幹線道路に面したところに、地元向けの商店街がある。
車がなければ、日常生活で遭難する。
そんな場所でも、カレナはアイススケートのように車道を走り、やってきた。
初めての場所に、テンションが上がるカレナ。
どれも個人経営の店で、年季が入った店構えだ。
誰が買うのか、洗濯バサミで吊り下げられた値札付きの衣類も……。
都心とは比べ物にならず、あっと言う間に終点。
周りの人間がジッと見るか、近くの人間とヒソヒソ話をしている中でも、気にせずに歩いて回る。
カレナは精肉店の前で立ち止まり、ショーケースの値札を見た。
今日は、牛ステーキにしましょう!
結論が出たことで、声をかける。
「すみませーん! この牛肉を500gください!」
カウンターの奥で作業をしていた店主らしき男が、威勢よく答える。
「へい、らっしゃ……何だ、あんたか。悪いけど、売れるもんは――」
「あああぁああー! せ、関根のおっちゃん! ちょっ! ちょっと、待って!!」
かなり焦った様子で、女子高生の声。
ゼーゼーと息を切らしているセーラー服の少女を見た男は、慌てて声をかける。
「ど、どうした、優希ちゃん? そんなに慌てて――」
「いいから! ちょっと、こっちへ来て!!」
スクールバッグを肩掛けした優希はズカズカと店員のスペースに入り、男を呼びつけた。
そのまま、立っているカレナから離れて、小声の話し合い。
(あの子、睦月の友達だから! 槇島神社のところの!)
(え? じゃ、あの子も?)
2人でチラリと見た後に、また話し合う。
(たぶん……。私も最近になって、睦月と会ったから……)
(おや、そうかい? 商店街のほうじゃ、よく手伝ってくれるけどね)
男は得心がいったように、頷いた。
(ああ……。見るからに外人っぽいし、海外の神様?)
(それは、知らない。でも、浮世離れしているから、そんな感じかな)
優希の返事で、精肉店の男は結論を出した。
(神様なら、しょーがない! いや、組長の榊さんが、散々に愚痴っていたから)
(連絡が遅れて悪かったけど。ウチの佳鏡家でも、まだ結論を出していなくて……。ごめん!)
店主は、それを受け入れる。
(まあ、優希ちゃんが悪いわけじゃないし……。分かった! 睦月ちゃんの友達なら、いいんだよ。榊さんには――)
(私から言っておく! とりあえず、あの子の接客をして)
精肉店の主人は笑顔で、カレナのところへ戻った。
「待たせたね? お詫びと言ったら何だけど、欲しい物があったら、今回はサービスであげるよ!」
「いえ、そこまでは……。この国産牛を500g、お願いします」
「あいよ!」
返事をした男は手際よく動き、切り分けた肉を量った。
その数字を見たカレナが、問いかける。
「700gですが?」
「オーバー分は、サービスするから! じゃあ、500gの値段で――」
清算を終えたカレナが横を見れば、疲れ切った女子高生。
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん……。たぶんね……」
室矢カレナがスマホの画面に触ったことで、アイの声は途切れた。
見渡す限りの木々。
避暑地のペンションと思われる、洋風のオシャレな戸建て。
1ヶ月前には人が住めない廃墟だったとは思えないほど、綺麗だ。
電動工具を用いたDIYで、チュウイイインと切ったり、釘を打ったり。
壁紙も、自分のお気に入りを選択。
職人と比べれば稚拙だが、自分で住む分には御愛嬌。
どうせ、元は廃墟。
売る時は、更地にすればいい。
見た目とは異なり、重機ぐらいの力を出せるため、どんどん進めていく。
建物の基礎については、さすがに素人では無理だから、権能で片付けた。
その1階。
裏庭に面したウッドデッキで、同じく洋風のテーブルと椅子にいる少女は、スマホを卓上に置いた。
深堀アイは港区の赤坂に豪邸を構えている、セレブの1人。
カレナの妹分で、海を支配している女神だ。
外見だけなら、彼女と同じ中学生。
現代経済にガッチリと食い込んでいて、この廃墟と周りの土地を買ってもらった。
曰く、広さのわりに冗談みたいな安値だったそうで……。
カレナは冷めた紅茶をポットから注ぎ、ティーカップで飲む。
せっかくのスローライフだ。
権能で熱くするのは、野暮というもの。
近場で揃えた家具も、それほど高価ではない。
周りを見れば、自作の畑に実る野菜や果物。
季節に関係なく、カレナが食べたいものが乱立している。
何と、小さな田んぼまで!
そこに、連作障害や土作りの苦労は見られず。
数日もあれば、収穫できる。
鶏小屋では、コッコッコッという鳴き声。
最近に作った小さな湖は、日光でキラキラと輝く。
釣り道具の一式も。
ピンポーン
『この区画で、自治会の組長をしている榊です! いい加減に、顔を出してもらえませんか!? あんたも、何かあった時に困るでしょう?』
怒気を隠さない、中年男の声だ。
けれど、アウトドア用のテーブルについている少女は、我関せず。
最初は玄関で応対したのだが、カレナは女子中学生の姿。
偉そうに説教されまくり、ご近所も無責任に囀ったことで辟易する。
こいつら、何様のつもりで?
バタンと玄関ドアを閉めて、お帰り願った。
今は、裏庭に結界を張っているから、回り込むことは不可能。
涼しい顔の少女がいる場所まで、辿り着けない。
『1ヶ月ぐらい、外に出ていないようだけど? 朝もカーテンを開けないし。何か事情があるのなら、力に――』
外の音声が聞こえないよう、片手を振ったカレナは釣り場へ移動して、ちょこんと座った。
手慣れた様子で、虫を刺した針をヒュッと投げる。
いちいち、人を見張っているのですか?
ド田舎、怖すぎ……。
しばらく待っていたが、愚痴を言いつつも、引き揚げていく組長。
思ったようにヒットせず、カレナは立ち上がった。
そうだ!
ちょっと、街の商店街へ行ってみましょう!!
新居の買い出しを除けば、ずっと自給自足だった彼女は、ようやく地元デビューをすることに。
――美須坂 商店街
美須坂町は山間部の村落で、限られた平地に田んぼ。
電車の最寄り駅に近く、外へ通じている幹線道路に面したところに、地元向けの商店街がある。
車がなければ、日常生活で遭難する。
そんな場所でも、カレナはアイススケートのように車道を走り、やってきた。
初めての場所に、テンションが上がるカレナ。
どれも個人経営の店で、年季が入った店構えだ。
誰が買うのか、洗濯バサミで吊り下げられた値札付きの衣類も……。
都心とは比べ物にならず、あっと言う間に終点。
周りの人間がジッと見るか、近くの人間とヒソヒソ話をしている中でも、気にせずに歩いて回る。
カレナは精肉店の前で立ち止まり、ショーケースの値札を見た。
今日は、牛ステーキにしましょう!
結論が出たことで、声をかける。
「すみませーん! この牛肉を500gください!」
カウンターの奥で作業をしていた店主らしき男が、威勢よく答える。
「へい、らっしゃ……何だ、あんたか。悪いけど、売れるもんは――」
「あああぁああー! せ、関根のおっちゃん! ちょっ! ちょっと、待って!!」
かなり焦った様子で、女子高生の声。
ゼーゼーと息を切らしているセーラー服の少女を見た男は、慌てて声をかける。
「ど、どうした、優希ちゃん? そんなに慌てて――」
「いいから! ちょっと、こっちへ来て!!」
スクールバッグを肩掛けした優希はズカズカと店員のスペースに入り、男を呼びつけた。
そのまま、立っているカレナから離れて、小声の話し合い。
(あの子、睦月の友達だから! 槇島神社のところの!)
(え? じゃ、あの子も?)
2人でチラリと見た後に、また話し合う。
(たぶん……。私も最近になって、睦月と会ったから……)
(おや、そうかい? 商店街のほうじゃ、よく手伝ってくれるけどね)
男は得心がいったように、頷いた。
(ああ……。見るからに外人っぽいし、海外の神様?)
(それは、知らない。でも、浮世離れしているから、そんな感じかな)
優希の返事で、精肉店の男は結論を出した。
(神様なら、しょーがない! いや、組長の榊さんが、散々に愚痴っていたから)
(連絡が遅れて悪かったけど。ウチの佳鏡家でも、まだ結論を出していなくて……。ごめん!)
店主は、それを受け入れる。
(まあ、優希ちゃんが悪いわけじゃないし……。分かった! 睦月ちゃんの友達なら、いいんだよ。榊さんには――)
(私から言っておく! とりあえず、あの子の接客をして)
精肉店の主人は笑顔で、カレナのところへ戻った。
「待たせたね? お詫びと言ったら何だけど、欲しい物があったら、今回はサービスであげるよ!」
「いえ、そこまでは……。この国産牛を500g、お願いします」
「あいよ!」
返事をした男は手際よく動き、切り分けた肉を量った。
その数字を見たカレナが、問いかける。
「700gですが?」
「オーバー分は、サービスするから! じゃあ、500gの値段で――」
清算を終えたカレナが横を見れば、疲れ切った女子高生。
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん……。たぶんね……」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~
初雪空
ファンタジー
氷室駿矢は、いよいよ高校生になった。
許嫁の天賀原香奈葉、幼馴染の西園寺睦実とのラブコメ。
と言いたいが!
この世界の日本は、刀を使う能力者による荒神退治が日常。
トップスピードでは弾丸を上回り、各々が契約した刀でぶった切るのが一番早いのだ。
東京の名門高校に入学するも、各地の伝承の謎を解き明かしつつ、同じ防人とも戦っていくことに……。
各地に残る伝承や、それにともなう荒神たち。
さらに、同じ防人との戦いで、駿矢に休む暇なし!?
この物語はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ないことをご承知おきください。
また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※ 小説家になろう、ハーメルン、カクヨムにも連載中
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる