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伝説の制服デートの伝説
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「よろしければ、兄を紹介したいのですが……」
その一言から、地獄のような放課後が始まった。
俺が断っていれば、そのあとの悲劇は起こらなかっただろう。
中学での指導が終わり、ようやく一段落。
俺たちは東京国武高校で授業を受けつつ、たまに御刀を振るう実習を行うだけ。
「全国防人剣術大会の校内予選か……。どうしたものかな」
自分の教室で、ぼそっと独白するも、疲れ切った感じ。
本日は、昼で終わり。
早い放課後になったことで、弁当を広げる奴らは、部活に急ぐ奴。
授業の課題や復習をする奴も。
その時に、スマホが震えた。
“神宮寺です。以前の中学生への指導で助けてもらったお礼を兼ねて、私の兄を紹介したいのですが”
少し考えるも、急ぎの用事はない。
メッセージに返信したら、自動運転のタクシー代を払うので、そちらに乗って欲しいとのこと。
(あいつ、金持ちなのかな?)
そう思いつつ、スクールバッグを手にして、教室を後にした。
外の乗り場で後部座席に乗りこみ、スマホで個人認証をしたら、自動的に目的地が設定されて走り出す。
ナビの設定を見ると、高級住宅地のエリアだ。
――洋風の豪邸
いかにも高級ブランドの家具が並ぶ、広い注文住宅のリビング。
制服のままで訪ねた俺は、居心地が悪いままで、神宮寺希と雰囲気が似ている男子と向き合っていた。
「希の兄である、神宮寺柊真だ……。希を助けてもらったようで、礼を言う」
「いえ……。同じ国武の先輩ですよね?」
俺の指摘に、柊真は首肯した。
「ああ! 2年で、生徒会にいる……。学校でも良かったが、お前は色々と人気があるようだから」
西園寺睦実のことか?
いつも、俺のところにいるからな……。
考えていたら、柊真は苦笑する。
「わざわざ足を運んでもらって、悪いな? 希が少し、悩んでいるようで……」
水を向けたら、本人が話し出す。
「刀剣解放をした中学生1人は、うちに入ることがほぼ内定です。私たちが指導した間の解放ゆえ、何かお祝いをしようかと……。男子が喜びそうなプレゼントを一緒に選んで欲しいのですが」
「あー! そういうことね……。予算は?」
「中学生が相手なので、私たちがカンパして合計3,000~5,000円。なるべく、普段使いをできるか、すぐ食べられる物がいいかと」
「なるほど……。お店は? ここでオンライン注文をするのか?」
俺の質問に、希は首を横に振った。
「今から、駅前のショッピングモールへ行きませんか? 行きと帰りは、自動運転のタクシー代を負担しますので」
「希も、まだ制服のようだし……。いいよ」
自宅なのに制服のままだった希を不審に思いつつ、家の前に横付けさせた無人タクシーに乗り込む。
シューンと走り出した後部座席で、横に座る俺たち。
「駿矢さんのご実家は、やはり神社の関係ですか?」
神宮寺希の質問に、生返事。
「氷室家には……あまり顔を出していない。引き取られただけ」
「失礼いたしました」
すぐに謝罪した希に、声をかける。
「仲が悪いわけじゃないさ……。神宮寺――」
「希です。……このグループでは、もう名前で呼び合う約束でしたよね?」
ニコニコしている彼女に、改めて呼びかける。
「希の実家は、どうなんだ?」
「そうですね! 見ての通り、アッパークラスではありますが……。親族とはギスギスしていまして……。今は、兄との二人暮らしで気楽です」
そこで、スマホを見てから、こちらに視線を戻した。
「兄から、『ランチは自分で済ますから、そちらも自由にしてくれ』と連絡がありました……。駿矢さんがご迷惑でなければ、どこかで食事もしていきませんか?」
「予定はないから、別に――」
日光が差し込むウィンドウに、張りついている睦実の顔が映りこんだ気がした。
「ヒッ!」
俺の悲鳴と視線に、希が急いで振り向くも、そこには誰もいない。
「……日光がまぶしいですか? 暗めにしましょう」
気を遣った希は、俺の返事を聞かずに操作した。
全てのウィンドウが暗くなり、個室にいるような雰囲気に。
「いけないことをしている気分ですね? フフフ……」
車の外で、ドンッと叩くような音。
気のせいだろう……。
――駅前の総合施設
テーマパークのように店が集まっている、ショッピングモール。
高校生向けも多く、色々な制服が行き来している。
無人タクシーから降りて、若者に人気だが高齢者も許容できる菓子の詰め合わせとした。
神宮寺希は、贈答用の包装にしてもらった袋を下げながら、呟く。
「本当は、もっとこだわりたいのですが……」
「仕方ないさ! 予算が少ないし、日持ちしないと相手の都合が悪いだけで食えなくなる」
上品に肩をすくめた希は、ふと思いついたように提案してくる。
「そうだ! 最近オープンしたお店があるんですよ! 駿矢さんが、ご一緒してくれませんか?」
「いいよ」
そこは、陰キャが許されない空間。
真の男女平等を達成した店内。
いるのは、カップルだけ。
甘い会話とスイーツが並んでいる空間で、俺は森林でゲリラ戦をしているような緊張感に襲われた。
(油断すると……やられる!)
ここにあるのは、点と点だけ。
戦線と呼べるものはなく、あるのはカップルの数だけの愛。
それも、中高生ばかりだ。
つまり、敵に囲まれているのと同じ。
2人用のテーブルで向かいに座っている希が、微笑む。
「駿矢さんは、何にしますか?」
その一言から、地獄のような放課後が始まった。
俺が断っていれば、そのあとの悲劇は起こらなかっただろう。
中学での指導が終わり、ようやく一段落。
俺たちは東京国武高校で授業を受けつつ、たまに御刀を振るう実習を行うだけ。
「全国防人剣術大会の校内予選か……。どうしたものかな」
自分の教室で、ぼそっと独白するも、疲れ切った感じ。
本日は、昼で終わり。
早い放課後になったことで、弁当を広げる奴らは、部活に急ぐ奴。
授業の課題や復習をする奴も。
その時に、スマホが震えた。
“神宮寺です。以前の中学生への指導で助けてもらったお礼を兼ねて、私の兄を紹介したいのですが”
少し考えるも、急ぎの用事はない。
メッセージに返信したら、自動運転のタクシー代を払うので、そちらに乗って欲しいとのこと。
(あいつ、金持ちなのかな?)
そう思いつつ、スクールバッグを手にして、教室を後にした。
外の乗り場で後部座席に乗りこみ、スマホで個人認証をしたら、自動的に目的地が設定されて走り出す。
ナビの設定を見ると、高級住宅地のエリアだ。
――洋風の豪邸
いかにも高級ブランドの家具が並ぶ、広い注文住宅のリビング。
制服のままで訪ねた俺は、居心地が悪いままで、神宮寺希と雰囲気が似ている男子と向き合っていた。
「希の兄である、神宮寺柊真だ……。希を助けてもらったようで、礼を言う」
「いえ……。同じ国武の先輩ですよね?」
俺の指摘に、柊真は首肯した。
「ああ! 2年で、生徒会にいる……。学校でも良かったが、お前は色々と人気があるようだから」
西園寺睦実のことか?
いつも、俺のところにいるからな……。
考えていたら、柊真は苦笑する。
「わざわざ足を運んでもらって、悪いな? 希が少し、悩んでいるようで……」
水を向けたら、本人が話し出す。
「刀剣解放をした中学生1人は、うちに入ることがほぼ内定です。私たちが指導した間の解放ゆえ、何かお祝いをしようかと……。男子が喜びそうなプレゼントを一緒に選んで欲しいのですが」
「あー! そういうことね……。予算は?」
「中学生が相手なので、私たちがカンパして合計3,000~5,000円。なるべく、普段使いをできるか、すぐ食べられる物がいいかと」
「なるほど……。お店は? ここでオンライン注文をするのか?」
俺の質問に、希は首を横に振った。
「今から、駅前のショッピングモールへ行きませんか? 行きと帰りは、自動運転のタクシー代を負担しますので」
「希も、まだ制服のようだし……。いいよ」
自宅なのに制服のままだった希を不審に思いつつ、家の前に横付けさせた無人タクシーに乗り込む。
シューンと走り出した後部座席で、横に座る俺たち。
「駿矢さんのご実家は、やはり神社の関係ですか?」
神宮寺希の質問に、生返事。
「氷室家には……あまり顔を出していない。引き取られただけ」
「失礼いたしました」
すぐに謝罪した希に、声をかける。
「仲が悪いわけじゃないさ……。神宮寺――」
「希です。……このグループでは、もう名前で呼び合う約束でしたよね?」
ニコニコしている彼女に、改めて呼びかける。
「希の実家は、どうなんだ?」
「そうですね! 見ての通り、アッパークラスではありますが……。親族とはギスギスしていまして……。今は、兄との二人暮らしで気楽です」
そこで、スマホを見てから、こちらに視線を戻した。
「兄から、『ランチは自分で済ますから、そちらも自由にしてくれ』と連絡がありました……。駿矢さんがご迷惑でなければ、どこかで食事もしていきませんか?」
「予定はないから、別に――」
日光が差し込むウィンドウに、張りついている睦実の顔が映りこんだ気がした。
「ヒッ!」
俺の悲鳴と視線に、希が急いで振り向くも、そこには誰もいない。
「……日光がまぶしいですか? 暗めにしましょう」
気を遣った希は、俺の返事を聞かずに操作した。
全てのウィンドウが暗くなり、個室にいるような雰囲気に。
「いけないことをしている気分ですね? フフフ……」
車の外で、ドンッと叩くような音。
気のせいだろう……。
――駅前の総合施設
テーマパークのように店が集まっている、ショッピングモール。
高校生向けも多く、色々な制服が行き来している。
無人タクシーから降りて、若者に人気だが高齢者も許容できる菓子の詰め合わせとした。
神宮寺希は、贈答用の包装にしてもらった袋を下げながら、呟く。
「本当は、もっとこだわりたいのですが……」
「仕方ないさ! 予算が少ないし、日持ちしないと相手の都合が悪いだけで食えなくなる」
上品に肩をすくめた希は、ふと思いついたように提案してくる。
「そうだ! 最近オープンしたお店があるんですよ! 駿矢さんが、ご一緒してくれませんか?」
「いいよ」
そこは、陰キャが許されない空間。
真の男女平等を達成した店内。
いるのは、カップルだけ。
甘い会話とスイーツが並んでいる空間で、俺は森林でゲリラ戦をしているような緊張感に襲われた。
(油断すると……やられる!)
ここにあるのは、点と点だけ。
戦線と呼べるものはなく、あるのはカップルの数だけの愛。
それも、中高生ばかりだ。
つまり、敵に囲まれているのと同じ。
2人用のテーブルで向かいに座っている希が、微笑む。
「駿矢さんは、何にしますか?」
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