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全国防人剣術大会への道
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座っている俺の前に、大人の女がいる。
ローテーブル越しで、ここは洋室だ。
許嫁の天賀原香奈葉をそのまま成長させたような……。
それもそのはず、彼女は香奈葉の母親だ。
大人の色気を漂わせている天賀原千春は、俺の隣に座っている香奈葉を見る。
「あなたは、どうしたいのですか? 香奈葉さん」
「現状でいいのでー!」
ここで香奈葉が、初夜を済ませたい、と言えば、俺は東京に帰れず。
正面で座り直した千春が、彼女に尋ねる。
「理由は?」
「御神刀を集中させれば、天賀原家が警戒されます。高校卒業までは、『ワンチャンあるかも!?』と思われるぐらいがちょうどいい」
息を吐いた千春は、ジト目で俺のほうを見た。
「駿矢さんは、ご自分の立場をお分かりで?」
「はい」
「天女伝説の件で、地元の警察署に払った金額は少なくありません……。それも、ご自身が連行されたわけではなく、一緒に捜査していただけの他校の女子を助けるために」
何も言えず。
香奈葉が乱入しなければ、留置所で兵糧攻めだったろう。
自分の前に置かれたコーヒーを飲んだ後で、千春は話を続ける。
「まあ、その女子とは行きずりだったようで……。件の警察署と話はついたし、向こうが『弱みを握ったから金蔓や出世の道具に』と勘違いするようなら署長と主だった幹部の首が飛ぶだけです」
物理的に?
それも聞けない。
ゆっくりと息を吐いた後で、確認する。
「お義母さん? 愚痴を聞かせるために呼んだので?」
「……今回の件で、御神刀が注目されました」
フォークで切った洋菓子を上品に食べる千春。
食べ終わってから、口を開く。
「防人の主だった名家が、動き始めています。香奈葉さんが駿矢さんを泳がせたままにすると言った以上……。私が強引に転校させるのは、筋違いでしょう? しかし、ウチが言われっぱなしは認められません。全国防人剣術大会で上位に入りなさい」
「俺の御神刀だと、完全解放しないとキツいんですけど?」
微笑んだ千春は、当然のように命じる。
「もちろん、刀剣解放の部門ですよ? 香奈葉さんも」
「分かったのでー!」
お前は、いいよな?
最初の解放でも、ほぼ無敵だし……。
こっちは、高枝切りバサミだぞ?
心の中で突っ込むも、当の本人はニコニコしたままだ。
「京都でお会いましょうー!」
「俺、東京国武高校で選手に選ばれる段階から始めるんだけど?」
返事がない。
アウェーだ……。
構わずに、千春の発言。
「駿矢さん? 同じ国武にいる睦実さんですが……」
「はい」
「御神刀を持つ彼女が引き抜かれると、ウチの対処が増えます。くれぐれも、他の男子に目を移さないよう――」
「結局のところ、あいつは?」
俺の質問に、千春は意味ありげに模範解答。
「幼馴染で同じ高校ゆえ、睦実さんがあなたの傍にいることを黙認しています。『どうするのか?』は、まだ流動的。あなた方が卒業したぐらいで判断させていただきます」
今の時点で、御神刀の一振りがフラフラするのは困ります。
そう締めくくった千春。
話が終わったことで、俺は東京へ戻った。
◇
東京国武高校では、ブランクが問題だ。。
例の天女伝説で柳ヶ淵村にいたことで、授業を受けていない。
けれど――
「ほら、お前がいなかった間の分だ!」
1年3組のクラスメイトである男子が、俺の机にドサッと資料を置いた。
パラパラと捲れば、黒板の写しなど。
「ありがとう……。助かった」
相手の名前に困っていたら、水主東一と名乗られた。
そいつは、言いにくそうに提案してくる。
「生徒会の指示だったし……。それより、氷室は1組で主席の西園寺と仲がいいんだよな?」
「それがどうした?」
慌てた東一は、片手を振った。
「あー、そういう意味じゃなくて……。教えて欲しいんだよ」
「何を?」
「刀剣解放のコツを! 俺たちは入ったばかりで、全く分からない」
言われてみれば、高校入学で解放している奴は少ない。
本来なら、それだけでスクールカースト上位のはず。
俺はいきなり不良に絡まれた挙句に、風紀委員会と生徒会に睨まれたが……。
ジッと見ている東一に、答える。
「言いたいことは分かった……。お前に?」
「実は、女子のほうでも西園寺に声をかけている」
首をかしげた後で、確認する。
「要するに、男女のグループで自主練だか、勉強会をしたいのか?」
「ああ……。もうすぐ、全剣――全国防人剣術大会――の校内予選だし」
最初に序列がつくと卒業まで、下手をすれば一生ものだ。
刀剣解放が大きな目安である以上、どのルールで戦うにせよ、それを達成しておくのはセオリーか。
「どれぐらい集める気だ?」
「とりあえず、この3組と1組で考えている」
ハイハイ。
俺と西園寺睦実に恩を売ったことの繋がりでか……。
「別に、何の保証もしないぞ?」
「構わない! お前はここの不良5人を相手に無双したらしいし……。SNSで見たけど、犠牲者が出ていた天女伝説も解決したんだろ? 頼むよ!」
考えてみれば、クラスメイトとの交流がなかった。
悪目立ちしたし、ここらで挽回しておくのもいいだろう。
「こっちの都合でいいのなら……」
ローテーブル越しで、ここは洋室だ。
許嫁の天賀原香奈葉をそのまま成長させたような……。
それもそのはず、彼女は香奈葉の母親だ。
大人の色気を漂わせている天賀原千春は、俺の隣に座っている香奈葉を見る。
「あなたは、どうしたいのですか? 香奈葉さん」
「現状でいいのでー!」
ここで香奈葉が、初夜を済ませたい、と言えば、俺は東京に帰れず。
正面で座り直した千春が、彼女に尋ねる。
「理由は?」
「御神刀を集中させれば、天賀原家が警戒されます。高校卒業までは、『ワンチャンあるかも!?』と思われるぐらいがちょうどいい」
息を吐いた千春は、ジト目で俺のほうを見た。
「駿矢さんは、ご自分の立場をお分かりで?」
「はい」
「天女伝説の件で、地元の警察署に払った金額は少なくありません……。それも、ご自身が連行されたわけではなく、一緒に捜査していただけの他校の女子を助けるために」
何も言えず。
香奈葉が乱入しなければ、留置所で兵糧攻めだったろう。
自分の前に置かれたコーヒーを飲んだ後で、千春は話を続ける。
「まあ、その女子とは行きずりだったようで……。件の警察署と話はついたし、向こうが『弱みを握ったから金蔓や出世の道具に』と勘違いするようなら署長と主だった幹部の首が飛ぶだけです」
物理的に?
それも聞けない。
ゆっくりと息を吐いた後で、確認する。
「お義母さん? 愚痴を聞かせるために呼んだので?」
「……今回の件で、御神刀が注目されました」
フォークで切った洋菓子を上品に食べる千春。
食べ終わってから、口を開く。
「防人の主だった名家が、動き始めています。香奈葉さんが駿矢さんを泳がせたままにすると言った以上……。私が強引に転校させるのは、筋違いでしょう? しかし、ウチが言われっぱなしは認められません。全国防人剣術大会で上位に入りなさい」
「俺の御神刀だと、完全解放しないとキツいんですけど?」
微笑んだ千春は、当然のように命じる。
「もちろん、刀剣解放の部門ですよ? 香奈葉さんも」
「分かったのでー!」
お前は、いいよな?
最初の解放でも、ほぼ無敵だし……。
こっちは、高枝切りバサミだぞ?
心の中で突っ込むも、当の本人はニコニコしたままだ。
「京都でお会いましょうー!」
「俺、東京国武高校で選手に選ばれる段階から始めるんだけど?」
返事がない。
アウェーだ……。
構わずに、千春の発言。
「駿矢さん? 同じ国武にいる睦実さんですが……」
「はい」
「御神刀を持つ彼女が引き抜かれると、ウチの対処が増えます。くれぐれも、他の男子に目を移さないよう――」
「結局のところ、あいつは?」
俺の質問に、千春は意味ありげに模範解答。
「幼馴染で同じ高校ゆえ、睦実さんがあなたの傍にいることを黙認しています。『どうするのか?』は、まだ流動的。あなた方が卒業したぐらいで判断させていただきます」
今の時点で、御神刀の一振りがフラフラするのは困ります。
そう締めくくった千春。
話が終わったことで、俺は東京へ戻った。
◇
東京国武高校では、ブランクが問題だ。。
例の天女伝説で柳ヶ淵村にいたことで、授業を受けていない。
けれど――
「ほら、お前がいなかった間の分だ!」
1年3組のクラスメイトである男子が、俺の机にドサッと資料を置いた。
パラパラと捲れば、黒板の写しなど。
「ありがとう……。助かった」
相手の名前に困っていたら、水主東一と名乗られた。
そいつは、言いにくそうに提案してくる。
「生徒会の指示だったし……。それより、氷室は1組で主席の西園寺と仲がいいんだよな?」
「それがどうした?」
慌てた東一は、片手を振った。
「あー、そういう意味じゃなくて……。教えて欲しいんだよ」
「何を?」
「刀剣解放のコツを! 俺たちは入ったばかりで、全く分からない」
言われてみれば、高校入学で解放している奴は少ない。
本来なら、それだけでスクールカースト上位のはず。
俺はいきなり不良に絡まれた挙句に、風紀委員会と生徒会に睨まれたが……。
ジッと見ている東一に、答える。
「言いたいことは分かった……。お前に?」
「実は、女子のほうでも西園寺に声をかけている」
首をかしげた後で、確認する。
「要するに、男女のグループで自主練だか、勉強会をしたいのか?」
「ああ……。もうすぐ、全剣――全国防人剣術大会――の校内予選だし」
最初に序列がつくと卒業まで、下手をすれば一生ものだ。
刀剣解放が大きな目安である以上、どのルールで戦うにせよ、それを達成しておくのはセオリーか。
「どれぐらい集める気だ?」
「とりあえず、この3組と1組で考えている」
ハイハイ。
俺と西園寺睦実に恩を売ったことの繋がりでか……。
「別に、何の保証もしないぞ?」
「構わない! お前はここの不良5人を相手に無双したらしいし……。SNSで見たけど、犠牲者が出ていた天女伝説も解決したんだろ? 頼むよ!」
考えてみれば、クラスメイトとの交流がなかった。
悪目立ちしたし、ここらで挽回しておくのもいいだろう。
「こっちの都合でいいのなら……」
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