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イキりキツネ、音々ちゃん

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 静かになった湖畔こはん
 ロッジ竜宮りゅうぐうは、警察やレスキューが滞在したことでのタイヤ跡などが目立つ。

 風呂に入れないままで、昨晩のディナーは手抜きのどんぶり飯。

 ドッと疲れを感じた女子3人は、山々をバックにした美しい景色を見ることなく、早々に引っ込んだ。

 後片付けで忙しそうな管理人には声をかけず、手早くシャワーを浴びた。


 リビングダイニングへ行けば、田村たむら東助とうすけの姿。

 彼は立ち止まり、頭を下げた。
 相良さがら音々ねねと向き合っている構図。

「ご迷惑をおかけしました! お詫びと言っては、何ですが――」
「えっと……。私たち、あまり寝られなくて」

 宿泊客に埋め合わせをしようとした東助は、キョトンとする。

「そうですか……。大変申し訳ありません」

「だから、今日は変則的に過ごしたいんです」

 仮眠をとったら、いつ起きられるか不明。
 なので、キッチンの使用許可が欲しい。
 食材や調味料は、用意して。

 腕を組んだ東助は、渋る。

「それでお客さんが怪我や食中毒になっても、ウチの責任になっちゃうから」

 西園寺さいおんじ睦実むつみも、頼み込む。

「お願い! 今日だけ!」

 腕を下ろした東助は、頷く。

「昨日は、やっつけのどんぶりでしたし。今更ですか!」


 業務用の家電もあるキッチンに招いた東助は、大型の炊飯器などの使用方法を教えた。

「レトルトや缶詰もあります。ご飯を炊けば、それで定食になるでしょう。冷蔵庫の中だと――」

 賞味期限を見ながら、女子3人が使っていい食材、加工品をより分けた。

 バタンと閉じつつ、尋ねてくる。

「そういえば、他の防人さきもりさんは?」

 高荒たかあらまどかは、慌てて告げる。

「うちの男子が1人、もう帰ってしまって……」
「分かりました。今日中に忘れ物がないか、チェックしてもらえませんか? 急がないので」

 音々も、今後の予定を教える。

「うちの男子1人と、風鳴かざなり学院の女子1人が、明日の昼ぐらいに戻ってきます」

「そちらもうけたまわりました……。明日の昼、ですね? その分の食事を用意します」

 ちょうど、ランチタイムに。

 教導がてら、そのまま女子3人に作ってもらい、缶詰のソースによるパスタ。
 朝に焼いたパン、常備のハム、チーズを加えれば、けっこうなご馳走だ。

 ついでに、業務用の炊飯器をセット。

「洗い物はやっておきます! じゃあ、夕飯はそちらで用意すると……。すみませんね、本当に」


 ◇


 高荒まどかは、目が覚めた。

 ベッドで上体を起こしつつ、ベランダから差し込む月光を見る。

 枕元のデジタル表示を見れば、深夜だ。

「やっちゃった……」

 シャワーを浴びて、お腹がいっぱい。
 さらに、頼りの久世くぜ果歩かほの帰還で、緊張の糸が切れたようだ。

 横になって気づけば、この時間。

(完全に、昼夜逆転……)

 まったく眠気がない。

 ため息をついた「まどか」は、夕飯を食べていないことに気づき、廊下に出た。

 足元灯がぼんやりと照らす中で、恐る恐る、食堂へ向かう。


 ガランとした洞窟のような空間。

 ダイニングを通りすぎ、キッチンの灯りをつける。

「あ……」

 冷蔵庫の中に、一食分のサンドイッチがあった。
 これならば、冷たいままでも食べられる。

 自分の名前が書かれたメモを見て、ありがたく取り出す。

(外で食べようかな?)

 色々とあって、疲れた。

 明日は明日で、久世先輩が戻ってくる。
 今ぐらい、ゆっくりと過ごそう。


 正面玄関は、施錠されていた。

 裏口へ回り込み、ドアノブを握れば――

「開いてる……」

 キィッと軋む音で、まどかは自由を得た。

 天女伝説の沼のほとりを歩きつつ、片手で持つサンドイッチを口に運ぶ。

(ここでダイバーを殺した犯人は、誰? どうして、水中洞窟にいた人を――)

 シャアアアッと、風切り音。

 そちらを振り向いた「まどか」は、金属同士がぶつかる音と火花に、顔をそむける。

 衝突音の直後に、ぶつかった2人はお互いに後ろへ飛ぶ。

 遅れて、まどかが手放したサンドイッチが、地面に落ちた。

「な……」|

 驚くだけの「まどか」に対して、東京国武こくぶ高等学校の制服を着た人物は両手で刀を握り直した。

 後ろ姿でも、長い銀髪の女子だと分かる。
 しかし、キツネの大きな尻尾が、ゆらゆらと。

 よく見れば、頭の上にもキツネ耳がある。

 コスプレのような付属品は、どちらも白だ。

 女子用の革靴のまま、ザリッと足の位置を変えたのは――

「やっぱり、仕掛けてきた! 明日には、2人も増えるからね……」

 キツネのようなコスプレをしているのは、相良音々だ。

 これが、彼女の刀剣解放らしい。

 見ていた「まどか」は、思わず呟く。

「式神……。それも、融合型!?」

 かなり珍しいタイプだ。
 その霊圧は、今までとは段違い。

 対する襲撃者は、防人の刀を持つ覆面男。

 一言も発することなく、やはり両足の位置を変えつつ、切っ先を動かす。

 と思ったら、音々が仕掛ける。

「その顔、見させてもらうよ!」

 地面を這うような、凄まじい初動だ。

 またたく時間で、敵との間合いを詰めた。

 下から伸びてくる刃を避けた覆面男は、自身の刀から……。

 湧き出るような水を出現させた。
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