弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~

初雪空

文字の大きさ
上 下
22 / 37

見方を変えれば、正妻と公認の愛人では?

しおりを挟む
 相良さがら音々ねねは、スマホを耳に当てたまま、答える。

「2人で、こっちに戻るのね? じゃ、それまでは私たちで対応するから」

 スマホの画面を触って、ふうっと息を吐いた。

 ロッジ竜宮りゅうぐうの3人部屋で、西園寺さいおんじ睦実むつみに話しかける。

「睦実ちゃん? 氷室ひむろくん、風鳴かざなり学院の久世くぜさんと一緒に、こっちへ戻るって! 明日の昼ぐらいだと思う」

「うん……。ボクにも聞こえた」

 気だるげに、自分のベッドから起き上がる睦実。

 東京国武こくぶ高等学校の部屋は、氷室駿矢しゅんやがいない分だけ広く感じる。

 彼の寝床だったソファーに座っている音々は、睦実のほうを向いたままで独白する。

「殺されたダイバーの第一発見者で、周りに人もいない。凶器も刀……。その状況なら、警察は大喜びで犯人にするでしょう。よく、久世さんを引き取れたわね?」

 他に怪しい人間がいないか、捕まえられなければ、ひとまず犯人にしておく役だ。
 次の犠牲者が出なければ、状況証拠としてもバッチリ!

 ダルそうな睦実が、長い付き合いとして推理。

「考えなしに警察署へ突っ込んだ駿矢が、『お前も留置所にぶち込まれたくなければ、早く帰れ!』と脅されている時に、あの女が突撃したんでしょ」

 実際、その通りだった。

 妙に具体的な説明に、音々が質問する。

「あの女?」

「駿矢の許嫁いいなずけになった、天賀原あまがはら香奈葉かなはだよ」
「え? 氷室くん、許嫁がいるんだ!? っていうか、天賀原家! それで、まだ諦めないの!?」

 水を得た魚のように、音々はイキイキ。

 女子高生の大好物である、恋バナの時間だ!

「ボクも、御神刀を持っているからね……。香奈葉は天賀原家で忙しいと言うか、体面があるから。向こうにしてみれば、『駿矢が落ち着くまで任せる』の良いところ取りだと思う。他の女子が知らない間に寄ってくるより、一応は同格のボクに任せたほうがコスパもタイパもいいし」

「ふ、ふーん?」

 いきなり政治のような話で、肩透かしの音々。

 そこで、気づく。

「ん? 天賀原さんも、御神刀を持っているの!?」

「そうだよ? 香奈葉は滅ぼすことに特化しているから、駿矢が突撃した警察署が灰になっていないと――」
 ピロン♪

 スマホを持った睦実は、指を滑らせていく。

 視線も、スライドしていく表示を追う。

「警察署の正面玄関と取調室のドアぐらいで、済ませたんだ? 今回は、ずいぶんと大人しかったね? 署長の物分かりが良かったか」

 思わぬ形で、真相が分かった。

 音々は、面白い声を上げる。

「ひえっ!?」

 それに構わず、睦実が説明する。

「ボクと香奈葉は、SNSでグループを作っているんだよ……。2人だけのクローズのね? 実質、こういう連絡のため」

 ため息をついた睦実は、ベッドから降りた。

 固まったままの音々に、忠告する。

「言っておくけど! 駿矢の幼馴染で、香奈葉と腐れ縁のボクだから許されている部分が大きいから……。相良先輩が悪く言えば、命や社会的な立場の保証をしないよ? あいつら、どこで聞いているか分からないし」

「う、うん……。覚えておく……」

 言いながら準備した睦実は、ぼやく。

「香奈葉も香奈葉で、本音を言える友人がいないらしくてさ? ボクに愚痴を言うのは、やめて欲しいんだけど」

 それを聞いた音々は、心の中で思う。

(見方を変えれば、正妻と公認の愛人では?)

 しかし、茶化せば命にかかわると脅されていたことで、口にせず。

 睦実は、真剣な表情に。

「風鳴の生徒と話さない? あっちは混乱していると思う」

 ソファーから立ち上がった音々が、頷く。

「そうだね! 早く、知らせてあげよう!」


 ◇


 ロッジ竜宮の外で、風鳴学院の女子と会った。

 相良音々は、疑問に思う。

「あれ? もう1人の男子は?」

「……かじくんは、帰りました」

 聞けば、久世果歩かほが連行されたことで、耐えられなくなったそうだ。

 片腕を押さえた女子は、「高荒たかあらまどか」と名乗った。
 高校2年。

 人魚がいるはずの沼を眺めつつ、本音を吐き出す。

「気持ちは分かりますけどね!? 私も、久世先輩を待つ義務感がなければ、今すぐ逃げたいですよ!」

 気まずい顔で、音々が告げる。

「こっちに入った情報だけど――」

 その久世果歩が、うちの氷室駿矢と一緒に戻ってくる。

 聞いた「まどか」は、脱力した。

「そうですか……。良かった」

 勘違いしないよう、西園寺睦実が付け加える。

「このままでは、被疑者として検挙されるよ? そこは注意して」
「……はい」

 気を遣った音々が、提案する。

「女子1人は危険だよ? 私たちの部屋に来る? 氷室くんは、そっちの男子がいた部屋に移ってもらう形で」

 少し悩んだ「まどか」は、首を横に振った。

「お気持ちだけで……。明日の昼すぎには、久世先輩が戻ってきますから」

 最初よりは、元気そうだ。

 そう思った睦実は、沼の周りを見た。

(ずいぶん、サッパリしたね?)

 彼女の視線を追ったのか、「まどか」が教える。

「水中洞窟のダイバーについては、レスキューと警察が救助をやめました。表向きの理由は、『経過した時間から生存している可能性が低い』ですけど」

防人さきもりがぶっ殺しているとなれば、怖くていられないんでしょ? ゆっくりできると思えば、どうでもいいよ! こっちは、金払っているんだし」

 超常的なパワーと武器を持つ、防人。
 彼らに対抗できるのは、同じ防人だけ。

 機材を積み込んでいた警官、レスキューの一部が、非難がましい視線を送ってきた。

 けれど、睦実は気にせず。

 撤収命令が出ているようで、救助に来た連中は車で帰っていく。

「警察もか……。どっちみち、久世先輩を犯人にするシナリオってことだ!」

 睦実の独白に、「まどか」は息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~

日暮ミミ♪
恋愛
現代の日本。 山梨県のとある児童養護施設に育った中学3年生の相川愛美(あいかわまなみ)は、作家志望の女の子。卒業後は私立高校に進学したいと思っていた。でも、施設の経営状態は厳しく、進学するには施設を出なければならない。 そんな愛美に「進学費用を援助してもいい」と言ってくれる人物が現れる。 園長先生はその人物の名前を教えてくれないけれど、読書家の愛美には何となく自分の状況が『あしながおじさん』のヒロイン・ジュディと重なる。 春になり、横浜にある全寮制の名門女子高に入学した彼女は、自分を進学させてくれた施設の理事を「あしながおじさん」と呼び、その人物に宛てて手紙を出すようになる。 慣れない都会での生活・初めて持つスマートフォン・そして初恋……。 戸惑いながらも親友の牧村さやかや辺唐院珠莉(へんとういんじゅり)と助け合いながら、愛美は寮生活に慣れていく。 そして彼女は、幼い頃からの夢である小説家になるべく動き出すけれど――。 (原作:ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』)

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...