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ガチ勢とエンジョイ勢の温度差
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氷室駿矢が佐木霜村の食堂で情報収集をしていた頃。
柳ヶ淵村を目指して連なるワンボックスの先頭車両に、彼と同じ東京国武高等学校の制服を着た女子2人がいる。
スマホを触った西園寺睦実は、ふうっと息を吐く。
隣に座っている2年の風紀委員、相良音々を見る。
「先輩? 駿矢は、現地で合流するって」
ジト目だ。
笑顔のままで冷や汗を流した音々は、明るい声で応じる。
「そ、そう! 単独行動は危険だから、早く3人にならないと――」
「何々? 男の名前~? 同じ高校生の奴なんか、つまんねーって!」
同乗している男の1人が、ねっとりと絡んだ。
「ハ、ハハハ……」
乾いた笑いになる音々。
睦実は、ますます不機嫌に。
車内を見回せば、男女が交じっているものの、明らかに年上ばかり。
どこかの大学のサークルらしい。
女子高生2人が誘拐されているような構図は、音々の一言で始まった。
最寄り駅に到着したものの、地元の防人である風鳴学院の男女もいたのだ。
東京からの横槍ということで、険悪な雰囲気に。
防人用に迎えの車はあったものの、音々の判断でそこにいた目的地が同じグループに同乗させてもらったら――
ご覧の有様である!
ナンパしてきた大学生のみならず、もう1人も参戦する。
「そーそー! 俺たちも柳ヶ淵に滞在するから。今のうちに、連絡先を交換しておかね?」
スマホを手に迫る男子に、音々は睦実のほうを見る。
けれど、彼女はそちらを見ない。
(ひーん! 頼りになる先輩とアピールする予定だったのに!)
人当たりのいい音々は、声をかけやすいようだ。
ナンパ野郎の声が止まない。
慌てた彼女が、話題を変える。
「そ、そういえば! 柳ヶ淵には、天女伝説がありましたよね?」
「おー! あったな……。つか、天女より君のほうが可愛いぜ?」
「防人なら、刀あるよね? あとで見せてくれない?」
(ダメだぁあああっ!)
涙目の音々。
それを見たナンパ野郎は、ますます調子に乗る――
「いい加減にしてくれない? 防人の権限で、ここの県警を呼んでもいいんだけど?」
睦実の声が、車内に響いた。
束の間の静寂。
白けた空気が流れるも、ナンパ野郎の1人がすぐにフォローする。
「き、厳しいねー! 無視されて寂しかったとか?」
また、沈黙。
(もう嫌ぁあああああっ!)
音々の心の中は、忙しい。
恋のキュンキュンではなく、胃痛がしそうだ。
女子高生なのに。
仕方なく、もう1人のナンパ野郎が取り成す。
「て、天女伝説と言えば、雨を降らしたか、新しく水源を作ったらしいぜ?」
「ふーん?」
睦実が興味を持ったので、無視されたナンパ野郎も負けじと言う。
「どうも、昔の防人らしくてよ? その女が湖に住み着いた悪い水龍を倒して、村に残ったんだと!」
「ネットだと、沼はあっても湖はないよ?」
気をよくしたナンパ野郎は、笑顔で答える。
「湖が沼になったんじゃね? 知らんけど」
「そんなところだろうね……。ありがとう」
「別に、いいって!」
会話が途切れたが、今度は焦らない空気に。
(ありがとぉおおおおっ!)
音々は心の中で感謝するも、睦実はやはり見ない。
(こっちを見てぇええええっ!)
◇
(さっきから、相良先輩の視線が強い……)
考え事をしている西園寺睦実は、そちらを気にする余裕がない。
(十中八九、昔の防人が祟っていると思うけど)
柳ヶ淵村の意向が、どうにも見えない。
それに、風鳴学院は過去に生徒を送り込み、数人が行方不明のはず。
今回やってきたのは、何としてでも解明する姿勢だ。
最後尾の車には、精鋭が乗っているに違いない。
走っている車の窓には、一面の緑。
不整地で、ガタガタと揺れるシート。
(ナンパしていた男子2人は、空気を読んだか)
気難しい睦実を刺激しないよう、村に到着するまでは放置。
それを利用して、彼女は考える。
(昔の防人を殺したか……。いや、手籠めにしたかも?)
羽衣伝説は、天女の羽衣を隠し、帰れずに困った女を何度も孕ませる。
百姓の男と指定しているため、おそらく身分差。
よく考えれば、ひどい話である。
村だけで完結していた昔は、夜這いが当たり前。
娘に男が来ないと嘆いた父親を見て、男たちが夜這いしたぐらいだ。
(それをした理由は? 防人に手を出すのは、かなりのリスクだと思うけど)
不意をついての奇襲。
一撃で仕留めなければ、逆に全滅だ。
車内で話す大学生たちを眺めた睦実は、ワンダーフォーゲル部と名乗ったこいつらも怪しいと思う。
(タイミングが良すぎるんだよねえ……。偶然かもしれないけどさ?)
しかし、フッと笑う。
怪異と超常的なパワーがある現代社会で名推理を披露しても、意味がない。
いざとなれば――
(駿矢を襲った部隊の時と同じく、敵を倒すだけだよ)
睦実1人で、それが可能だ。
村ぐらい、半日もかからない。
今考えても、堂々巡りだ。
そう思った睦実は、相変わらずの視線に悩む。
(相良先輩、いつまでこっちを見ているんだろ?)
柳ヶ淵村を目指して連なるワンボックスの先頭車両に、彼と同じ東京国武高等学校の制服を着た女子2人がいる。
スマホを触った西園寺睦実は、ふうっと息を吐く。
隣に座っている2年の風紀委員、相良音々を見る。
「先輩? 駿矢は、現地で合流するって」
ジト目だ。
笑顔のままで冷や汗を流した音々は、明るい声で応じる。
「そ、そう! 単独行動は危険だから、早く3人にならないと――」
「何々? 男の名前~? 同じ高校生の奴なんか、つまんねーって!」
同乗している男の1人が、ねっとりと絡んだ。
「ハ、ハハハ……」
乾いた笑いになる音々。
睦実は、ますます不機嫌に。
車内を見回せば、男女が交じっているものの、明らかに年上ばかり。
どこかの大学のサークルらしい。
女子高生2人が誘拐されているような構図は、音々の一言で始まった。
最寄り駅に到着したものの、地元の防人である風鳴学院の男女もいたのだ。
東京からの横槍ということで、険悪な雰囲気に。
防人用に迎えの車はあったものの、音々の判断でそこにいた目的地が同じグループに同乗させてもらったら――
ご覧の有様である!
ナンパしてきた大学生のみならず、もう1人も参戦する。
「そーそー! 俺たちも柳ヶ淵に滞在するから。今のうちに、連絡先を交換しておかね?」
スマホを手に迫る男子に、音々は睦実のほうを見る。
けれど、彼女はそちらを見ない。
(ひーん! 頼りになる先輩とアピールする予定だったのに!)
人当たりのいい音々は、声をかけやすいようだ。
ナンパ野郎の声が止まない。
慌てた彼女が、話題を変える。
「そ、そういえば! 柳ヶ淵には、天女伝説がありましたよね?」
「おー! あったな……。つか、天女より君のほうが可愛いぜ?」
「防人なら、刀あるよね? あとで見せてくれない?」
(ダメだぁあああっ!)
涙目の音々。
それを見たナンパ野郎は、ますます調子に乗る――
「いい加減にしてくれない? 防人の権限で、ここの県警を呼んでもいいんだけど?」
睦実の声が、車内に響いた。
束の間の静寂。
白けた空気が流れるも、ナンパ野郎の1人がすぐにフォローする。
「き、厳しいねー! 無視されて寂しかったとか?」
また、沈黙。
(もう嫌ぁあああああっ!)
音々の心の中は、忙しい。
恋のキュンキュンではなく、胃痛がしそうだ。
女子高生なのに。
仕方なく、もう1人のナンパ野郎が取り成す。
「て、天女伝説と言えば、雨を降らしたか、新しく水源を作ったらしいぜ?」
「ふーん?」
睦実が興味を持ったので、無視されたナンパ野郎も負けじと言う。
「どうも、昔の防人らしくてよ? その女が湖に住み着いた悪い水龍を倒して、村に残ったんだと!」
「ネットだと、沼はあっても湖はないよ?」
気をよくしたナンパ野郎は、笑顔で答える。
「湖が沼になったんじゃね? 知らんけど」
「そんなところだろうね……。ありがとう」
「別に、いいって!」
会話が途切れたが、今度は焦らない空気に。
(ありがとぉおおおおっ!)
音々は心の中で感謝するも、睦実はやはり見ない。
(こっちを見てぇええええっ!)
◇
(さっきから、相良先輩の視線が強い……)
考え事をしている西園寺睦実は、そちらを気にする余裕がない。
(十中八九、昔の防人が祟っていると思うけど)
柳ヶ淵村の意向が、どうにも見えない。
それに、風鳴学院は過去に生徒を送り込み、数人が行方不明のはず。
今回やってきたのは、何としてでも解明する姿勢だ。
最後尾の車には、精鋭が乗っているに違いない。
走っている車の窓には、一面の緑。
不整地で、ガタガタと揺れるシート。
(ナンパしていた男子2人は、空気を読んだか)
気難しい睦実を刺激しないよう、村に到着するまでは放置。
それを利用して、彼女は考える。
(昔の防人を殺したか……。いや、手籠めにしたかも?)
羽衣伝説は、天女の羽衣を隠し、帰れずに困った女を何度も孕ませる。
百姓の男と指定しているため、おそらく身分差。
よく考えれば、ひどい話である。
村だけで完結していた昔は、夜這いが当たり前。
娘に男が来ないと嘆いた父親を見て、男たちが夜這いしたぐらいだ。
(それをした理由は? 防人に手を出すのは、かなりのリスクだと思うけど)
不意をついての奇襲。
一撃で仕留めなければ、逆に全滅だ。
車内で話す大学生たちを眺めた睦実は、ワンダーフォーゲル部と名乗ったこいつらも怪しいと思う。
(タイミングが良すぎるんだよねえ……。偶然かもしれないけどさ?)
しかし、フッと笑う。
怪異と超常的なパワーがある現代社会で名推理を披露しても、意味がない。
いざとなれば――
(駿矢を襲った部隊の時と同じく、敵を倒すだけだよ)
睦実1人で、それが可能だ。
村ぐらい、半日もかからない。
今考えても、堂々巡りだ。
そう思った睦実は、相変わらずの視線に悩む。
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