弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~

初雪空

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小学校で経験した睦実の怒り

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 ――5年前

 1人の少女が、小学校の中を駆け抜けている。

 赤いペンキがぶちまけられ、足の踏み場もない箇所もある廊下を。

 統一された装備の兵士が、銃口と一緒に、そちらを向いた。

「Who's .... shoot!(誰だ……撃て!)」

 乾いた発砲音が重なる。
 昼の、どこか暗がりを感じさせる内廊下で、光がいくつか。

 けれども、次の瞬間に、その少女が通り過ぎていた。

 剣道着を思わせる、あい色の小袖と黒袴くろばかま
 腰に巻いた帯の左側に、さやが差してある。

 右手には小太刀こだちを下げており、空中に血の線を描く。

 遅れて、両手で構えていた兵士たちに赤色が加わり、次々に倒れた。

 彼女は、1人の男子を探している。

駿矢しゅんやを自由にさせた結果が、これか……」

「Scre――(くたばれ!)」

 死角から突風のように襲い掛かってきた兵士。

 片手のナイフで、急所を突こうとするも――

 やはり一筋の光が走って、熟練の技を見せる機会もなく、両膝から倒れ伏す兵士。

「まあ、アレだね? この世界は駿矢をゆっくりさせる気がないんだ……」

 躊躇なく敵を殺した西園寺さいおんじ睦実むつみは、武装勢力に占拠された小学校で、まだ小学生の氷室ひむろ駿矢を探した。

 ・・・・・・・
 ・・・・・
 ・・・
 ・

 東京国武こくぶ高等学校にある、避雷針。

 その上に立っている女子は、この学校の制服を着た女子だ。

「ふ―――っ!」

 空手の息吹いぶきのように動いた直後――

 ダンッ!

 何もない空中で、破裂するような音が続いた。

 眼下にある、氷室駿矢と風紀委員会のにらみ合い。

 それを見たまま、西園寺睦実はかつてのような和装に変わった。

 足元は、今の彼と同じ白足袋しろたび草鞋わらじ

『カアァアアアッ!?』

 彼女の霊圧に押されたカラスどもが、たまげたように飛び立った。

 バサバサバサ

 それに構わず、両手で左腰に差した御神刀を抜いていく。

「まただよ、千雷せんらい……」

 片手の小太刀は、冷たい金属の輝き。

 それは、放電しているような輝きを放ちつつ、紫色をまとった。

「ああ……。また……」

 独白した睦実は、両膝のバネだけで高く飛んだ。


 ◇
 

 俺と向き合っている兵士たちが発砲する前に、紫色の光が通り過ぎた。

 直後に、奴らが両手で構えている小銃が半ばから切り飛ばされる。

「なっ?」
「どこから!?」
「くそっ!」

 役立たずのアサルトライフルを捨て、腰の拳銃を抜こうと――

『警備は下がれ! あとは、こちらでやる!! 全員の刀剣解放を許可!』

 ゴツい男子の命令で、制服に腕章をつけた風紀委員が刀を両手で握る。

 一触即発だが、瞬間移動のように現れた女子の姿で止められた。

『……1年主席の西園寺か? どういうつもりだ!』

 ジャリッと向きを変えた西園寺睦実は、おそらく風紀委員長であろう男子を見た。

「見ての通りだよ? 駿矢の敵は、ボクの敵だ……」

『お前は入学早々に、退学する気か!? ……やむを得ん。手足の一二本は覚悟して――』
「そこまでにしていただけませんか?」

 落ち着いた、女子の声。

 全員がそちらを見れば、別のマークをつけた制服だ。

『これは、風紀委員会の管轄だぞ?』
「生徒会として、正式な要請です。御神刀、それも二振りとの戦闘は許可できません」

 いかにも育ちが良さそうな佇まい。

 青色の瞳に、長い黒髪。
 上品な仕草で、両手は下げたまま。

 傍には、兄か弟と思われる男子がいる。

 こちらは刀を構えたまま。

 風紀委員会のリーダーが、応じる。

『生徒会が責任を持つ……。その認識でいいんだな、神宮寺じんぐうじ?』
「はい! こちらで預かります」

 ため息をついた男子は、風紀委員に命じる。

『納刀しろ!』

 俺たちを半包囲している男女は、警戒したまま、左腰に切っ先を納めた。

 そのまま、刀が消える。

 全員の視線にさらされたことで、片手で振った脇差を納刀した。

 横目で見ていた睦実も、それにならう。

 俺たちが元の制服に戻ったことに驚いた面々が、小さな声を上げた。

 いっぽう、場を仕切っている女子は微笑む。

「はじめまして! 1年の神宮寺のぞみです……。生徒会の事務局員となりました」

 まるで、社交場にいるみたいだ。

 そう思いつつ、ドッと疲れを感じる。

 希が提案する。

「詳しい話は後日……と言いたいのですが。会長から『連れてくるように』と厳命されています。このままでは風紀委員会との溝にもなるため、生徒会室までお越しいただければ幸いです」

 横に立っている睦実の視線を感じながら、答える。

「お茶ぐらいは、出るんだろうな?」

「ええ……。そのつもりですよ?」


 ――生徒会室

 ミーティングに使うためのテーブルについた面々。

「――以上です」

 気まずい雰囲気のまま、神宮寺希が報告を終えた。

 一緒についてきた風紀委員会のゴツい男子は、腕を組んだまま。

 上座にいる生徒会長、伊花いばな鈴音すずねが、俺たちを見た。

「先に、あなた達の言い分を聞くわよ? 先輩の後だと、話しにくいでしょ?」

 横に座っている西園寺睦実のアイコンタクトで、口を開いた。

「騙して呼んだ先輩5人にリンチされそうになったうえ、全員に抜刀されたから、自分の身を守った! あとは、そこの風紀委員がよく知っているだろう?」

 首をかしげた鈴音が、指摘する。

「風紀委員に逆らった理由は? ウチの希ちゃんには、素直に従ったのよね? 好みだったから?」

「俺は、入学したばかりだ! 風紀委員をよく知らんし、騙し討ちにあった直後」

 頷いた鈴音は、納得する。

「ああ……。顔見知りがいれば別だけど、ってことね? 鎮圧用のゴム弾とはいえ、いきなり銃口を向けられれば、ちょっと厳しかったか! ……別に、そっちを責めているわけじゃないわよ?」

 責める視線になった風紀委員の男子に、慌ててフォローする鈴音。
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