弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~

初雪空

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刀身が伸びるだけの平凪

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 自分に向けられた切っ先が、5つ。

 着崩しているブレザーの制服のまま、両手で握った刀を正眼に……。

「どうした、先輩方? かかってこないのか?」

 リーダー格と思われる不良が、すぐに叫ぶ。

「うるせええっ! 刀を抜いていない生徒を斬りつければ、後が面倒ってだけだ!!」

 俺は、高揚していた気分が萎えていくことを感じた。

(こいつら……。ふざけているのか?)

 主力戦車、スキルによっては飛んでいる戦闘機ですら、両断する力。

 それを構えておきながら、ただの喧嘩と同じ感覚。

 ――あなたは生きて

 ――どうして、殺したのよ!

「おい! てめえも、早く抜刀しろって言ってんだよ!」

 リーダー格の叫びで、我に返った。

「お前ら、人を殺したことはあるか?」

「……早く抜け!」

 ため息をついた俺は、指を順番に動かす。

「ああ、分かった! 来い、平凪ひらなぎ

 周囲の地面で、俺を中心に風が回る。

 制服から和服に変わった感覚と同時に左手を腰につけ、さやを握っている形で、そこに開いた右手を添えた。

 けれど、こいつらの抜刀とは決定的に違う。

 それは、抜く前から実体があることだ。

 左手の親指でつばを押せば、前へ動く。

 右手は下にあるつかを握り、抜きやすいように、鞘を左に回して水平に。

 握った右手で、ゆっくり引き抜く。

 フリーにした左手を添えて、両手持ちに。

 脇差と同じ、普通と比べれば、短い刀身。

 けれど、俺が構えた直後に、他の奴らと同じ長さに変わった。


 柄を握り直した連中が、両足を動かす。

 先ほどよりも、怯えている。

 リーダー格が、すかさず煽る。

「解放して、これだけだ! こっちは5人もいる! 御神刀ってのも、どうせ吹かしだ! 服装が変わった手品ぐらいで、ビビるな!」

 アホらしくなったので、1番弱そうな奴の前に移動。

 その流れのまま、正眼のままの刀身を斬りつけた。

 横に切り払い、サイドステップ。

 2人目、3人目、4人目。

「5人目……」

 リーダー格は、俺が正面に立った時点で、ようやく反応した。

 斬りつけてくるも、遅すぎるし、こちらを見ていない。

 カウンターで斬りつけての寸止め。

 硬直したところで、上から刀身を斬った。

 白足袋しろたび草鞋わらじを履いた足で歩き、離れる。

 ガランガラン

 5人分の音。

 俺が斬り捨てた刀身だ。

「まったく……。御神刀と言っただろう? お前らの刀とは、密度が違うんだよ!」

 けれど、5人の馬鹿は、途中で斬られたままの刀を握ったまま、呆然としている。

 その視線は、自分の刀へ。

 俺は脇差の長さに戻した御神刀を片手で握ったまま、ヒュッと血振り。

(さて、どうしたものか?)

 格付けは済んだし、自分が契約した刀を折られた意味を知っているだろう。

 この場から立ち去っても、別にいいか。

「つまんねえな……。初動への対応すら、できないのかよ」

『お望みなら、俺たちが相手になるぞ、新入生?』

 拡声器による、男子の声。

 周りを見れば、片腕に腕章をつけた制服の男女が数人。

 どいつも抜刀していて、ただ者ではない雰囲気。

「へえ……」

 俺の呟きに対して、心と刀を折られた不良どもが騒ぎ出す。

「と、闘犬!?」
「風紀の連中かよ……」

 どうやら、この東京国武こくぶ高等学校の治安維持をしている風紀委員会のようだ。

 いっぽう、そいつらと同じサイドに展開した兵士っぽいのが、次々にアサルトライフルを構えた。

 いくつもの銃口が、こちらを向く。

「周辺のクリアリング、完了!」
「不審人物、なし!」
「命令あるまで、待機せよ」

 脱力したまま、呆れる。

(実は、ここ刑務所だったって、オチかな?)

 明らかに、高校とは思えない光景だ。

 すると、いかつい男子から、優しげな女子がマイクを持った。

 銀髪で、両サイドの前を三つ編みにしつつも、全体としてロング。

 水色の瞳が、俺のほうを向いた。

『風紀委員会の2年、相良さがら音々ねねだよ! とりあえず、その刀を納めてくれないかな?』

 殺気が込められた視線と銃口を感じつつ、反論する。

「この状況でか?」

『念のための措置です! 御刀おかたなは、それだけ危険なの! それに、君が持っているのは御神刀のはず……。こんなことに振るうなんて、刀が泣いちゃうよ? あ! 他の人たちも納刀してね?』

 もはや自分の意志を持たない馬鹿どもが、のろのろと納めた。

 それを見届けた兵士のグループが近づき、遠ざけていく。

『君も早く――』
「俺は、こいつらに刀を向けられたんだぞ?」

『うん! でも、今は調査前で――』
「お前、人を殺したことがあるか?」

 困惑した音々は、かろうじて答える。

『そ、その質問は、後にしてくれないかな?』
「俺に絡んだ先輩方とあんたらが抜いているのは、超常的な武器だ! ついでに、兵士が構えている小銃も、一発で人を殺せる代物」

『えっと……』

 絶句した音々に代わり、最初の男子が話し出す。

『だから、何だ? お前は、「風紀委員会に逆らった」という事実を作っている最中だぞ? いい加減にしろ、氷室ひむろ!』

「あんたらは、どいつも人を殺せるだけの力を持っている。それなのに、なぜ向けられるんだ? なぜ、そうも平気でいられる!?」

『話にならんな。……構わん。撃て』

 その命令で、待機していた兵士のグループが発砲した。
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