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入学おめでとう!あなた達の何人かは卒業までに死ぬわ!
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桜の花びらが舞い散る、過ごしやすい気候。
今日は、いよいよ高校生としてのデビューだ。
“東京国武高等学校”
古めかしいプレートとは別に、温かみのある立て看板。
それは、花の飾りで縁取られていて、こう書かれていた。
“入学式”
俺たちと同じく、新しいブレザーの制服が同じ方向へ進むか、中学時代からの友人でグループを作っている。
「でさ! ここに入れた――」
「部活、何にする?」
「やっぱり、剣術の――」
敷地内にいる、新入生の群れ。
その隙間を縫って進みつつ、適当に立ち止まった。
俺の隣にいる西園寺睦実が、話しかけてくる。
「ボクは、代表挨拶があるから! また、後でね?」
「ああ……」
遠巻きに立っている先輩のグループが、睦実を呼んだ。
威厳のある佇まい。
(あいつらが、生徒会か?)
一部の奴らが、俺のほうを見た。
軽く頭を下げたあとで、目を逸らす。
――入学式
ご立派な講堂で、映画館のような席に座っている俺たち。
正面の檀上には、睦実の後ろ姿。
『本日は、私たちのためにこのような盛大な式を挙行していただき――』
テンプレだ。
あとは、在校生の歓迎で終わり――
『3年の生徒会長、伊花鈴音です! まずは、ご入学おめでとうございます。けれど、あなた達の全員が無事に卒業できるとは限りません』
いきなりの挑発に、階段状で、横に並んでいる観客席にいる新入生がざわつく。
生徒会長は、笑みを浮かべたまま。
長い黒髪は、いかにもお嬢様。
優しそうな顔の赤紫の瞳が、俺たちを見ている。
『フフッ……。いきなりの発言で、ごめんなさいね? でも、大事なことなの!』
気づけば、全員が黙っている。
(初めから、セオリーを無視か!?)
入学式でやらかせば、いくら生徒会長でもタダでは済まない。
現に、睦実は事前に打ち合わせしたであろう原稿を読んだのみ。
(それなのに、誰も否定しない……)
カリスマがあるんだ。
いかにも、嫋やかな雰囲気だが、静かに相手を諭すだけのオーラ。
この場を支配した少女が、演説する。
『私たちは、御刀と契約しての超人的なパワーを有しています。銃弾を避けるか、刀で弾くことも可能です。けれど、それは日本を守る防人として』
真面目な顔と口調になった鈴音が、現実を教える。
『ウチ……国武でも、私の学年で数人の犠牲者が出ています! それは荒神退治の結果で、訓練中の事故もあり得ます。ここは、そういう場よ?』
ぐるりと見回した後で、再び口を開く。
『防人として義務を果たす気がない方は、どうぞお帰りください! 御刀との契約を解除したければ、相談に乗ります』
当たり前だが、1人も動かない。
(内心でビビっても、はい嫌です! とは言えんよなあ……)
ようやく入れた、防人の学校。
それも、東京だ。
いきなり先輩に目をつけられるのは、御免こうむる。
(分かって釘を刺したとなれば、良い性格をしていやがる……)
呆れた俺に構わず、生徒会長はしゃべり続ける。
『先日も、東京の中心部でランクBの荒神が発生しました! 私たちへの応援要請はなく、出動した機動隊が奮闘の末に無力化したようですが……』
生徒会長は、チラリと、俺のほうをみた。
すぐに、視線が外れる。
『私たちに求められているのは常在戦場の心得と、実力です! 戦隊ヒーローや魔法少女も、彼らが負ければ、誰も助けてくれないのよ?』
口調が混ざっているものの、不快感はない。
どんどん盛り下がる、俺以外の新入生たち。
けれど、クスッと笑った生徒会長が、すぐにフォローする。
『安心して! ここは、防人の学校よ? 御刀を振るうための設備があり、豊富なノウハウに、教職員と私たち先輩がいる……』
講堂の雰囲気が変わった。
『不安があるのは、まだ知らないから! ウチの3年間で、きっと大きく成長できるわ!』
全員が、彼女に見入っている。
『刀を振るうのは、生涯をかけても難しいの……。だけど、私たちは正しい刀法を気にしなくても、力づくでやれてしまう。それじゃ、後で行き詰まるのよ? あっ! ごめんなさい。話が逸れてしまって』
講堂に、小さな笑い。
『ともかく、私たちは可愛い新入生を犠牲にしたくないの! だから、一緒に稽古と学習に励みましょう? ようこそ、現代の侍のみんな!』
拍手が重なった。
(あの先輩だけに許された演説だな……)
それに尽きる。
別の生徒が言えば、きっと反感を持たれた。
女子だから、という話ではない。
――1年3組
事前に席は決められており、自分のところに座る。
(睦実は、別のクラスか……)
担任が入ってきて、説明を始めた。
教科書の受け取り、体操着、防具などの置き場所、ルールなど。
気づけば、もう夕方だ。
周りを見れば、すでにグループがいくつか。
(とにかく、帰ろう)
気疲れしたことで、重い荷物を背負い、教室から出ようと――
「あ、いた! 駿矢、生徒会がボクたちを呼んでいるって!」
西園寺睦実だ。
「……面倒だ。お前が聞いておけ」
両手を腰に当てた睦実が、ため息を吐く。
「は――っ! あのさあ? 入学早々に……って、コラァ!」
面倒になったので、外へ向かう。
睦実の叫びが聞こえたが、お構いなしに足を動かす。
今日は、いよいよ高校生としてのデビューだ。
“東京国武高等学校”
古めかしいプレートとは別に、温かみのある立て看板。
それは、花の飾りで縁取られていて、こう書かれていた。
“入学式”
俺たちと同じく、新しいブレザーの制服が同じ方向へ進むか、中学時代からの友人でグループを作っている。
「でさ! ここに入れた――」
「部活、何にする?」
「やっぱり、剣術の――」
敷地内にいる、新入生の群れ。
その隙間を縫って進みつつ、適当に立ち止まった。
俺の隣にいる西園寺睦実が、話しかけてくる。
「ボクは、代表挨拶があるから! また、後でね?」
「ああ……」
遠巻きに立っている先輩のグループが、睦実を呼んだ。
威厳のある佇まい。
(あいつらが、生徒会か?)
一部の奴らが、俺のほうを見た。
軽く頭を下げたあとで、目を逸らす。
――入学式
ご立派な講堂で、映画館のような席に座っている俺たち。
正面の檀上には、睦実の後ろ姿。
『本日は、私たちのためにこのような盛大な式を挙行していただき――』
テンプレだ。
あとは、在校生の歓迎で終わり――
『3年の生徒会長、伊花鈴音です! まずは、ご入学おめでとうございます。けれど、あなた達の全員が無事に卒業できるとは限りません』
いきなりの挑発に、階段状で、横に並んでいる観客席にいる新入生がざわつく。
生徒会長は、笑みを浮かべたまま。
長い黒髪は、いかにもお嬢様。
優しそうな顔の赤紫の瞳が、俺たちを見ている。
『フフッ……。いきなりの発言で、ごめんなさいね? でも、大事なことなの!』
気づけば、全員が黙っている。
(初めから、セオリーを無視か!?)
入学式でやらかせば、いくら生徒会長でもタダでは済まない。
現に、睦実は事前に打ち合わせしたであろう原稿を読んだのみ。
(それなのに、誰も否定しない……)
カリスマがあるんだ。
いかにも、嫋やかな雰囲気だが、静かに相手を諭すだけのオーラ。
この場を支配した少女が、演説する。
『私たちは、御刀と契約しての超人的なパワーを有しています。銃弾を避けるか、刀で弾くことも可能です。けれど、それは日本を守る防人として』
真面目な顔と口調になった鈴音が、現実を教える。
『ウチ……国武でも、私の学年で数人の犠牲者が出ています! それは荒神退治の結果で、訓練中の事故もあり得ます。ここは、そういう場よ?』
ぐるりと見回した後で、再び口を開く。
『防人として義務を果たす気がない方は、どうぞお帰りください! 御刀との契約を解除したければ、相談に乗ります』
当たり前だが、1人も動かない。
(内心でビビっても、はい嫌です! とは言えんよなあ……)
ようやく入れた、防人の学校。
それも、東京だ。
いきなり先輩に目をつけられるのは、御免こうむる。
(分かって釘を刺したとなれば、良い性格をしていやがる……)
呆れた俺に構わず、生徒会長はしゃべり続ける。
『先日も、東京の中心部でランクBの荒神が発生しました! 私たちへの応援要請はなく、出動した機動隊が奮闘の末に無力化したようですが……』
生徒会長は、チラリと、俺のほうをみた。
すぐに、視線が外れる。
『私たちに求められているのは常在戦場の心得と、実力です! 戦隊ヒーローや魔法少女も、彼らが負ければ、誰も助けてくれないのよ?』
口調が混ざっているものの、不快感はない。
どんどん盛り下がる、俺以外の新入生たち。
けれど、クスッと笑った生徒会長が、すぐにフォローする。
『安心して! ここは、防人の学校よ? 御刀を振るうための設備があり、豊富なノウハウに、教職員と私たち先輩がいる……』
講堂の雰囲気が変わった。
『不安があるのは、まだ知らないから! ウチの3年間で、きっと大きく成長できるわ!』
全員が、彼女に見入っている。
『刀を振るうのは、生涯をかけても難しいの……。だけど、私たちは正しい刀法を気にしなくても、力づくでやれてしまう。それじゃ、後で行き詰まるのよ? あっ! ごめんなさい。話が逸れてしまって』
講堂に、小さな笑い。
『ともかく、私たちは可愛い新入生を犠牲にしたくないの! だから、一緒に稽古と学習に励みましょう? ようこそ、現代の侍のみんな!』
拍手が重なった。
(あの先輩だけに許された演説だな……)
それに尽きる。
別の生徒が言えば、きっと反感を持たれた。
女子だから、という話ではない。
――1年3組
事前に席は決められており、自分のところに座る。
(睦実は、別のクラスか……)
担任が入ってきて、説明を始めた。
教科書の受け取り、体操着、防具などの置き場所、ルールなど。
気づけば、もう夕方だ。
周りを見れば、すでにグループがいくつか。
(とにかく、帰ろう)
気疲れしたことで、重い荷物を背負い、教室から出ようと――
「あ、いた! 駿矢、生徒会がボクたちを呼んでいるって!」
西園寺睦実だ。
「……面倒だ。お前が聞いておけ」
両手を腰に当てた睦実が、ため息を吐く。
「は――っ! あのさあ? 入学早々に……って、コラァ!」
面倒になったので、外へ向かう。
睦実の叫びが聞こえたが、お構いなしに足を動かす。
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