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また、これだよ!
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そこは、どこかの建物の中だった。
機能性だけを考えた造りで、例えるのなら、荷物の搬出入や移動だけの空間。
思わず取り出した生徒手帳を見れば、西坂一司のページ。
「夢……じゃないか」
嘆息した俺は、開いていた生徒手帳から視線を外した。
中学校の制服を着たまま、どこかの内廊下を歩く。
「何だ、ここ……」
『昨日より、第三中学校の男子、西坂くんが帰宅していないと通報があり――』
――数年後
俺は、高校生になった。
東羽高等学校。
「ろくに勉強できなかったからな……」
独白した後に、溜め息をついた。
教室で自分の席にいるが、クラスには知人だけ。
中学校で行方不明になり、半年……ぐらいか?
それだけ経ち、ようやく帰ってきた。
実家での死人を見るような出迎えに、近所や友人の無神経なツッコミや、周りと一緒になっての誹謗中傷に、俺は逃げ出した。
地元にいられず、家族や友人だった連中を捨てて、都心へ。
新しい保護者……のような存在はできたが、前の中学の内申書にどう書かれていたのやら!
行方不明についてはニュースになったし、金と家族がない俺は私立に行けず、公立高校の1つに振り分けられた。
おそらくは、どこも嫌がり、押しつけ合った挙句にな?
「ハロハロ♪」
明るい女子の声で、そちらを見る。
桜色のような、薄いピンク色の長い髪。
赤紫の瞳をした女子だ。
俺は、イリナと呼んでいる。
こいつの名字は……衣川だ!
衣川イリナという、芸能人みたいなフルネーム。
「よお……。卒業まで、あと何日だっけ?」
両手を腰に当てたイリナは、息を吐いた。
「ヒト君、もっと楽しんだら? 貴重な高校生活だよ?」
「うるさい……。お前こそ、勝手に楽しんだら……何でもありません」
目のハイライトが消えた女子は、顔を近づけたまま、俺を見た。
耳元で、囁く。
「そうやって、私を遠ざけ、浮気するつもりでしょ?」
「違います」
どうして、俺はクラスメイトに敬語で話しているんだ……。
はあっと、ため息を吐く。
まだ怪しい目つきのイリナに気づき、話題を変える。
「そっちは?」
欧米人のように、2つの手の平を上に向けたイリナが、呆れる。
「相変わらず! あなたの機嫌を損ねるのが怖いんでしょ?」
「お前もだ……」
同じ顔ぶれ。
つまらない授業と、高校のメンツ。
同じ生徒であるのに、マウントを取り合う連中。
「うんざりだよ……」
心配そうに見ているイリナが、提案する。
「また、違う場所へ行く?」
「コンクリートに囲まれた部屋よりは、マシさ! ……転校すれば、もっと状況が悪くなる」
今の高校だって、ギリギリ。
次は、通信制ですら危うい。
イリナは察したのか、違う場所を見た後で、視線を戻す。
「そうね……。今は、せいぜい普通の高校生――」
言葉を切った彼女は、目つきを鋭くした。
「気づいた?」
「ああ……。二度あることは三度ある」
息を吐いたイリナが呆れたまま、突っ込む。
「これで、二度目だよ?」
「そうだったか?」
言っている間に、俺たちがいる教室は、朝のショートホームルームにやってきた担任を巻き込み、光に包まれた。
「ハーイ! ディエヌスに、ようこそ! あなた方は、選ばれし勇者さまです! その力で、どんどん敵を殺してくださいね?」
いかにもファンタジーで、貴族のような服装をした少女が、笑顔で言い切った。
長いブロンドヘアーと、エメラルドグリーンの瞳だ。
状況を呑み込めず、呆然とするクラスの連中。
周りを見れば、使い込まれた教室から、ヨーロッパの城のようなホールに。
我に返った担任が、捲し立てる。
「君は、誰だね!? こ、こんなことをして、学校や自治体が――」
ボンッ!
量販店のセール品であろう、くたびれたスーツを着た中年男は、頭が破裂した。
そのまま、ドシャリと倒れ伏す。
受け身をするわけもなく、遠心力によって、ゴンッと痛そうな音。
「キャアアアッ!」
「嘘……」
「おい、何だよ?」
テレビでは、映さない。
紛争地帯でも珍しい、頭の粉砕だ。
「対物ライフルか、搭載するガトリング砲ぐらいの威力……」
銃口を向けておらず、銃弾らしき物体が当たった様子もない。
脅している令嬢が、俺をジッと見た。
全体に視線を戻し、説明を続ける。
「お分かりでしょうか? 私には、これだけの力があります。彼の犠牲をムダにしないためにも、話を聞いて欲しいのですが……」
自分で殺しておいて、よくもヌケヌケと。
けれど、ご令嬢は、俺たちが思考力を取り戻す前に畳みかける。
「あなた方を召喚したのは、やってもらいたい事があるからです。元の世界に戻すにしても、時間がかかります。その間に、ご検討くださいませ! しばらくは、食事などの世話を行いますので。……申し遅れましたが、私はイングリットと申します」
選択肢のようで、選ぶ余地がない。
派手な殺しと併せて、こいつに逆らえば、殺されるか、生活できない。と刷り込んだ……。
洗脳、詐欺によくある手口のオンパレード。
案の定、イリナも不機嫌。
「……時間を与えるとは、余裕があるわね?」
「内輪で話し合うほど、あの女の思い通りになるってことだろ」
元の世界に戻せる。
この切り札がある以上、こいつらは従うしかない。
たぶん――
「まだ、隠し玉があるわ」
「だろうな……」
――数日後
高級ホテルのような生活が続き、クラスの連中はいつものグループで話し合っていたようだ。
俺は友人と呼べる奴がおらず、イリナは他の女子に呼ばれていた。
例のイングリットは、営業スマイル。
「はい、注目ー! そろそろ、皆さんの返事を聞きたいのですが……」
わざと溜めを作った女は、ぐるりと見回した後で、宣言する。
「実は! 皆さんには、秘められたスキルがありまーす!」
ほら、来た。
利用価値がないのに、わざわざ召喚しないし、勘違いもさせない。
機能性だけを考えた造りで、例えるのなら、荷物の搬出入や移動だけの空間。
思わず取り出した生徒手帳を見れば、西坂一司のページ。
「夢……じゃないか」
嘆息した俺は、開いていた生徒手帳から視線を外した。
中学校の制服を着たまま、どこかの内廊下を歩く。
「何だ、ここ……」
『昨日より、第三中学校の男子、西坂くんが帰宅していないと通報があり――』
――数年後
俺は、高校生になった。
東羽高等学校。
「ろくに勉強できなかったからな……」
独白した後に、溜め息をついた。
教室で自分の席にいるが、クラスには知人だけ。
中学校で行方不明になり、半年……ぐらいか?
それだけ経ち、ようやく帰ってきた。
実家での死人を見るような出迎えに、近所や友人の無神経なツッコミや、周りと一緒になっての誹謗中傷に、俺は逃げ出した。
地元にいられず、家族や友人だった連中を捨てて、都心へ。
新しい保護者……のような存在はできたが、前の中学の内申書にどう書かれていたのやら!
行方不明についてはニュースになったし、金と家族がない俺は私立に行けず、公立高校の1つに振り分けられた。
おそらくは、どこも嫌がり、押しつけ合った挙句にな?
「ハロハロ♪」
明るい女子の声で、そちらを見る。
桜色のような、薄いピンク色の長い髪。
赤紫の瞳をした女子だ。
俺は、イリナと呼んでいる。
こいつの名字は……衣川だ!
衣川イリナという、芸能人みたいなフルネーム。
「よお……。卒業まで、あと何日だっけ?」
両手を腰に当てたイリナは、息を吐いた。
「ヒト君、もっと楽しんだら? 貴重な高校生活だよ?」
「うるさい……。お前こそ、勝手に楽しんだら……何でもありません」
目のハイライトが消えた女子は、顔を近づけたまま、俺を見た。
耳元で、囁く。
「そうやって、私を遠ざけ、浮気するつもりでしょ?」
「違います」
どうして、俺はクラスメイトに敬語で話しているんだ……。
はあっと、ため息を吐く。
まだ怪しい目つきのイリナに気づき、話題を変える。
「そっちは?」
欧米人のように、2つの手の平を上に向けたイリナが、呆れる。
「相変わらず! あなたの機嫌を損ねるのが怖いんでしょ?」
「お前もだ……」
同じ顔ぶれ。
つまらない授業と、高校のメンツ。
同じ生徒であるのに、マウントを取り合う連中。
「うんざりだよ……」
心配そうに見ているイリナが、提案する。
「また、違う場所へ行く?」
「コンクリートに囲まれた部屋よりは、マシさ! ……転校すれば、もっと状況が悪くなる」
今の高校だって、ギリギリ。
次は、通信制ですら危うい。
イリナは察したのか、違う場所を見た後で、視線を戻す。
「そうね……。今は、せいぜい普通の高校生――」
言葉を切った彼女は、目つきを鋭くした。
「気づいた?」
「ああ……。二度あることは三度ある」
息を吐いたイリナが呆れたまま、突っ込む。
「これで、二度目だよ?」
「そうだったか?」
言っている間に、俺たちがいる教室は、朝のショートホームルームにやってきた担任を巻き込み、光に包まれた。
「ハーイ! ディエヌスに、ようこそ! あなた方は、選ばれし勇者さまです! その力で、どんどん敵を殺してくださいね?」
いかにもファンタジーで、貴族のような服装をした少女が、笑顔で言い切った。
長いブロンドヘアーと、エメラルドグリーンの瞳だ。
状況を呑み込めず、呆然とするクラスの連中。
周りを見れば、使い込まれた教室から、ヨーロッパの城のようなホールに。
我に返った担任が、捲し立てる。
「君は、誰だね!? こ、こんなことをして、学校や自治体が――」
ボンッ!
量販店のセール品であろう、くたびれたスーツを着た中年男は、頭が破裂した。
そのまま、ドシャリと倒れ伏す。
受け身をするわけもなく、遠心力によって、ゴンッと痛そうな音。
「キャアアアッ!」
「嘘……」
「おい、何だよ?」
テレビでは、映さない。
紛争地帯でも珍しい、頭の粉砕だ。
「対物ライフルか、搭載するガトリング砲ぐらいの威力……」
銃口を向けておらず、銃弾らしき物体が当たった様子もない。
脅している令嬢が、俺をジッと見た。
全体に視線を戻し、説明を続ける。
「お分かりでしょうか? 私には、これだけの力があります。彼の犠牲をムダにしないためにも、話を聞いて欲しいのですが……」
自分で殺しておいて、よくもヌケヌケと。
けれど、ご令嬢は、俺たちが思考力を取り戻す前に畳みかける。
「あなた方を召喚したのは、やってもらいたい事があるからです。元の世界に戻すにしても、時間がかかります。その間に、ご検討くださいませ! しばらくは、食事などの世話を行いますので。……申し遅れましたが、私はイングリットと申します」
選択肢のようで、選ぶ余地がない。
派手な殺しと併せて、こいつに逆らえば、殺されるか、生活できない。と刷り込んだ……。
洗脳、詐欺によくある手口のオンパレード。
案の定、イリナも不機嫌。
「……時間を与えるとは、余裕があるわね?」
「内輪で話し合うほど、あの女の思い通りになるってことだろ」
元の世界に戻せる。
この切り札がある以上、こいつらは従うしかない。
たぶん――
「まだ、隠し玉があるわ」
「だろうな……」
――数日後
高級ホテルのような生活が続き、クラスの連中はいつものグループで話し合っていたようだ。
俺は友人と呼べる奴がおらず、イリナは他の女子に呼ばれていた。
例のイングリットは、営業スマイル。
「はい、注目ー! そろそろ、皆さんの返事を聞きたいのですが……」
わざと溜めを作った女は、ぐるりと見回した後で、宣言する。
「実は! 皆さんには、秘められたスキルがありまーす!」
ほら、来た。
利用価値がないのに、わざわざ召喚しないし、勘違いもさせない。
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