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決闘の勝敗と、始まるティータイム
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サーベルを構えているシャーリーが、雰囲気を変えた。
明らかに、捨て身。
(死ぬ気か……)
踏み出す直前だった俺は、右手で刀を振るう。
ヒュッという、風切音。
俺の意図をはかりかねたシャーリーは、戸惑う。
対する俺は、ボソリと呟く。
「千尋、水天一黒……」
墨のように黒い色をまとい、その和装から刃まで。
しかし、それは宇宙。
急激に上がった霊圧により、デザイン性があるコロシアムの観客席にまで暴風が巻き起こった。
苦情も交じっている騒ぎを無視しつつ、完全解放をしたままで正面のシャーリーを見据える。
「次の一撃で、終わりにする……」
「避けんと……死ぬぞ?」
刺突に向いている直線的なサーベルを構え直したシャーリーに対し、俺は右手で刀を自分の肩にのせた。
「断ち切れ、千尋……」
足を動かしつつ、釣りのように前方へ投げるフォーム。
その切っ先に合わせて、凝縮した縦線のような黒が空からコロシアムの大地までを区切りつつ、彼女に迫る。
サーベルの刃で受け流そうと――
「シャーリー!!」
若い男の絶叫によって、遅まきながらも半身になる女。
黒い断絶は彼女が前に出していたサーベルの剣身を縦に斬りつつ、コロシアムの結界を切り裂き、はるか遠くまでの地割れを作った。
ガランと、見事な切断面のサーベルが転がりつつ……。
身につけていた誓約のおかげで、中身は無事なようだ。
片側だけボロボロになった軽鎧のまま、肩で息をするシャーリー。
持っていたサーベルを投げ捨て、もう1本を出現させ、構え直す。
(カレナが与えた新品でなかったら、肩のあたりで腕を失ったな?)
シャーリーは、誓約に救われた形だ。
観衆は、言葉もない。
鼓動の音すら聞こえそうな静寂の中で、俺は元の和装へ。
片手で持つ刀を下ろし、離れている審判役の女を見た。
「降参する……。理由は――」
キーンッ!
審判役の女を見たまま、俺は指2本でサーベルの刃をつまんだ状態で話す。
「さっきの一撃で、決着をつけるつもりだった! それで殺せなかった以上、俺の負けだ」
頷いた女は、俺の対戦相手を見る。
「シャーリー卿! 武器を下ろせ!!」
ビクッと震えたシャーリーは、ようやく我に返った。
俺も、サーベルの刃から指を離す。
審判役の女が、宣言する。
「重遠卿の降伏を認めて、シャーリー卿の勝ちとする! 異議がある者は!? なければ、これを円卓の決定とする!」
見学しているのは、ラウンズの騎士や関係者。
歓声を上げる奴ら。
後ずさったシャーリーを見たままで、納刀する。
彼女は悔しそうな表情で、俺を睨む。
「何で……」
「約束は果たした……。お前の自己満足に付き合うほど、暇じゃない! 俺を殺したければ、前に戦ったときが最初で最後のチャンスだった」
私服に戻って、出口へ向かうも、立ち止まる。
振り返り、最後の言葉。
「あの一撃を避けたのは、いい判断だった! お前に惑星と同じ耐久性があれば、話は別だがな? 神格でなければ、まともに戦えん」
これ以上ないほどの警告をしながら、オーバーアクションの振り下ろし。
避けない場合は、もう知らん。
「忘れろ……。人でいられるうちに」
その言葉で脱力したのか、ペタンと女の子座りになったシャーリー。
名試合を見た観客のように、ラウンズの奴らが集まった。
姿が見えなくなった彼女に背を向け、コロシアムの中央から歩き去る。
迎えてくれた女子の中で、室矢カレナに尋ねる。
「あいつらは?」
「マルグリットたちは、祖母のところだ! 結果次第では、ラウンズと総力戦になったからの……」
息を吐いた俺は、靴底で地面をする。
「ああ……。行けるうちに、か」
「こちらは、出国の準備を進めよう! お主はもう用なしだが……。私の立場では、また面倒なことになりかねん」
◇
車を降りた、女子2人。
貸切っているのか、ひとまずの駐車スペースへ移動したのみ。
それを見届けた咲良マルグリットと、未来の娘である中学生の一舞。
「どうするの?」
「さあ、どうしようか?」
生返事をしたマルグリットの視線は、郊外にある戸建ての1つ。
すると、老婆の声。
「キャロル? キャロルなの!?」
女子2人が振り向けば、近所から戻ってきた風のお婆さんがいた。
驚いたようで、抱えていた紙袋をドサッと落とす。
マルグリットの面影がある。
理解したマルグリットは、息を吐く。
「いいえ、キャロルではないわ……。マルグリットよ」
――15分後
老婆の自宅に招かれた女子2人は、テーブルを囲み、ティータイム。
紅茶と菓子を前にしたまま、自己紹介を完了。
「一舞ちゃんは、お母さんがいないのね?」
「う、うん……」
ママと口を滑らせた咲良一舞は、未来の母親となるマルグリットの顔色をうかがうも、彼女は黙って紅茶を飲むだけ。
老婆は、悪戯っぽく言う。
「うちの子供になる?」
「……それは遠慮しておく」
冗談だろうが、一舞は戦々恐々。
老婆は、語り出す。
「私にも、娘がいたの……。そうね……。あの子の娘が成長していたら、ちょうどマルグリットと同じ年齢かしら? 一舞ちゃんとも、それほど変わらないはず」
顔色を変えない本人は、ジッと聞くだけ。
ため息をついた老婆が、遠い目になった。
「娘は中東に滞在していた時に、現地の武装勢力に殺されたのよ……。知り合った日本人の男と結婚して、娘が1人いたわ。一緒に殺されたようだけど」
明らかに、捨て身。
(死ぬ気か……)
踏み出す直前だった俺は、右手で刀を振るう。
ヒュッという、風切音。
俺の意図をはかりかねたシャーリーは、戸惑う。
対する俺は、ボソリと呟く。
「千尋、水天一黒……」
墨のように黒い色をまとい、その和装から刃まで。
しかし、それは宇宙。
急激に上がった霊圧により、デザイン性があるコロシアムの観客席にまで暴風が巻き起こった。
苦情も交じっている騒ぎを無視しつつ、完全解放をしたままで正面のシャーリーを見据える。
「次の一撃で、終わりにする……」
「避けんと……死ぬぞ?」
刺突に向いている直線的なサーベルを構え直したシャーリーに対し、俺は右手で刀を自分の肩にのせた。
「断ち切れ、千尋……」
足を動かしつつ、釣りのように前方へ投げるフォーム。
その切っ先に合わせて、凝縮した縦線のような黒が空からコロシアムの大地までを区切りつつ、彼女に迫る。
サーベルの刃で受け流そうと――
「シャーリー!!」
若い男の絶叫によって、遅まきながらも半身になる女。
黒い断絶は彼女が前に出していたサーベルの剣身を縦に斬りつつ、コロシアムの結界を切り裂き、はるか遠くまでの地割れを作った。
ガランと、見事な切断面のサーベルが転がりつつ……。
身につけていた誓約のおかげで、中身は無事なようだ。
片側だけボロボロになった軽鎧のまま、肩で息をするシャーリー。
持っていたサーベルを投げ捨て、もう1本を出現させ、構え直す。
(カレナが与えた新品でなかったら、肩のあたりで腕を失ったな?)
シャーリーは、誓約に救われた形だ。
観衆は、言葉もない。
鼓動の音すら聞こえそうな静寂の中で、俺は元の和装へ。
片手で持つ刀を下ろし、離れている審判役の女を見た。
「降参する……。理由は――」
キーンッ!
審判役の女を見たまま、俺は指2本でサーベルの刃をつまんだ状態で話す。
「さっきの一撃で、決着をつけるつもりだった! それで殺せなかった以上、俺の負けだ」
頷いた女は、俺の対戦相手を見る。
「シャーリー卿! 武器を下ろせ!!」
ビクッと震えたシャーリーは、ようやく我に返った。
俺も、サーベルの刃から指を離す。
審判役の女が、宣言する。
「重遠卿の降伏を認めて、シャーリー卿の勝ちとする! 異議がある者は!? なければ、これを円卓の決定とする!」
見学しているのは、ラウンズの騎士や関係者。
歓声を上げる奴ら。
後ずさったシャーリーを見たままで、納刀する。
彼女は悔しそうな表情で、俺を睨む。
「何で……」
「約束は果たした……。お前の自己満足に付き合うほど、暇じゃない! 俺を殺したければ、前に戦ったときが最初で最後のチャンスだった」
私服に戻って、出口へ向かうも、立ち止まる。
振り返り、最後の言葉。
「あの一撃を避けたのは、いい判断だった! お前に惑星と同じ耐久性があれば、話は別だがな? 神格でなければ、まともに戦えん」
これ以上ないほどの警告をしながら、オーバーアクションの振り下ろし。
避けない場合は、もう知らん。
「忘れろ……。人でいられるうちに」
その言葉で脱力したのか、ペタンと女の子座りになったシャーリー。
名試合を見た観客のように、ラウンズの奴らが集まった。
姿が見えなくなった彼女に背を向け、コロシアムの中央から歩き去る。
迎えてくれた女子の中で、室矢カレナに尋ねる。
「あいつらは?」
「マルグリットたちは、祖母のところだ! 結果次第では、ラウンズと総力戦になったからの……」
息を吐いた俺は、靴底で地面をする。
「ああ……。行けるうちに、か」
「こちらは、出国の準備を進めよう! お主はもう用なしだが……。私の立場では、また面倒なことになりかねん」
◇
車を降りた、女子2人。
貸切っているのか、ひとまずの駐車スペースへ移動したのみ。
それを見届けた咲良マルグリットと、未来の娘である中学生の一舞。
「どうするの?」
「さあ、どうしようか?」
生返事をしたマルグリットの視線は、郊外にある戸建ての1つ。
すると、老婆の声。
「キャロル? キャロルなの!?」
女子2人が振り向けば、近所から戻ってきた風のお婆さんがいた。
驚いたようで、抱えていた紙袋をドサッと落とす。
マルグリットの面影がある。
理解したマルグリットは、息を吐く。
「いいえ、キャロルではないわ……。マルグリットよ」
――15分後
老婆の自宅に招かれた女子2人は、テーブルを囲み、ティータイム。
紅茶と菓子を前にしたまま、自己紹介を完了。
「一舞ちゃんは、お母さんがいないのね?」
「う、うん……」
ママと口を滑らせた咲良一舞は、未来の母親となるマルグリットの顔色をうかがうも、彼女は黙って紅茶を飲むだけ。
老婆は、悪戯っぽく言う。
「うちの子供になる?」
「……それは遠慮しておく」
冗談だろうが、一舞は戦々恐々。
老婆は、語り出す。
「私にも、娘がいたの……。そうね……。あの子の娘が成長していたら、ちょうどマルグリットと同じ年齢かしら? 一舞ちゃんとも、それほど変わらないはず」
顔色を変えない本人は、ジッと聞くだけ。
ため息をついた老婆が、遠い目になった。
「娘は中東に滞在していた時に、現地の武装勢力に殺されたのよ……。知り合った日本人の男と結婚して、娘が1人いたわ。一緒に殺されたようだけど」
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