上 下
64 / 67

「数年後にユニオンで!」によって感動の再会、死亡フラグと

しおりを挟む
 見間違いだった、という強引な結論で、警官2人には帰還してもらった。

 書類にサインしたのは、レジデンスに常駐している受付だ。
 こんなことで、俺たちのサインは渡せない。

「はあ~っ! 疲れたわ!」

 レジデンスのエントランスホールで応接用のソファに座ったままの咲良さくらマルグリットが、後ろにもたれつつ、息を吐いた。

 いっぽう、同じ側に座っていた悠月ゆづき明夜音あやねは、離れていた受付を呼び、手短に指示を出していく。

「先ほどの警官2名を……いえ、念のために全員の素性を洗ってください! どこと繋がっているのか……。しばらく監視を行い、私たちに接近しないようにしてください」

「承知いたしました、お嬢さま」

 会釈をした女が立ち去り、カウンターのほうで話し始めた。

 座り直した明夜音は、視線で着席をうながす。

 俺と未来の娘である咲良一舞いぶは、彼女たちの向かいに座った。

 明夜音が説明する。

「メグの父方の祖母が、地元の政治家やお抱えの弁護士と押しかけてきました……。とりあえず、その地元へ飛ばしたので」

「入れたのは……。こっちのテリトリーで分からせるため、か?」

 俺の質問に、苦笑した明夜音が肯定する。

「はい! あの政治家は野党で、室矢むろや家に食い込むキッカケが欲しかったのでしょう」

「非公式とはいえ、俺が与党の一部ってのは周知の事実だものな……。メグは、どうしたいんだ?」

 後ろにもたれたまま、ひらひらと片手を振ったマルグリットが、気だるげに答える。

「べーつーにー? 血が繋がっていようが、ギラギラした目つきの連中と来た時点で二度と会いたくない! 私はとっくに成人して、既婚者よ! 初対面で『一緒に暮らせ』とほざく乞食なんて、見たくもない」

 明夜音が、補足する。

「メグの祖父母ですが、『地元の家で暮らすか、嫌ならここに住まわせろ』という主張。ついでに、結婚というか、再婚相手の打診も……」

「偽者ではないんだな?」

「はい、それは事実でしょう……。重遠しげとおの意見は?」

 警戒した明夜音に、俺は首を横に振る。

「メグが嫌なら、それでいい! ただ、ここで突き放すのなら、中途半端はなしだぞ? さっきの祖父母や親族がどうなってもいいよな、メグ?」

 上体を起こしたマルグリットは、少し悩んだあとで、首肯した。

「ええ、そうね……。明夜音? そういうことでお願い」
「分かりました」

 結論が出たことで、全員が息を吐いた。

 けれど、マルグリットが驚く。

「ところで、その子は? また引っかけてきたの!? 詩央里しおりが怒るわよ?」

「お前の未来の娘だ」

 口を半開きにしたマルグリットが、一舞を見た。
 
 一舞も、彼女を見る。

「か、可愛いいいいいっ!」
「ママも、可愛いいいっ!」

 立ち上がった2人は、ローテーブル越しに手を取り合った。

 急に騒ぎ出す。

(あー、確かに母娘だな……)

 納得していたら、いつの間にか離れていた明夜音が戻ってきた。

「重遠? ユニオン大使館から、『円卓ラウンズのシャーリーきょうから重遠卿へ決闘を申し込みたい。数年前の約束を果たすように』とありましたが」

 来たか……。

 ついに……。

「準備ができ次第、その決闘に応じる。と返事をしてくれ……。ただし、殺し合いになるため、在日の大使館に立ち寄らず、ユニオンへ直接向かうとな? プライベートジェットの用意をしておけ」

 息を呑んだ明夜音は、かしこまりました、とだけ答えた。

 離れた受付へ向かう彼女を見送りつつ、呼びかける。

「カレナ?」

 いつの間にか現れていた少女が、すぐに答える。

「分かっておる……。マルグリット! お主、ユニオンにも母方の祖母がいるぞ? ついでに会っておくか?」

「えっ!? そうね……。考えてみれば、あっちにもいるか……」

 先ほどより悩んだマルグリットは、先送りする。

「んー? とりあえず、私も同行するわ! 決めるのは、後でいい」
「私も、私もー!」


 ◇


 ポーン♪

『空港へ着陸するので、立っている方は最寄りのシートへお願いします』

 キィイイインという音が響く中で、小さな窓からの視界が変わっていく。

 雲の下へ。

 長い滑走路が近づいてくる。

 下に触れた感触と、高速走行をしている状態。

 やがて、プライベートジェットは完全に停止した。

 ゆっくりと向きを変えて、滑走路を空ける。


 側面のドアから空港へ続く通路を進めば――

 頭にティアラをのせた、カジュアルな正装の女子が待っていた。

 立ち止まった俺たちに、スカートの両端をつまんでのカーテシー。

「私は、アドラステア・リーディ・シェラフィール……。ユニオン王族の末席にいる者で、ラウンズの正騎士の1人です! あなた方の案内を任されました」

 スッと姿勢を戻したアドラステアは、王女らしくない、年齢相応の笑みを浮かべた。

「久しぶりですね、重遠?」

「アドも、元気そうだな?」

 えへへと恥ずかしそうにしたアドラステアは、さらっと告げる。

「私、もう縁談がないんですよ……。重遠が、もらってくれませんか?」

 無言で後ろを向いた俺の肩に、南乃みなみの詩央里しおりの手が置かれた。

「逃げないでくださいね、若さま?」

 観念して、アドラステア王女と数年ぶりに向き合う。

 彼女は、仕切り直す。

「では、もう一度……。ようこそ、Lancelotランスロット duデュ Lacラック(湖のランスロット)! 私たちは剣聖レノックスを倒した重遠と戦い、その称号を取り戻さなければなりません」

 アドラステアは、笑顔のままで続ける。

「ユニオンに……。ラウンズの本拠地へ招く以上、あなた方には相応の覚悟をしてもらいます。発言には、注意なさってください」

 すくすくと育った死亡フラグは、ユニオンにいたようだ。

 あるいは、複利で膨れ上がった借金と言うべきか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~

初雪空
ファンタジー
氷室駿矢は、いよいよ高校生になった。 許嫁の天賀原香奈葉、幼馴染の西園寺睦実とのラブコメ。 と言いたいが! この世界の日本は、刀を使う能力者による荒神退治が日常。 トップスピードでは弾丸を上回り、各々が契約した刀でぶった切るのが一番早いのだ。 東京の名門高校に入学するも、各地の伝承の謎を解き明かしつつ、同じ防人とも戦っていくことに……。 各地に残る伝承や、それにともなう荒神たち。 さらに、同じ防人との戦いで、駿矢に休む暇なし!? この物語はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ないことをご承知おきください。 また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※ 小説家になろう、ハーメルン、カクヨムにも連載中

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...