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お前たちは、本物の引き篭もりを知らない!(前編)
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警視庁で、“選挙対策室” と、お馴染みの黒字で書かれた紙が貼られたドア。
「ここが、専属の班がいる部屋です!」
「ありがとうございます」
バッと、お辞儀したスーツ男。
「失礼します!」
彼は、キビキビと歩き去った。
ノックをすれば、競歩のような感じで近づいてくる人物。
「あっ! お、お疲れ様です! 弁当を取りに行っていて……」
見えてきた顔で、若い女だと分かった。
電話で聞いた声と同じ。
見れば、両手で平たい箱を上に重ねたままの運搬。
「手伝ってあげろ」
「うん」
「分かりました」
天ヶ瀬麗と『まりん』の2人が、分担して持つ。
「お手を煩わせて、申し訳ありません! すぐに開けますので!」
手が空いた女は、鍵を差し込み、解錠した。
ドアを開けながら、どうぞ、と控える。
「失礼します」
「お、お邪魔します……」
「失礼いたします」
小さな会議室で、複数のモニターがある長机や、資料のボックスが並べられている長机……。
ホワイトボードには、黒いマジックでの書き込みや付箋。
バタンと閉じた女は、自分のスマホを確認する。
「班長たちは、こちらへ向かっているようです! たぶん、上に報告していると……。お弁当は、もう食べますか?」
「すぐでしたら、待ちます」
――10分後
淹れてもらったコーヒーを飲みつつ、責任者らしき班長とその部下に対面した。
どちらも、男。
3人とも、スーツ姿だ。
「レジデンスでお会いした野見山です! わざわざ、すみません」
「いえ。急に押しかけて、こちらこそ」
待っている間に、弁当を運んできた若い女がそのレジデンスにやってきた1人である登根だと分かった。
新顔の若い男は、会釈したぐらいで無言だ。
全員に弁当が配られ、飲み物の紙コップも。
時間がなく、食べながらの話し合いだ。
呑み込んでいるようなスピードで、年輩に見える男、野見山が食べていく。
「このチームは警視総監の肝いりなんで、役員弁当を許されましたよ! いつもこれなら、いいんですけどね? ハハハ」
冗談を言いながら、俺の顔を見た。
頷いて、捜査結果を報告する。
「自宅のタワマンで見かけた仲四氏真琴は、『これから自分の選挙区へ行く』と言っていました。そこはパーティー用の大部屋で、いわゆるクラブハウスみたいにDJが音楽を流し、支援者らしき群衆が踊っていました」
デジタル機器で撮影した写真や動画を見せたら、食い入るように覗き込む面々。
「コピーして、構いません」
俺の言葉に、すぐ反応があった。
「助かります! 登根?」
「はい! お借りします!」
バタバタと動いた女が、俺のデバイスを移動させて、ケーブルに繋いだ。
いっぽう、野見山が説明する。
「こちらは、『仲四氏の自宅で本人を見た』と上に報告しました。別で監視している班がいるから、そちらへ情報共有です。……やつは、中国地方へ行っちゃいますか」
もう食べ終わった野見山は、コーヒーを飲んだ。
「そっちで立候補を?」
「ええ! 現住所に関係なく出馬できるそうで……。私も、初めて知りました」
全員が、俺を見ている。
「やつは、生まれ育った地元で代議士になる気ですよね? 現地へ行くしかないです。選挙中に家宅捜査は、無理でしょう? 本人がいないし」
ため息をついた野見山は、腕組みしたあとで、首肯する。
「その通りです! 警視総監の特命だし、うちのヘリですぐに――」
「目立ちすぎます。あちらの県警が知れば、上のやり取りなしで縄張りを荒らされるのを嫌がるでしょう。それでなくても、選挙で神経質になっている人たちが騒ぎます」
こちらを見た野見山が、提案する。
「では、高速道路を走るか、そちらへの電車に乗りますか? ウチの車を出すか、チケットを取ります!」
「お気持ちは嬉しいですが、俺たち3人で調べます。移動手段はありますから」
俺の返事にうなずいた野見山は、質問する。
「室矢さんは、どうするつもりですか? 仲四氏に出馬を辞退させることが最良ですけど、もう時間との勝負です! 期限前の投票日になったら、やつに手を出せません」
抹殺してくれないか? という打診だな。
まあ、そこまでは思っていないかもしれんが……。
「野見山さん? 引き篭もりを知っていますか?」
虚を突かれたらしく、ポカンとした表情の彼。
すぐに、返事をする。
「ええ……。単語としては……。急に、どうしたんですか?」
いきなり話がそれたことで、若干イライラした様子。
俺は、構わずに告げる。
「仲四氏の経歴は、不登校のまま、公立中学を卒業させられたはず……。そうですよね?」
犯人のプロファイリングと分かり、野見山の表情が変わった。
「ああ、そういうことですか……。登根!」
「……はい!」
若い女が、慌ててボックス、リングファイルを崩し始めた。
じきに、開いたままで長机に置く。
仲四氏真琴の個人情報だ。
俺は、視線を上げた。
「今から数時間後に、俺たち3人で仲四氏がいる地元へ出発します。睡眠をとりながら移動して、翌朝から捜査を始める予定です。それまで、ブレーンストーミングをしませんか?」
「いいですね! ここで、次の一手を読み切るってわけですか……」
野見山が応じたことで、モブに徹していた若い男は椅子を持ってきて、近くで座り直した。
お題は……引き篭もりについて。
「ここが、専属の班がいる部屋です!」
「ありがとうございます」
バッと、お辞儀したスーツ男。
「失礼します!」
彼は、キビキビと歩き去った。
ノックをすれば、競歩のような感じで近づいてくる人物。
「あっ! お、お疲れ様です! 弁当を取りに行っていて……」
見えてきた顔で、若い女だと分かった。
電話で聞いた声と同じ。
見れば、両手で平たい箱を上に重ねたままの運搬。
「手伝ってあげろ」
「うん」
「分かりました」
天ヶ瀬麗と『まりん』の2人が、分担して持つ。
「お手を煩わせて、申し訳ありません! すぐに開けますので!」
手が空いた女は、鍵を差し込み、解錠した。
ドアを開けながら、どうぞ、と控える。
「失礼します」
「お、お邪魔します……」
「失礼いたします」
小さな会議室で、複数のモニターがある長机や、資料のボックスが並べられている長机……。
ホワイトボードには、黒いマジックでの書き込みや付箋。
バタンと閉じた女は、自分のスマホを確認する。
「班長たちは、こちらへ向かっているようです! たぶん、上に報告していると……。お弁当は、もう食べますか?」
「すぐでしたら、待ちます」
――10分後
淹れてもらったコーヒーを飲みつつ、責任者らしき班長とその部下に対面した。
どちらも、男。
3人とも、スーツ姿だ。
「レジデンスでお会いした野見山です! わざわざ、すみません」
「いえ。急に押しかけて、こちらこそ」
待っている間に、弁当を運んできた若い女がそのレジデンスにやってきた1人である登根だと分かった。
新顔の若い男は、会釈したぐらいで無言だ。
全員に弁当が配られ、飲み物の紙コップも。
時間がなく、食べながらの話し合いだ。
呑み込んでいるようなスピードで、年輩に見える男、野見山が食べていく。
「このチームは警視総監の肝いりなんで、役員弁当を許されましたよ! いつもこれなら、いいんですけどね? ハハハ」
冗談を言いながら、俺の顔を見た。
頷いて、捜査結果を報告する。
「自宅のタワマンで見かけた仲四氏真琴は、『これから自分の選挙区へ行く』と言っていました。そこはパーティー用の大部屋で、いわゆるクラブハウスみたいにDJが音楽を流し、支援者らしき群衆が踊っていました」
デジタル機器で撮影した写真や動画を見せたら、食い入るように覗き込む面々。
「コピーして、構いません」
俺の言葉に、すぐ反応があった。
「助かります! 登根?」
「はい! お借りします!」
バタバタと動いた女が、俺のデバイスを移動させて、ケーブルに繋いだ。
いっぽう、野見山が説明する。
「こちらは、『仲四氏の自宅で本人を見た』と上に報告しました。別で監視している班がいるから、そちらへ情報共有です。……やつは、中国地方へ行っちゃいますか」
もう食べ終わった野見山は、コーヒーを飲んだ。
「そっちで立候補を?」
「ええ! 現住所に関係なく出馬できるそうで……。私も、初めて知りました」
全員が、俺を見ている。
「やつは、生まれ育った地元で代議士になる気ですよね? 現地へ行くしかないです。選挙中に家宅捜査は、無理でしょう? 本人がいないし」
ため息をついた野見山は、腕組みしたあとで、首肯する。
「その通りです! 警視総監の特命だし、うちのヘリですぐに――」
「目立ちすぎます。あちらの県警が知れば、上のやり取りなしで縄張りを荒らされるのを嫌がるでしょう。それでなくても、選挙で神経質になっている人たちが騒ぎます」
こちらを見た野見山が、提案する。
「では、高速道路を走るか、そちらへの電車に乗りますか? ウチの車を出すか、チケットを取ります!」
「お気持ちは嬉しいですが、俺たち3人で調べます。移動手段はありますから」
俺の返事にうなずいた野見山は、質問する。
「室矢さんは、どうするつもりですか? 仲四氏に出馬を辞退させることが最良ですけど、もう時間との勝負です! 期限前の投票日になったら、やつに手を出せません」
抹殺してくれないか? という打診だな。
まあ、そこまでは思っていないかもしれんが……。
「野見山さん? 引き篭もりを知っていますか?」
虚を突かれたらしく、ポカンとした表情の彼。
すぐに、返事をする。
「ええ……。単語としては……。急に、どうしたんですか?」
いきなり話がそれたことで、若干イライラした様子。
俺は、構わずに告げる。
「仲四氏の経歴は、不登校のまま、公立中学を卒業させられたはず……。そうですよね?」
犯人のプロファイリングと分かり、野見山の表情が変わった。
「ああ、そういうことですか……。登根!」
「……はい!」
若い女が、慌ててボックス、リングファイルを崩し始めた。
じきに、開いたままで長机に置く。
仲四氏真琴の個人情報だ。
俺は、視線を上げた。
「今から数時間後に、俺たち3人で仲四氏がいる地元へ出発します。睡眠をとりながら移動して、翌朝から捜査を始める予定です。それまで、ブレーンストーミングをしませんか?」
「いいですね! ここで、次の一手を読み切るってわけですか……」
野見山が応じたことで、モブに徹していた若い男は椅子を持ってきて、近くで座り直した。
お題は……引き篭もりについて。
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