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(未来の母親)推しの娘

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 落ち着いたBGMが流れるカフェで、周りは平日の昼らしく、主婦らしきグループ。
 あるいは、俺たちのような大学生。

 空いている椅子に腰を下ろしつつ、女子3人からの視線を感じた。

 近づいてきた店員に注文した後で、この状況にした首謀者に尋ねる。

「カレナ?」

「お主が緊急の仕事を受けたことは、知っておる……。この2人も連れていけ」
「……遊びじゃないんだぞ?」

 俺の発言に、ボックス席は緊張した空気に。

 ちょうど、店員が俺の注文を運んできた。

「お待たせしました、ご注文のブレンドコーヒーとチーズケーキです」
「俺です」

 やっぱり、女子3人に見られつつ、チーズケーキを一口からのコーヒー。

 カップを置いて、室矢むろやカレナを見る――

 ブルルル

 スマホを見れば、“佐伯さえき緋奈ひな” の文字。

 指で触り、耳に当てた。

「何だ?」
『ヤッホー! うちで自動運転の試作機を作ったんだけど。乗ってみない?』

 息を吐いた後で、質問する。

「暴走しないだろうな?」
『……カペラに制御させれば、ね?』

 つまり、AIや管理は未完成と。

「性能は?」
『VIP用で、かなりの防弾仕様! 見た目は普通の車だし、今回の捜査に向いているんじゃない? 私は忙しいから、パスするけど』

「分かった、分かった! ありがとう……。で、その車は――」
 プップー♪

 高級カフェの外で、車のクラクションが鳴った。

 店内にいた全員が、ガラス張りの一面を通して、そちらを見る。

 路肩に停まった、黒い高級車……。

「今、確認した」
『じゃ、よろしくー!』

 電話が切れる音。

 スマホを置いて、宣言する。

「すぐに行けるか?」
「心配ない! お主を含めて、3人分の装備を持ってきた」

 割り込んだカレナを見れば、私も忙しいのじゃ! とうそぶいた。

 直後に、テーブルの上に3つのデイパックを置く。

 自分の分を引き寄せて、下におろし、周りから覗かれないようにジッパーを動かした。

(拳銃とそのホルスター、マガジンと弾丸……。警察手帳か)

 天ヶ瀬あまがせうららと、未来の娘らしき女子も、こっそりと中身を確認している。

「スマホ……ですか」

 カリスマ女子は、手にした平たいデバイスを見ながら、ポツリと呟いた。

 そして、俺のほうを見てくる。

「わたくしは、『まりん』と申します」

室矢むろやだ……。お前は――」
「麗? ここは、どこにある?」

 片手で、何かを見せているようだ。

「うん、こっちだよ?」

 カレナのご指名で、俺たちを気にしつつ、麗が立ち上がった。
 自分のデイパックを持ちつつ……。

「お主らは、少し待っておれ」

 女子2人がトイレへ歩いていった後で、まりんが話し出す。

「わたくしは、先ほどの天ヶ瀬麗の娘……。未来から、やってきました」

 周りに聞かれても、演劇の練習にしか見えないだろう。

 割り切った俺は、まりんの顔を見る。

「最近は、過去に来るのがブームらしいな? お前の目的は?」

 パンと両手を合わせた彼女が、笑みを浮かべる。

「もちろん、お母様とイチャイチャさせるためですわ!」

 マズい。

 こいつ、恋愛脳だわ……。

 冷や汗をかいていたら、天ヶ瀬まりんは凄みのある笑顔に。

「その立場上、お母様とだけ会うことや、わたくしを特別扱いできないのは分かります。しかし、わたくしには両親が仲良くしていた思い出もありません」

 視線をそらした『まりん』は、すぐに戻す。

「なので、これから3人でデートをしていただきたく――」
「俺は、今から捜査だ! 手弁当になるが、24時間待機のチームもいる」

 けれど、まりんも退かない。

「わたくしにも、時間がありませんわ! 一緒に捜査する……。このラインは譲れません」

 コーヒーを飲んだ俺は、観念した。

「言い合いをしている暇はない。邪魔はするなよ?」
「終わりましたら、ご褒美にお母様とイチャイチャしてくださいませ」

「ハイハイ……」

「前祝いで、さっそくホテルでお母様と――」
「今は公務中と言っただろうが! パトカーで制服を着たままの行為と変わらんぞ」

 まったく、誰と似たのか……。

 呆れた俺が、チーズケーキを平らげたら、女子2人が帰ってきた。

 カレナは、静かに告げる。

「お主に似たのだろう……」
「うるさい」

 言いながら、俺は自分のデイパックを持ちつつ、立ち上がった。

 ほぼ同時に、まりんも。

「俺も、済ませてくる」
「わたくしも」

 男性用のトイレに入り、個室まで確認した後に、手早くズボンの中に専用ホルスターをつっこみ、ベルトで固定。

 拳銃は――

「防衛軍が正式採用のセミオートマチックか……。いい趣味してる」

 オプティック・レディで、上にドットサイト。
 下には、フラッシュライト。

 黒のポリマーコートで、とても握りやすいグリップだ。

 マガジンを確認して、予備マガジンも身につける。

 グリップを握ったままで、上のスライドを引けば、シャコッという音で戻った。

 指がトリガーに触れないよう、注意しつつ、ホルスターに突っ込む。

「今じゃ、オプティックなしは考えられないってか……。USの法執行機関はセットの貸与だし、日本も時間の問題かね?」

 ボソッと独白したあとで、他人のような警察官の制服を着た写真と、その下にある警察バッジの手帳を閉じた。

 席に戻れば、まりんの姿も。

「デイパックを引き取ってくれ……。お前らは、行くぞ?」

 清算した後で、歩道へ。

 デイパックをどこかへ仕舞ったカレナは、普通に歩き去った。

 俺たちは、路駐をしている黒い高級車へ近づく。

 いよいよ、捜査開始だ。
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