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国民に気前のいい政治家!?

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 俺の義理の父親にあたる桔梗ききょう巌夫いわおが、俺を見た。

室矢むろやくん? もう1人、紹介しておきたい……。お願いします」

 いかにも堅苦しい雰囲気のスーツ男は、畳の上で座ったまま、会釈した。

「警視庁から来た、緒方おがたです……。室矢さんには常日頃、お世話になっております」

 会釈しつつ、返答する。

「室矢です……。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 話の流れから、この男が本題らしい。

(元首相の巌夫さんと、中央でも上にいる財務省のトップと対等か……)

 だとしたら、警視庁でのポジションは、自ずと知れる。

 相手の反応をうかがっていると、その雰囲気を察した緒方が話し出す。

「ご存じだと思いますが、今は衆議院選挙で都心は騒がしくなっています」
「はい」

 相槌を打ったら、緒方はためらったあとで口を開いた。

「実は……。現在、我々の管轄でテロが頻発しているのです」

 驚いた俺が、まじまじと見つめる。

 その視線を受け止めつつ、緒方は畳の上に置いていたビジネスバッグを手にとった。

「全て小規模で、幸いにも大きな被害が出ておらず、カバーストーリーで誤魔化しています……。これをご覧ください」

 デジタル全盛期の時代に、紙の書類だ。

「拝見します」

 ローテーブルをはさんで受け取り、眺める。

(……思っていたより、多いな?)

 東京のマップに、赤のマジックらしき印が点在している。

 横から覗き込んできた小田切おだぎりは、感想を述べる。

「規則性は……なさそうだな?」

「はい、ご明察の通りです! 我々のプロファイリングと分析でも、今のところは……」

 俺は、別紙に箇条書きとなっている事件を眺めた。

 目的不明のハッキング、多数。
 それに伴う、不法侵入や器物破損、脅迫……。

 反社会的勢力による犯罪行為、その資金源となっている疑いあり。

 実行犯は――

 年齢と性別に関係ない、引き篭もり。
 それに、主婦、学生、社会人、宗教法人、公務員……。

 傷害事件であっても、殺人はない。

 顔を上げた俺は、率直に言う。

「申し訳ありませんが、これらを摘発するか、検挙のお膳立てをしろというのは遠慮させてください」

 正直、付き合いきれない。

 俺の表情を見た緒方は、慌てて言う。

「いえ! これらは、すでに把握済み! 室矢さんに頼みたいのは、これらを指示したと思われる人物の特定、できれば身柄の拘束です! 無力化でも、当方は構いません。最後の1枚をご覧になっていただければ、お分かりいただけるかと」

 催促されて、それを見た。

 警察のデータベースによる、個人情報だ。
 捜査した情報も、書き込まれている。

 隣に座った小田切も、興味深げに覗き込む。

「男性の仲四氏なかよし真琴まこと……。現在は、40歳ぐらい。不登校のままで、公立中学を強制卒業。ネットの匿名掲示板やSNSアプリで乱暴な言動を繰り返しており、本名のままで活動……。職歴なし、賞罰なし……。何だ、こりゃ!? にしても、どっかで聞いた名前だなあ?」

 首をひねった小田切に、巌夫さんが説明する。

「今の選挙に立候補していますよ?」
「ああっ! それでか!?」

 俺は、緒方に尋ねる。

「仲四氏が見つからない?」
「ええ! ネット……正確にはスマホで指示していると思われるのが、この仲四氏でして」

 緒方の説明によれば――

 アプリなどで指示しているが、いずれかの場所まで。

 そこへ行くと、オンラインの端末や紙による作業指示と、封筒に入った現金などがある。

 中身は……平均10万円?

 場合によっては、50万円、100万円。

 実行させることに対して、破格すぎる。

「要するに、スパイごっこですな! アナログと組み合わせていることで、点と点が繋がらんのです」

 ここで、巌夫さんが捕捉する。

「警察官の一部も、見つけた現金を自分のモノにしたらしくてな……。現場へ睨みを利かせるので、手一杯だそうだ」
「あー! たまに聞くよな、そういうの?」

 小田切が茶々を入れたが、他は反応せず。

 俺は、緒方を見た。

 首肯した彼が、話し出す。

「選挙の間は、治安維持がやっとでして……。ですが、やつが代議士になることは看過できません!」

 そりゃ、そうだ。
 自分たちをコケにしたうえ、身内に犯罪者まで出した相手となれば……。

 そう思いつつ、核心を突く。

「仲四氏が当選する可能性は、あるんですか?」

 ため息をついた巌夫さんが、首を縦に振った。

「そこだよ、室矢くん! 個人へのバラ撒きで、人気が高まっている! アバターとかいうCGで主張しており、若者を中心とした浮動票をまとめられたらマズい。支援している政党はないものの、老若男女問わずに支持者がいるようだ」

「ついに、政治家もVtuberになりやがったか……」

 ツッコミ役になった、小田切。

 いっぽう、俺は返事をする。

「桔梗さんの依頼でもありますし、仲四氏に対処します」

 見るからに喜んだ緒方は、声を上げる。

「おおっ! では――」
「この捜査の間だけで良いから、以下の条件をご承諾ください」

 室矢家が、警部としての警察手帳、実弾の銃火器を行使する。

 警視庁に、24時間対応のサポートチームを置く。

 室矢家の責任は一切問わず、表に名前を出さない。

「分かりました! ただちに、サポートチームを編成しますので!」

 畳の上で土下座しながらの、よろしくお願いいたします、という言葉で、緒方は退席した。

 摺り足の気配が遠ざかった後で、日本酒を飲んだ小田切が笑い出す。

「クククッ! 警部に頭を下げる総監は、初めて見たわ!!」

 やっぱり、その立場だよねえ……。

 そう思いつつ、俺も目の前にある酒を飲む。

 また、面倒になりそうだ。
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