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俺がやっていることは剣道じゃない

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 俺は、正面に立つ早崎はやさきを見た。

 高校生らしい雰囲気だが、強者だけが持つオーラ。

 横にいる審判も待っていることで、返事をする。

「俺は、初段もない……。高校まで忙しかったし、剣道ではないんでね?」

 鼻で笑った早崎は、表向きの敬意を払う。

「そうですか……。じゃあ――」
「1つだけ、覚えておいてくれ! 俺に剣道を侮辱する気はなく、お前に恨みがあるわけではない」

 命乞いと判断したのか、早崎は困惑した表情に。

「こっちも退けないんで……。早めに降参したほうがいいですよ?」

 男の審判が、割り込む。

「そろそろ、試合を始めます! 両者、礼! ……お互いに位置へ!」

 柔道と兼用のカラー部分に、両足を合わせた。

 表面加工された畳の上で、竹刀を構えたまま、向き合う。

「はじめっ!」

 お互いに異能者だ。

 まずは、相手の動きを見て――

 パアンッ!

 すり足で下がっていた早崎は、一瞬で距離を詰めた俺の振り下ろしで、頭を打たれた。

 俺はそのまま抜けて、相手のほうへ切っ先を向けたまま。

 間抜けな声を出す、早崎。

「……あれ?」

 乾いた音のわりに、ダメージがない。
 そう打った。

 けれど、いきなり1本をとられたことで、動揺する早崎。

 精神的に、これはキツい……。

 俺が発声しなかったことで、審判は有効打にせず。

(今回は本気だ! 未来予知だけじゃなく、時間停止、遡行、何でもアリ)

 実際にやってみると、あまりに虚しい。

 それでも……。

(ここで釘を刺さないと、桜技おうぎ流の取り込みを巡って日本全国の警察を片っ端から倒すか、本庁を建物ごと消すことになる)

 攻めに転じた早崎をさばきつつ、考える。

 もはや、相手を見なくても最小限の動きで済むのだ。

(そろそろ、終わりにしよう……)

 今度は、教本に載せられそうな有効打突で、小手と面。
 自分が負けたことを悟った早崎は、顔を歪める。

 この時点で、格付けが終わった。

(……1本の判定がない!?)

 誰が見ても完璧だったのに、審判はそしらぬ顔。

 どうやら、こいつも警察びいきのようだ。

 妙に、観覧席のそちらを気にしている。

咲莉菜さりなのやつ……。覚えていろよ?)

 これを仕組んだ天沢あまさわ咲莉菜は、警察に内通している教師の一掃もやるようだ。

 その落とし前は、後でつけるとして……。

(俺が可哀想に思い、引き分けにすることに賭けているのか?)

 竹刀を構えつつ、審判役のクソ野郎について考える。

 そこまでの余裕はないか!
 まさか、一方的に負けるとは予想もしていない。

 俺の異能と覚悟を甘く見すぎだ。

 考えつつも、早崎にどんどん打ち込んでいく。

(お前はもう、竹刀を握れないな……。恨むなら、審判のカスと……。咲莉菜を恨め)


 ――30分後

 汗だくの早崎が、竹刀を落としたまま、座り込んでいる。

 怪我はない。
 もはや、本人の全てが砕かれたのだ。

 奴が泣く声が、響くばかり。

 何も言わなかった審判に、非難する視線が集まった。

 たじろいだ奴は、俺を指さす。

「こ、高校生に、これだけ痛めつけるのは大人げない――」
小地裏こじうら先生? あなたが担当していた費目で計算が合わない件、ご説明いただけますかー?』

 咲莉菜の声だ。

『今の不自然すぎる判定も、教師の資質を疑います……。県警本部長?』
『……何かね?』

 警察が固まっている場所で、1人が受け取ったマイクで答えた。

『当校の小地裏について、横領の容疑で告訴します! こちらでも一通りの情報を集めているから、今すぐ逮捕してもらって構いません』

 俺を含め、四大流派の代表がいる場だ。
 具体的には、室矢むろや家のハーレムメンバー。

 どいつも、面倒なところの名家か実力者だからな?

 握り潰すことはできず。

 息を吐いた本部長が、確認する。

『小地裏くん、と言ったね? 天沢くんは告訴すると主張したが、君はどうするね? まだ書類は受理しておらず、弁護士を呼ぶなりしてもいいが』

「いえ、俺は……。その……」

 煮え切らないことで、注目を集めたままの本部長が決断する。

『最寄りの警官は、小地裏くんを任意でお連れするように!』

 静まり返った場で、もはや犯罪者と変わらない男は、2人の警官に連行される。

 いっぽう、咲莉菜は、さらし者になっていた早崎も退避させた。

『残念な話です! 小地裏による金の流れは、とある場所に集中していたようで……。警察の捜査での原因究明を期待しております』

 ニコニコしている彼女に、流れで本部長が応じる。

『最善を尽くそう……。別件があるので、そろそろ失礼する!』


 後日、咲莉菜から、小地裏の着服した金が地元の県警に流れていることを知った。

 犯人に捜査させたわけだ。

 当然ながら、迷宮入りであるものの――

「ウチから警察の影響力を消せば、それでいいのでー!」

 小地裏の逮捕をキッカケに、警察とつながっている教師を排除。
 そちら側の生徒も、次々に転校していく。

 退魔師の互助会で幅を利かせている家の生徒は、折り合いをつけるか、問題を起こした際に処罰。

 警察と密接な関係がある剣道と柔道については、私立の強みを活かし、必修から外した。
 そちらの部活も廃止。

 全国規模の予算を巡っての謀略だ。
 教師が年100万の単位でポッケナイナイしたなんぞ、可愛い話。
 県警に熨斗のしつけて、くれてやる。

 それで、将来の桜技流を守れるのなら……。

 全てを聞いた俺は、思わず言う。

「すっかり、悪い女になってまあ……」
「わたくしを手籠めにした、そなたに似たのでしょうー!」

 最初に会ったときの咲莉菜は、もうちょっと可愛げがあったはず。

 いつの間に、泳がせてから検挙する手口になったのやら……。
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