上 下
50 / 67

桜技流の男子校

しおりを挟む
 撃たれまくった怪我は、室矢むろやカレナが治してくれた。
 死ぬまで、秒読みだったからな?

 正確には、最初に撃たれる直前までの巻き戻しだが。

(チートを嫌がるあいつが、マイルールを破るとは……)

 そして、前世の俺がいた世界から、いつの間にか帰還!

 カレナが問題ないと言っていたから、この話はそれで終わり。
 世話になったとはいえ、メガネ男子の西永にしなが和一かずいちはどうでもいいし。

 中学生になった二条にじょうすみれが、遊びに来ている。

 九段のリスブロン中等部に通っていて、セーラー服だ。
 良き良き。

重遠しげとおさん! お命に関わったと聞いて……。これ、お土産です」

 お歳暮で送りそうな箱は、南乃みなみの詩央里しおりが受け取った。
 名店の和菓子だ。

「わざわざ、ありがとう……。とりあえず、座ってください」

 俺は、心配そうに見ている菫のほうを見る。

「心配をかけたな? まあ、かすり傷だ」

 実際には三発以上をもらったが、ここで言う必要はない。

 ホッとした菫は、詩央里が用意した日本茶を飲み始める。

「……ご無事で、本当に良かったです」

 しみじみと告げた菫を見た。

 やっぱり、未来に帰った娘の二条さえとよく似ている。

 いや、似ていないとおかしいのだが。

 そう思いつつ、何気なく言う。

「ところで、菫の娘はいつ――」
「ブホッ!」

 正面から、菫の日本茶が飛んできた。

 慌てた彼女が、ワタワタする。

「えっ? えっ? い、いきなりですか!? それは嬉しいのですが、し、詩央里しおりさんに確認しないと! 年齢的にも、私が一番あとでは?」

 まくし立てる菫に、呆れた南乃みなみの詩央里が声をかける。

「若さま……。菫ちゃんを混乱させないでくださいよ? まさか、本気で?」
「いや、気になっただけ! 順番とタイミングは、お前に任せる」

 息を吐いた詩央里は、そろそろ時期を発表するので、うかつに言わないでください。と付け加えた。

 俺をふいた菫が、自分の席に戻った。

「も、申し訳ございません……」
「馬鹿さまが原因だから、お気遣いなく」

 詩央里、勝手に答えないでくれ……。

 そう思いつつ、話題を変える。

「ところで、近衛師団はどうだ?」

 真面目な話題になったことで、雰囲気が変わった。

 首をひねった菫は、やがて答える。

「えっと……。すみません! 最近は、ぜんぜん会っていなくて……」

 どうやら、スクールライフが主体のようだ。

 聞けば、護衛の女性兵士は常にいるが、師団の話はしないとか。

 俺のほうは、言うまでもない。

篠塚しのづかさんとは、数年前に話したきりだ……。菫に苦労をかけていることを気にしていたから、あえて話さないのでは? そもそも、陸上防衛軍の中での派閥争いやらは、女子中学生に聞かせる話じゃない」

 うつむいた菫は、力なく言う。

「ええ……。そうだ! 近衛師団に伝えておきたいことは、ありますか?」

 どうやら、話題を間違えた。

 後悔しつつも、考える。

「うーん? そういえば、桜技おうぎ流がいよいよ男子校を開設したって! あっちは女だらけで、今なら近衛師団とも接点ができるんじゃない?」

 ぴょんと頭を上げた菫は、驚いた顔。

「は、早いですね? 学校を作るって、そんな簡単に……」
「筆頭巫女の咲莉菜さりなが、わりと強引に動いたらしい。文科省などに金を積んで、とりあえず形だけ整えた」

 ここで、詩央里が口をはさむ。

「ああ……。若さまと自分がいるうちに、実績を作っておきたいんですね?」
「たぶんな」

 桜技流の系列というだけで、ほぼ普通の男子校らしい。

 校舎として使える場所を確保して、通信制だが全日制の授業。
 これを女子校と同じ数だけ。

「日本全国だし、突貫工事にも程がある!」

 菫と詩央里が、それぞれに感想を述べる。

「廃校になったところは多いでしょうけど、女子校と離れるでしょうし」
「新しく始めたうえ、帰属意識を持たせて……。考えただけで、頭が痛くなりますね?」

 ピリリリ♪

 俺がスマホを見れば、天沢あまさわ咲莉菜さりなの表示。

 挨拶を交わしてから、スピーカーモードで置いた。

『天沢です……。会話中にお邪魔するのも悪いのでー! 電話をしました』

 超空間のネットワークを使えば、問答無用で割り込めるからな。

 そう思った俺は、平べったいスマホを見る。

「用があるのか?」

『実は、うちの男子校で問題がおきまして……』

「俺が必要?」

『はいー! ちょうど、女子校への訪問もして欲しかったので』
「面倒なことは、先に言ってくれ」

 息を吐いた咲莉菜が、別れを告げる。

『分かったのでー! では、失礼します』

 ブツッと、電話が切れた。

 超空間のネットワークで、テレパシーによる通話へ。

『男子校に、警察の関係者が浸透しています』

「だろうねえ……」

 警察と縁を切った桜技流。
 再び支配下に置き、若い女と予算をチューチューするために手っ取り早い。

「具体的には?」

『男子としての入学です。今のうちに牛耳って、先輩後輩で継がせたいのかと……』

 テレパシーで聞いている菫と詩央里は、顔をしかめた。

 俺が代表して、咲莉菜に答える。

「長期的に、思考を誘導していくのか」

『おそらく……。女子校との交流も避けられず、惚れた弱みに付け込み、「やっぱり警察に戻ろう!」にする気です』

 警察との第二ラウンドか。

 俺は座っているソファにもたれ、天井を見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~

初雪空
ファンタジー
氷室駿矢は、いよいよ高校生になった。 許嫁の天賀原香奈葉、幼馴染の西園寺睦実とのラブコメ。 と言いたいが! この世界の日本は、刀を使う能力者による荒神退治が日常。 トップスピードでは弾丸を上回り、各々が契約した刀でぶった切るのが一番早いのだ。 東京の名門高校に入学するも、各地の伝承の謎を解き明かしつつ、同じ防人とも戦っていくことに……。 各地に残る伝承や、それにともなう荒神たち。 さらに、同じ防人との戦いで、駿矢に休む暇なし!? この物語はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ないことをご承知おきください。 また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※ 小説家になろう、ハーメルン、カクヨムにも連載中

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...