上 下
49 / 54

命は大事だから、ちねぇええええっ!

しおりを挟む
 呆れ果てた笹西ささにし新太あらたことハイドネウスは、吹き飛んだ倉庫跡で日光に照らされつつ、髪をかき上げた。

 低いイケボで、語り出す。

「そのギアは、君の最高傑作である瞬く星々トゥインクル・スターズじゃないか……。今のボクは、神話時代とは違うのだけどね? 高次元で望んだ未来を選べるチートを持ち出してくるとは、本当に大人げない」
「うるさいです!」

 白い騎士となったカレストゥーナは、すかさず突っ込んだ。

 ため息をついたハイドネウスが、さらに指摘する。

「だいたい、神話時代にも君は守護者ガーディアンと称して、若い男を囲っていたじゃないか」
「うるさぁあああああいっ!」

 知的でお淑やかな美女が、絶叫した。

 わりと子供っぽい性格だな? と思う、ギャラリーの槇島まきしま睦月むつき

 ハイドネウスが、ついに逆鱗に触れる。

「聞いたよ? 自分の寝室でテオフィルを露骨に誘ったが、断られたそうじゃないか! そんな言動だから――」

 睦月は、その時にバチンッと、何かがキレる音を聞いた気がした。

 案の定、カレストゥーナが小さく震えながら、笑い出す。
 ほぼ同時に、片手に長い槍も出現する。

「フ、フフフ……。あなたと一緒にテオフィルが消えてから、時間だけはあったんですよ? だから、これを作ったんです」

 黄金色のような輝きを放つ槍を立てたカレストゥーナは、説明する。

「これはね? あなたへの対策として、1万年以上もかけて作り上げたんですよ♪ どうせ殺せないから、どんどん遠くへ飛んでいくように」
「君にそこまで想われていたとは、光栄だが……。遠慮させてくれないか?」

 ハイドネウスは、引きつった顔。

 動物病院の待合室にいるペットと同じだ。

 いっぽう、カレストゥーナは満面の笑みだ。
 目だけ笑っていないけど。

自動次元跳躍槍ピドルダス……。そんなに別世界へ飛ぶのが好きなら、その願いをかなえて差し上げます」
「頼むから、人の話を聞いてくれ」

 諦めたハイドネウスの抵抗は、カレストゥーナの投擲モーションにさえぎられた。

「他の女に譲って順番を待つのなら、構いません。テオフィルは、モテますからね? しかし、男にとられたら、もう立ち直れません!」

 それが本音か、と思う、睦月ちゃん。

 カレストゥーナは、やり投げの選手のように投げつつ、叫ぶ。

「あなたであろうと、命は大切なもの! ゆえに、この神造武器で追放します! 死ねぇええええええっ!!」

 せめて、その発言の中では矛盾しないで。

 心の中で突っ込んだ睦月は、奥襟をつかんでいる西永にしなが和一かずいちを地面に引き倒しつつ、自身もうつ伏せに……。

 表現できない音と光が荒れ狂い、空間が歪み、破裂する音が響く。

 やがて、バチバチと感電しているような音と、一部に歪みが残った空間が残った。

 顔を上げたら、カレストゥーナと目が合った。

「ああ、うん……。要するに、神格みたいなもの? ちょっとスケールが大きいけど」

「……そうです」

 カレストゥーナの返事に、睦月は息を吐いた。

「よく分からないけど、その姿が本当で、カレナの姿になっているのは事情があるんでしょ? いいよ、黙っておく! この世界では、僕たちのデータリンクもないし」

「感謝します……」

 そして、唖然としたままの和一を見る。

「あなたには、ご迷惑をおかけしました」
「……い、いえ」

 何を言おう? と悩んでいる和一に、カレストゥーナが告げる。

室矢むろや重遠しげとおは、私が助けます……。ここの警察に絡まれても面倒なので、私たちはこのまま元の世界に帰ります。迷惑ついでに、願いがあれば聞きますが?」

 いきなりのことで、混乱する和一。

「だったら、俺も一緒に……」

 連れて行ってくれ、と続けようとした後で、言葉を切った。

 気になっている二条にじょうさえは、そちらの世界の未来にいるのだ。
 そもそも、上流階級にいる彼女に、俺が身一つで行ったところで……。

 住んでいる世界が違う。

 それを痛感した和一は、深呼吸をした。

「いえ、何でもありません……。お気をつけて」

「重遠達が世話になったこと、あなたのゲーム会社が潰れたことの清算で、1つアドバイスをします! プライドを捨てて、小波こなみ三奈みなに頭を下げてみては? どうするにせよ、相談できるのは彼女だけのはず」

「なぜ……。いえ、ありがとうございます」

 和一が顔を上げたときに、カレストゥーナたちの姿はなかった。

 じりじりと照り付ける日差しの中で、慌てて立ち去りつつ、途中の自販機でジュースを買っての一気飲み。

 冷えすぎた液体と、炭酸が下りていく。

「俺も……。せめて、高校を卒業した資格はとらないと!」

 二条さんとは、二度と会えない。

 それを実感しつつ、あのレベルの女子とも縁がないだろうと覚悟した。
 社会のレールを外れたことで、苦労することも。

「だけど、二条さんに『お元気で』と言われたものな……。今は、前に進まないと」


 ◇


 未来に戻った二条冴は、母親の二条すみれに抱きつかれたまま。

 大泣きする菫に、困り果てていた。

「よかった゛あ゛~! 重遠さんに襲われず、貞操も無事で、本当によか゛っだー」

 自分の父親が襲ってきそうな場面がなかった冴にしてみれば、オーバーそのもの。

 離してくれない母親に、ふと思う。

(西永くん、大丈夫かな?)

 未来の室矢むろやカレナによれば、それなりに生きている、と投げやりな返事だった。
 駆け落ちのように会う気はないため、この話は終わり。

 だが、箱入り娘の冴にとって、初めての気になる男子だった。

 それもまた、事実……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑ お気に入り登録をお願いします! ※ 5/15 男性向けホットランキング1位★  目覚めたら、妹に無理やりプレイさせられた乙女ゲーム、「ルーナ・クロニクル」のモブに転生した俺。    名前は、シド・フォン・グランディ。    準男爵の三男。典型的な底辺貴族だ。 「アリシア、平民のゴミはさっさと退学しなさい!」 「おいっ! 人をゴミ扱いするんじゃねぇ!」  ヒロインのアリシアを、悪役令嬢のファルネーゼがいじめていたシーンにちょうど転生する。    前日、会社の上司にパワハラされていた俺は、ついむしゃくしゃしてファルネーゼにブチキレてしまい…… 「助けてくれてありがとうございます。その……明日の午後、空いてますか?」 「えっ? 俺に言ってる?」  イケメンの攻略対象を差し置いて、ヒロインが俺に迫ってきて…… 「グランディ、決闘だ。俺たちが勝ったら、二度とアリシア近づくな……っ!」 「おいおい。なんでそうなるんだよ……」  攻略対象の王子殿下に、決闘を挑まれて。 「クソ……っ! 準男爵ごときに負けるわけにはいかない……」 「かなり手加減してるんだが……」  モブの俺が決闘に勝ってしまって——  ※2024/3/20 カクヨム様にて、異世界ファンタジーランキング2位!週間総合ランキング4位!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...