大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~

初雪空

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第三章 原作のクリエイターを探せ!

未来の娘にラブコメの気配!?

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 東京の大通りから離れた、路地裏の一角。
 車一台が通れるかどうかの横幅で、雑居ビル、古い住宅や店舗がギッシリと立ち並ぶ。

 とある角で立ち止まった男子高校生。
 西永にしなが和一かずいちは、メガネを光らせつつ、振り返った。

「ここだ……」

 俺と未来の娘である二条にじょうさえは、その建物を見る。

 一階は店舗のようで、入りやすく出やすい小売店が営業時間外といった感じ。
 今は閉め切っているため、客として入ることは不可能だ。
 むろん、俺が知っているオシャレな店とは違い、生活感がたっぷり。

 視線を上げれば、居住スペースらしき部分の窓が並んでいた。

 俺たちの行動に気づいた和一が、ため息を吐く。

「文句があるのなら、別にいいんだぞ?」
「い、いえ! そんなことありません! 感謝しています!」

 セーラー服の冴は、すぐに頭を下げた。

 再び息を吐いた和一。

 周りを見ながら、提案する。

「中へ入ってくれ……。ご近所に噂される」


 2本の生活道路に挟まれた面とは反対側に回り込んだら、やはり古いデザインの玄関があった。

 ここの住人である和一が蹴飛ばしたら壊れそうな玄関ドアにカギを差し込み、回す。

「二階に広い和室がある……。そこに荷物を置いてくれ!」

 店舗スペースを優先したのか、2人が並ぶと窮屈な下駄箱と段差。

 靴を脱いで、言われた通りに急角度の階段を上っていく。

 指定された広い和室は、ちょうど俺たちが見上げていた空間。
 カラカラと窓を開けた時に、気づいた。
 
(景色と呼べるものじゃない……)

 向かいの建物の窓と近く、単に覗かれるだけ。
 一時的な換気と採光だけの役割。
 ゴチャゴチャしているため、空も限定的だ。

 観光客やエンドユーザー向けではないらしく、何の目印もない。
 要するに、胡散臭い建物ばかり。

 窓を閉めて振り返れば、冴がちょこんと座っていた。
 毒舌だけの和一のせいか、オドオドしている。

(あの野郎が態度を改めなければ、すぐに出ていくか!)

 素性不明でいきなり泊めてくれるのは、確かにありがたい。
 だが、未来の娘をイジメられる筋合いもないのだ。

 ぐるりと見れば、ガランとした空間。

 日光で色あせた畳が敷き詰められていて、ちゃぶ台が1つ。
 安っぽい座布団も、いくつか。

 その時に、ガチャガチャと音を鳴らしつつ、両手でお盆を持った和一が板張りの廊下から入ってきた。

 ふすまが並んでいて、廊下との仕切り。
 今は、開けっ放しのままだ。

「ちゃぶ台に来てくれ! 今後の話をしたい」

 3人で囲めば、麦茶が入ったグラスと個別包装のお菓子が置かれた。

「それで、どうするんだ? いつまでも泊めないぞ? 気まずいだろうけど、親に頭を下げたほうがいいと思う。そうだな、遅くても明後日の朝には出て行ってくれ! 携帯の充電は勝手にやっていいから」

 上品に座っている冴が、俺のほうを見た。

 仕方なく、和一に返事をする。

「分かった、それまでに出ていくよ……。まず、俺たちを泊めてくれてありがとう」

 息を吐いた和一は、肩の力を抜く。

「ここは婆さんが経営していた店の跡地だ。今は、俺が仮の住居にしているだけ」

 おずおずと、冴が尋ねる。

「えっと……」
「婆さんはもう亡くなった。ご覧の通り、友人を呼べる家じゃないが、東京でゲーム会社へ通うのに便利だったから」

 婆さんとは親しくなかったし、気にしなくていい。

 和一は、本音を告げた。

「そうですか……」

「お前は、どうなんだ?」

 首をかしげた冴は、和一を見る。

「えっと……。何と言うか……。少し遠い場所に住んでいまして」
「いいところに通っていそうだしな、お前」

 ムッとした冴は、言い返す。

「二条です! 二条冴……。この人はお……兄ちゃんの――」
室矢むろや重遠しげとおだ」

 冴が生徒手帳を見せたので、俺も学生証を見せる。

 ここで冴を叱るか、俺だけ見せないのは、不自然だ。

 それぞれをチラッと見た和一は、気圧されたのか、すぐに視線を戻す。

「あ、ああ……。悪い……。二条は、室矢さんの妹なのか?」

 冴が俺を見て、その視線を感じた和一も。

(こいつ、冴に気があるのか……)

 うんざりしたが、答えるしかない。

「まあ、妹のようなものだ! 付き合っていないから、安心しろ」
「俺は別に! ……はい」

 反射的に叫んだ和一は、すぐに黙り込んだ。

 気を遣った冴が、ポンと手の平を合わせて、話題を変える。

「と、ところで! 今後の方針を決めません? 今晩の夕飯とかも……」

 俺は、その流れに乗る。

「あの会社で作った【花月怪奇譚かげつかいきたん】のシナリオライター、笹西ささにし新太あらたを見つけたい」
「何のために?」

 和一が、すぐに応じた。

 呼吸を整えた後で、奴に説明する。

「そいつのせいで、俺と冴は大迷惑をこうむった! 面と向かって文句を言わなければ、腹の虫がおさまらない」
「笹西さんが!? あの人がそんな! ……いや、そうかもしれない」

 怒りの表情を見せた和一は、すぐに悔しそうな雰囲気へ。

 顔をうつむかせたまま。

 沈黙が訪れるも――

 カラカラカラ

 いきなり窓が開く音がした。

 全員で見れば、茶色のショートヘアで、琥珀こはく色の瞳をした女子中学生。

「話は全て聞かせてもらったよ!」

 槇島まきしま睦月むつきだ。
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