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黒幕の本名とエンコー女子と今日の泊まる場所
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戻ってきたばかりの小波三奈は、ポカンと口を開けた。
次に、懐かしそうな顔へ。
「……【花月怪奇譚】のライターか」
ふうっと息を吐いた後で、こちらを見た。
「クレジットにあるよね? 『バックパッカー』だよ!」
「本名と住所です」
首を横に振った三奈は、窘《たしな》める。
「教えられない! いくら何でもね?」
「分かりました……。代わりに、その人物のことを教えてくれませんか? 俺もライターに興味があって」
「まあ、それなら……」
似合わないプレッシャーを消した三奈は、近くの椅子を引き寄せて座る。
椅子の下にある車輪が動く音に、ギシッと軋む音。
「そうだね……。彼は、天才だったよ! シナリオライターの腕がいいのはもちろん、スクリプト、グラフィック、音楽にも造詣があった。並の3倍のスピード」
「1人でゲームを作れそうですね?」
こくりと頷いた三奈は、自虐するように独白する。
「まったく……。高度な理論を知っていて、営業としても敏腕! 大企業や銀行の担当者に話が通るし、彼が言えば気難しい人も応じてくれた。ウチの社長も目をかけていて、次の社長か、暖簾分けで別の会社を立ち上げる話すらあったよ! 芸能人みたいな美貌があって……。持っている人間は何でもあると思い知らされた」
「それだけのスーパーマンがいて、潰れたんですか?」
苦笑した三奈は、天井を見上げた。
「失踪したんだよ、彼は……。いきなりだった……。ウチは零細に分類される規模で、精神的な支柱が抜けた穴は大きかった」
話によれば、現場が混乱したうえ、彼に任せていた営業パートが響いたそうだ。
「引継ぎもなしで、あれよあれよという間に倒産しちゃった! 今になって思えば、最低でも3人分の給料を払うべきだったね」
元々、どうしてこんな零細エロゲ会社にいるのか? と思える人材だった。
弱々しく呟いた三奈。
その時に、男子の声。
「俺は、笹西さんを絶対に許しません!」
全員が振り向けば、そこには学ランを着た男子高校生の姿。
メガネをかけていて、あどけない顔を怒りで染めている。
「笹西新太のせいで、この会社が潰れたんですよ!? 凡人の俺とは違うと、尊敬していたのに……」
側面で下ろしたまま、握りしめた拳。
(青春だなあ……)
俺も大学生だが、妙に若く感じた。
すると、その男子が俺たちを見る。
「誰です、この人たち?」
「あー、うん……。【花月怪奇譚】のファンだって!」
「そうっすか! ここの撤収ですけど、オーナーが早めに出てくれと――」
生意気な男子は、三奈と話し込む。
手持ち無沙汰な二条冴が、話しかけてきた。
「どうしますか、お父さ……お兄ちゃん」
「シナリオライターの笹西を追う! ただ、勢いで来ちゃったから泊まる場所がなあ?」
「およ? 兄妹で家出してきたの?」
顔を近づけた三奈が、割り込んできた。
俺と冴は、そちらを見る。
いっぽう、三奈はメガネ男子に命じる。
「そうだ! 西永くんの家に泊めてあげなよ!」
「うええっ!? い、嫌ですよ!」
冴を示した三奈が、追い打ちをかける。
「こんな可愛い女子高生を野宿させる気?」
「小波さんが泊めれば、いいじゃないですか!」
「大家が近くに住んでいてさあ……。うるさいんだよ、そういうの」
「俺んところも、同じですよ!」
焦った冴が立ち上がり、2人に頭を下げた。
「あ、あの! お気持ちだけで!! 駅前にでも行って、お父さんと一緒に何とかします」
びっくりした顔の三奈と男子高校生。
「え、ちょっと……」
「おい、待て!」
冴はそれ以上の会話をせずに出口へ向かったから、俺も後を追う。
すると、男子が大急ぎで駆け寄って、彼女の腕をつかんだ。
「人の話を聞け! まだ結論を出していないだろ!?」
「いたっ!」
冴が顔をゆがめたので、思わず腰のホルスターから飛び出ているグリップを握った。
そのまま拳銃を抜こうとするも、気配を感じた彼女が慌てて首を横に振ることで止まる。
我に返った男子が、冴の片腕から手を離した。
「わ、悪い……」
そいつと向き直った冴は、かろうじて告げる。
「もう、やらないでください」
クイックドロウで無礼な男子の胴体と頭に数発ずつ撃ち込む気だった俺は、息を吐いた。
(命拾いしたな、お前?)
三奈も駆け寄ってきて、仲裁する。
「何度もごめんね? 西永和一くんは高校生だけど、ウチでバイトをしていたんだ! 実際にプレイして異常を見つけるデバッガーとか雑用の……。ねえ、数日だけでもダメかな? この子、駅前で泊めてくれるパパを見つける気だよ?」
気まずい雰囲気の和一は、目を伏せたままで答える。
「……いつまでも泊める気はないですよ?」
今日の泊まる場所はゲットしたが――
「お父さ……お兄ちゃん?」
キョトンとする冴に、俺はかける言葉がなかった。
愛する未来の娘が、いつの間にか、エンコー女子の扱いに……。
What a disaster!(なんてこった!)
無意識に、再び拳銃のグリップへ手を伸ばす。
暴力は……全てを解決する。
「この2人を消せば――」
「それは、ダメです!」
叱られてしまった。
次に、懐かしそうな顔へ。
「……【花月怪奇譚】のライターか」
ふうっと息を吐いた後で、こちらを見た。
「クレジットにあるよね? 『バックパッカー』だよ!」
「本名と住所です」
首を横に振った三奈は、窘《たしな》める。
「教えられない! いくら何でもね?」
「分かりました……。代わりに、その人物のことを教えてくれませんか? 俺もライターに興味があって」
「まあ、それなら……」
似合わないプレッシャーを消した三奈は、近くの椅子を引き寄せて座る。
椅子の下にある車輪が動く音に、ギシッと軋む音。
「そうだね……。彼は、天才だったよ! シナリオライターの腕がいいのはもちろん、スクリプト、グラフィック、音楽にも造詣があった。並の3倍のスピード」
「1人でゲームを作れそうですね?」
こくりと頷いた三奈は、自虐するように独白する。
「まったく……。高度な理論を知っていて、営業としても敏腕! 大企業や銀行の担当者に話が通るし、彼が言えば気難しい人も応じてくれた。ウチの社長も目をかけていて、次の社長か、暖簾分けで別の会社を立ち上げる話すらあったよ! 芸能人みたいな美貌があって……。持っている人間は何でもあると思い知らされた」
「それだけのスーパーマンがいて、潰れたんですか?」
苦笑した三奈は、天井を見上げた。
「失踪したんだよ、彼は……。いきなりだった……。ウチは零細に分類される規模で、精神的な支柱が抜けた穴は大きかった」
話によれば、現場が混乱したうえ、彼に任せていた営業パートが響いたそうだ。
「引継ぎもなしで、あれよあれよという間に倒産しちゃった! 今になって思えば、最低でも3人分の給料を払うべきだったね」
元々、どうしてこんな零細エロゲ会社にいるのか? と思える人材だった。
弱々しく呟いた三奈。
その時に、男子の声。
「俺は、笹西さんを絶対に許しません!」
全員が振り向けば、そこには学ランを着た男子高校生の姿。
メガネをかけていて、あどけない顔を怒りで染めている。
「笹西新太のせいで、この会社が潰れたんですよ!? 凡人の俺とは違うと、尊敬していたのに……」
側面で下ろしたまま、握りしめた拳。
(青春だなあ……)
俺も大学生だが、妙に若く感じた。
すると、その男子が俺たちを見る。
「誰です、この人たち?」
「あー、うん……。【花月怪奇譚】のファンだって!」
「そうっすか! ここの撤収ですけど、オーナーが早めに出てくれと――」
生意気な男子は、三奈と話し込む。
手持ち無沙汰な二条冴が、話しかけてきた。
「どうしますか、お父さ……お兄ちゃん」
「シナリオライターの笹西を追う! ただ、勢いで来ちゃったから泊まる場所がなあ?」
「およ? 兄妹で家出してきたの?」
顔を近づけた三奈が、割り込んできた。
俺と冴は、そちらを見る。
いっぽう、三奈はメガネ男子に命じる。
「そうだ! 西永くんの家に泊めてあげなよ!」
「うええっ!? い、嫌ですよ!」
冴を示した三奈が、追い打ちをかける。
「こんな可愛い女子高生を野宿させる気?」
「小波さんが泊めれば、いいじゃないですか!」
「大家が近くに住んでいてさあ……。うるさいんだよ、そういうの」
「俺んところも、同じですよ!」
焦った冴が立ち上がり、2人に頭を下げた。
「あ、あの! お気持ちだけで!! 駅前にでも行って、お父さんと一緒に何とかします」
びっくりした顔の三奈と男子高校生。
「え、ちょっと……」
「おい、待て!」
冴はそれ以上の会話をせずに出口へ向かったから、俺も後を追う。
すると、男子が大急ぎで駆け寄って、彼女の腕をつかんだ。
「人の話を聞け! まだ結論を出していないだろ!?」
「いたっ!」
冴が顔をゆがめたので、思わず腰のホルスターから飛び出ているグリップを握った。
そのまま拳銃を抜こうとするも、気配を感じた彼女が慌てて首を横に振ることで止まる。
我に返った男子が、冴の片腕から手を離した。
「わ、悪い……」
そいつと向き直った冴は、かろうじて告げる。
「もう、やらないでください」
クイックドロウで無礼な男子の胴体と頭に数発ずつ撃ち込む気だった俺は、息を吐いた。
(命拾いしたな、お前?)
三奈も駆け寄ってきて、仲裁する。
「何度もごめんね? 西永和一くんは高校生だけど、ウチでバイトをしていたんだ! 実際にプレイして異常を見つけるデバッガーとか雑用の……。ねえ、数日だけでもダメかな? この子、駅前で泊めてくれるパパを見つける気だよ?」
気まずい雰囲気の和一は、目を伏せたままで答える。
「……いつまでも泊める気はないですよ?」
今日の泊まる場所はゲットしたが――
「お父さ……お兄ちゃん?」
キョトンとする冴に、俺はかける言葉がなかった。
愛する未来の娘が、いつの間にか、エンコー女子の扱いに……。
What a disaster!(なんてこった!)
無意識に、再び拳銃のグリップへ手を伸ばす。
暴力は……全てを解決する。
「この2人を消せば――」
「それは、ダメです!」
叱られてしまった。
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