上 下
38 / 54

室矢家で一番優しい娘

しおりを挟む
 都心部の中心にある明示めいじ法律大学のキャンパスは、商業施設のよう。

 いつも通りに1人で講義を受け、待ち伏せや毒を仕込まれないため、空間移動を織り交ぜることでランダムに移動しての食事や休憩。

 面倒だが、悠月ゆづき明夜音あやねのように護衛をゾロゾロと引き連れるよりはマシだ!

 誰にも縛られない大学生は、他人を気にしないが……。

 見下ろせば、私服で行き交う都心らしい周りと比べて幼い雰囲気の姉妹がいた。
 中央が広い吹き抜けになっている1階だ。

 何も知らずに見れば、ただのデパート。

 1人はセーラー服の女子高生で、優しい感じの黒髪ロング。
 それより身長が低い感じの少女は――

『私じゃ!』

 脳内に、室矢《むろや》カレナの声。

 超空間ネットワークによる通信だ。

 お前か……。

「ねーねー? 君ら、高校生?」
「俺らが案内してあげよっか?」

 女子2人が所在なげに立っていたことで、チャラ男の参戦だ。

 俺は、上を通り抜ける通路の端にある落下防止をふわりと乗り越えて、落ちた。
 ちょうど、5階の高さ。

「キャァアアアッ!?」
「ちょっと!」

 通りがかった女子大生グループが、甲高い悲鳴を上げた。

 重力に引かれつつ、斜め下にある3階の空中通路を避け、回転しながら足を下へ向ける。

 1階は試合ができるほど広く、加工されたコンクリートの地面だ。

 大学生の一期一会となっているメインストリームに両足で着地しつつ、すかさず並べた両膝を曲げつつ、体の外側へ受け流していく。

 ネコのように回転した勢いで、起き上がり人形のように立ち上がる。
 ダンッという着地音に、転がる音。

 余った勢いは、片足で円を描くことで逃がす。

 周りの唖然とした視線を感じつつ、口が半開きのチャラ男2人に告げる。

「そいつらは、俺と約束している。ナンパなら、他を当たれ」

 半開きの口で、首を縦に振るチャラ男たち。

 じりじりと後ずさり、やがて出口へ走り出した。

「あの! わ、私、どうしてもお父さんに会いたくて――」
「話は後だ……。システム上で処理をしておけ。穏便にな?」
『かしこまー♪』

 俺のスマホで、可愛らしい声が流れた。
 アプリとして常駐する美少女、カペラだ。

 我関せずのカレナに呆れつつも、女子2人と一緒に建物の外へ。


 ――都心の高級カフェ

 奥のテーブル席を占領して、ようやく落ち着いた。

 向かいに座っている女子2人を見る。

「で?」

 顔を伏せていたセーラー服の少女は、思い切ったように俺を見た。

「に、二条にじょうさえです! 今は女子高生でして……。未来からやってきました。お母さんは、すみれと申します」

 普通に考えれば、ドッキリか、ただの冗談。
 
 けれど、前例があり、カレナの説明を受けている俺は、頷いた。

「そうか……。今の菫はようやく中学生だけど、優しい雰囲気はそっくり! 納得できるよ」

 嬉しそうに微笑んだ冴は、こくりと頷いた。

「信じてもらえて、嬉しいです! 詐欺と思われるかも、と心配していました」

「カレナがいるからな……。りょう愛花莉あかりも来たし」

「愛花莉さんとは、友人です! お父さんの娘は、流派に関係なく女子会で集まっているから」

 それぞれに所属があるから、俺たちのようにはいかんか……。

 少しだけ寂しく思いつつ、安堵する。

「やっぱり……。1つの家でまとめていくのは、無理か」

 俺たちの子供ですら、距離感があるんだ。
 孫となれば、自分が学ぶ場や就職先に染まるだろう。

「……ご迷惑でしたか?」

 冴の声で、我に返った。

「そうじゃない……。俺と観光でもしたいのか? 今の母親と会うのは、あまりオススメしないが」

「お父さんと遊びたいし、お母さんの若いころに興味はありますけど……。私がカレナさんに無理を言ったのは……」

 自分のバッグを漁った冴は、年季が入った携帯ゲーム機を取り出した。

 ティーカップや皿があるテーブルに、ゴトッと置く。

 見覚えがある。
 特に、前世の久次ひさつぐ竜士りゅうじだった頃に……。

 冴の指が伸びてきて、パチッと動かした。
 軽快な起動音で、OSが動き出す。

 中のディスクを読み込み、タイトル画面へ。

 【花月怪奇譚かげつかいきたん

 両手に、汗。

(まさか……)

 無言で手を伸ばし、両手で持ち直す。

 セーブデータを見る。

 律儀な性格のようで、冴の名前があった。
 そちらを間違って消さないように、他をチェックする。

 “久次竜士”

 思わずゲーム機を落としそうになるも、ギリギリで耐えた。

 ゆっくりと、テーブルに置き直す。

「冴? これは、どうやって入手した?」

 ビクッとした本人は、片手で耳にかかった黒髪を触りつつ、答える。

「えっと……。お父さんのルーツに興味があって、ネットオークションに出ていたのを落札しました。半信半疑でしたけど、値段は安かったですし」

 何てことだ。

 俺がこの世界へ来たときに、遊んでいたゲーム機も迷い込んだのか?

 悩んでいたら、カレナが宣言する。

「残念だが、もう時間だ……。冴は巻き込まれたゆえ、いったん飛ばすしかない。お主は、言うまでもないのじゃ! 前に話したことは、覚えているな?」

「ああ……」

 首肯したカレナは立ち上がり、無言で立ち去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

処理中です...