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室矢家で一番優しい娘
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都心部の中心にある明示法律大学のキャンパスは、商業施設のよう。
いつも通りに1人で講義を受け、待ち伏せや毒を仕込まれないため、空間移動を織り交ぜることでランダムに移動しての食事や休憩。
面倒だが、悠月明夜音のように護衛をゾロゾロと引き連れるよりはマシだ!
誰にも縛られない大学生は、他人を気にしないが……。
見下ろせば、私服で行き交う都心らしい周りと比べて幼い雰囲気の姉妹がいた。
中央が広い吹き抜けになっている1階だ。
何も知らずに見れば、ただのデパート。
1人はセーラー服の女子高生で、優しい感じの黒髪ロング。
それより身長が低い感じの少女は――
『私じゃ!』
脳内に、室矢《むろや》カレナの声。
超空間ネットワークによる通信だ。
お前か……。
「ねーねー? 君ら、高校生?」
「俺らが案内してあげよっか?」
女子2人が所在なげに立っていたことで、チャラ男の参戦だ。
俺は、上を通り抜ける通路の端にある落下防止をふわりと乗り越えて、落ちた。
ちょうど、5階の高さ。
「キャァアアアッ!?」
「ちょっと!」
通りがかった女子大生グループが、甲高い悲鳴を上げた。
重力に引かれつつ、斜め下にある3階の空中通路を避け、回転しながら足を下へ向ける。
1階は試合ができるほど広く、加工されたコンクリートの地面だ。
大学生の一期一会となっているメインストリームに両足で着地しつつ、すかさず並べた両膝を曲げつつ、体の外側へ受け流していく。
ネコのように回転した勢いで、起き上がり人形のように立ち上がる。
ダンッという着地音に、転がる音。
余った勢いは、片足で円を描くことで逃がす。
周りの唖然とした視線を感じつつ、口が半開きのチャラ男2人に告げる。
「そいつらは、俺と約束している。ナンパなら、他を当たれ」
半開きの口で、首を縦に振るチャラ男たち。
じりじりと後ずさり、やがて出口へ走り出した。
「あの! わ、私、どうしてもお父さんに会いたくて――」
「話は後だ……。システム上で処理をしておけ。穏便にな?」
『かしこまー♪』
俺のスマホで、可愛らしい声が流れた。
アプリとして常駐する美少女、カペラだ。
我関せずのカレナに呆れつつも、女子2人と一緒に建物の外へ。
――都心の高級カフェ
奥のテーブル席を占領して、ようやく落ち着いた。
向かいに座っている女子2人を見る。
「で?」
顔を伏せていたセーラー服の少女は、思い切ったように俺を見た。
「に、二条冴です! 今は女子高生でして……。未来からやってきました。お母さんは、菫と申します」
普通に考えれば、ドッキリか、ただの冗談。
けれど、前例があり、カレナの説明を受けている俺は、頷いた。
「そうか……。今の菫はようやく中学生だけど、優しい雰囲気はそっくり! 納得できるよ」
嬉しそうに微笑んだ冴は、こくりと頷いた。
「信じてもらえて、嬉しいです! 詐欺と思われるかも、と心配していました」
「カレナがいるからな……。梁愛花莉も来たし」
「愛花莉さんとは、友人です! お父さんの娘は、流派に関係なく女子会で集まっているから」
それぞれに所属があるから、俺たちのようにはいかんか……。
少しだけ寂しく思いつつ、安堵する。
「やっぱり……。1つの家でまとめていくのは、無理か」
俺たちの子供ですら、距離感があるんだ。
孫となれば、自分が学ぶ場や就職先に染まるだろう。
「……ご迷惑でしたか?」
冴の声で、我に返った。
「そうじゃない……。俺と観光でもしたいのか? 今の母親と会うのは、あまりオススメしないが」
「お父さんと遊びたいし、お母さんの若いころに興味はありますけど……。私がカレナさんに無理を言ったのは……」
自分のバッグを漁った冴は、年季が入った携帯ゲーム機を取り出した。
ティーカップや皿があるテーブルに、ゴトッと置く。
見覚えがある。
特に、前世の久次竜士だった頃に……。
冴の指が伸びてきて、パチッと動かした。
軽快な起動音で、OSが動き出す。
中のディスクを読み込み、タイトル画面へ。
【花月怪奇譚】
両手に、汗。
(まさか……)
無言で手を伸ばし、両手で持ち直す。
セーブデータを見る。
律儀な性格のようで、冴の名前があった。
そちらを間違って消さないように、他をチェックする。
“久次竜士”
思わずゲーム機を落としそうになるも、ギリギリで耐えた。
ゆっくりと、テーブルに置き直す。
「冴? これは、どうやって入手した?」
ビクッとした本人は、片手で耳にかかった黒髪を触りつつ、答える。
「えっと……。お父さんのルーツに興味があって、ネットオークションに出ていたのを落札しました。半信半疑でしたけど、値段は安かったですし」
何てことだ。
俺がこの世界へ来たときに、遊んでいたゲーム機も迷い込んだのか?
悩んでいたら、カレナが宣言する。
「残念だが、もう時間だ……。冴は巻き込まれたゆえ、いったん飛ばすしかない。お主は、言うまでもないのじゃ! 前に話したことは、覚えているな?」
「ああ……」
首肯したカレナは立ち上がり、無言で立ち去った。
いつも通りに1人で講義を受け、待ち伏せや毒を仕込まれないため、空間移動を織り交ぜることでランダムに移動しての食事や休憩。
面倒だが、悠月明夜音のように護衛をゾロゾロと引き連れるよりはマシだ!
誰にも縛られない大学生は、他人を気にしないが……。
見下ろせば、私服で行き交う都心らしい周りと比べて幼い雰囲気の姉妹がいた。
中央が広い吹き抜けになっている1階だ。
何も知らずに見れば、ただのデパート。
1人はセーラー服の女子高生で、優しい感じの黒髪ロング。
それより身長が低い感じの少女は――
『私じゃ!』
脳内に、室矢《むろや》カレナの声。
超空間ネットワークによる通信だ。
お前か……。
「ねーねー? 君ら、高校生?」
「俺らが案内してあげよっか?」
女子2人が所在なげに立っていたことで、チャラ男の参戦だ。
俺は、上を通り抜ける通路の端にある落下防止をふわりと乗り越えて、落ちた。
ちょうど、5階の高さ。
「キャァアアアッ!?」
「ちょっと!」
通りがかった女子大生グループが、甲高い悲鳴を上げた。
重力に引かれつつ、斜め下にある3階の空中通路を避け、回転しながら足を下へ向ける。
1階は試合ができるほど広く、加工されたコンクリートの地面だ。
大学生の一期一会となっているメインストリームに両足で着地しつつ、すかさず並べた両膝を曲げつつ、体の外側へ受け流していく。
ネコのように回転した勢いで、起き上がり人形のように立ち上がる。
ダンッという着地音に、転がる音。
余った勢いは、片足で円を描くことで逃がす。
周りの唖然とした視線を感じつつ、口が半開きのチャラ男2人に告げる。
「そいつらは、俺と約束している。ナンパなら、他を当たれ」
半開きの口で、首を縦に振るチャラ男たち。
じりじりと後ずさり、やがて出口へ走り出した。
「あの! わ、私、どうしてもお父さんに会いたくて――」
「話は後だ……。システム上で処理をしておけ。穏便にな?」
『かしこまー♪』
俺のスマホで、可愛らしい声が流れた。
アプリとして常駐する美少女、カペラだ。
我関せずのカレナに呆れつつも、女子2人と一緒に建物の外へ。
――都心の高級カフェ
奥のテーブル席を占領して、ようやく落ち着いた。
向かいに座っている女子2人を見る。
「で?」
顔を伏せていたセーラー服の少女は、思い切ったように俺を見た。
「に、二条冴です! 今は女子高生でして……。未来からやってきました。お母さんは、菫と申します」
普通に考えれば、ドッキリか、ただの冗談。
けれど、前例があり、カレナの説明を受けている俺は、頷いた。
「そうか……。今の菫はようやく中学生だけど、優しい雰囲気はそっくり! 納得できるよ」
嬉しそうに微笑んだ冴は、こくりと頷いた。
「信じてもらえて、嬉しいです! 詐欺と思われるかも、と心配していました」
「カレナがいるからな……。梁愛花莉も来たし」
「愛花莉さんとは、友人です! お父さんの娘は、流派に関係なく女子会で集まっているから」
それぞれに所属があるから、俺たちのようにはいかんか……。
少しだけ寂しく思いつつ、安堵する。
「やっぱり……。1つの家でまとめていくのは、無理か」
俺たちの子供ですら、距離感があるんだ。
孫となれば、自分が学ぶ場や就職先に染まるだろう。
「……ご迷惑でしたか?」
冴の声で、我に返った。
「そうじゃない……。俺と観光でもしたいのか? 今の母親と会うのは、あまりオススメしないが」
「お父さんと遊びたいし、お母さんの若いころに興味はありますけど……。私がカレナさんに無理を言ったのは……」
自分のバッグを漁った冴は、年季が入った携帯ゲーム機を取り出した。
ティーカップや皿があるテーブルに、ゴトッと置く。
見覚えがある。
特に、前世の久次竜士だった頃に……。
冴の指が伸びてきて、パチッと動かした。
軽快な起動音で、OSが動き出す。
中のディスクを読み込み、タイトル画面へ。
【花月怪奇譚】
両手に、汗。
(まさか……)
無言で手を伸ばし、両手で持ち直す。
セーブデータを見る。
律儀な性格のようで、冴の名前があった。
そちらを間違って消さないように、他をチェックする。
“久次竜士”
思わずゲーム機を落としそうになるも、ギリギリで耐えた。
ゆっくりと、テーブルに置き直す。
「冴? これは、どうやって入手した?」
ビクッとした本人は、片手で耳にかかった黒髪を触りつつ、答える。
「えっと……。お父さんのルーツに興味があって、ネットオークションに出ていたのを落札しました。半信半疑でしたけど、値段は安かったですし」
何てことだ。
俺がこの世界へ来たときに、遊んでいたゲーム機も迷い込んだのか?
悩んでいたら、カレナが宣言する。
「残念だが、もう時間だ……。冴は巻き込まれたゆえ、いったん飛ばすしかない。お主は、言うまでもないのじゃ! 前に話したことは、覚えているな?」
「ああ……」
首肯したカレナは立ち上がり、無言で立ち去った。
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