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特異点になった【花月怪奇譚】

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 自宅のリビングで、室矢むろやカレナが言う。

重遠しげとお! お主、まだ【花月怪奇譚かげつかいきたん】のことを覚えているか?」

「忘れたくても、忘れられんよ! 急に、どうした?」

 真剣な雰囲気のカレナは、近寄ってきた南乃みなみの詩央里しおりを含めて、ゆっくりと説明する。

「お主は、じきに元の世界へ帰るだろう……。落ち着け、詩央里! 私とて、不安なのだ! それを避けてもいいが……。未来を変えてしまえば、例のバックレ帝国――」
「ダルディアス帝国ですよ?」

 詩央里の突っ込みで、時空ではなく、バイト先から逃げ出しそうな帝国は消えた。

 カレナは、言い直す。

「その帝国がどう動くか、読みづらくなってしまう! 今のお主にはマーキングをしているから、今度は次元の迷子にさせないが……」

 考え込んでいたカレナは、説明を続ける。

「前に、りょう有亜ありあの娘である愛花莉あかりが未来から訪れただろう? それを聞いた娘の1人が、また遊びに来るのじゃ! お主の巻き添えで、違う世界へ行くがな」

「誰の?」

二条にじょうすみれの娘である、さえだ……。あやつは重遠の子供だから異能者ではあるが、戦闘やスパイに向いていない」

 カレナの発言で、考え込む。

「違う世界の日本だしなあ……」

「それもあるが……。あやつを長く居させると、男絡みでそちらにいたいと願う恐れがあるのじゃ!」

「なら、すぐに冴を未来か、ここへ帰せば――」
「その場合は、お主の戻ってこられる可能性が大幅に減るぞ?」

 俺は、腕を組んだ。

「話を整理したい! 別の世界の日本で久次ひさつぐ竜士りゅうじだった時か……。【花月怪奇譚】のゲームは、どう関係するんだ?」

 詩央里を含めて、室矢家のハーレムメンバーには知らせている。
 もう、そちらの心配をする必要はない。

 カレナは、首をひねった。
 
「それがだな? あのゲームは、この世界を切り取ったような感じで……。ハッキリ言えば、私に近い存在がいると思う」

 俺と詩央里は、緊張した。

「お前と同じ……」
「だ、大丈夫ですか!?」

「それにしては地味というか……。どうにも、腑に落ちないのじゃ」

 珍しく悩んでいるカレナが、自分の考えを述べる。

「私と同格でも、今は弱っていると思う。ならば、放置するほうがマズい……。その正体と目的を突き止め、できれば始末してくれ! 例の帝国に備える意味で、私が残るべきだ。偽装している場合は、かえって警戒されるしな?」

「じゃ、そいつが【花月怪奇譚】を作った? 何で? あ!」

 俺が叫ぶと、女子2人も分かった表情に。

「そうじゃ! こちらの世界とラインを繋げ、戻ってくる気だった」
「今は、いないんですよね?」

 首肯したカレナは、断言する。

「うむ! 普通に販売されていたゲームだから、他に【花月怪奇譚】はいくらでもあるのじゃ! しかし――」

 水中洞窟と同じ。

 Aというポイントから潜り、狭く、無数に分岐している空間を進み、やがてBのポイントから脱出する。

「要するに、Aが久次竜士がいた世界で、Bが私たちのいる世界だ……。そのガイドラインとなるのが――」
「奴の作った【花月怪奇譚】?」

 カレナは、頷いた。

「そうじゃ! もっとも、私が先に利用した形になったようで……。今の例えで言うのならば、お主が通った水中通路は崩れて使えんわけだ」

「俺が元いた世界で、そいつが力を取り戻せば……」

「別のルートを見つけるか、岩盤ごと吹っ飛ばして来るだろうな?」

 ここで、カレナは選択肢を出す。

「いいか、重遠? 冴を先に戻すか、それとも、一緒に帰ってくるか、だ! 前者はお主が弱体化して危険で、後者は冴との別れになるかもしれん」

 結論を出せない……。

「その場の勢いで構わん! 私の未来予知も、完璧ではないのじゃ」

「俺だけのことなら――」
「必ず」

 詩央里の声で、そちらを向く。

「必ず、帰ってきてください」

 2人揃って、とは言わないか……。

 だが、未来の娘を二度と会えず、連絡もできない世界に置き去りは……。

「重遠? お主の懸念は、もっともだ! 私も、タイミングを見計らう。場合によっては、お主がいた世界を吹き飛ばしてでも、その【花月怪奇譚】を作り、こちらへ来たがった奴を消すだけ」

 息を呑んだ詩央里が、思わず尋ねる。

「そ、そうなったら……」

「ああ、死ぬぞ? その世界の奴らがな? だから、どうした?」

 危険な奴、それもカレナと同格……。

 早めに消しておかなければ、こちらの世界が滅ぶだろうな?

「準備はしておいてくれ! 俺は、未来の娘である二条冴を先に帰すかどうかに集中する」

「分かったのじゃ!」
「……気を付けてくださいね?」


 まさか、【花月怪奇譚】が本当にアカシックレコードとは。

 高校時代から、薄々は感じていたが……。

「どうりで、バッドエンドだらけのはずだ」

「まあ、向こうへ行ってから判断すればいい」
「大学生になっても、どんどん問題が増えますね……」

 幸い、今は出席日数を気にせず、自由に動ける。

 その点は、【花月怪奇譚】の本編だった高校時代と比べて有利だ。

 しかし、前世に暮らしていた現代社会か……。
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