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第二章 月光の下でのかぐや姫の娘
誰もが強いわけではありませんよ?
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時翼月乃は、考え込んだまま。
この短期間に衝撃的な事実を詰め込まれ、頭がパンクしているようだ。
(可哀想に……。破裂しそうなのは、その胸だけでいいのに)
俺も心を痛めていたら、その月乃がこちらを見た。
「視線……。分かるんだけど?」
「すまない」
俺は息を吐きながら、青空を見上げた。
(しかしまあ……。東アジア連合の要人か!)
原作の【花月怪奇譚】が終わった後でも、ルートにない死亡フラグが追いかけてきやがる。
原作ヒロインの1人、月乃が、どの展開でも死ぬわけだ。
日本の四大流派である操備流にとって、絶対に消したい女。
さらに、東連の門派も……。
(原作の主人公には、手に余るな!)
その鍛治川航基とは、高校卒業から会っていない。
無関係にした後で、それっきり。
まあ、そっちはいい。
俺たちは、国際空港の見送りをする場。
つまり、飛び立つ旅客機を見送れる展望デッキだ。
見送りの人が多く、その中に紛れている。
「永 俊熙(ヨン・ジュンシー)と話さなくて、良かったのか?」
経緯はどうあれ、彼女の父親だ。
俊熙の息子である永 飛龍(ヨン・フェイロン)が言ったように、今生の別れになる。
(月乃が、東連に行かない限り……)
最後の別れは済ませたものの、俊熙は最後まで連れて帰りたい雰囲気だった。
すると、月乃は顔を上げる。
「うん……。ボクは日本で生まれ育ったし、ベル女が故郷だよ! それに、いきなり父親や腹違いの弟がいると知っても……」
キィイイイン
ゆっくりと動いている旅客機が、次々に飛び立つ。
その度に、俺たちのような見学者の視線が動いた。
本来ならば、俊熙たちが乗っている旅客機を見送るべきだが――
月乃は、俺の顔を見た。
「もう、行こう?」
その表情は、苦しそうだ。
「……分かった」
時計によれば、連中が乗っている旅客機が飛び立つまで時間がある。
でもな?
どうせ、小さな窓から見ることはできない。
(ま、いいか!)
正直なところ、どうでもいい。
当事者の月乃が言うのなら、帰ろう――
プルルル♪
「はい……。何だ、詩央里か」
『若さま? 今日は、帰ってこなくていいので』
「え?」
『ですから! 時翼さんの相手をしてください! もちろん、アレの意味で!』
「え?」
『え?』
電話口で深呼吸をした南乃詩央里が、質問してくる。
『あの、若さま? まさかとは思いますが、このまま帰す気で!?』
「ダメ?」
『ダメです! あのですね? ちょっと待ってください』
ここで、ブツッという音。
耳にスマホを当てていた俺は、電話が切れたことに気づく。
しかし、超空間のネットワークによる念話へ。
『彼女が卒業したベルス女学校の友人がいても、所詮は同性に過ぎません! 今の時翼さんは、縋る相手が欲しいんです』
そうか?
『若さま……。男女の違いを抜きにして、あなたは強い人です。だけど……』
ある意味では、人の気持ちを分かっていません。
そう言われて、俺は考え込む。
いっぽう、詩央里は熱弁を振るう。
『あなたを追い詰めていた1人である私に、言う資格はないでしょう……。でも、言わせてください! 今の彼女には支えが必要です! そんなに、時翼さんが嫌いですか? メグの親友でもありますし』
別に、抱きたくないわけじゃない。
息を吐く気配のあとで、詩央里の声が頭の中で響く。
『なら、お願いしますね? 大学生になってまで、女にリードさせないでくださいよ?』
余計な一言を残して、室矢家だけの会話は終わった。
気づけば、近くで立ち尽くす月乃が、こちらを見ている。
「重遠?」
「ああ、すまない! 大した用事ではなかったよ? それより、今から時間はあるか?」
一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた月乃が、頷いた。
――高級ホテル
飛び込みで、有名な高層ビルの最上位にあるホテルへ。
時翼月乃はその意味を分かっているだろうが、拒絶せず。
大人しく、ついてきた。
二面ともガラス張りになっている都心の絶景を見ながら、広いリビングにある海外ブランドのソファーに座る。
「えっと……。ボ、ボクは大丈夫! 大学のほうは、1日ぐらい休んでもカバーできるし」
緊張している月乃が、わざと明るい声。
それを聞いて、不思議に思う。
「俺は、室矢クァトル大学だが……。お前は?」
「同じところ! 明示法律大学の講義を受けているんだけど……」
「そうか……。あそこはキャンパスが多いし、共通の講義じゃないとすれ違いもあるか」
ここで、月乃が顔を赤くした。
「あ、あの……。本当に申し訳ないけど、少しだけ自宅に帰ってもいい? す、すぐに戻ってくるから!」
察した俺は、応じる。
慌てたように、彼女は立ち上がった。
「い、1時間もかからないと思う! 待っててね?」
バタバタと走り出した月乃は、絶景を眺められる自宅のような空間を後にした。
残された俺は、ポツリと呟く。
「急な話だったからな……。準備ができているはずもないか!」
特に、下着はな?
今ごろ、待機していたタクシーに飛び乗って、自宅へ急いでいるだろう。
この短期間に衝撃的な事実を詰め込まれ、頭がパンクしているようだ。
(可哀想に……。破裂しそうなのは、その胸だけでいいのに)
俺も心を痛めていたら、その月乃がこちらを見た。
「視線……。分かるんだけど?」
「すまない」
俺は息を吐きながら、青空を見上げた。
(しかしまあ……。東アジア連合の要人か!)
原作の【花月怪奇譚】が終わった後でも、ルートにない死亡フラグが追いかけてきやがる。
原作ヒロインの1人、月乃が、どの展開でも死ぬわけだ。
日本の四大流派である操備流にとって、絶対に消したい女。
さらに、東連の門派も……。
(原作の主人公には、手に余るな!)
その鍛治川航基とは、高校卒業から会っていない。
無関係にした後で、それっきり。
まあ、そっちはいい。
俺たちは、国際空港の見送りをする場。
つまり、飛び立つ旅客機を見送れる展望デッキだ。
見送りの人が多く、その中に紛れている。
「永 俊熙(ヨン・ジュンシー)と話さなくて、良かったのか?」
経緯はどうあれ、彼女の父親だ。
俊熙の息子である永 飛龍(ヨン・フェイロン)が言ったように、今生の別れになる。
(月乃が、東連に行かない限り……)
最後の別れは済ませたものの、俊熙は最後まで連れて帰りたい雰囲気だった。
すると、月乃は顔を上げる。
「うん……。ボクは日本で生まれ育ったし、ベル女が故郷だよ! それに、いきなり父親や腹違いの弟がいると知っても……」
キィイイイン
ゆっくりと動いている旅客機が、次々に飛び立つ。
その度に、俺たちのような見学者の視線が動いた。
本来ならば、俊熙たちが乗っている旅客機を見送るべきだが――
月乃は、俺の顔を見た。
「もう、行こう?」
その表情は、苦しそうだ。
「……分かった」
時計によれば、連中が乗っている旅客機が飛び立つまで時間がある。
でもな?
どうせ、小さな窓から見ることはできない。
(ま、いいか!)
正直なところ、どうでもいい。
当事者の月乃が言うのなら、帰ろう――
プルルル♪
「はい……。何だ、詩央里か」
『若さま? 今日は、帰ってこなくていいので』
「え?」
『ですから! 時翼さんの相手をしてください! もちろん、アレの意味で!』
「え?」
『え?』
電話口で深呼吸をした南乃詩央里が、質問してくる。
『あの、若さま? まさかとは思いますが、このまま帰す気で!?』
「ダメ?」
『ダメです! あのですね? ちょっと待ってください』
ここで、ブツッという音。
耳にスマホを当てていた俺は、電話が切れたことに気づく。
しかし、超空間のネットワークによる念話へ。
『彼女が卒業したベルス女学校の友人がいても、所詮は同性に過ぎません! 今の時翼さんは、縋る相手が欲しいんです』
そうか?
『若さま……。男女の違いを抜きにして、あなたは強い人です。だけど……』
ある意味では、人の気持ちを分かっていません。
そう言われて、俺は考え込む。
いっぽう、詩央里は熱弁を振るう。
『あなたを追い詰めていた1人である私に、言う資格はないでしょう……。でも、言わせてください! 今の彼女には支えが必要です! そんなに、時翼さんが嫌いですか? メグの親友でもありますし』
別に、抱きたくないわけじゃない。
息を吐く気配のあとで、詩央里の声が頭の中で響く。
『なら、お願いしますね? 大学生になってまで、女にリードさせないでくださいよ?』
余計な一言を残して、室矢家だけの会話は終わった。
気づけば、近くで立ち尽くす月乃が、こちらを見ている。
「重遠?」
「ああ、すまない! 大した用事ではなかったよ? それより、今から時間はあるか?」
一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた月乃が、頷いた。
――高級ホテル
飛び込みで、有名な高層ビルの最上位にあるホテルへ。
時翼月乃はその意味を分かっているだろうが、拒絶せず。
大人しく、ついてきた。
二面ともガラス張りになっている都心の絶景を見ながら、広いリビングにある海外ブランドのソファーに座る。
「えっと……。ボ、ボクは大丈夫! 大学のほうは、1日ぐらい休んでもカバーできるし」
緊張している月乃が、わざと明るい声。
それを聞いて、不思議に思う。
「俺は、室矢クァトル大学だが……。お前は?」
「同じところ! 明示法律大学の講義を受けているんだけど……」
「そうか……。あそこはキャンパスが多いし、共通の講義じゃないとすれ違いもあるか」
ここで、月乃が顔を赤くした。
「あ、あの……。本当に申し訳ないけど、少しだけ自宅に帰ってもいい? す、すぐに戻ってくるから!」
察した俺は、応じる。
慌てたように、彼女は立ち上がった。
「い、1時間もかからないと思う! 待っててね?」
バタバタと走り出した月乃は、絶景を眺められる自宅のような空間を後にした。
残された俺は、ポツリと呟く。
「急な話だったからな……。準備ができているはずもないか!」
特に、下着はな?
今ごろ、待機していたタクシーに飛び乗って、自宅へ急いでいるだろう。
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