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娘に負けた系のヒロイン

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「私は……。消えると聞きました」

 りょう愛花莉あかりは、今にも消え入りそうな声。

「お母さんが夢を見すぎて……。それで、誕生する確率があまりにも低いと」

「どういうことだ? 未来からの来訪者であるのに、過去が揺らいでいる?」

 愛花莉も納得していない顔のまま、説明する。

「理屈は知りませんが……。お父さんとお母さんが結ばれる可能性は、ゼロに収束しているようで……。この時代のお母さんと話したら、妙に納得しましたが」

 チャリッと、俺が贈ったペンダントが愛花莉の胸元で揺れた。

「そうか……。だから、あの入り組んだ異世界へ?」

 首肯した愛花莉は、弱々しい声で答える。

「お父さんの本音は分かりました。このまま――」

 立ったままの愛花莉を正面から抱きしめ、優しく言う。

「まあ、何とかしておく!」

 服越しに背中をさする。

 さする。

 さする。

「あ、あの……。もういいの……でええっ!」

 愛花莉が叫んだ後で、ビクッと震え、くたーっと力が抜けた。

 そのまま崩れ落ちそうになったから、両脇で支える。

「カレナ! どうせ、お前が未来から連れてきたんだろ?」

 地面の一部から、ひょこっと頭が出てきた。

 上半分だけで、こちらをジッと見上げる。

「愛花莉については、理解した。俺が何とかする。娘を未来へ連れ帰ってくれ」

「分かったのじゃ!」

 水面にいるように頭半分だけで移動してきたカレナは、愛花莉の足首2つを掴み、下へ引っ張った。

 水に落ちるように、愛花莉が消える。

 また、未来でな……。

『お母さん達が会わせなかった理由が、よく分かりましたわ』と、小声で言っていた気がするけど。

「未来で娘と会えないのは残念だが、たまには触れ合うのもいいな!」
「お主の頭の中では、そうなのだろう。お主の頭の中では……」

 消えたはずの室矢むろやカレナが、これ以上ないほど呆れた表情のまま、突っ込んできた。

 構わずに、話を続ける。

「異世界へのゲートは、どうせ大戦中の遺物だろ?」

「まあ、そんなところじゃ! お主が壊したから、もう犠牲は出ないだろう」


 ――WUMレジデンス平河ひらかわ1番館

「この室矢重遠しげとおには、夢がある! それは――」
「あー、ハイハイ! 超空間のデータリンクで、もう知っていますから! その件は若さまの好きにしてください」

 せっかくモデル立ちで、後ろから夕花梨ゆかりシリーズにライトアップしてもらっての決め台詞なのに。

 最近は、正妻の南乃みなみの詩央里しおりのノリが悪い。
 倦怠期だろうか?

 すると、詩央里が報告する。

明大めいだいのほうは、潜入したK県警の刑事2人を含めた見学者が行方不明と……。あ! 次元振動研究室の草道くさみちという男子は生還したようですね? かなり大変だと思いますが」

「知らん」

 肩をすくめた詩央里は、そうですね、と同意した。


 ◇


 自室に戻り、梁愛花莉が誕生する可能性を探る重遠。

「デートコースを探りつつ基準ポイントおよび各ルートの並行処理……。チッ! 確度の高いポイントで随時コミットしつつ、有亜ありあのロジックパターンに合わせて超空間に疑似的な学習型AIを構築してのリアルタイム支援! ランダム要素の揺らぎをルーチン化……再設定が間に合わない!」

 室矢重遠は、ムダに主人公らしい雰囲気で、必死に可能性を辿っていく。
 未来予知などの持てる権能を全て使いつつ。

 ニコニコしている如月きさらぎちゃんは、ほぼイキかけている。

 傍で見ている分には、面白すぎる光景だ。 

 ちなみに、その主人である千陣夕花梨は、離れた自宅のソファーに横たわったままで知り、笑い転げている。

 そうとは知らず、重遠は苦労する。

 自分に集中線をつけながら、叫ぶ。

「ヤれば、デキる!」

 まあ、そうだ……。

「出かける!」

 控えていた夕花梨シリーズが、動き出す。

「着替え!」

「デートコース!」

「護衛は?」

 パッケージを換装されるように、重遠の準備が整う。

「完了!」
「発進、どうぞ!」

「室矢重遠、行ってきまーす!」


 ◇


 室矢カレナは、南乃詩央里の自宅にいた。

「正直なところ、梁有亜の乙女すぎる思考だと、普通の男は付き合いきれんな?」

 その親友である咲良さくらマルグリットも、否定しきれない。

「まあ、ちょっとね? 愛花莉ちゃんは作れるとして、その後は?」

 少し考えたカレナは、あっさりと答える。

「何だかんだで、重遠はなさけを交わした女を大事にするほうだからな……。腹をくくれば、それなりだ! 逆に、これが一夫一妻だったら、まず離婚している」

 息を吐いた詩央里は、自分の感想を述べる。

「妻が多いほうが、上手くいくと……。ここまで関わった以上、女が1人増えようが、それは構いません。ただ、これをキッカケにして中央省庁が調子に乗らないよう、管理してください。担当は、メグとカレナですよ?」

「はーい!」
「任せておくのじゃ」

 その返事を聞いた詩央里は、横になったまま、小さく笑い続けている女子を見た。

「む、娘に負けた女って……。ウフフフ……」

「夕花梨も、いい加減に戻ってきてくださいよ?」

 室矢家は、今日も平和だ。
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