大学生になった重遠は全盛期!~未来の娘と紡ぐ室矢家の伝説~

初雪空

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プロローグ:Y機関としての室矢家

地球に存在しないはずのMA

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 スラムの汚い路地を逃げ回る、天ヶ瀬あまがせうらら

 視界が悪くなったシューティンググラスを投げ捨て、その青い瞳を見せた。

 着ているワンピースは汚れており、軍用ジャケットもボロボロ。

 両手で持っている小銃が、頼りなく感じる……。

「ふっふっ! 本当に、どこのMA(マニューバ・アーマー)――」
 ドドドド

 約4mのMAは、両足で立ったまま、滑るように迫ってくる。
 両手で構えたヘビーマシンガンが、戦車も貫ける弾丸。

 麗が次に足を下ろす地面に魔法で上のベクトルを付与すれば、瞬間移動のように3階と同じ高さへ。

 上からパパパと連射するも、そのライフル弾は、紫色のロボットの頭、肩、上半身で弾かれるだけ。

「ダメか……。あれは、コクピットブロック?」

 パワードスーツのように、立ったまま。

 そのはずのMAで、胴体の中央に、乗り込むような四角い部分……。

「つっ!」

 どういう原理か、チュイーンと音を立てつつ、コンパスのように回転。

 熟練のボクサーのように向きを変えたMAは、掃射してきた。

 とっさに魔法のエネルギーシールドを張ったが、5枚のうち4枚があっという間に抜かれる。

 わずかな時間で、残った1枚を厚くするも、シールドを後退させつつ受け流したことで、空中の麗は吹き飛ばされた。

「キャアァアアッ!?」

 だが、身体強化の手足を振ることで、急所の頭を上に。

 ブレーキを間違えた車のごとく、硬いコンクリを滑っていくも、無傷だ。

 スライディングのような体勢で、先行している足が汚れる。

 皮膚がズル剥けになるほどの摩擦。

「うおおおっ!?」
「しょ、小隊長! 1人、出てきました!」
「……女子だぞ?」
「いや、銃を持っている!」

 大盾を持っている機動隊の列だ。

 身体強化のまま、両手で床を叩いて、宙を舞った麗は、その壁を飛び越えた。

 思わず視線で追った男どもは、正面です! の叫びで、元の方向へ――

「「「わあぁあああっ!?」」」

 スラムの路地から、地面のゴミを左右に弾き飛ばすような勢いで、地面を滑ってくる巨大ロボット。

 暗がりから、太陽がまぶしい市街地の道路へ。

 4mでも、人間には圧倒的なサイズ差だ。

 不意を突かれ、武装勢力はMAを持っています! と大声で叫ぶ機動隊員もいたが、大半はその進路から退くことで精一杯。

 独自の機構で立ったまま走るMAは、パニックになった機動隊を無視して、麗を追い続ける。

 彼女のワンピースと軍用ジャケットは、さらにダメージを受けた。

 正直なところ、周りの視線から、すぐに退避したい。

 そう思いつつ、身体強化をしたままの麗は、ランダムの横移動で避けつつ、追ってくるMAから逃げる。

 今度は、清潔で整えられた、駅前の主要道路での鬼ごっこ。

 激戦でスラムにふさわしい格好の麗は、小銃を持っていることで周りの機動隊や警官に停止するよう叫ばれたが、視線を向ける余裕もない。

 左右の商業ビルに糸を伸ばし、そちらに引っ張られることで、スッと消える。

 だが、MAの予測射撃で、空中機動をやめさせられた。

「もうっ!」

 再び、一定間隔で機動隊が阻止線となっている主要道路を走りだす。

 麗を含めて停止させようと、機動隊のバスが横に止めるも――

 前へ滑ってきたMAの片腕からビームソードのような光が伸びて、そのまま振り下ろした。

 溶断されるような音の直後に、MAが蹴り飛ばせば、真っ二つにされたバスが扉のように開き、進路を譲る。

 先にバスを乗り越えていた麗は、その光景に驚くも、走り続けるしかない。


 ◇


『次の――交差点までに、何としてでも止めろ!』
特機とっきの到着まで、時間がかかる』
『応援の機動隊が、対MAの――』
『該当エリアへの突入は、本部からの命令で――』
『追われている人物を何としてでも検挙しろ! 所属不明のMAは特機と、対MAの装備を持つ部隊がやる!』

 殺気立っている警察無線を聞いていた金髪碧眼の美女は、片手を振ることで雑音を排除した。

 ビルの端に立ったまま、青色の瞳で見下ろす。

「相変わらず、勝手なものね?」

 長い金髪が、陽の光で輝いた。

 急いで駆け付けたのか、私服のままで片膝をつき、アサルトライフルを肩付けした。

 スコープをつけない、アイアンサイトのまま、下の一角を見る。

「ふ――っ」

 呼吸を整えた咲良さくらマルグリットは、誰もいない道路に対し、ゆっくりトリガーを引いていく。

 バババ!

 フルオートで連射した弾丸は、ちょうど差し掛かったMAに吸い込まれ、ほぼ全弾が当たった。

 グラリとよろめき、麗の攻撃より有効だったが――

「これでもダメ? 明らかに、地球のMAじゃないわね……」

 独白したマルグリットは、停止した機体を渡さないために、絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を発動。

 恐る恐る、近づいた機動隊員の前で、MAは瞬間的に凍りつき、砕け散る音すらなく、そのまま消え失せた。

 どよめく、警察。

 マルグリットは、超空間のデータリンクで、麗に話しかける。

『残り1機を片づけたわ! 離脱できる? ……話はあとで』

 麗は光学迷彩の魔法で、周りの機動隊員から逃れた。

 地上でキョロキョロと見回す、男たち。

 ふうっと息を吐くマルグリットだが、室矢むろや家で共有している権能により、自分にも警官が迫っていることを知る。

「ご苦労なことで……。これだけ凹まされて、犯人にできる容疑者1人は捕まえないとマズい?」
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