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ストロベリーは食べごろになったー①

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「ところで、桔梗ききょうさん?」

 室矢むろや重遠しげとおの問いかけに、元首相の桔梗巌夫いわおが向き直った。

「何だね?」

「外務大臣の罷免ひめんと、党からの除名処分は、今できますか?」

 ため息を吐いた巌夫は、呆れたように答える。

「食事の宅配とは違うぞ? 大臣の罷免は首相の権限で行えるが……。事実関係を把握したうえで、党内の意見調整をした後……。どれだけ早くても、数日はかかる。一般的には書類が揃ったあとで、最優先しても半月だ」

 まして、党の除名処分は言うまでもない。

 雰囲気で、そう伝えた。

 うなずいた重遠は、肩のスリングに手をかける。

「そうですね……。なるべく生け捕りにします」

 言うが早いか、硬いはずの床に沈んだ。

 プールへ飛び込むように消えた青年に、巌夫は少し驚くも、すぐに息を吐いた。

 傍で待っていた人物が、ようやく声をかける。

「き、桔梗さん? 彼は、どこへ?」

「室矢家の当主だよ。……今見たことは忘れたまえ。それが君のためだ」


 ◇


 警視庁のヘリが、低空を飛んでいる。

『上空警戒中のクマタカ1号より本部へ! 移動中のテロリストはいくつかの車両に分散しており、管区第三機動隊の阻止線を避けつつ――』

 バタバタと五月蠅いローター音に、昼の東京で外にいる人々が、空を見上げた。


 走っている覆面パトカーでは、機動捜査隊の2人が息を吐いた。

 警察無線は、ヒートアップする一方だ。

『本部より目黒区の各車両――』

『外務大臣の行方は、未だ分からず! 警護についていた警備部のチームも音信不通! 一刻も早く、見つけろ!』

 運転している若者は、緊張した様子だ。

 いっぽう、助手席にいるベテランは、ウェストポーチに入っている拳銃を抜き、初弾を装填する。
 左手で上から包み込むようにスライドを握り、後ろへ引いた。

 シャカッと、小気味いい音を立てる。

櫻井さくらい(巡査)部長?」

「いいんだよ……。規則通りだと、死ぬぞ? にしても、こんな緊急時に、俺たちは騒いでいる不法滞在者への対応か」

たちの悪い大学生の溜まり場にもなっている、治安が悪いエリアですよね?」

「ああ……。外国人も多いし、適当になだめて、早く退散しよう! 俺たち2人じゃ、応援が来る前にバラされるだけだ」


 ボンネットの上で赤ランプを回転させていた車は、路地裏で停まった。

「急ぐぞ? こんな場所に長く停めたら、分かったもんじゃねえ!」

 左右のドアが開き、通報者のところへ小走りで向かう。

 バシャバシャと、水たまりが音を立てた。


 住居か倉庫かも区別できない玄関ドアを開けた通報者が、問題の場所を指さした。

「家庭訪問は警察の仕事じゃないけどさ? 銃を持っているようで、どうにも! ウチに居座っている奴らを追い出してくれないかな?」

 叩けばほこりが出そうな、小汚い中年男は、卑屈にペコペコと頭を下げた。

 これだけ低姿勢で、正式な通報。
 何もせずに帰るのは、論外だ。

 櫻井は、息を吐いた。

「分かりました……。ひとまず、そこで確かめてみます」

「お願いします」

 
 パートナーの影山かげやまにも、初弾を装填させた。

 通報者が、相手は銃を持っていると告げたから、正当性はある。

 密集したビル群はどれも古く、廃墟のようだ。
 ゴミ袋が山積みのまま、異臭を放っている路地裏。

 同じく小走りの機捜きそう2人は、さっきの男が所有している賃貸マンションの成れの果てへ。

 知らなければ、絶対に入りたくない、昼でも洞窟のような暗さのエントランスを奥へ進む。

「チッ! 階段を使うぞ!」

 エレベーターを信用できず、ヘドロのような汚れが堆積たいせきしている階段を登っていく。

 知らない人間がたむろしているフロアーに辿り着き、呼吸を整えてから、廊下の様子を――

 ババババ!

 耳が潰れそうな発砲音が続いた。

 それは重なり、着弾による、ガガガン! ドオオォオオンッ!! と何かが爆発する音へ。
 わずかに、地上から伝わってきた振動も。

 影山は、思わず叫ぶ。

「な、何が!?」
「キャッ!」

 ほぼ同時に、可愛らしい声も。

 驚いた機捜の2人は、とっさに拳銃を抜き、相手を探す。

 薄暗い踊り場には、誰もいない。

 ベテランの櫻井は、息を吐きながら、呟く。

「気のせい――」
 ババババ!

 自分たちの近くで、発砲音。

 先ほどの音とよく似ているが、タイプは異なる。

 2人が踊り場から、突入しかけていたフロアーのほうを見上げれば――

 階段を登り切った場所で、膝をつけている女子が1人。

 相手からの応戦で破片や土埃つちぼこりが巻き起こり、誰もいないはずの場所に浮かび上がったのだ。

 影山は、その後ろ姿を見る。

「……女の子?」

 アニメでしか見られないはずの、ピンク色の髪。

 いや、ピンクがかったプラチナブロンドだ。
 今は1本に縛っている。

 後ろ姿ですら、女の雰囲気。

 淡い色のワンピースの上に軍用のジャケットを羽織った、アニメのような服装だ。
 先ほどの音から、両手でアサルトライフルを構えているらしい。

 視線と声により、彼女は膝撃ちのまま、振り向いた。

 グレーのシューティンググラスだが、その奥に青い瞳。
 帽子はなく、横顔でも、お嬢さまのようだと感じる。

 誰であろう、光学迷彩の魔法で潜んでいた、天ヶ瀬あまがせうららだ。
 
 室矢むろや家で重遠しげとおの妻となった1人。
 元首相の桔梗巌夫、その隠し子でもある。

 ストロベリーブロンドは、ついに高校生となった……。
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