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聖女くんの演説

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『ジン! 起きろ、ジン!!』

 頭の中で、声が響いた。

 黒い大剣のカレトヴルフに封じた、古龍カーヌスの声だ……。

「ぐっ……」

 呻きながら、上体を起こした。

 確か、聖女科で騎士組が、本職の愚連隊に絡まれて――

「ああ、そうだ! 俺はルイーゼたちと一緒に、騎士科のバカどもとの戦いに行ったはずだが……。くそっ! どこだ、ここ?」

 まだ、頭がクラクラする。

 薄暗く、室内の灯りは限られているな?

『設置式の転移魔法だな! ピンポイントで、お前を狙ったようだ』

「なら、こっちも……発動しない!?」

 魔法の手応えがなく、俺は立ち上がった。

 周りを調べるも――

「ここ、フレムンド学院の女子エリアか!?」
『……お前がこの部屋を出れば、晴れてヘンタイ扱いという二重の罠か』

 姑息な! と言い捨てたカーヌスは、不機嫌そうだ。

 いっぽう、俺は手探りで調べる。

「部屋そのものが厳重な封印だな? 聖女科のどこかだと思うが……」

『ふむ……。我も、妙に感じるぞ? ところで、あのライトアップされている衣装と剣は調べんのか?』

 ため息をついた俺は、しぶしぶ、少し高い場所に安置されているものを見た。

「あれか……」


 ◇


 フレムンド学院の聖女科は、ざわついていた。

 ここに在籍している騎士組と呼ばれる女子たちが、札付きのワルと模擬戦をしているからだ。

 丸テーブルで紅茶を飲むエステル・ブルーニ・ジュラン公爵令嬢は、優雅。

 取り巻きの令嬢が、話しかける。

「エステル様? 今ごろ、模擬戦が始まっていると思いますが……」

「わたくしが行くほどでは、ありません! わざわざ、情報を提供して……ブホッ!」

 紅茶を噴き出したエステルに、周りは唖然とするも、すぐ視線の先を見る。

 1人の女子が走っていた。

 淑女失格といえるが、問題はそこにあらず!

 彼女たちには分からないが、それは現代でいうところの白い夏用セーラー服。
 それも、上下セパレートの……。

 ノースリーブで、紺色のカラーが目立つ。
 頭には、大きな黒いリボン。

 青色のミニスカートで、ローファーの革靴。

 ロングソードを鞘ごと背負っており――

「お、お待ちなさい!!」

 エステルの叫びに、その女子は立ち止まった。

 低いイケボで返す。

「何か?」
「……何かも何も! どうして、男子がここにいるのです!?」

 走っていた女子は、コスプレみたいな服装の男子だったのだ!!

 突きつけた指がぷるぷると震える、エステル。

 かつて、これほどのプレッシャーがあっただろうか?
 家の存亡をかけた王宮の駆け引きですら、ここまでにあらず。

 あまりに堂々した様子で、自分が間違っているのでは? とすら思える。

 彼は、現代でいう黒いサングラスをかけたまま、エステルを見据えた。

「今の俺……私は、聖女くんだ! それ以上でも、それ以下でもない」
「い、いやいやいや! おかしいでしょう?」

 閉じた扇子で指したエステルは、ついに叫ぶ。

「あ、あなた! 元貴族で教官2人を倒したジンですよね? 女子エリアに入り込んで――」
「冗談ではない!!」

 いきなりの大声に、エステルの両肩が跳ねた。

 周りの女子も、目を丸くしている。

 片手を横に振ったジンは、腹丸出しのセーラー服のままで演説する。

「王侯貴族科にいるフェルム王国のランストック伯爵令息だったジンではなく、フレムンド学院の聖女くんとして言おう! お互いの武勇を競うべき模擬戦において、騎士科のグザール隊による卑劣なる行為! どんな相手にも勝てるであろうジンを設置式の転移魔法でこの女子エリアに飛ばしたのだ!! それは許せない」

 公爵令嬢エステルは、完全に吞まれたままで同意する。

「そ、そうでしたの……。見下げ果てた所業ですわね? ですが――」
「グザール隊は、フレムンド学院の在り方を歪めている! 見よ!! 模擬戦に挑んでいるジンの仲間たちは、今この瞬間にも、彼の一勝があるはずと信じているのだ!」

「私はこの場で、フレムンド学院が目指すべき聖女について指摘したい! この姿は聖女科に安置されている、かつての遺産……。なぜだ!?」

 黒いサングラス越しに見つめられ、エステルは気圧された。

「そ、そう言われても……」

「誰も、英雄フレムンドの事実を見ないからだ! 聖女の真実も!!」

「その辺にしておけ! 女子エリアに入った男子が、タダで済むと思うな」

 警護をしている女騎士は、ジンの後ろから肩に手を置こうと――

 ブレるように消えた彼が、彼女の後ろに現れ、片足を払った。

「なっ!?」

 女騎士の部分的なアーマーが床にぶつかり、ガシャンと音を立てた。

「お前が相手にしているのは、フレムンドの相棒だった聖女そのものだ……」

「くっ……。私では勝てないと言うのか……」

 黒いサングラスに見下ろされ、床で上体を起こした女騎士は格の違いを思い知る。

 いっぽう、ジンはエステルを見た。

 ビクッとする、公爵令嬢。

「模擬戦で、バカどもを叩きのめす! 今は、それでいい……。失礼する!」

「そ、そうですわね……。いえ、ちょっとお待ちなさい!?」

 真っ赤になったエステルが引き留めるも、ジンは模擬戦の会場へ走り出した。

 立ち上がった彼女は、すぐに追いかける。

「わたくし達も、行きますわよ!」

「「「は、はいっ!」」」

 上に本を乗っけても落とさない、モデル歩きで……。
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