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入学試験だが別に勝ってしまっても良いのだろう?

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 はい。
 形だけの入学試験です!

 俺は、黒い大剣を両手で持っている。

 遠巻きにしているギャラリーは、フレムンド学院の制服から学生だと分かった。
 雰囲気から、どいつも貴族だし――

「あんなもの、振り回せるのかよ?」
「見掛け倒しだろ!」
「……あれ、ひょっとして」

 平らにしたグラウンドで、向かいに立っているのは試験官の男だ。

 要所だけガードする鎧を身につけており、筋肉ムキムキ。

「俺が、剣術の試験官だ! ドニ・カラベッタ……。試験官と呼べ」

「はい」

 答えつつも、ドニが持つバスタードソードを見る。

(魔剣か……。それも、竜の魔力を感じる)

 黒い大剣が震える。

 ついでに、古龍カーヌスの声も。

『あれは、竜だ! 竜を剣に封じ込めているぞ!!』

 あ、うん……。

『キシャアアアッ!』

 俺の頭の中で、威嚇の声が響いた。

 おい、止めろ!

 すると、相手のバスタードソードからの叫びも。

『ガアアアアッ!』

 勘弁してくれ……。

 俺が途方に暮れていたら、この2匹の鳴き声を知らないドニは笑顔で説明する。

「事情は聞いている! まあ、気軽に打ち込んでくれ! それだけ立派な魔剣なら、折れることも砕かれることもないだろう――」
『ガアアアアアッ!』
『シュウウウウウッ!』

『オウッ! オウッ! ボオオオォォォ!!』
『クルッシュ! クルッシュ! オウェア!!』

 …………

 ――筋力増加

 ――筋力増加

 ――ソード硬化

 ――ソード硬化

 説明を聞き流しつつ、ひたすらに魔法でバフをかけ続ける。

 最後に、ドニは正眼に構えた。

「では、試験を始め――」

 地面をえぐりつつ、一瞬でドニに斬れるだけの間合いに詰めた。

 片足を決めつつ、黒い大剣のカレトヴルフを両手で横に薙ぐ。

「さっきからギャーギャーと、うるせぇえええええええええっ!」

 ガキーンと、金属が音を立てた。

 コマのように回転しつつ、大剣の先を地面に触れることでブレーキをかける。

 今度は、地面の土が吹き飛ぶ。

 ガスッと、バスタードソードの切っ先がグラウンドに刺さった。

 その先は見事に切られていて、両手でつかを握ったままのドニはその断面を見つめるだけ。

 遠巻きのギャラリーも、喋らない。

 沈黙したままのグラウンドに、風で吹かれた物体がカサカサと転がっていく。

『ギャオオオオオッ! やったな、フレムンド!!』

 古龍カーヌスの絶叫が、俺の頭の中で響いた。

 俺はフレムンドじゃないと、何回も言うてるだろーが!


 ◇


 家宝であろう魔剣を叩き折られたドニ・カラベッタは、満面の笑みで、一撃とはすごい筋肉だな! と感想を述べた。

 お前、それでいいのか!?

 ともあれ、このまま帰したらフレムンド学院のメンツに関わるらしい。

 颯爽と現れたのは――

「次は、私が相手をする……」

 少女だが、尖った両耳。
 長い銀髪と、翠色すいしょくの目。

 白兵戦をするとは思えない、動きやすいワンピースだ。

「エルフ……」

 首肯した少女は、自分の体を守るように杖を回転させつつ、答える。

「そうよ? 名は、アマスティア。これでも、あなたよりは長く生きている。そして――」
 
 タンッ

 アマスティアが、杖の下部分でグラウンドを叩いた。
 俺の立体的な視界で、急速な反応。

 瞬間的に、横へ飛ぶようなベクトルを自分の足の裏へ。
 横から殴られたように吹っ飛びつつ、両手で地面を叩くことで跳ねた。

 着地すれば、先ほど立っていた場所では、土の槍が数本。

(串刺しだな……。しかし、狙いは足?)

 警戒を強めていたら、自分で立てた杖にもたれたまま、アマスティアが話す。

「精霊術を初見でかわしたのは、あなたが初めて……」

 整った顔だが、無表情。

 よく見れば、驚いているようだ。

 おそらく、この学院がなめられないよう、急所を避けつつ、戦闘不能にするだけの怪我を負わせる気だった。

 アマスティアが、両手で杖を回転させつつ、歩き出す。

「では、手加減しない――」

 発動の流れは、もう分かった。

 アマスティアが再びグラウンドから土の槍を作りだそうとした時に、その命令を阻害するだけのジャミングを魔法によってかける。

「……え?」

 不発に終わったことで、動揺するアマスティア。

 俺は魔法で加速して、黒い大剣による突きへ。

 通常の溜めがないまま、彼女は空高く舞った。
 回転しつつも、俺を見ている。

 不自然すぎる動きから、これも精霊術だろう。

 ふわりと降り立ったアマスティアは、驚愕したまま。

 けれど、俺が両手で黒い大剣を構え直したのを見て、すぐに宣言する。

「降参する……」

 その言葉で、グラウンドや校舎の窓際に集まっていたギャラリーがどよめいた。

 教師らしきグループを見たが、お代わりはないようだ。

 黒い大剣を別の空間に仕舞った俺は、帰ろうと――

 女の手が、肩にのった。

「待って……。そういうわけにはいかない」

 鈴を転がすような声で振り向けば、アマスティアがいた。

 それとは別に、ドニ・カラベッタも。

「これで帰したら、マズいどころじゃない! だから――」
「私の夫になるべき」

「そうそう! ここに入学してもらうしか……え?」
「え?」

 ドニと俺は、同じ発言のあとでアマスティアを見る。

 彼女は、頷いた。

「この人は、私の夫になるべき」
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