59 / 78
姫さまを傷物にしたらいけない!
しおりを挟む黒い髪が眼に当たるのだろうか、手の甲でしきりに眼を擦る様子が、 起きている時と違って幼い子供のような仕草で、エリザベスは思わず微笑み、アークの前髪をそっと眼の上から払った。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
92
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る
神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】
元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。
ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、
理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。
今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。
様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。
カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。
ハーレム要素多め。
※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。
よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz
他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。
たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。
物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz
今後とも応援よろしくお願い致します。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる