剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空

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上品な奴隷市場

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 全員が見守る中で、真顔のロワイド・クローはリータを見る。

「そいつは……。ここへ来るのかい?」

「は、はい! カスティーユ公爵と仲が良く、今回は領地の1つである迷宮都市ブレニッケの視察も兼ねていれば」

 言い方で察したロワイドは、ため息を吐いた。

「周りの貴族が大集合。そいつだけ除け者にすれば、末代までの戦争か! まいったね、これは……」

 思わぬトラブルに、悩むロワイド。

 巨体のジャンニは、あっさりと宣言する。

「クラン対抗戦だぜ? いくらジンが強かろうが、『叡智えいちの泉』に勝ち上がる目はねえ!」

「ま、そうじゃな……。ロワイド! 考えすぎも良くないぞ?」

 しかし、そのリーヌス・バーリー男爵の目に留まれば、叔父の威光によって強引にさらっていく可能性が高い。

 ロワイドは、悩んだ末に結論を出す。

「僕が手紙を書こう! 小人族を奴隷にしている腐れ貴族がやってくるから、目立たないようクラン対抗戦を辞退してくれ、と。ジン君の売り込みは、前のコロシアムの決闘で何とかなる」

 けれど、その手紙に返事はなかった。

 ロワイドは不安を隠せないまま、『黄金の騎士団』としての準備を進める。

 『叡智の泉』のエントリーを見た後には、僕が守らねば、と気合を入れて、根回しや情報収集に勤しむ。

「いざとなったら、僕がバーリー男爵と対決してでも彼女たちを守るさ……」

 身を挺して守る姿を見れば、杠葉ゆずりはたちは考え直す。
 『黄金の騎士団』の評判も、良い方向へ変わるだろう。

「ここは、迷宮都市ブレニッケだ……。貴族どもが遊び場にしていい場所ではない!」

 お姫さまを守る勇者になった気分の、ロワイド・クロー。

 彼は、知らない。

 大手クランの『黄金の騎士団』を抱えた時点で、そういった英雄譚とは無縁。
 むしろ、海千山千の貴族に懐柔され、使われる存在であることを……。

 ロワイドに、今の立場を捨てて杠葉たちと再出発をするだけの度胸はない。


 ◇


 コロシアムで開催されるクラン対抗戦は、娯楽が少ない中世ファンタジーの世界でのお祭りだ。

 周辺から人が押し寄せ、それを目当てとする行商人や出店も……。

「はい、買った買った! 一番人気は、やっぱり『黄金の騎士団』――」

 どこが優勝するのか? の賭けも、盛況だ。

 ジンが強くても、数の暴力には敵わない。

 それが、一般的な意見だ。


 ◇


 あっという間に月日が流れて、貴族や参加クランを招いてのパーティーが開かれる。

 主催者はもちろん、領主のペルティエ子爵。

 『黄金の騎士団』と『叡智の泉』も、当然ながら招かれた。

 貴族と平民は、同じ人間ではない。
 まして、暴力だけしか能がない冒険者となれば……。

「どのような連中でしょうな?」
「顔が良ければ――」

 貴族のスペースは、豪華絢爛。
 長テーブルにご馳走が並べられ、庶民の年収レベルの酒が振る舞われる。

 彼らは、相対的に貧相な参加クランが滞在するスペースを見ていた。

 まるで、動物園の珍獣を見る光景だ。

「これより、クラン対抗戦にエントリーした方々をご紹介させていただきます!」

 司会の声で、貴族たちによる拍手。

 けれど、その顔つきは、馬鹿にしきった様子だ。

 ある意味では、クラン対抗戦よりも危険なパーティーが始まった……。


 ペルティエ子爵が主催するパーティーで、洋館のホールにいる面々。

 クラン対抗戦に参加するチームは、居心地が悪い。
 その空間がせまいうえ、煌びやかで優雅な貴族側と大きな差がついているから。

 動物園にいるような貴族サイドに、迷宮都市ブレニッケの冒険者たちは嵐をやり過ごすだけ。

 好き勝手に批評する貴族どもをやり過ごし、彼らが退出した後で、ようやく人心地をつく。

 『黄金の騎士団』の団長であるロワイド・クローは、中高年のレディから好色な目線を向けられ、ゲッソリとしていた。

「少し、甘く見ていたのかもしれないね……」

 普段なら、大勢が集まった場では言わないであろう愚痴すら、飛び出したほど。

 その時に、1人の執事が近づいてきた。

「失礼……。あなたが『黄金の騎士団』の団長、クロー様でいらっしゃいますか?」

「……だとしたら?」

 警戒しながらの返事に、執事は作り笑いのまま。

「我が主、リーヌス・バーリー男爵のお呼びです。『お時間があれば、ぜひ話をしたい』とおっしゃっています」

 まさに、小人族をいたぶっている悪人だ。

 眉をひそめたロワイドは、どうするべきか? と悩む。

 それを見透かしたように、執事は彼の耳元で囁く。

(我が主人は、先ほどの『叡智の泉』に興味を持たれていますよ? あなたが断れば、そちらをお呼びになるでしょう)

 自分が執心している女たちが、貴族の嬲り者にされてしまう。

 最悪の未来を想像したロワイドに、選択の余地はなかった……。
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