剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空

文字の大きさ
上 下
25 / 78

貧乏な騎士爵による勧誘

しおりを挟む
 笑顔のペルティエ子爵は、話題を変える。

「決闘を見るため、周りの貴族が集まっています。せっかくだから、社交のパーティーをする予定ですが、ランストック伯爵も参加されては?」

「ぜひ、お願いいたします」

 参加しなければ、息子のギュンターについても何を言われるやら。

 そう思ったランストック伯爵は、一も二もなく、同意した。

 思わぬ余興を見せたランストック伯爵家と、この地を治めるペルティエ子爵家の2つは、剣ではなく、話術や駆け引きがモノを言うフィールドへ進む。


 ◇


「クラン『叡智えいちの泉』の団長、杠葉ゆずりはさまと、その団員であるジン様でございます!」

 ホールに響いた声と同時に、正装の俺たちは、左右に開かれた大扉を通り抜け、入場した。

 立食パーティーの形式で、白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルの上に、グラスや皿が並ぶ。

 爵位が低い順番で、どんどん入っていき、高位の人物を迎えるのだが――

 今回は、無礼講に近く、そこかしこに人の姿。

 俺たちの入場で、チラッと見るも、すぐ歓談に戻る。

 大人だが、俺の頭1つ分は低い杠葉は、群青色の瞳で、俺を見上げた。

「気にするな! 迷宮都市ブレニッケでは、どれだけ高位でも、面と向かって私たちを馬鹿にできんぞ? ここで冒険者を敵に回せば、タダでは済まない。奴らの腹の中までは知らんが。……お前は、元貴族だったな? 面倒になったら、私に構わず、とっとと帰れ」

 薄い紫のドレスを着た杠葉。

 彼女を見下ろしつつ、確認する。

「いいのか?」

「ああ、構わん……。私も子供ではないから、自分で何とかする! 望乃ののはお前と来たがっていたが、あいつには向いていない。すぐ顔に出るし、こういった場での対処法を知らんからな」

 杠葉は、ギリギリまで粘っていた望乃を思い出したようだ。

 スタスタと歩き、手慣れた様子で近くのテーブルに置かれた中身が入ったグラスを手に取り、どこかへ向かう。

「ハハハ! 僕のほうも、あまり余裕がないので……。申し訳ないが、用事ができた。いったん失礼するよ!」

 歓談していたロワイド・クローは、やっぱり正装だ。
 目ざとく、杠葉の姿を見つけたようで、集まりから抜け、早足に駆け寄っていく。

 その2人を眺めていても仕方ないから、ホールを見回す。

 4人ぐらいの小グループが一定間隔で集まっており、会話。

 壁際に設けられた椅子や、ソファーには、休憩中の人々。

 ふむ……。

 挨拶をする相手もいないし、適当に過ごすか!

 そう決めたことで、用意された料理を物色しつつ、適当に飲み始めた。

 他人と話さない俺を見て、眉をひそめる奴もいたが、気にしない。


「今、いいだろうか?」

 武闘派に特有の、太い声。

 見れば、騎士らしき服を着た男がいる。

 帯剣はしておらず、服装から招待客だと分かった。

「何でしょう?」

「いや、たいした用事じゃない……。有り体に言えば、勧誘に来たのだが――」

 そいつは騎士爵で、コロシアムで圧倒的な力を見せた俺を迎え入れたい、という内容だった。

「すぐに返事をくれとは、言わない。気が向いたら、俺のいる領地を訪ねてくれ! 歓迎するぜ!!」

 片手を振った男は、すぐに背中を向けた。

 去っていく後ろ姿を見ながら、ゆっくりと、息を吐く。

 騎士爵というが、その実態は、僻地の村の代官だ。
 上の貴族は忙しいから、住人を治めつつ、税を取り立てる。

 用心棒の意味合いが強く、モンスターや賊が出たら、村の若い衆を引き連れて討伐することが義務。

 実質的にまとめているのは、村の長老。
 ただし、そいつは貴族ではないため、土地を所有している領主に会える人間が必要だ。
 領主に掛け合い、兵士や騎士団を呼ぶために。

 鎧と盾は、激しい戦闘がなければ手入れで済むし、子孫へ引き継げばいい。
 だが、バトルで暴走しない軍馬は、かなり貴重だ。

 おまけに、良い食事を与えることが必須。
 下手をすれば、馬を買った借金に追われつつ、そいつの食い扶持ぶちで、取り分の税が吹っ飛ぶ。

 一言でいえば、常に貧乏だ。
 畑を耕し、開墾することが、基本。
 鍛錬にもなるから、全くのムダではないが……。

 フェルム王国は、人族が治めている。
 王族を頂点にして、一般的な貴族が、領地を持っている形だ。

 さっきの騎士爵は、貴族じゃない。
 ここの領主であるペルティエ子爵家と同じく、代官をしている間だけの貴族だ。

 貴族と呼ばれるのは、最低でも男爵から。
 平民を貴族に準じる準男爵も、しょせんは名誉職にすぎない。

 ややこしいのだが、騎士団は騎士爵と違う。

 有力な貴族の家にいる令息で、主に次男から下が、主な就職先としている。
 言わば、エリートだ。
 傭兵団の頭と同じ騎士爵なんぞ、相手にされない。

 さっきの男に応じれば、とんでもない過疎村への移住だ。
 あいつの娘か、親戚、もしくは、村の若い女が嫁に来て、取り込まれる。

 悪ければ、中年でタルンタルンの未亡人とかが、酔わせた後で、既成事実を作るだろう。

 若い美女がいれば、上の貴族や有力な商会に宛てがい、村を優遇してもらうよう、頼む。
 もしくは、村の同年代が、すぐに唾をつけ、そのまま子供を作る。
 器量が良ければ、たとえ不細工でも、誰かがキープするだろう。
 女に関しては、残り物に福がない。

 そういう場所は年功序列だから、面倒なことを全て押しつけられ、少しでも逆らえば陰口を叩かれて、立場に関わらず、村八分ってところか?

「冗談じゃないな……」

 小声で呟いた俺は、新しいグラスに持ち替えて、グイッと飲んだ。

 何が悲しくて、僻地の便利屋になるんだか。
 ここでダンジョンに潜り、入手した素材や鉱石を売っていたほうが、よっぽどマシ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...