剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空

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コロシアムの道化(前編)

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 居候をしている、『黄金の騎士団』の本拠地。
 そこの私室に戻ったギュンターは、乱暴に扉を閉めた後で、苛立たしげに声を漏らす。

「たかが子爵の分際で……。伯爵家の次期当主に逆らうとは……」

 だが、ここは彼らの領地だ。
 いくら伯爵家であっても、その威光は通じず。

 最悪の場合は、ひとまず暗殺して、ダンジョン内で行方不明と、実家に連絡される恐れもあるのだ。

 ドサッと、チェアに座り込んだギュンターは、自身の計算違いを嘆く。

「あの女……。今に見ていろ?」

 予定では、自分が姿を現せば、ランストック伯爵家の次期当主として、歓待されるはずだった。

 このような粗暴な地に高貴な自分、それも独身で婚約者のいない若者が、わざわざ訪ねたのだ。
 そうなって、当然。

 ところが、全く相手にされず、それどころか、追放したはずのジンがくだんの令嬢と親しげに話しているではないか!

 あわや毒牙にかかりそうな令嬢をお助けする、ナイトの役目を果たそうとしたものの――

「耐えがたい屈辱だ! ……あいつめ!」

 どれだけ激怒しても、彼らが見ている前で叩きのめされた事実は、なくならない。
 その汚名を雪がなければ、この街すら、まともに歩けないだろう。

 立ち上がったギュンターは、決意に満ちた表情で、外へ歩き出す。


 ――団長の執務室

「ジン君と決闘をしたい……。君は、そう言いたいんだね?」

 ロワイド・クローは、うんざりした表情で、役員机の向こうに立っているギュンターを見た。

 力強く頷いた彼は、意気揚々と語り出す。

「ああ! ペルティエ子爵令嬢をたぶらかし、この私を侮辱した以上、その名誉を回復しなければならない。……貴様らには、とうてい理解できんだろうが?」

 いちいち毒舌を吐いてくるギュンターを受け流しつつ、ロワイドが答える。

「あー、そうだね……。参考までに、どういう形をイメージしているんだい?」

「むろん、公開での決闘だ! 誰の目にも明らかで、私の強さを証明しなければ!!」

 溜息を吐いたロワイドは、顔も見たくない人物に答える。

「ここを統治しているのは、ペルティエ子爵家だ。僕の一存では、貴族同士の話に介入できないよ? 僕からペルティエ子爵に、事情を説明する。君も、実家のランストック伯爵に話してくれ! 『黄金の騎士団』は、君の世話をするよう言われているが、後見人じゃない。そこは承知するように」

 満足そうに頷いたギュンターが、傲慢ごうまんに応じる。

「うむ! 貴様も少しは作法を知っているようで、安心した……。では、失礼する」



 ――1週間後

 迷宮都市ブレニッケにある、コロシアム。

 剥き出しの地面となった丸いグラウンドを囲むように、階段の観客席。
 娯楽に飢えている人々はこぞって押し寄せ、ギュウギュウ詰めで座っていた。

「さー! 賭けるなら、今のうちだよ!」
「焼き鳥は、いかが? 熱々で美味しいよー!」

 イベントの会場としても使われるが、今回は貴族の決闘だ。
 様々な業者が練り歩き、自身の商品をアピールしている。

 人が集まる場所には、活気がある。
 冒険者のように、明日も知れない生活をしている連中は金離れが良く、狙い目だ。

 その一方で、ギュンターは急所だけを守るように工夫した歩兵用のプレートアーマーを着込み、万全の状態。

 これから出場する選手の控室で、ランストック伯爵家から送られてきた魔剣を見る。
 青白い光を放つ、見るからに尋常ではない、ロングソードだ。

「ククク……。これがあれば……」

 さやに納め、左腰に吊り下げる。

 憎きジンを叩きのめし、この機会を最大限に利用するのだ。
 たとえば、そう……莫大な利益を上げている、迷宮都市ブレニッケを手中に収めるとか。

「私の実力を知らしめれば、全員の態度が変わる……。全員がな?」

 彼の頭の中には、ジンを切り伏せ、その勝利による賛美と、万雷のような拍手が降り注ぐ光景だけ。


 ◇


 コロシアムの観客席。
 その中でも、周囲から隔離されたバルコニーのような場所に、貴族たちの姿。

 上には、直射日光をさえぎるための日よけ。
 1人用の椅子に座っているのは、娯楽と聞きつけた、貴族家の方々だ。

 夫人と令嬢が集まっているスペース。

 優雅に、丸テーブルのお茶会だ。
 運ばれてきたワゴンから、白い陶磁器によるポットや、職人による菓子が並ぶ。

 テーブルの中央にはタワーのような銀食器があり、その三段ぐらいのお盆に、様々な軽食が置かれている。

 若い令嬢の1人が、楽しそうに話しかける。

「ねえ、エルザ? どうなの、ギュンター様とは?」

 それを皮切りに、他の令嬢たちも騒ぐ。

「館に押しかけて、熱弁したそうじゃない! ロマンチックよねー!」
「でも、近衛騎士団のテストでボロ負けしたって、聞いたわよ?」
「伯爵家の跡取りだし、顔も悪くないけど……」

 招いたエルザ・ド・ペルティエは、言いたい放題の少女たちに微笑んだ。

「ランストック様とは、何もございませんわ……。ただ、『家の名誉がかかっている』と申されて、お父様がこの場を設けました」

「ふーん?」
「まあ、こんな機会でもないと、私たちが騎士の戦いを見られないか」
「自分から言い出せば、悪い噂が立つものね」
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