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文字通りに腕力だけがモノを言う

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「その着物には、防護の付与がある……。従来では即死か重体になる攻撃でも、ある程度は耐えられる。ただし、過信はするな!」

 俺の説明で、望乃《のの》と衣緒里《いおり》は、こちらを見た。

 ポカンとした様子だ。

「え?」
「そんな高価なものを……」

 2人が『叡智《えいち》の泉』の団長である、杠葉《ゆずりは》を見つめる。

 杠葉は、拠点である図書館の中で椅子に座ったまま、ため息を吐いた。

「そうだ! 総合的な魔法付与がされている……。それを着ていて死ぬことは、あまりないだろう」

「えっと……」
「いくらですか?」

 長テーブルに肘をついた杠葉が、あっさりと告げる。

「いいんじゃないか? くれると言うのだから、ありがたく受け取れ! まさか、お前に、魔法付与のスキルがあったとはな……。この才能だけで、大手の生産クランか、大商会の支部に雇われるだろう。いや、王家か高位貴族のお抱えだな? いつでも転職できる」

「団長!」

 ぷくーっと膨れた望乃が、すぐに叫んだ。

「別に、ここを抜ける気はないよ?」

 安心した望乃だが、杠葉は浮かない顔だ。

「クランの兼任は、禁止されておらん……。ダンジョンに潜るクラン同士ではあり得ないが、素材を加工するクランや流通を牛耳っている商会との兼任は、前例がある! これだけの腕があれば、勧誘されるのは時間の問題だ。今から、考えておく必要があるんだぞ、望乃?」

 諭《さと》された彼女は、プイッと、横を向いた。

 代わりに、俺が質問する。

「そいつらの勧誘を断ったら、やっぱり嫌がらせか?」

「ああ、そうだ! 連中は弱いため、陰険な手段で圧力をかけてくる……。たとえば、傘下の奴らに物を売らせない、買い取らない。取引先を通じて悪い噂《うわさ》を流すとかな? これは、私たちと仲が良い人間、組織にも適用される」

 嘆息した俺は、確認する。

「行きつけの店があったら、そこに卸さない、金を融通しないで、潰すわけか? 自分たちが動かせる人間にも協力させて」

 首肯した杠葉は、うんざりした様子で同意する。

「まあな……。私たちは、まだ『黄金の騎士団』の庇護下。すぐにどうこうとは、ならんだろう……。しかし、他の要素がなければ、だ!」

「俺のエンチャント技能は、それほど貴重か……。けれど、望乃たちが自力でダンジョンに潜り、街中でも身を守ることは――」
「それは否定していないぞ? 前にも言ったが、遅かれ早かれ、『黄金の騎士団』と直接的な対決になる。問題は、他の奴らと揉めて、そこに介入される事態だ!」

 杠葉の発言に、応じる。

「タッグを組まれたら、完全に詰むな……。ダンジョンで稼ぎつつ、早めに引越し先を確保しよう」


 ◇


 冒険者ギルドに立ち寄り、ダンジョンに入ることを申請。

 受付のカウンターで、お役所らしい会話をした後で、自分たちのレベルカードを見る。

 古代魔法のアイテムらしく、偽造ができず、鑑定した結果はリアルタイムで更新される。
 ただし、冒険者ギルドだけにある水晶球に触れた時にだ。

 要するに、自分の実力を証明するため、使えるものの、逆に更新をサボって、相手を油断させる小道具にもなる。

「ずっと忘れていて……というパターン、多いのか?」

 腕を組んだ望乃が、答える。

「んー。まあ、ないか? と言われれば、あるんでしょうけど……。それをやるメリットは、ほとんどないと思いますよ? だって、自分のクランの中で、少しでも強いほうが、立場が良くなりますから! あと、ダンジョンで生死をかけるのに、正しい情報でなかったら、その間に発生した被害を押しつけられます」

「ないか」

「ないですね! 偽造なら、話は別ですけど……」


 俺は、自分のカードを見た。
 レベル1では不自然すぎるため、ある程度は強くした結果。

 名前:ジン
 種族:ヒューマン
 Lv:10
 称号:なし
 スキル:なし

「私のも、見ますか?」

 名前:望乃
 種族:小人
 Lv:1
 称号:なし
 スキル:古代語の読解、鑑定

「俺たち、パッとしないな?」
「ですね!」

 衣緒里
 種族:小人
 Lv:1
 称号:なし
 スキル:古代語の読解、鑑定

「私たちは、力で勝負できない種族ですから……」

 自分のカードを出した衣緒里も、溜息を吐いた。


 彼女たちを慰めるように、励ます。

「そのために、用意したんだ……。さっそく、試してみよう! しかし、このレベル判定は、けっこう適当だな?」

 横を歩いている望乃は、軽く両手を上げた。

 小馬鹿にするように、説明する。

「それは、そうです! この世界では、力こそ全て!! だから、腕力がない人間や、身長が低くて体格に恵まれない人間は、無条件で見下されます!」

 ブンブンと、手を振る望乃。

 それを見た俺は、反対側にいる衣緒里を見た。

「冒険者ギルドの判定は、あくまで参考……。ですが、いつの間にか、この基準がスタンダードになり、評価されない人間は総じて不遇をかこっています。……脳筋だけが正義というわけですよ」

 最後は、小声になった。

 長く息を吐いたことから、衣緒里にも思うところがあるようだ。

「賢さがない時点で、お察しだな?」

 俺のツッコミに、2人とも力強く頷いた。


 ダンジョンの入口が見えてきて、他の冒険者も増えてきた。

 俺たちは、この話題を止める。
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