9 / 78
退けば、ただ奪われるのみ
しおりを挟む
場が、静まり返った。
今度はギャラリーに、怒りのオーラがどんどん満ちていく。
その雰囲気を感じとったロワイド・クローは、差し出していた手を下ろしつつ、急いで取り成す。
「落ち着いてくれ!! 僕たちも入団希望者を試したんだ! 彼にも、自分で決める権利がある!」
向きを変え、作り笑顔で俺と向き合う。
「どのクランを考えているんだ? 自分で言うのも何だが、迷宮都市ブレニッケでは、ここが一番大きいよ?」
言外に、納得できる理由がなければ……。
あるいは、俺が口にしたクランに、予め手を回すつもりだろう。
答えない選択肢も与えないと……。
「ジンは、望乃たちと一緒に『叡智の泉』で働きます!」
場違いに思える可愛い声が、コロシアムに響き渡った。
その発言で、目の前のロワイドが焦る。
どうやら、都合が悪いようだ。
「望乃! 君が勝手に決めることでは――」
「ああ……。これだけ強いのなら、ウチに欲しいな?」
『叡智の泉』の団長である杠葉が、あっさりと認めた。
この3人は、小人族だ。
子供に見えるが、全員とも大人らしい。
語気を荒げたロワイドが、反論する。
「君たちは女3人のクランだ! 男1人を加えるのは、トラブルの元だぞ!? せめて、うちから女を派遣――」
「丁重に辞退するよ、クロー団長? 昨日の昼もバルコニーで、『あたし達がケツを持っているんだ。3人全員で腰を振って、団長を喜ばせ』と聞こえた。お宅の団員だ。そんな連中は、顔も見たくない!」
立ち上がった杠葉は、それを言った女と、そのグループを見据えた。
「心当たりがあるだろう? ……そうか。私の目を見られないほど、図星か」
謂れなき侮辱に、誰かが抗議の声を上げようとしたら、杠葉が先手を打つ。
「ちなみに、その時の会話は録音してある。……そういう魔道具があってな? 嘘だと言うのなら、今ここで再生してやる!」
ジッと見られた女が挙動不審であることから、周囲は事実であると悟った。
誰も、口を開かない。
◇
城のような、『黄金の騎士団』の本拠地。
その上層にある執務室に、主な幹部が集合していた。
頭痛がしている感じのロワイド・クローが、団長として、口火を切る。
「まさか、杠葉の言った通りとは……。僕のメンツは丸潰れだよ! で、言っていたバカ共は?」
女幹部が説明する。
「杠葉団長と『叡智の泉』を侮辱していた団員は、数名でした。彼女たちは自白しており、謹慎させていますが……。問題は、日常的に『叡智の泉』を馬鹿にしていた団員が、少なからず存在していることです」
ドワーフのカリュプスが、呆れたように呟く。
「まあ、気持ちは分からんでもないが……。言質をとられたのは、マズかったの! しかも、他の入団希望者に聞かれた。まあ、そっちは治療費の借金で雁字搦めか、立場を分からせたから、よもや吹聴しないだろう」
ジンにスピードタイプと評されたジャンニは、オーク族の巨体を揺らしながら、吐き捨てる。
「ケッ! 『叡智の泉』が俺たちに寄生していることは、事実じゃねえか……。ロワイドの誘いを蹴ったわけだし、そいつを受け入れた『叡智の泉』ごと干せばいいだろ? そろそろ、身の程を弁えさせろ!」
「それは、そうじゃ……。しかし、あれだけ強いやつを逃したのは惜しかった……。ロワイドと同じで魔法を付与した何かを身に着けていたにせよ、ここまでとはな?」
カリュプスは、しみじみと述懐した。
しばしの沈黙の後で、女幹部が団長に尋ねる。
「ともかく、ジンと彼が入った『叡智の泉』の扱い。それに、『叡智の泉』の3人を侮辱した団員への処遇を!」
座ったままで両腕を組んだロワイドは、結論を述べる。
「僕がコケにされた以上、いずれ『叡智の泉』に何らかの制裁を加える。ただし、今は、こちらが悪者だ。音声の録音はブラフの可能性があるものの、団員から噂が広がることも考慮しなければならない。……侮辱した団員にはペナルティとして、追い詰めない程度の上納か、奉仕活動をさせろ! 結果的にダンジョンで死ぬのは、構わない」
この条件では、『黄金の騎士団』の看板に傷をつけた女どもが、事故に見せかけて殺されることもあり得る。
それも、手っ取り早い解決方法だと、ロワイドは考えた。
溜息を吐いたロワイドが、続きを口にする。
「ジンがあれほど強いことで、『叡智の泉』は注目されるだろう……。本当は、彼を取り込み、恩を仇で返した『叡智の泉』を迷宮都市ブレニッケから永久に追放したいが……。今となっては、うちの結束が失われるだけ」
「まあ、そうじゃな……」
「もしも、『叡智の泉』を貶している奴を調べたら、うちの半分以上が当てはまるだろうよ……。俺を含めて」
カリュプスとジャンニは、それぞれに同意した。
ロワイドが、女幹部に聞く。
「それで、彼と『叡智の泉』の動きは?」
「はい、団長……。彼らはダンジョンに潜り始めて、着々と自分のレコードを塗り替えているようです。まだ初心者のエリアですが……」
ここで、カリュプスが口を挟む。
「金食い虫だった『叡智の泉』が、ジンの加入でようやく独り立ちを始めた。その点は、悪くない。ロワイドは、大いに不満だろうが……。これで、うちの中でも評価が変わっていくだろうよ」
慰めの言葉を付け足したが、肝心のロワイドは、狙っている女たちに男1人が交じり、荒れている。
今度はギャラリーに、怒りのオーラがどんどん満ちていく。
その雰囲気を感じとったロワイド・クローは、差し出していた手を下ろしつつ、急いで取り成す。
「落ち着いてくれ!! 僕たちも入団希望者を試したんだ! 彼にも、自分で決める権利がある!」
向きを変え、作り笑顔で俺と向き合う。
「どのクランを考えているんだ? 自分で言うのも何だが、迷宮都市ブレニッケでは、ここが一番大きいよ?」
言外に、納得できる理由がなければ……。
あるいは、俺が口にしたクランに、予め手を回すつもりだろう。
答えない選択肢も与えないと……。
「ジンは、望乃たちと一緒に『叡智の泉』で働きます!」
場違いに思える可愛い声が、コロシアムに響き渡った。
その発言で、目の前のロワイドが焦る。
どうやら、都合が悪いようだ。
「望乃! 君が勝手に決めることでは――」
「ああ……。これだけ強いのなら、ウチに欲しいな?」
『叡智の泉』の団長である杠葉が、あっさりと認めた。
この3人は、小人族だ。
子供に見えるが、全員とも大人らしい。
語気を荒げたロワイドが、反論する。
「君たちは女3人のクランだ! 男1人を加えるのは、トラブルの元だぞ!? せめて、うちから女を派遣――」
「丁重に辞退するよ、クロー団長? 昨日の昼もバルコニーで、『あたし達がケツを持っているんだ。3人全員で腰を振って、団長を喜ばせ』と聞こえた。お宅の団員だ。そんな連中は、顔も見たくない!」
立ち上がった杠葉は、それを言った女と、そのグループを見据えた。
「心当たりがあるだろう? ……そうか。私の目を見られないほど、図星か」
謂れなき侮辱に、誰かが抗議の声を上げようとしたら、杠葉が先手を打つ。
「ちなみに、その時の会話は録音してある。……そういう魔道具があってな? 嘘だと言うのなら、今ここで再生してやる!」
ジッと見られた女が挙動不審であることから、周囲は事実であると悟った。
誰も、口を開かない。
◇
城のような、『黄金の騎士団』の本拠地。
その上層にある執務室に、主な幹部が集合していた。
頭痛がしている感じのロワイド・クローが、団長として、口火を切る。
「まさか、杠葉の言った通りとは……。僕のメンツは丸潰れだよ! で、言っていたバカ共は?」
女幹部が説明する。
「杠葉団長と『叡智の泉』を侮辱していた団員は、数名でした。彼女たちは自白しており、謹慎させていますが……。問題は、日常的に『叡智の泉』を馬鹿にしていた団員が、少なからず存在していることです」
ドワーフのカリュプスが、呆れたように呟く。
「まあ、気持ちは分からんでもないが……。言質をとられたのは、マズかったの! しかも、他の入団希望者に聞かれた。まあ、そっちは治療費の借金で雁字搦めか、立場を分からせたから、よもや吹聴しないだろう」
ジンにスピードタイプと評されたジャンニは、オーク族の巨体を揺らしながら、吐き捨てる。
「ケッ! 『叡智の泉』が俺たちに寄生していることは、事実じゃねえか……。ロワイドの誘いを蹴ったわけだし、そいつを受け入れた『叡智の泉』ごと干せばいいだろ? そろそろ、身の程を弁えさせろ!」
「それは、そうじゃ……。しかし、あれだけ強いやつを逃したのは惜しかった……。ロワイドと同じで魔法を付与した何かを身に着けていたにせよ、ここまでとはな?」
カリュプスは、しみじみと述懐した。
しばしの沈黙の後で、女幹部が団長に尋ねる。
「ともかく、ジンと彼が入った『叡智の泉』の扱い。それに、『叡智の泉』の3人を侮辱した団員への処遇を!」
座ったままで両腕を組んだロワイドは、結論を述べる。
「僕がコケにされた以上、いずれ『叡智の泉』に何らかの制裁を加える。ただし、今は、こちらが悪者だ。音声の録音はブラフの可能性があるものの、団員から噂が広がることも考慮しなければならない。……侮辱した団員にはペナルティとして、追い詰めない程度の上納か、奉仕活動をさせろ! 結果的にダンジョンで死ぬのは、構わない」
この条件では、『黄金の騎士団』の看板に傷をつけた女どもが、事故に見せかけて殺されることもあり得る。
それも、手っ取り早い解決方法だと、ロワイドは考えた。
溜息を吐いたロワイドが、続きを口にする。
「ジンがあれほど強いことで、『叡智の泉』は注目されるだろう……。本当は、彼を取り込み、恩を仇で返した『叡智の泉』を迷宮都市ブレニッケから永久に追放したいが……。今となっては、うちの結束が失われるだけ」
「まあ、そうじゃな……」
「もしも、『叡智の泉』を貶している奴を調べたら、うちの半分以上が当てはまるだろうよ……。俺を含めて」
カリュプスとジャンニは、それぞれに同意した。
ロワイドが、女幹部に聞く。
「それで、彼と『叡智の泉』の動きは?」
「はい、団長……。彼らはダンジョンに潜り始めて、着々と自分のレコードを塗り替えているようです。まだ初心者のエリアですが……」
ここで、カリュプスが口を挟む。
「金食い虫だった『叡智の泉』が、ジンの加入でようやく独り立ちを始めた。その点は、悪くない。ロワイドは、大いに不満だろうが……。これで、うちの中でも評価が変わっていくだろうよ」
慰めの言葉を付け足したが、肝心のロワイドは、狙っている女たちに男1人が交じり、荒れている。
250
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる