剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空

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退けば、ただ奪われるのみ

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 場が、静まり返った。

 今度はギャラリーに、怒りのオーラがどんどん満ちていく。

 その雰囲気を感じとったロワイド・クローは、差し出していた手を下ろしつつ、急いで取り成す。

「落ち着いてくれ!! 僕たちも入団希望者を試したんだ! 彼にも、自分で決める権利がある!」

 向きを変え、作り笑顔で俺と向き合う。

「どのクランを考えているんだ? 自分で言うのも何だが、迷宮都市ブレニッケでは、ここが一番大きいよ?」

 言外に、納得できる理由がなければ……。

 あるいは、俺が口にしたクランに、予め手を回すつもりだろう。

 答えない選択肢も与えないと……。


「ジンは、望乃ののたちと一緒に『叡智えいちの泉』で働きます!」

 場違いに思える可愛い声が、コロシアムに響き渡った。

 その発言で、目の前のロワイドが焦る。

 どうやら、都合が悪いようだ。

「望乃! 君が勝手に決めることでは――」
「ああ……。これだけ強いのなら、ウチに欲しいな?」

『叡智の泉』の団長である杠葉ゆずりはが、あっさりと認めた。

 この3人は、小人族だ。
 子供に見えるが、全員とも大人らしい。

 語気を荒げたロワイドが、反論する。

「君たちは女3人のクランだ! 男1人を加えるのは、トラブルの元だぞ!? せめて、うちから女を派遣――」
「丁重に辞退するよ、クロー団長? 昨日の昼もバルコニーで、『あたし達がケツを持っているんだ。3人全員で腰を振って、団長を喜ばせ』と聞こえた。お宅の団員だ。そんな連中は、顔も見たくない!」

 立ち上がった杠葉は、それを言った女と、そのグループを見据えた。

「心当たりがあるだろう? ……そうか。私の目を見られないほど、図星か」

 いわれなき侮辱に、誰かが抗議の声を上げようとしたら、杠葉が先手を打つ。

「ちなみに、その時の会話は録音してある。……そういう魔道具があってな? 嘘だと言うのなら、今ここで再生してやる!」

 ジッと見られた女が挙動不審であることから、周囲は事実であると悟った。

 誰も、口を開かない。


 ◇


 城のような、『黄金の騎士団』の本拠地。
 その上層にある執務室に、主な幹部が集合していた。

 頭痛がしている感じのロワイド・クローが、団長として、口火を切る。

「まさか、杠葉の言った通りとは……。僕のメンツは丸潰れだよ! で、言っていたバカ共は?」

 女幹部が説明する。

「杠葉団長と『叡智の泉』を侮辱していた団員は、数名でした。彼女たちは自白しており、謹慎させていますが……。問題は、日常的に『叡智の泉』を馬鹿にしていた団員が、少なからず存在していることです」

 ドワーフのカリュプスが、呆れたように呟く。

「まあ、気持ちは分からんでもないが……。言質をとられたのは、マズかったの! しかも、他の入団希望者に聞かれた。まあ、そっちは治療費の借金で雁字搦めか、立場を分からせたから、よもや吹聴しないだろう」

 ジンにスピードタイプと評されたジャンニは、オーク族の巨体を揺らしながら、吐き捨てる。

「ケッ! 『叡智の泉』が俺たちに寄生していることは、事実じゃねえか……。ロワイドの誘いを蹴ったわけだし、そいつを受け入れた『叡智の泉』ごと干せばいいだろ? そろそろ、身の程をわきまえさせろ!」

「それは、そうじゃ……。しかし、あれだけ強いやつを逃したのは惜しかった……。ロワイドと同じで魔法を付与した何かを身に着けていたにせよ、ここまでとはな?」

 カリュプスは、しみじみと述懐した。

 しばしの沈黙の後で、女幹部が団長に尋ねる。

「ともかく、ジンと彼が入った『叡智の泉』の扱い。それに、『叡智の泉』の3人を侮辱した団員への処遇を!」

 座ったままで両腕を組んだロワイドは、結論を述べる。

「僕がコケにされた以上、いずれ『叡智の泉』に何らかの制裁を加える。ただし、今は、こちらが悪者だ。音声の録音はブラフの可能性があるものの、団員から噂が広がることも考慮しなければならない。……侮辱した団員にはペナルティとして、追い詰めない程度の上納か、奉仕活動をさせろ! 結果的にダンジョンで死ぬのは、構わない」

 この条件では、『黄金の騎士団』の看板に傷をつけた女どもが、事故に見せかけて殺されることもあり得る。

 それも、手っ取り早い解決方法だと、ロワイドは考えた。


 溜息を吐いたロワイドが、続きを口にする。

「ジンがあれほど強いことで、『叡智の泉』は注目されるだろう……。本当は、彼を取り込み、恩を仇で返した『叡智の泉』を迷宮都市ブレニッケから永久に追放したいが……。今となっては、うちの結束が失われるだけ」

「まあ、そうじゃな……」
「もしも、『叡智の泉』を貶している奴を調べたら、うちの半分以上が当てはまるだろうよ……。俺を含めて」

 カリュプスとジャンニは、それぞれに同意した。

 ロワイドが、女幹部に聞く。

「それで、彼と『叡智の泉』の動きは?」

「はい、団長……。彼らはダンジョンに潜り始めて、着々と自分のレコードを塗り替えているようです。まだ初心者のエリアですが……」

 ここで、カリュプスが口を挟む。

「金食い虫だった『叡智の泉』が、ジンの加入でようやく独り立ちを始めた。その点は、悪くない。ロワイドは、大いに不満だろうが……。これで、うちの中でも評価が変わっていくだろうよ」

 慰めの言葉を付け足したが、肝心のロワイドは、狙っている女たちに男1人が交じり、荒れている。
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