知らない国のアリス

うたたん

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5.ジャブジャブ鳥

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間近で見るジャブジャブ鳥はとても大きかった。
何を見てるのかわからない焦点の定まっていない血走った目、半開きのくちばしと、そこからダラリとだらしなく垂れた鳥類特有の野暮ったい円柱状の舌。そして何より大きくずんぐりとした、まるで大きな砂袋の様な体型とそれを包む原色の羽々。
どれも改めて近くで見ると、より一層異様に見えた。

ジャブジャブ鳥の向こう側に見えるレーブルの心配そうな顔。あなたそんな顔も出来るのね。まだ、出会って数時間だから、あなたのこと何も知らないんだけどさ。

警告:回避不可能。迎撃モードニ移行シマス。聖剣レイバーテインヲ召喚

視界の隅にまたあの文字が表示された。途端に私の右手にあのブレードが出現した。自然にその柄を握らされる。
ジャブジャブ鳥はその大きな巨体を左右に揺すってジワジワとにじり寄って来た。
私はブレードを構えてジャブジャブ鳥を牽制した。
構え方なんて分からない。分かるわけない。さっき目が覚めたばかりで、ここがどこかも分からない。私が誰なのかも思い出せない。でも、不思議と体が勝手に動いた。
私の視界にブレードの刃先とジャブジャブ鳥のくちばしが重なって見えた。

報告:聴覚機能ガ回復。回路繋ギマス。ノイズニ注意

「ザッ」っと言う耳鳴りの後、周りの音が蘇った。風の音、木々の葉が揺れる音、レーブルの息遣い。そして何より、ジャブジャブ鳥の下品な「グェェ」という息遣いがきこえた。
今まで聞こえてなかったからか、全ての音を把握できる程よく聞こえた。
ジャブジャブ鳥は翼を広げくちばしを大きく開いた。

「アリス!衝撃波、来るぞ!」

レーブルの声が聞こえる。

「わかってる!」

私はジャブジャブ鳥から目を離さずにそう答えた。一瞬間が空いて、ジャブジャブ鳥が羽をバタバタ奇妙に動かし出した。地面の砂がは巻き上がり空気の塊がジャブジャブ鳥の上方に飛んで行くのが見える。

警告:衝撃波ガ来マス。指示ノ通リニ移動シテクダサイ

赤い文字が走る。更に視界に移動経路が矢印で表示された。

「こうね!」

私は視界の矢印をなぞるように走って移動した。移動中、後ろで木々が砕ける破壊音がした。
ふと気付いた。いつのまにかあれだけ重かったブーツの重みをそれほど感じない。決して速くはないが走ることもできるみたいだ。
私はヨタヨタと体を揺らして歩くジャブジャブ鳥めがけて一気に距離を詰めて、ブレードを打ち下ろした。
二回、三回、そして四回目を繰り出したが、ジャブジャブ鳥はその姿からは想像できない俊敏な動きで全ての攻撃を交わし、最後は醜い翼を振り回して反撃するそぶりをみせるほどであった。
私は堪らず後ろに跳びのき間合いを取る。

警告:低周波ノ衝撃波ガ来マス。回避必須

「回避ってどこに!」

情報:移動後、跳ンデクダサイ。ソノ後ノ横移動ハアシストシマス

ジャブジャブ鳥は再び羽をばたつかせる。捲き上る砂埃、そして視界に矢印が伸びる。

「もう、やってみるしか!」

私は目の前に映し出される矢印の通りに移動を始めた。ジャブジャブ鳥の右側を迂回するように後ろに回り込む。
回り込んだところに丸く地面が光る場所があった。JUMPと書いてあるからそこで飛べばいいのは、わかった。

「アリス!無茶するな、僕がやる!」
「うるさい!今忙しいの!」

丸く地面が光るポイントまでたどり着いた私は、その場でジャンプした。
既にジャブジャブ鳥はこちらを向いている。

目と目があった。
やられると思った。
ジャブジャブ鳥のくちばしが開かれる。
あぁ、これはダメだ。
全てがスローモーションに見える。

そのとき、体が自然に

景色が今まで経験したことのない動きをした。
今まで?そう言えば私は目覚める前は何してたんだろう。全く思い出せなかった。
記憶喪失?まさかね。
そんな事を考えていたら、地面に足がついた。いつのまにか、再びジャブジャブ鳥の後ろに回り込んでいた。

「ぐぇぇぇ!」

ヨタヨタと不細工な動きで振り返るジャブジャブ鳥。攻撃と移動はあんなに速いのに……ははん、さてはこいつ方向転換が苦手なのね。
私はブレードを構える。ジャブジャブ鳥のくちばしとブレードの先を重ねた。
狙うのはあのくちばし。一撃必殺で貫く!
身構え突撃しようと足に力を入れようとした時、レーブルの声がした。

「アリス!もういい!あとは僕がやる!」

レーブルが見えたと思ったら、ジャブジャブ鳥の周りを物凄い速さで動き回った。レーブルの残像すら見えなかった。
打撃音と共に前後左右に打ちひしがれるジャブジャブ鳥。ここまで圧倒的だとちょっと可哀想でもあった。
私は構えていたブレードを振り下ろしその光景をただ、じっと見ていた。

ジャブジャブ鳥の巨体がゆらりと傾き、力無く地面に横たわったとき、それを見届けたのか右手のブレードが消えた。
戦闘が終わったのだった。

「はぁ、はぁ、はぁ、さ……流石にヤバイと思ったよ、いやぁ、無事で何より」

レーブルは肩を大きく揺らしていた。

「ジャブジャブ鳥が君を狙うのは予想外だった。すまん、怪我はないかい?」

私はレーブルの言葉に促され両手、両足などを見回した。大丈夫全部ちゃんと付いている。
そして、両足のブーツの重さも元に戻っていた。少しヨロけそうになってレーブルを心配させた。

「大丈夫かい?」
「うん。このブーツ重いからさ」
「でも、さっきは物凄いスピードで走ってたよ?アリスも高速で移動できるんだね」
「えっ、高速?そんなに?」
「うん!僕ほどではないけどねっ!!」

レーブルがニヤッと笑った。

「ねえ、レーブル?」
「なんだい、アリス?」
「この鳥何匹いるの?」

ダラリとだらしなく、くちばしから舌を出してピクリとも動かないジャブジャブ鳥を見ながらレーブルに聞いてみた。

「ジャブジャブ鳥かい?そうだなぁ、正確に生息数とか分からないけど、結構遭遇するよ!」
「そんなに?」
「うん、大体一時間に一匹見るかな?これはメスだからまだ小さいほうだよ。雄なんてふた回り程大きくてもっと素早いのさ。僕はいつもは走って逃げちゃうんだけどね!」
「今日は何で逃げなかったの!」

レーブルに顔を眺められてる。あー原因は私ね!ヨタヨタとしか歩けないから。
でも、さっきは何で走れたんだろうか。

「アリス、ちょっと疲れたから少し休んで行こう。そのあと女王様に会いに行くよ!」

レーブルは額から流れる汗を拭きつつ笑顔でそういった。
ちょっと待って、女王様なんて……嫌な予感しかしないじゃない……
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