上 下
1 / 1

神様お願いします(怪談・SS)

しおりを挟む
「神様、お願いします。この後の俺の人生、もう後悔しないで済むようにしてください」

 十二月三十一日夜の十二時ちょうど。
近所の寺の除夜の鐘が鳴り終わるとともに、俺は人気のない稲荷神社で祈りだした。

 歳をまたいだ二年参り。十二時過ぎた新年の始まりに、この神社で誰にも知られずに全財産かけて願えば必ず叶うと、クラスメートの透に聞いたのだ。

「俺の人生今まで失敗ばっかりなんです。そして後悔してずっとそれを引きずっちゃうんです。成功体験なんて一回もありません。高校受験も、クラブ活動も、バイト先もクビになり、決死の告白も振られちゃって、失敗と後悔だけの人生なんです。
 どうか俺に後悔のない人生をください。俺の全財産入れますから、よろしくお願いします」

 俺ははそう言うと、持っている財布の中身を全て賽銭箱の上にぶちまけた。
 その時100円玉が一個、賽銭箱の縁にコツンと当たり、チン、チン、チンと神社の石段を転がりだした。

「まっ待て、俺の百円。全財産でなきゃダメなんだよ」
 慌てて追いかける。

 百円玉は跳ね続け、表の国道に飛び出した所でやっと捕まえた。

「ヤッター!」
 叫んだその時、目の前にトラックがいた。

ドン! 
衝撃とともに体が宙に飛ぶ。世界がスローモーションで見えた。
これで俺の人生詰み? 
百円玉なんて追いかけなきゃよかった、俺は後悔した。



 コツン、百円玉が賽銭箱に当たる――
 そのまま跳ねて石段を降っていく。
 チン、チン、チン、俺はそれを黙って見ていた。
 国道に飛び出した百円玉は、やってきたトラックに轢かれて止まった。

 俺はゆっくりと石段を降りて百円玉を拾う。
 トラックのタイヤの跡がくっきりと付いていた。
 それを賽銭箱に入れて、俺は家に帰った。





「おい隆、二年参りに行って願い事したのか?」
休み明け、学校で透にあって聞かれた。

「うん行ったよ。全財産入れた」

「やりィ、俺の勝ち」
 透は、クラスを回って賭け金を集めている。
 つまりあれは透の嘘で、俺は騙されたと言うことだ。

 だけど、怒る気にもならなかった。なぜなら願いは、本当に叶ったのだから。

 冬休みの間、俺は何度も後悔した。その度、俺はあの賽銭箱の前に戻り、人生をやり直した。うまくいくまで。
 俺の人生に後悔はなくなったのだ。


 それから後は思い通りだった。
 どんな馬鹿だって答えを知ってりゃ、テストは満点を取れる。
 女の子への告白だって、何遍失敗したってやり直せばいい。

 透のやつにも、たっぷり仕返ししてやった。大学、就職、全てうまくいくまでやり直した。我ながら根性だけはあると思う。
 そしてついに、就職先の社長令嬢との結婚にこぎつけた。ダメダメだった俺は、夢に見た成功者になったんだ!





 でも疲れた――俺は三十歳にもならないのに、繰り返しの中で、すでに百年以上生きている。

 無理な背伸びで成功したって、苦労と後悔が増えるだけだった。
 お嬢様育ちの女房はわがままで、際限のない要求にため息が出る。
 それでも、結婚してすぐに生まれた娘可愛さに、離婚だけはしないでいた。

 なのにその子が怪我をして、俺が輸血をしようとしたらできなかった。
 血液型が合わない、俺の子じゃなかったんだ。

「文句があるなら、いつでも離婚していいのよ。
 でもその時は会社もクビ。あんたの代わりなんかいくらでもいるんだから」
    ちくしょう、こんな女と結婚さえしなければ……。





 コツン、百円玉が賽銭箱に当たる。
 そのまま跳ねて石段を降っていく。
 チン、チン、チン、石段の数だけ落ちていく。
 何十万回も聞いた音。


 財布を握りしめた、高校生の俺が叫ぶ。

「神様、お願いします。もう終わりにしてください、願いを取り消して」
 俺は死ぬほど後悔した。そして……


 コツン、また百円玉が賽銭箱に当たる。
 そのまま跳ねて石段を降っていく。
 チン、チン、チン、石段の数だけ落ちたら、トラックに轢かれるだろう。
 タイヤの跡を残して。


 また、終わりのない始まりが始まるのだ――


                  
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

茨城の首切場(くびきりば)

転生新語
ホラー
 へー、ご当地の怪談を取材してるの? なら、この家の近くで、そういう話があったよ。  ファミレスとかの飲食店が、必ず潰れる場所があってね。そこは首切場(くびきりば)があったんだ……  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330662331165883  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5202ij/

教師(今日、死)

ワカメガメ
ホラー
中学2年生の時、6月6日にクラスの担任が死んだ。 そしてしばらくして不思議な「ユメ」の体験をした。 その「ユメ」はある工場みたいなところ。そしてクラス全員がそこにいた。その「ユメ」に招待した人物は... 密かに隠れたその恨みが自分に死を植え付けられるなんてこの時は夢にも思わなかった。

終電での事故

蓮實長治
ホラー
4つの似たような状況……しかし、その4つが起きたのは別の世界だった。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」に同じモノを投稿しています。

怖いもののなり損ない

雲晴夏木
ホラー
『純喫茶・生熟り』では、〝いい話〟が聞ける――。あなたもそれを知って、いらしたのでしょう。どうぞ、お好きな席におかけ下さい。怖いものになり損ねた者たちが、今度こそ怖いものになるため、あなたに自身の物語を聞かせようと待っています。当店自慢のコーヒーで気分を落ち着けて、さあ、彼らの話に耳を傾けてください。

鯨井イルカ
ホラー
 主人公の見た悪夢を主軸として進む、オムニバス形式の短編ホラーです。  作中に若干の残酷な描写があります。

ファムファタールの函庭

石田空
ホラー
都市伝説「ファムファタールの函庭」。最近ネットでなにかと噂になっている館の噂だ。 男性七人に女性がひとり。全員に指令書が配られ、書かれた指令をクリアしないと出られないという。 そして重要なのは、女性の心を勝ち取らないと、どの指令もクリアできないということ。 そんな都市伝説を右から左に受け流していた今時女子高生の美羽は、彼氏の翔太と一緒に噂のファムファタールの函庭に閉じ込められた挙げ句、見せしめに翔太を殺されてしまう。 残された六人の見知らぬ男性と一緒に閉じ込められた美羽に課せられた指令は──ゲームの主催者からの刺客を探し出すこと。 誰が味方か。誰が敵か。 逃げ出すことは不可能、七日間以内に指令をクリアしなくては死亡。 美羽はファムファタールとなってゲームをコントロールできるのか、はたまた誰かに利用されてしまうのか。 ゲームスタート。 *サイトより転載になります。 *各種残酷描写、反社会描写があります。それらを増長推奨する意図は一切ございませんので、自己責任でお願いします。

生還者

ニタマゴ
ホラー
佐藤明里(22)は洞窟探検が好きな会社員だった。いつものように、仲間と洞窟に潜ったが、足を踏み外し穴に落ちてしまう。しかし、落ちた先は洞窟とは思えない。果てしなく広いと思わされる真っ暗で迷路のような空間だった。ヘッドライトの寿命と食糧が尽きるまで果たして彼女はそこを脱出できる。 しかし・・・ それは・・・ 始まりに過ぎなかった・・・

デス・アイランド

汐川ヒロマサ
ホラー
死んだはずのクラスメイトに『コカ島』に集まるように言われ高校三年生の男女六人は船で向かった。島に着き、長い山道を登ると山小屋があり、中で見つけた紙には『お前たちを許さない』と書かあり裏には『六人で殺し合え』と書いてあった。本気にしてなかった六人だったが、その夜一人目の犠牲者が出た。いったい誰が……。果たして彼らは生きて島を出られるのか――。

処理中です...