名無しの二人(死神・SS)

源公子

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名無しの二人(死神・SS)

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 俺は幽霊。川辺の草むらで、頭を銃で撃たれた自分の死体の側に立っている。

「やっぱり思い出せませんか? 自分の名前。霊界の死亡届は自己申告制なんです、このまま書類がつくれないと甦りの権利を失って、あなた浮遊霊になって消えちゃいますよ。
私だってマイナス査定されて、退職時期が延長になるんです。
二十四時間、年中無休で百年も働いたのに」

隣に立っている死神がぼやいた。お役所ってのは全く……。

「仕方ないだろ、脳をやられて記憶が全部飛んじまったんだ。クソ! 誰がやったんだ」

「そうだ、あなたを殺した人に聞いてみましょう。相手はプロの殺し屋で、私の同僚が担当しています」

点々と続く血の跡をたどると、着いた所は橋の下のホームレスの小屋の中。  
頭をかち割られ、銃を握りしめた男の死体の側で幽霊と死神が一人ずつ立っている。

「おーい、死神九号」

「ああ一号さん。困った、こちらさんも名前が思い出せないんだ」

ここが俺の住処らしい。
足跡の重なりを見ると、銃を持った殺し屋に気付いた俺が背後から斧を振り下ろし、殺し屋も振り向きざま銃を撃ち、相討ちになったようだ。

「このヤロー、よくも俺を銃で撃ったな」
「それはこっちのセリフだ、よくも私の頭をかち割ってくれたな」

 つかみ合い寸前だったが、お互い幽霊。触ることもできなかった。

「じゃあ、ターゲットの名前は?」
「全然ダメ。こちらさんの車の中のパソコン見たら、ネットで写真と住所だけ知らされて請け負ってます。
 依頼主も名前を知らなかったみたい。なにせホームレスだから」

 軽いなぁ、俺の命。しかし、ここで俺は何をしてたんだ? 

 多種に及ぶ何かの薬物の検査キット。盗んできたらしいたくさんのゴミ袋。
中身を見ると、川向かいの南米Ⅹ国大使館のゴミのようだ。
そのうち警察がやってきた。銃声を聞いた近所の住民が通報したらしい。

「身元の特定は警察に任せましょう。日本の警察は優秀なんだから」

 そこで俺たちは刑事にひっついて事件を洗い出した。
殺し屋の方は、案の定、身元がわからなかった。
(コイツ国籍と戸籍と名前をいくつ持ってるんだ?)。

 俺の方はといえば、死体のDNA検査で、元は女性と判明。
途端に姿が女に戻ったのにはビックリした。おまけに凄い巨乳。

「わあっ、ギャップ萌え」
死神九号の奴、喜んでやがる。
きっとこれが嫌で手術したのね、私。
(あ、言葉遣いまで戻っちゃってる)。

 他に身体的な特徴はなく、指紋も、歯科医の記録もない。
そのはずで、二人とも最近日本に入国したばかり。
それで本国に照会したら、大使館からストップがかかっちゃった。

 なんと私はA国の諜報員で、Ⅹ国の大使館員の不正薬物輸入を調べるため、潜入捜査をしていて、それを阻止するために送られた殺し屋と遭遇してしまったみたい。

 この件は国家機密として不問に付された。大人の事情ってやつね。お役所仕事だわー。
 名前も身元も不明。幽霊と死神が二人ずつため息をつく。
 死神一号は退職延期確定ね。



 霊の処遇は、死んだ土地の管轄になるそうで、私達は閻魔様に裁かれることになった。

「二人とも身元不明、よって書類申請は却下。
 浮遊霊になって消えるか、特例措置として、ココの死役所職員として働いてもらうかだね。
 真面目にやってマイナス査定がなければ、百年後の退職時に、また人間に転生できるよ。
 さて、いま空きがあるのは死神が一人、もう一人は〝閻魔大王〟。私も任期終了なんだ」

 ラッキー! 年中無休の死神よりは絶対楽。座ってられるし、威張れるし。 

「ただし、閻魔大王は二人もいらない。さてどちらを選ぶかだ。
プロの殺し屋じゃ、問題あるし、女の閻魔様ってのも迫力ないし……よし、これで決めるか」

 閻魔様の手が上がる。

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な。か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り。
ボインちゃん(死語)に決定」

 ヤッター!

 と思ったのが大間違い。この国の亡者の数の多さったら。
 二十四時間寝る暇も風呂入る暇もなしの、年中無休。

 上は神様仏様が威張ってるし、下の死神や鬼どもはサボるし(ああ中間管理職)。
 その上、みんな書類書いてる私の胸の谷間を覗くのよ。セクハラ!

 確かに座ってられるけど、座りっぱなしで痔になりそう。死神百十五号(元殺し屋)がこないだドーナツ座布団差し入れしてくれた。持つべきは同期ね。査定プラスしておいた。

 死神九号なんてシャネルの五番。ベッドに入る暇なんてないっつーの。
 それとも風呂入ってないから私が臭いってか? 査定マイナスにしてやる!


                      
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