1 / 1
赤い靴とかくれんぼ(友達・SS・赤い靴⑨)
しおりを挟む
――おばあちゃん、マリね、お友達できたの。お庭でかくれんぼして遊んだの。
でもその子ね、お着物着てるのに靴を履いてるの。
だからね、マリの七五三のときの、もう小さくなった赤い草履をあげても良いかなあ。
――その靴の色は赤だったでしょう。
ああ間違いない、その子はおばあちゃんの昔のお友達よ。
うれしい、また会いに来てくれたんだわ。マリちゃん、仲良くするのよ。
おばあちゃんがマリちゃんぐらいだった頃、今は駐車場になってるお隣に、とっても大きなお家が立ってた。優しい奥様が住んでて、おばあちゃん、よく遊びに行ったの。
そこには小さな女の子がいて、いつもお着物着て、奥様の後ろの方からそーっとこっちを見てるの。お手玉したり、おはじきしたり、おままごとしたり。お花の見える縁側で二人で夢中で遊んだ。奥様は少し悲しそうな顔でそれを見ていた。
そのうち奥様は病気になって、縁側の障子は閉ざされたまま。しばらくして亡くなったと知らされた。
今はあんまり見なくなったけど、お葬式のときには家の周りに、白と黒の二色の幕を張るものなの。でもその家のお葬式の時は、家の塀全部に、あの白黒の幕が張り巡らされて、すごかったのよ。
そうしたら神社の神主さんが「まるで結界だ。結界と言うのは、悪いものが入ってこないように作る囲いのことだよ。何か気になる事でもあるのかねえ」とおしえてくれた。
大人はみんなお葬式に出かけたけど、おばあちゃんは小さいから家でお留守番。
でもあの女の子のことが心配で、縁側の見える塀のとこまで覗きに行ったけど、やっぱり白黒の幕が下がってて、中が見えないの。
ガッカリして帰ろうとしたら、突然幕が膨らんで、モコモコ動いたの。
小さく「出して」って声もした。
慌てて幕を持ち上げたら、壁を背にしてあの女の子が、うずくまってた。
「奥様が死んだからもうここにはいたくない」って言って。
見たらその子、裸足なのよ。
その時初めて、その子とは家の中でしか遊んだことがなかったって気づいた。
女の子は、家の中に閉じ込められていたのね。だから履くものを持ってなかったの。
おばあちゃん、その子をおんぶして自分の家に戻った。
そして小さくなってもう履けなくなった、おばあちゃんの赤いズック靴を、その子に履かせて言ったの。
「お外で遊ぼ」って。
石けり、なわとび、ケンケンパ。かくれんぼが一番面白かった。
だってその子、隠れるの下手なの。
まるで「見つけてちょうだい」って言わんばかりなんだもの。
だからおばあちゃん
「どんなに上手に隠れても、赤いお靴が見えてるよ。見―つけた!」
って言って捕まえて、その子のこと、くすぐった。
そうして二人でいっぱい笑ったの。
でも次におばあちゃんが鬼になって、百数えて振り向くと、あの子はもういなかった。
おばあちゃんの家は隣と違って狭いのに、どんなに探しても見つからない。
「どこいったのぉ……ちゃん」名前を呼ぼうとして気が付いた。
確かに知ってたあの子の名前が、頭の中から消えてる事に。
それっきりあの子とは二度と会ってない。
神主さんにこの子のこと話したら、それは座敷童だと、教えてくれた。
「あの奥さんは遠野の出身だったからな。
ではあの幕の結界は、入ってこないようにするのでなく、出て行かないようにするものだったのか。
名前が消えたのは、その子が自由になりたかったからじゃないかなあ」
物の怪は、名前を知られてしまうと、名前を呼ぶものに支配されるの。
きっと奥様も、そうやってあの子を捕まえたのね。
座敷童のいる家は栄え、去った家は滅びるそうだから。
その証拠に隣の家は不幸が続いて、やがて家を売ってどこかに行ってしまった。
逆にこの家は、それからどんどん良いことがあってお金持ちになって、こんな大きな家に住めるようになった。
おばあちゃんはね、もう長くないの。
おばあちゃんが死んじゃったら、この家もお隣の家みたいになってしまう。
それがずっと心配だった。
でもあの子が見えたのなら、この家はマリちゃんの生きてる間ずっと安心よ。
だからマリちゃんの七五三の赤い草履、あの子にあげてね。
寝るときに枕元に置いとけば、朝にはきっとなくなってる。
かわりに赤いズック靴が置いてあるだろうから、そうしたらその靴を、おばあちゃんのお墓に一緒に入れてちょうだいね。
でもその子ね、お着物着てるのに靴を履いてるの。
だからね、マリの七五三のときの、もう小さくなった赤い草履をあげても良いかなあ。
――その靴の色は赤だったでしょう。
ああ間違いない、その子はおばあちゃんの昔のお友達よ。
うれしい、また会いに来てくれたんだわ。マリちゃん、仲良くするのよ。
おばあちゃんがマリちゃんぐらいだった頃、今は駐車場になってるお隣に、とっても大きなお家が立ってた。優しい奥様が住んでて、おばあちゃん、よく遊びに行ったの。
そこには小さな女の子がいて、いつもお着物着て、奥様の後ろの方からそーっとこっちを見てるの。お手玉したり、おはじきしたり、おままごとしたり。お花の見える縁側で二人で夢中で遊んだ。奥様は少し悲しそうな顔でそれを見ていた。
そのうち奥様は病気になって、縁側の障子は閉ざされたまま。しばらくして亡くなったと知らされた。
今はあんまり見なくなったけど、お葬式のときには家の周りに、白と黒の二色の幕を張るものなの。でもその家のお葬式の時は、家の塀全部に、あの白黒の幕が張り巡らされて、すごかったのよ。
そうしたら神社の神主さんが「まるで結界だ。結界と言うのは、悪いものが入ってこないように作る囲いのことだよ。何か気になる事でもあるのかねえ」とおしえてくれた。
大人はみんなお葬式に出かけたけど、おばあちゃんは小さいから家でお留守番。
でもあの女の子のことが心配で、縁側の見える塀のとこまで覗きに行ったけど、やっぱり白黒の幕が下がってて、中が見えないの。
ガッカリして帰ろうとしたら、突然幕が膨らんで、モコモコ動いたの。
小さく「出して」って声もした。
慌てて幕を持ち上げたら、壁を背にしてあの女の子が、うずくまってた。
「奥様が死んだからもうここにはいたくない」って言って。
見たらその子、裸足なのよ。
その時初めて、その子とは家の中でしか遊んだことがなかったって気づいた。
女の子は、家の中に閉じ込められていたのね。だから履くものを持ってなかったの。
おばあちゃん、その子をおんぶして自分の家に戻った。
そして小さくなってもう履けなくなった、おばあちゃんの赤いズック靴を、その子に履かせて言ったの。
「お外で遊ぼ」って。
石けり、なわとび、ケンケンパ。かくれんぼが一番面白かった。
だってその子、隠れるの下手なの。
まるで「見つけてちょうだい」って言わんばかりなんだもの。
だからおばあちゃん
「どんなに上手に隠れても、赤いお靴が見えてるよ。見―つけた!」
って言って捕まえて、その子のこと、くすぐった。
そうして二人でいっぱい笑ったの。
でも次におばあちゃんが鬼になって、百数えて振り向くと、あの子はもういなかった。
おばあちゃんの家は隣と違って狭いのに、どんなに探しても見つからない。
「どこいったのぉ……ちゃん」名前を呼ぼうとして気が付いた。
確かに知ってたあの子の名前が、頭の中から消えてる事に。
それっきりあの子とは二度と会ってない。
神主さんにこの子のこと話したら、それは座敷童だと、教えてくれた。
「あの奥さんは遠野の出身だったからな。
ではあの幕の結界は、入ってこないようにするのでなく、出て行かないようにするものだったのか。
名前が消えたのは、その子が自由になりたかったからじゃないかなあ」
物の怪は、名前を知られてしまうと、名前を呼ぶものに支配されるの。
きっと奥様も、そうやってあの子を捕まえたのね。
座敷童のいる家は栄え、去った家は滅びるそうだから。
その証拠に隣の家は不幸が続いて、やがて家を売ってどこかに行ってしまった。
逆にこの家は、それからどんどん良いことがあってお金持ちになって、こんな大きな家に住めるようになった。
おばあちゃんはね、もう長くないの。
おばあちゃんが死んじゃったら、この家もお隣の家みたいになってしまう。
それがずっと心配だった。
でもあの子が見えたのなら、この家はマリちゃんの生きてる間ずっと安心よ。
だからマリちゃんの七五三の赤い草履、あの子にあげてね。
寝るときに枕元に置いとけば、朝にはきっとなくなってる。
かわりに赤いズック靴が置いてあるだろうから、そうしたらその靴を、おばあちゃんのお墓に一緒に入れてちょうだいね。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
命の器の物語
源公子
児童書・童話
「置いていかないでよう……」生まれたばかりのカップは、大好きだった。“あの人”の名前も自分の名前もなくしていました。
仲間に出会い、「五つ窪み」と言う新しい名前をもらい、自分を作ってくれた“あの人”の名前を探すため、パートナーを得ようとします。
世界は、カップたちの過ちで本当の姿を失い、本来のあるべき姿をも失っていたのです。あの人の名前を取り返し、正しい願いを言えば、世界は元の正しい姿を取り戻せるのです。
でも、黒くて、でかくて、不器用な五つ窪みは、失敗ばかり。
きれいな踊り子の籠目に心惹かれますが、籠目は意地悪で前途多難。
冬の寒さで次々と追われて死んでいくカップ達。「やがて全ての踊り子が死ぬ冬が来る」。そして“あの人”から届くメッセージ「生き直し」の謎。
五つ窪みは“あの人”の名前を見つけて、「世界を正しい姿」に戻せるのでしょうか?
異世界転生ではない、人外純情ファンタジー。
初出はエブリスタ掲載(未完)2023年大幅加筆しました。
首切り役人と赤い靴 ――アンデルセン異聞
楠 瑞稀
児童書・童話
踊り続ける赤い靴から解放された少女は、神に許され天に召されました。
――では、残された赤い靴はどこへ行ってしまったのか。
そして、少女の足を切り落とした首切り役人は?
誰も知ることのなかった、その後のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
少しも寂しくない一本だけの桜
青空一夏
児童書・童話
桜町は桜並木が見事だった。
どの桜もまとまって咲いていたが、一本だけ寂しい細道に植えられた桜があった。
その桜の木はかわいそうに思われていたが実はとても幸せな木だった。
なぜならば‥‥
【かんけつ】ながれ星のねがい
辛已奈美(かのうみなみ)
児童書・童話
ながれ星の兄弟のお話です。
かん字は小学校2年生までにならうものだけをつかい、それいこうでべんきょうするものはひらがなで書いています。
ひょうしはAIで作ったものをアレンジしました。
クラゲの魔女
しろねこ。
児童書・童話
クラゲの魔女が現れるのは決まって雨の日。
不思議な薬を携えて、色々な街をわたり歩く。
しゃっくりを止める薬、、猫の言葉がわかる薬食べ物が甘く感じる薬、――でもこれらはクラゲの魔女の特別製。飲めるのは三つまで。
とある少女に頼まれたのは、「意中の彼が振り向いてくれる」という薬。
「あい♪」
返事と共に渡された薬を少女は喜んで飲んだ。
果たしてその効果は?
いつもとテイストが違うものが書きたくて書きました(n*´ω`*n)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
【完結】王の顔が違っても気づかなかった。
BBやっこ
児童書・童話
賭けをした
国民に手を振る王の顔が違っても、気づかないと。
王妃、王子、そしてなり代わった男。
王冠とマントを羽織る、王が国の繁栄を祝った。
興が乗った遊び?国の乗っ取り?
どうなったとしても、国は平穏に祭りで賑わったのだった。
さくら色の友だち
村崎けい子
児童書・童話
うさぎの女の子・さくらは、小学2年生。さくら色のきれいな毛なみからつけられた名前がお気に入り。
ある日やって来た、同じ名前の てん校生を、さくらは気に入らない――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる