赤い靴とかくれんぼ(友達・SS・赤い靴⑨)

源公子

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赤い靴とかくれんぼ(友達・SS・赤い靴⑨)

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――おばあちゃん、マリね、お友達できたの。お庭でかくれんぼして遊んだの。   
でもその子ね、お着物着てるのに靴を履いてるの。
だからね、マリの七五三のときの、もう小さくなった赤い草履をあげても良いかなあ。

――その靴の色は赤だったでしょう。
ああ間違いない、その子はおばあちゃんの昔のお友達よ。
うれしい、また会いに来てくれたんだわ。マリちゃん、仲良くするのよ。


 
 おばあちゃんがマリちゃんぐらいだった頃、今は駐車場になってるお隣に、とっても大きなお家が立ってた。優しい奥様が住んでて、おばあちゃん、よく遊びに行ったの。

 そこには小さな女の子がいて、いつもお着物着て、奥様の後ろの方からそーっとこっちを見てるの。お手玉したり、おはじきしたり、おままごとしたり。お花の見える縁側で二人で夢中で遊んだ。奥様は少し悲しそうな顔でそれを見ていた。

 そのうち奥様は病気になって、縁側の障子は閉ざされたまま。しばらくして亡くなったと知らされた。


 今はあんまり見なくなったけど、お葬式のときには家の周りに、白と黒の二色の幕を張るものなの。でもその家のお葬式の時は、家の塀全部に、あの白黒の幕が張り巡らされて、すごかったのよ。

 そうしたら神社の神主さんが「まるで結界だ。結界と言うのは、悪いものが入ってこないように作る囲いのことだよ。何か気になる事でもあるのかねえ」とおしえてくれた。

 大人はみんなお葬式に出かけたけど、おばあちゃんは小さいから家でお留守番。
でもあの女の子のことが心配で、縁側の見える塀のとこまで覗きに行ったけど、やっぱり白黒の幕が下がってて、中が見えないの。

 ガッカリして帰ろうとしたら、突然幕が膨らんで、モコモコ動いたの。
 小さく「出して」って声もした。
 慌てて幕を持ち上げたら、壁を背にしてあの女の子が、うずくまってた。

「奥様が死んだからもうここにはいたくない」って言って。
 見たらその子、裸足なのよ。

 その時初めて、その子とは家の中でしか遊んだことがなかったって気づいた。
女の子は、家の中に閉じ込められていたのね。だから履くものを持ってなかったの。

 おばあちゃん、その子をおんぶして自分の家に戻った。
そして小さくなってもう履けなくなった、おばあちゃんの赤いズック靴を、その子に履かせて言ったの。
「お外で遊ぼ」って。

 石けり、なわとび、ケンケンパ。かくれんぼが一番面白かった。
だってその子、隠れるの下手なの。
まるで「見つけてちょうだい」って言わんばかりなんだもの。

 だからおばあちゃん
「どんなに上手に隠れても、赤いお靴が見えてるよ。見―つけた!」
って言って捕まえて、その子のこと、くすぐった。
 そうして二人でいっぱい笑ったの。

 でも次におばあちゃんが鬼になって、百数えて振り向くと、あの子はもういなかった。
おばあちゃんの家は隣と違って狭いのに、どんなに探しても見つからない。

「どこいったのぉ……ちゃん」名前を呼ぼうとして気が付いた。
確かに知ってたあの子の名前が、頭の中から消えてる事に。
それっきりあの子とは二度と会ってない。

 神主さんにこの子のこと話したら、それは座敷童だと、教えてくれた。
「あの奥さんは遠野の出身だったからな。
ではあの幕の結界は、入ってこないようにするのでなく、出て行かないようにするものだったのか。
 名前が消えたのは、その子が自由になりたかったからじゃないかなあ」

 物の怪は、名前を知られてしまうと、名前を呼ぶものに支配されるの。 
きっと奥様も、そうやってあの子を捕まえたのね。

 座敷童のいる家は栄え、去った家は滅びるそうだから。
その証拠に隣の家は不幸が続いて、やがて家を売ってどこかに行ってしまった。
 逆にこの家は、それからどんどん良いことがあってお金持ちになって、こんな大きな家に住めるようになった。



 おばあちゃんはね、もう長くないの。
おばあちゃんが死んじゃったら、この家もお隣の家みたいになってしまう。
それがずっと心配だった。 
でもあの子が見えたのなら、この家はマリちゃんの生きてる間ずっと安心よ。

 だからマリちゃんの七五三の赤い草履、あの子にあげてね。
寝るときに枕元に置いとけば、朝にはきっとなくなってる。

 かわりに赤いズック靴が置いてあるだろうから、そうしたらその靴を、おばあちゃんのお墓に一緒に入れてちょうだいね。


                          
                              


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