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虹の彼方に(インディアン創世神話・SS)

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 最初の岩の時代に世界はできた。
 創造の始まりの前、世界は暗く無だった。

 大いなる精霊・グレートスピリットは、世界を上と下に分け、上半分に、太陽・月・星を生ませた。

 下半分には大地と海。草・動物・人間を生ませた。それから皆は平和に暮らした。

 それで幸せになるはずだったが、人間達がすべての幸せは自分達が作ったものだと主張した。

 グレートスピリットは人間に腹を立て、それで初めの世界は焼き払い、二つ目の世界を作った。
しかし、その世界も良くなかったので、今度は世界を水の底に沈めた。

 その時、たった一人生き残ったのがコヨーテ爺さんだ。
やっと水が引いた時、大地には生き物たちの沢山の骨があるばかり。


「ワシ一人しかおらんのでは寂しいのう」

 コヨーテじいさんはグレートスピリットに、骨の中にある命に、息を吹き込んでほしいと頼んだ。 
 これが三つ目の世界の始まりだ。

 自分のやったことを悔いたグレートスピリットは、じいさんの願いを叶えてやった。
 精霊の命が風になって吹き渡り、骨達は生き返り、立ち上がった。だが……


「しまった!」

 えらい事になっていた。二つ首の人間とか、上が人間で下は魚とか(人魚だ)
からだが背中でくっついてる奴とか(これが手足の八本ある蜘蛛男イクトミ)
頭の両側に禿鷹の翼がついて飛んでるやつまでいた(これが飛び頭)。

 そして、あっという間に世界の四隅に向かって逃げていった。
 これが世界にいろんな怪物が生まれた瞬間だ。

 爺さんは慌ててグレートスピリットに一度風を止めてもらい、骨を一つ一つ並べ直した。
 それからもう一度、命の風を吹いてもらった。

 コヨーテ爺さん、できるだけやったんだが……やっぱり問題が起きてしまった。
 男の体に女の頭がくっついてたり、女の体に男の頭がくっついたのが何人かできてしまったのだ。

(まあ骨だけで男か女かはよくわからんからな)
 中には腰だけ女の男や、腰だけ男の女とかもいた。
 こうしてお前さんたちⅬGBTが生まれたわけだ。

 そういうわけで今起こっているすべての事は、どのみちコヨーテ爺さんに遡ることができるのだよ。

 おや、笑っているね。笑うのはいい事だ。
インディアンのように、涙を流すことのあまりにも多い民族は、笑いがなくては生きられない。

 グレートスピリットは、お前やワシのようなウインクテ(女男)を差別などしない。
スー族では、戦いや狩りに向いていない男は、女の服を着て女の仕事をすることが正式に認められていた。

 今は老いぼれて、寝たきりのワシだが、赤子の名付け親になり、まじない師として働き、皮にビーズで刺繍をさせたら部族一だった。
 人は皆グレートスピリットの前で、なりたい自分になって良いのだから。

 白人達は、私が男だとわかると、罪人扱いした。
 白人の聖書では女のような男は必ず殺されなければならないのだそうだ。

 白人達はこの世に正しい事はたった一つしかなく、それは自分達の考えだと思っている。
 それ以外は全て罪で悪いことであり、滅ぼすのは正義なのだそうだ。

 だが我等は、あらゆる生き物達と、太陽と大地を分け合う。
 隣人や動物にも同じ土地に住む権利を認めている。
 生きとし生けるもの、全てがワシらの兄弟なのだから。

 だが過去のことは過去のこと。大切なのは現在と未来の事だ。

 宇宙の掟では、幸せが悲しみに、生が死に、繁栄が貧困に変わるものと定められている。
 我らの踊りも祈りも、三回目の滅びが来ないようにと、弱った自然を甦らすために、グレートスピリットに捧げられたものだった。
 だが白人達はそれを野蛮だと言ってムリヤリやめさせた。

 気をつけなさい、四つ目の世界があるかもしれないとグレートスピリットは思っている。    

 いつの日か彼が、山脈や岩をひっくり返すことだろう。そして再び骨に命の息が入る。 
 今その霊たちは山頂に宿り、子孫を見守りながら、きたるべき変化を待っているのだ。


 聖書にも、ノアと洪水と虹の物語がある。我々インディアンにも、虹の啓示がある。

『いつか誰からの指示も命令も受けず、自分が好きな社会を作るために行動する者が現れる。
 それは正義と平和と自由を求め、偉大な精霊の存在を認め、共にある者達だ』と。 

 それを〝虹の戦士〟と言うのだそうだ。

 虹は、あらゆるものの中にあるスピリットと、結びついている。
 お前達ⅬGBTの旗印も七色の虹だ。明日はその色を掲げ、堂々とニューヨークの大通りを行進するがいい。

 ああこんな日が来るとは……ワシの分も、殺されていった他のウインクテ達の分も歩いてきておくれ。
 そしてこの世にはそれぞれ違う生き方があって良いのだと、大声で叫んでやるのだ
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