命の器の物語

源公子

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そして世界の終わり

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7.  そして、世界の終わり

 とても長い時間が過ぎました。
たくさんの塵が元の姿を取り戻し、空へと帰って行きました。
テーブルの世界は、空っぽになり、南北に一本の筋の入った、丸い平らな姿を現していました。

 空は輝く星で埋め尽くされて、あと一つ星が戻れば夜の闇は消え失せるでしょう。
 五つ窪みは、最後のカップの塵の前に立っていました。

「目覚める時が来ました。元の姿に戻ってください」
 五つ窪みの言葉にカップの塵は、凝って形を成しました。
 初めて見るカップでした。白い磁気の体に銀箔で丸い円が描いてあります。

「あなたは誰ですか。名前を教えてください」
 いつものように五つ窪みが聞きました。

「『我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処へ行くのか』その答えを知る者だ。私達から生まれて、私達に帰る者よ」
 五つ窪み驚きました。その言葉は白様から聞いた、中程さんと豆蔵さん――生き直しの萩さんが、前の時代の冬に聞いた、大きなカップが言った言葉だったのです。

「あなたは誰です? 本当の名前を教えてください」
「夜を退けるのを望むもの、お前たちが“月”と呼ぶ者の分身だ」

「月ですって! 僕を作ってくれた命の陶器師さんではなく?」

「夜を退けることを望んだのは、私を作った父なのだよ。
父が全ての被造物を光に変えるよう命じ、命の作り主たる私達――月と太陽が命を作る。それを入れる器を命の陶器師が作った。
兄の光の命と私の夜の命のcafeを注ぎ、新たに生まれた光を集めて夜をなくすことにした。
父の作った被造物の世界が消える時、夜も消えることになっていた。

 ――兄はかわいそうに光を取りすぎて、時々気が抜けると私の影に負けて、暗い日蝕を起こす様になってしまったよ。
ところがテーブルに並べた命の器達に、私の命であるcafeを注ごうとした時、『そんな黒いものを入れるのは嫌だ』と逃げ出した。
何しろ生きていて自由な心を持っていたからな。

 しかし世界の始まりの時、闇は混沌をかき混ぜて光を産んだ。
本当の光は闇の力なしでは生まれないのだ。
それで冬を送って死を与え、戻ってきた命を新しい器に入れて、テーブルに戻す事にしたが、いくら待ってもだれもcafeカップになりたがらない。

 そこで造物主である、命の陶器師と相談して『我々を作った人の名前』と言う謎を作り、解いたものには願いを叶えることにした。
 陶器師に、作りながらいろんなヒントをしゃべってもらってね。

 本当は、豆蔵と中程さんに謎を解かせるつもりで、分身の私がテーブル世界に行ったのだが、なぜか次の年の白ちゃんと黒ちゃんが解いてしまい、願いは違ってしまった。
 ついに『生き直し』までさせて、やっと闇の力であるcafeを注げたわけだ」


「そんな理由で、あんな酷い生き直しをさせたんですか?」

「生き直しはいけないかね。無念に死んでいった者に、もう一度チャンスを与えるのが?」

「全てが悪いとは思わない。でも、なぜあんなにも不幸にならなければならないんです。歌ちゃんや十六夜さんのように」

「あの者たちは、何かを成し遂げて、満足して帰ってきた、輝く金色の心でな。
 苦しみ悩むと言う闇を通らねば、真の心は育たない。
それがなければ、あの者たちは輝くことができなかった。
それに、最後に愛する者に再会もできた。
悪くはなかったと思うよ。
 お前はあのまま生き直しをせずにいたら、幸せだったかな?
 黒い暴れん坊よ」

「僕が黒い暴れん坊!」

「そうだ。お前は珍しく素直にcafeを入れさせてくれるカップだった。
 だが、言葉がうまくなかったから、テーブルの世界におろすのはやめたかったのだが、どうしてもcafeをみんなに届けたいと言い張ってな。
案の定失敗して帰ってきた。
 だが、その後いくら待ってもcafeを入れられる者は現れない。

 カップはますます薄くなり、作れる材料も限界に達して、あきらめるしかないかと思った時、黒ちゃんが戻ってきて、黒い暴れん坊と呼ばれたお前に、もう一度チャンスを与えて欲しいと言った。

 言葉を滑らかにし、cafeは入れずに行けば上手くいくと。
『この者の武器は涙です。人は泣き虫を恐れたりはしないからです』と言ってね。
正直、賭けだったがなんとかなった。
私だって、ヒヤヒヤものだったのだぞ」

 月の分身は大きなため息をついた。

「さて、そろそろ天に帰ろう。
輝きになった仲間と最後の夜の穴が、お前が来るのを待っている。
行ってくれるな五つ窪み、決して冷えない最後のcafeカップよ」

「はい」

 二つの輝く心が天に向かって流れました。
一つは最後の夜の穴に、もう一つは月に。

 そして夜は消え去り、輝く星々は一つに固まり、月は姿を変えて新しい太陽が生まれました。
目的をなし終えたテーブルは二つに畳まれ消えていきます。



 世界は終わり、そしてこの物語も終わるのです。
 


 
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