命の器の物語

源公子

文字の大きさ
上 下
27 / 33

オオジロの舞台~まもなく歴史劇開演

しおりを挟む
 丸太をくり抜き磨いた大小さまざまの筒を叩く者。音の高さが、みんな違います。
 ギロと呼ばれる木の棒に、漆の傷のような横線をたくさんつけて、スティックを擦って音を出す者。
 金属の同じ高さのカップが七つ、体に入れる水の量で音の高さを変え、振り下ろす金属棒がドレミファソラシを奏でます。
 長さが違う木の棒を並んで吊るした、ツリーチャイムを叩く者。
 瓢の中に砂を入れてマラカスのように振る者。
 四角いノコギリをビョンと弾くもの。 
ハルニレの皮を煮る鍋を、逆さにして叩く者。
なんでもアリの物凄いビート感です。
観客も大喜びで、拍子木を合わせて打ち鳴らします。

「あのカンテラの蝋燭、僕が萩さんと作ったんだよ」
 五つ窪みが、ちょっと自慢げにいいました。

 ラッパのように広がった筒の狭い方は塞ぎ、中に蝋燭を立てて光の方向を定めて照らすカンテラは、
 油に芯を浸して照らす灯籠と違い、揺れたはずみに消えたり火事になる危険が少ないのです。
 それでお祭りの舞台の為に、漆の木の実から取れる木蝋を集めて五つ窪みと萩さんで作ったのです。

 芯になる紐を何度も何度もロウに浸して、蝋燭の太さになるまで繰り返す大変な作業でした。
 森中の漆の実を集めても沢山は作れない贅沢な品で、年に一度の満月祭の時だけ使われるのです。

「次は漆黒による謡」
 次々にステージが変わります。 

「あ、真っ黒なカップだ。取っ手がないから縁欠けさんかな。あの色は全身漆なの?」

 五つ窪みの問いに白様が答えます。
「ええ、彼はもともと木のカップで、取手が取れた時漆を塗ったら、金箔なしで傷が治ってしまったの。
 漆も木だし、相性が良かったのかしらね。それと同時に突然声が良くなったの。
 それで、萩さんに頼んであるだけ漆を塗ってもらって、いまではあんなに真っ黒で良い声の、謡手になったのよ。怪我の功名、世の中何が起こるかわからないものね」

 漆椀の漆黒さんとコーラスは素晴らしいものでした。
 ジャグリング、手品、三勺ぐい呑み達によるマスゲーム、笑い話。
 演目は続き、今は休憩。板戸で舞台が閉じられています。

「次はオオジロ様とカルテットによるイリュージョン」

 いつのまにか、四つの篝火の下にカルテットが控えています。板戸がスルスル動くと、丸い舞台の真ん中に、薄い紅色の四角いベールを被ったオオジロが、一本の笏を持って立っています。凄い存在感です。 

 ジャラン、笏についた四つの金の輪がぶつかり合って鳴り響きます。
 その動きに、トン、シャンと、カルテットの鈴が呼応します。
 トン、ジャラン。トン、ジャラン。オオジロの笏が、一人で歩く様に舞台を回り出します。
 オオジロが浮かせて動かしているのです。
 一つ目の篝火のそばにくると、突然シャリンと笏が割れ、一本の金の輪の着いた笏が、その場でトントンと足踏みをします。
 残った笏は進み続け、次の篝火に来るとまた一つ、新しい笏が足踏みを始めます。
 トン、ジャラン。シャンリン、トン。くり返す音と、怪しい篝火の揺れる灯りの中、魅入られた観衆は声もなく其れを見つめていました。

 四つの笏が四つの篝火のそばに揃ったその時――。
「来《こ》よ!」
 オオジロの叫びと共に、シャンと鈴を鳴らして四つの篝火の下から現れたカルテットが、其々の笏の上に飛び乗り、くるくるとまわりだしたのです。
皿回しならぬカップ回しです。その早い事!

「おおおー!」「凄い」
 カン、カン、カン、カン、カン、拍子木が踊り場中に鳴り響きます。

 その時、廻るカルテットを支える笏がゆっくりと上に浮き上がり出しました。
上へ、上へ、
 踊り場の一番上の席より、もっと上へ――。

 ジャラン! 突然四つの笏は、輪のついた先に四つのカップを乗せたまま、横に倒れました。
 各頂点にカップを乗せたまま、東西南北を向き、繋いだ正方形の形になると、四つのカップはその上をハッ、トン、シャンとまわりだしたのです。

「天より言祝ぎもうす」
 オオジロの言葉に、会場は拍子木の音で割れんばかりです。

「お戻り申せ」
 オオジロの次の言葉に、四隅にたって取っ手を中央に向けるカルテット。
 途端に四本の笏は下に向かって落ち、カップ達も投げ出されて、オオジロのベールに落ちていきます。
 もう少しで落ちるという寸前、四つの取っ手は繋がり、一つになります。
 いつもの四葉のクローバーです! そうして回転しながら、ゆっくりとオオジロのベールに着地すると、オオジロのレースの四隅が持ち上がり、カルテットを包みます。
 同時に奈落が開き、オオジロはゆっくりと沈んでいったのです。
 後に残ったのは、いつの間にか一つに戻った笏。ジャラン、ジャランと舞台の奥で足踏みをしています。

「これにて終演」

 オオジロの声が舞台の下から響くと、笏はパタリと倒れてライトが消えました。
 観客の打ち鳴らす拍子木の歓声の中、木戸板がスルスルと舞台を覆い、次の舞台の準備に入ります。

 門番さんの案内の声。
「次は歴史劇『白様・黒様/冬物語』です。開演までしばらく休憩」

「今年は『白様・黒様/冬物語』か。去年の『オオジロと硯/もう一度逢いたい』は凄かったよな。十六夜がアレを踊り切ったときは、俺涙が止まんなかったよ」

「最後に、新人の生まれたてがまた、『もう一度逢いたい』を踊るらしいぞ。今回は十六夜の時とは振り付けをだいぶ変えたらしいが、あの踊りは命を削るというじゃないか。雪ちゃんで大丈夫なのかな」

「でもあの子は、『城のペチカでもとても冬は越せないだろう』って鋼が言ってた。それなら死ぬ前にやりたい事をやらせてやろうって考えらしいよ」

 北山の仲間たちの話す言葉に、五つ窪みは踊り場を覗きながら少し震えました。
 ――死ぬ前にやりたい事をやらせてやろう――雪ちゃんは、大丈なのでしょうか?

 門番さんのアナウンスが、響きます。

「いよいよ歴史劇、開演です。皆様お手数ですが、見やすいように、ステージ正面に席を詰めて移動してください」  

 門番さんのアナウンスに円形の踊り場の座席にバラバラに座っていたカップ達が、移動をはじめます。確認の後、門番さんがキャストの名前を読み上げました。

「演者は、白様・黒様を、夏場面と冬場面の二交代で、『カルテット』。
 中程さんを『鋼』。豆蔵を『切り欠きの萩さん』。名無しの大きなカップを、『オオジロ様』。
 紅とその影を、初お披露目の新人『雪ちゃん』。尚、雪ちゃんはトリで『もう一度逢いたい』を踊ります。謡は漆椀の『漆黒』。コーラスと場面転換は『三勺ぐい呑みのマスゲーム軍団』と北山の有志の方々です」

 会場が歓声に包まれました。早くも拍子木を打ち鳴らしだす者がいます。
 閉ざされていた戸板が動き、第一幕の始まりです。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

千尋の杜

深水千世
児童書・童話
千尋が祖父の家の近くにある神社で出会ったのは自分と同じ名を持つ少女チヒロだった。 束の間のやりとりで2人は心を通わせたかに見えたが……。 一夏の縁が千尋の心に残したものとは。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

処理中です...