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デュラハンの切り札
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異次元と同じように赤い景色だが、澄んだ空気が満ちている……気が付くと、俺とデュラハンは夕焼けの野原に立っていた。離れた場所に、みんなもいる。
俺が剣を構えると、デュラハンも構えを取った。
霊感は来ない……デュラハンに斬り込む気がないからだろう。まだ、『メガクラッシュ』も届かない間合いだった。
突然、辺りの気温が10℃近く下がる。と、デュラハンが口を開いた。
「聞けい、ジュータ・イスルギよ! こちらもただ、異次元に篭っていたわけではないぞ。我が主へと報せは届けられている。この地には既に、『レギオン』の一部が来ているのだ!」
声と共に、夕日に染まる地面から何かが浮かび上がる。
……現れたのは幽霊だった。まるで燐光のように薄ぼんやりとした、人の形が次々と現れたのだ。
豪奢な貴族の、鎧を身に付けた戦士、あるいは市民の、みすぼらしい奴隷の幽霊が、際限なく地の底から湧き出てくる……低級霊だ。
彼らは単体ならば、とても弱い。銀の武器、あるいは祝福を受けた武器さえ持てば、一般人でも余裕で勝てるほどである。思考力もほとんどなく、盲目的にこちらに突っ込み、生気を吸い取るだけの存在だ。
しかしそれは、尋常な数ではなかった。
数百、数千、あるいは万を越えよう大群を目にして、マリオンが叫ぶ。
「あ、あっ……あれだぁ! オレは、あれにやられたんだ!」
ダリアは杖で地面に魔方陣を描くと、素早いステップで跳ね回った。彼女の周囲に光が迸る……『ゲート』だ。ダリアは叫ぶ。
「ユーフィンに避難してるからぁ、終わったら呼びに来なさぁいっ!」
杖を構えるダリア、ガタガタと震えるマリオン、飛び出してこようとするシャルロット、それを抑えるウラギール……光は皆を飲み込むと、あっという間に消えてしまった。
デュラハンと大量の幽霊の真っ只中に、俺は取り残される。
だが、恐れはない。
なぜならそれは……マリオンに聞いてた通りだったから。
デュラハンが剣を振り抜き、命令する。
「幽霊共よ! 全てを飲み込め!」
地に満ちる幽霊が、空中に浮遊する幽霊が、未だ地から湧き出す幽霊たちが、俺に殺到する!
デュラハンは、俺と距離を保ったままだ。前回の戦いで、俺のスキルの有効範囲を見ているからだ。
俺は幽霊に触れられる前に、『メガクラッシュ』を打ち込んだ。
あっという間に、千に近い幽霊が消滅した。しかし、後続の幽霊は構わずに俺に突っ込む。
と、同時にデュラハンも地を駆けた。
そして幽霊の何体かが、ついには俺の身体に触れて……そのまま素通りした。取りつく事はかなわない。
「な……なにぃ!?」
デュラハンの動きが、驚愕に固まる。
俺は2発目の『メガクラッシュ』を撃ち、また千に近い幽霊を消滅させる。
さらに3発目、4発目……すでに幽霊の軍勢は、3分の1が消えていた。
デュラハンが慌てて片手を上げて、幽霊の動きを止める。
俺は一息ついてから、デュラハンに向かって言った。
「……ふぅ。お前さ、俺のスキルを『カウンター』と同じ、『物理無効』かなんかだと思ったろ? 『物理無効』なら生命力吸収が効くもんなぁ……」
デュラハンは答えない。
きっと奴の予定では、スキルの合間に幽霊の何体かが俺に取り付き、それによって生命力を奪いとるはずだったのだ。
もちろん、俺は『メガクラッシュ』で取り付いた幽霊を吹き飛ばす。しかし、一度に数体の幽霊に取り付かれては、おそらく10秒と持たずに意識を失っていたはずだ。どれだけ吹き飛ばしても、これだけの数で際限なく飲み込めば、いずれ限界がくるだろう。
だが、そうはならなかった……実は、俺とマリオンは、ある仮説を立てていたのだ。
それは【神は『カウンター』を盗まれたから『メガクラッシュ』を作った】と言うものだった。
この仮説は、俺たち『転生者』にしか立てられない。
……普通、神と言えば全知全能で威厳のある姿を想像するんじゃないか?
だけど、実際に神に会った、俺とマリオンは知っている。あの女神様は適当極まりなくて、やる気の感じられない存在だった。きっと神はこの世界を面倒だと感じていて、それでも滅ぼすわけにいかないから、仕方なしに厄介事を転生者に押し付けてるのだ。
伝説級のスキルを持った人間が現れれば、地上のトラブルは必然的にそいつの元に集まることになる。強大なモンスターやドラゴンの討伐、国同士のいざこざまで、誰もがそいつを頼るだろう。
しかも転生者には血縁や祖国のしがらみがなく、それなりに知恵もあり、人死にを嫌うお人好しばかり。神が面倒みなくても、彼らは勝手に地上を平和にしてくれる。
要するに転生者は、『神が楽をするためのシステム』なのだ。
しかし、そんなある日の事だった……いつものように転生者を送り出したら、なんと死霊術士に負けてしまい、オマケに『カウンター』まで盗られてしまった!
アンデッドは寿命で死ぬことがない。しかも『カウンター』は強力無比で、まともに戦えばまず負けない。ひとつのレアスキルは『世界で一人だけしか所持できない』のだから、『カウンター』の回収は永遠に不可能になってしまう……これはマズい!
そこで新たな転生者として、俺が送り込まれたんだろう。女神の真の狙いは、『カウンター持ちのアンデッド』と俺をぶつけて、俺に倒させる事だったのだ。
つまり『メガクラッシュ』は、『対カウンター用のスキル』なのだ。何も考えずに連発してるだけで『カウンター』に勝てるスキル……それが、『メガクラッシュ』なのである。
で、あるならば。
いくら神が適当だとしても、『カウンター』を盗まれたのと同じ負け方を、俺にさせるはずがない。それでは堂々巡りで、また面倒が増えるだけ。
そこで実装した新スキルには、『完全無敵』という今までになかったチートな要素を盛り込んだ。さすがに使い放題だと強すぎると思ったのか、「体力フルで二十回」などという、これまた思いつきとしか思えない、適当な制限もつけた。
……本当にふざけてる。言わば俺は、『調整不足のままで投入されたゲームキャラ』みたいに『いい加減な存在』なのだろう。こんなめちゃくちゃな筋書き、デュラハンだって彼を作り出した死霊術士にだって、想像できなかったに違いない。
俺は余裕の笑いを浮かべ、あざけるように言ってやった。
「で、どうする? もう一度、幽霊を突っ込ませるか? もしくは別次元に逃げ込む? まあ、また引っ張り出してやるけどね……そしたら今度は、幽霊を集める時間があるのかなぁ? それとも無様に背を向けて、走って逃げてみるかい? お前、生きてた時は剣聖とか呼ばれてたらしいじゃん。プライドないなら、それもいんじゃね?」
かくいう俺は、勝てない相手なら逃げてもいいと思ってる。バトルには相性がある。『戦略的撤退』は恥ではない。かの剣豪宮本武蔵も、自分より強い相手とは戦わずに逃げたと聞く。
なら、なぜこんな挑発めいた事を言ったのかといえば……実は俺にとって、走って逃げられるのが一番キツいからだった。
しかしデュラハンは、挑発に乗ったわけでもないだろうが、剣を構えて相対して笑う。
「グフフ。主の命を遂行したいが、もう策がない。わしに勝ち目はないだろう……だが、逃げはせぬ! ここまで予想を超えられると、いっそ清々しく感じるわ。お前とは小細工なしで戦いたい。万策尽きたなら今度こそ、愚直に道を貫くまでよ! 我が身、朽ち果てるまで戦わせてもらおうぞ!」
言うや否やデュラハンは、大量の幽霊を引き連れて、臆することなく真っ直ぐに向かってきた。
もう、止まるつもりはないのだろう。
俺は武器を構えて、迎え撃つ。
もちろん俺も、最後まで止めるつもりはなかった
俺が剣を構えると、デュラハンも構えを取った。
霊感は来ない……デュラハンに斬り込む気がないからだろう。まだ、『メガクラッシュ』も届かない間合いだった。
突然、辺りの気温が10℃近く下がる。と、デュラハンが口を開いた。
「聞けい、ジュータ・イスルギよ! こちらもただ、異次元に篭っていたわけではないぞ。我が主へと報せは届けられている。この地には既に、『レギオン』の一部が来ているのだ!」
声と共に、夕日に染まる地面から何かが浮かび上がる。
……現れたのは幽霊だった。まるで燐光のように薄ぼんやりとした、人の形が次々と現れたのだ。
豪奢な貴族の、鎧を身に付けた戦士、あるいは市民の、みすぼらしい奴隷の幽霊が、際限なく地の底から湧き出てくる……低級霊だ。
彼らは単体ならば、とても弱い。銀の武器、あるいは祝福を受けた武器さえ持てば、一般人でも余裕で勝てるほどである。思考力もほとんどなく、盲目的にこちらに突っ込み、生気を吸い取るだけの存在だ。
しかしそれは、尋常な数ではなかった。
数百、数千、あるいは万を越えよう大群を目にして、マリオンが叫ぶ。
「あ、あっ……あれだぁ! オレは、あれにやられたんだ!」
ダリアは杖で地面に魔方陣を描くと、素早いステップで跳ね回った。彼女の周囲に光が迸る……『ゲート』だ。ダリアは叫ぶ。
「ユーフィンに避難してるからぁ、終わったら呼びに来なさぁいっ!」
杖を構えるダリア、ガタガタと震えるマリオン、飛び出してこようとするシャルロット、それを抑えるウラギール……光は皆を飲み込むと、あっという間に消えてしまった。
デュラハンと大量の幽霊の真っ只中に、俺は取り残される。
だが、恐れはない。
なぜならそれは……マリオンに聞いてた通りだったから。
デュラハンが剣を振り抜き、命令する。
「幽霊共よ! 全てを飲み込め!」
地に満ちる幽霊が、空中に浮遊する幽霊が、未だ地から湧き出す幽霊たちが、俺に殺到する!
デュラハンは、俺と距離を保ったままだ。前回の戦いで、俺のスキルの有効範囲を見ているからだ。
俺は幽霊に触れられる前に、『メガクラッシュ』を打ち込んだ。
あっという間に、千に近い幽霊が消滅した。しかし、後続の幽霊は構わずに俺に突っ込む。
と、同時にデュラハンも地を駆けた。
そして幽霊の何体かが、ついには俺の身体に触れて……そのまま素通りした。取りつく事はかなわない。
「な……なにぃ!?」
デュラハンの動きが、驚愕に固まる。
俺は2発目の『メガクラッシュ』を撃ち、また千に近い幽霊を消滅させる。
さらに3発目、4発目……すでに幽霊の軍勢は、3分の1が消えていた。
デュラハンが慌てて片手を上げて、幽霊の動きを止める。
俺は一息ついてから、デュラハンに向かって言った。
「……ふぅ。お前さ、俺のスキルを『カウンター』と同じ、『物理無効』かなんかだと思ったろ? 『物理無効』なら生命力吸収が効くもんなぁ……」
デュラハンは答えない。
きっと奴の予定では、スキルの合間に幽霊の何体かが俺に取り付き、それによって生命力を奪いとるはずだったのだ。
もちろん、俺は『メガクラッシュ』で取り付いた幽霊を吹き飛ばす。しかし、一度に数体の幽霊に取り付かれては、おそらく10秒と持たずに意識を失っていたはずだ。どれだけ吹き飛ばしても、これだけの数で際限なく飲み込めば、いずれ限界がくるだろう。
だが、そうはならなかった……実は、俺とマリオンは、ある仮説を立てていたのだ。
それは【神は『カウンター』を盗まれたから『メガクラッシュ』を作った】と言うものだった。
この仮説は、俺たち『転生者』にしか立てられない。
……普通、神と言えば全知全能で威厳のある姿を想像するんじゃないか?
だけど、実際に神に会った、俺とマリオンは知っている。あの女神様は適当極まりなくて、やる気の感じられない存在だった。きっと神はこの世界を面倒だと感じていて、それでも滅ぼすわけにいかないから、仕方なしに厄介事を転生者に押し付けてるのだ。
伝説級のスキルを持った人間が現れれば、地上のトラブルは必然的にそいつの元に集まることになる。強大なモンスターやドラゴンの討伐、国同士のいざこざまで、誰もがそいつを頼るだろう。
しかも転生者には血縁や祖国のしがらみがなく、それなりに知恵もあり、人死にを嫌うお人好しばかり。神が面倒みなくても、彼らは勝手に地上を平和にしてくれる。
要するに転生者は、『神が楽をするためのシステム』なのだ。
しかし、そんなある日の事だった……いつものように転生者を送り出したら、なんと死霊術士に負けてしまい、オマケに『カウンター』まで盗られてしまった!
アンデッドは寿命で死ぬことがない。しかも『カウンター』は強力無比で、まともに戦えばまず負けない。ひとつのレアスキルは『世界で一人だけしか所持できない』のだから、『カウンター』の回収は永遠に不可能になってしまう……これはマズい!
そこで新たな転生者として、俺が送り込まれたんだろう。女神の真の狙いは、『カウンター持ちのアンデッド』と俺をぶつけて、俺に倒させる事だったのだ。
つまり『メガクラッシュ』は、『対カウンター用のスキル』なのだ。何も考えずに連発してるだけで『カウンター』に勝てるスキル……それが、『メガクラッシュ』なのである。
で、あるならば。
いくら神が適当だとしても、『カウンター』を盗まれたのと同じ負け方を、俺にさせるはずがない。それでは堂々巡りで、また面倒が増えるだけ。
そこで実装した新スキルには、『完全無敵』という今までになかったチートな要素を盛り込んだ。さすがに使い放題だと強すぎると思ったのか、「体力フルで二十回」などという、これまた思いつきとしか思えない、適当な制限もつけた。
……本当にふざけてる。言わば俺は、『調整不足のままで投入されたゲームキャラ』みたいに『いい加減な存在』なのだろう。こんなめちゃくちゃな筋書き、デュラハンだって彼を作り出した死霊術士にだって、想像できなかったに違いない。
俺は余裕の笑いを浮かべ、あざけるように言ってやった。
「で、どうする? もう一度、幽霊を突っ込ませるか? もしくは別次元に逃げ込む? まあ、また引っ張り出してやるけどね……そしたら今度は、幽霊を集める時間があるのかなぁ? それとも無様に背を向けて、走って逃げてみるかい? お前、生きてた時は剣聖とか呼ばれてたらしいじゃん。プライドないなら、それもいんじゃね?」
かくいう俺は、勝てない相手なら逃げてもいいと思ってる。バトルには相性がある。『戦略的撤退』は恥ではない。かの剣豪宮本武蔵も、自分より強い相手とは戦わずに逃げたと聞く。
なら、なぜこんな挑発めいた事を言ったのかといえば……実は俺にとって、走って逃げられるのが一番キツいからだった。
しかしデュラハンは、挑発に乗ったわけでもないだろうが、剣を構えて相対して笑う。
「グフフ。主の命を遂行したいが、もう策がない。わしに勝ち目はないだろう……だが、逃げはせぬ! ここまで予想を超えられると、いっそ清々しく感じるわ。お前とは小細工なしで戦いたい。万策尽きたなら今度こそ、愚直に道を貫くまでよ! 我が身、朽ち果てるまで戦わせてもらおうぞ!」
言うや否やデュラハンは、大量の幽霊を引き連れて、臆することなく真っ直ぐに向かってきた。
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