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やるべきことは決まっている
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すでに何体目の『四脚』か……雪乃は覚えていない。300までは数えたはずだから、それ以上だろう。
どうせ奴らは、斬っても潰しても、際限なく復活する!
ならば、その速度を上回って、殲滅すればいい!
雪乃は武器を振るい、敵を蹂躙する。あの頃とは身体の大きさも、性別さえも違うというのに……懐かしい武器が、この手によく馴染む。
己に向けて放たれる銀の鞭を、ハンマーで撥ね返しながら地を駆ける!
すれ違いざまに真っ二つに斬って捨て、街路樹を足場に跳び上がる!
落ち際に鎧兵と組み合う『四脚』にハンマーを叩き込み、後ろも見ずに次の敵を探す!
ひとつの動作が、次を倒す動作に繋がり、それが間断なく繰り返される!
彼女の走る先々で、秒の合間で緑光が輝く。垂直にそびえるビルの壁を駆け上がり、冷たい夜の空気を吸い込み、血の滲む喉で、雪乃は吠えた。
……それは、怒りと喜びに満ちた、『獣』の雄叫びだった。
その人形の命令機構に使われているのは、非常に難解な言語形態だった。だが、言語は変わっても、計算の結果は変わらない。宇宙共通の言語は『数式』である。
いくつかの動き、そして時折、外部から下されているであろう命令を比較し、アニスは十一進数が、中枢に使われてる事を突き止めた。
幸いにして、それらの作業には、あまりカロリーを要しなかった。物理的な改変よりは、情報の操作の方が、はるかに楽だったのだ。
即座にリアクターによって、人形に新たな命令を与える。
深い青の人形は、踵を返して地下通路へと向かった。大型の重機によって作られた通路は、この巨体でも、十分に通れる広さがある。
幸いな事に、水路内のケイ素生物が、極端に減っているようだ。先ほどまで、奥が見えないほど膨大な量が、びっしり並んでいたのだが……おそらく、街に散らばった他の人形の対処へと、向かったのだろう。
人形は滑るような動きで地を走り、水路へと入っていく。
その肩に跨りながら、アニスはどこかで、雪乃の叫びを聞いた気がした……。
炙山父は、自由の利かなくなった身体を動かした。
なにか、『異常』が起こっている……それも、絶対に無視できないほどの『異常』が!
即座にケイ素生物から情報をがもたらされ、状況が判明した。
敵の数が、急激に増えたのだ。
しかも、どれも強大である。とても放置しておけない。
それにしても、これほどの戦力を一気に投入して見せるとは……本当に驚くべきことだ!
上空に、突如として出現した巨大構造物は、かつての自分以上の物理改変、空間移動能力を兼ね備えているらしい。
強力な電磁波を、上空に感じる。どうやら命令を下している人間は、一番高い建築物の頂上にいるようだった。
おそらく、あの人間。荒走空那か……なるほど、そこにいたわけだな。
ケイ素生物に街中を捜索させていたが、ようやく居場所が掴めた。自分は地の底、相手は空の上とは、奇しくも正反対の場所である。
しかし、このような異常な攻撃力があるのだったら、彼を真っ先に潰すべきだった。炙山家から、無事に帰すべきではなかったのだ。
全力を出していなかったのは、彼も同じというわけか。
それにしても……本当に不思議だ。なぜ、今まで『こんな力』を隠していたのだろう?
もっと早い段階で、これを『発動』していれば、簡単に決着がついたのではないか?
例えば、そう。こちらが本気を出して、全てのケイ素生物を引き出す前に、この戦力で叩かれていたら、おそらく短時間で勝負は決まっていたろうに。
もっとも今、その理由を考える余裕はない。
このままのペースで行ったら、各部に集められた人間を、改変する前に助けられてしまうからだ。
優先事項を、変更する必要がある。
生存本能に従って、自己を守り、敵を殲滅するのだ。
敵さえいなくなれば、また『部品』を集める事はできる。なにせ、世代を渡って娘達にさせていた、長い長い演算は、やっと終わったのだから。
炙山父は、頭上の森林公園に集まるよう、全てのケイ素生物に命令を下す。
『急げ、集まれ、全力をもって迎え撃て。敵は必ず、そこへ来る』
なぜなら彼らの目的は、自らが助かる事ではなく、この計画の阻止だからだ。
空那は屋上のフェンス越しに、至る所で緑光の瞬く街を見下ろす。
街中には、誰もいない。だから、どれだけ大暴れしても、人々に危害は及ばない。
なにせ、『無傷で街の人々を確保する』……その意思だけは、空那の操る鎧兵も、炙山父の操る人工生命体も、共通の命令事項なのだから。万が一にも、人々を傷つけない場所で戦いたいのだ。
ゆえに戦いの場は、一極に集中する。この時点において、街中での散発的な取っ組み合いなんてものは、何の意味もないし、作戦的にも価値がない。
すでに炙山父は、空那達が中枢部を狙っている事も、その位置を把握している事も、気づいているはずだ。
きっと炙山父は、自分と同じように考える……だから空那は、『それ』が出現する前から、鎧兵達に『そこ』へ向かうように指示を出していた。
そして……ほどなくして広い森林公園の中央に、奇怪で巨大な影が出現する!
それは、見上げるほどの体躯であった。八肢を以て持ち上がり、空に屹立する姿は、まるで逆さになった枯れた大木を思わせる。その全長は、鎧兵よりも、ミモザホテルよりも、遥かに大きい。おそらく、200メートル以上あるだろう。
時折、淡く緑色に発光しながらその身を震わせる様は、幻想的で震えるほど美しく……一方で、人の理の通じない、絶大な恐怖を感じさせる。
だが、空那の顔に焦りはない。
彼は、己の操る鎧兵達に、命令を下す。
簡潔にして、単純明快。
『聞け! 神の軍隊よ! 我らが敵は、そこにいる! 我らの敵を、全力で殲滅せよ!』
つまりだ。これはもはや、『戦争』なのである。
闘うのは、『仮初の神』の軍と、『消え去りし神』の軍……この街を舞台に、両雄は激突する。
どうせ奴らは、斬っても潰しても、際限なく復活する!
ならば、その速度を上回って、殲滅すればいい!
雪乃は武器を振るい、敵を蹂躙する。あの頃とは身体の大きさも、性別さえも違うというのに……懐かしい武器が、この手によく馴染む。
己に向けて放たれる銀の鞭を、ハンマーで撥ね返しながら地を駆ける!
すれ違いざまに真っ二つに斬って捨て、街路樹を足場に跳び上がる!
落ち際に鎧兵と組み合う『四脚』にハンマーを叩き込み、後ろも見ずに次の敵を探す!
ひとつの動作が、次を倒す動作に繋がり、それが間断なく繰り返される!
彼女の走る先々で、秒の合間で緑光が輝く。垂直にそびえるビルの壁を駆け上がり、冷たい夜の空気を吸い込み、血の滲む喉で、雪乃は吠えた。
……それは、怒りと喜びに満ちた、『獣』の雄叫びだった。
その人形の命令機構に使われているのは、非常に難解な言語形態だった。だが、言語は変わっても、計算の結果は変わらない。宇宙共通の言語は『数式』である。
いくつかの動き、そして時折、外部から下されているであろう命令を比較し、アニスは十一進数が、中枢に使われてる事を突き止めた。
幸いにして、それらの作業には、あまりカロリーを要しなかった。物理的な改変よりは、情報の操作の方が、はるかに楽だったのだ。
即座にリアクターによって、人形に新たな命令を与える。
深い青の人形は、踵を返して地下通路へと向かった。大型の重機によって作られた通路は、この巨体でも、十分に通れる広さがある。
幸いな事に、水路内のケイ素生物が、極端に減っているようだ。先ほどまで、奥が見えないほど膨大な量が、びっしり並んでいたのだが……おそらく、街に散らばった他の人形の対処へと、向かったのだろう。
人形は滑るような動きで地を走り、水路へと入っていく。
その肩に跨りながら、アニスはどこかで、雪乃の叫びを聞いた気がした……。
炙山父は、自由の利かなくなった身体を動かした。
なにか、『異常』が起こっている……それも、絶対に無視できないほどの『異常』が!
即座にケイ素生物から情報をがもたらされ、状況が判明した。
敵の数が、急激に増えたのだ。
しかも、どれも強大である。とても放置しておけない。
それにしても、これほどの戦力を一気に投入して見せるとは……本当に驚くべきことだ!
上空に、突如として出現した巨大構造物は、かつての自分以上の物理改変、空間移動能力を兼ね備えているらしい。
強力な電磁波を、上空に感じる。どうやら命令を下している人間は、一番高い建築物の頂上にいるようだった。
おそらく、あの人間。荒走空那か……なるほど、そこにいたわけだな。
ケイ素生物に街中を捜索させていたが、ようやく居場所が掴めた。自分は地の底、相手は空の上とは、奇しくも正反対の場所である。
しかし、このような異常な攻撃力があるのだったら、彼を真っ先に潰すべきだった。炙山家から、無事に帰すべきではなかったのだ。
全力を出していなかったのは、彼も同じというわけか。
それにしても……本当に不思議だ。なぜ、今まで『こんな力』を隠していたのだろう?
もっと早い段階で、これを『発動』していれば、簡単に決着がついたのではないか?
例えば、そう。こちらが本気を出して、全てのケイ素生物を引き出す前に、この戦力で叩かれていたら、おそらく短時間で勝負は決まっていたろうに。
もっとも今、その理由を考える余裕はない。
このままのペースで行ったら、各部に集められた人間を、改変する前に助けられてしまうからだ。
優先事項を、変更する必要がある。
生存本能に従って、自己を守り、敵を殲滅するのだ。
敵さえいなくなれば、また『部品』を集める事はできる。なにせ、世代を渡って娘達にさせていた、長い長い演算は、やっと終わったのだから。
炙山父は、頭上の森林公園に集まるよう、全てのケイ素生物に命令を下す。
『急げ、集まれ、全力をもって迎え撃て。敵は必ず、そこへ来る』
なぜなら彼らの目的は、自らが助かる事ではなく、この計画の阻止だからだ。
空那は屋上のフェンス越しに、至る所で緑光の瞬く街を見下ろす。
街中には、誰もいない。だから、どれだけ大暴れしても、人々に危害は及ばない。
なにせ、『無傷で街の人々を確保する』……その意思だけは、空那の操る鎧兵も、炙山父の操る人工生命体も、共通の命令事項なのだから。万が一にも、人々を傷つけない場所で戦いたいのだ。
ゆえに戦いの場は、一極に集中する。この時点において、街中での散発的な取っ組み合いなんてものは、何の意味もないし、作戦的にも価値がない。
すでに炙山父は、空那達が中枢部を狙っている事も、その位置を把握している事も、気づいているはずだ。
きっと炙山父は、自分と同じように考える……だから空那は、『それ』が出現する前から、鎧兵達に『そこ』へ向かうように指示を出していた。
そして……ほどなくして広い森林公園の中央に、奇怪で巨大な影が出現する!
それは、見上げるほどの体躯であった。八肢を以て持ち上がり、空に屹立する姿は、まるで逆さになった枯れた大木を思わせる。その全長は、鎧兵よりも、ミモザホテルよりも、遥かに大きい。おそらく、200メートル以上あるだろう。
時折、淡く緑色に発光しながらその身を震わせる様は、幻想的で震えるほど美しく……一方で、人の理の通じない、絶大な恐怖を感じさせる。
だが、空那の顔に焦りはない。
彼は、己の操る鎧兵達に、命令を下す。
簡潔にして、単純明快。
『聞け! 神の軍隊よ! 我らが敵は、そこにいる! 我らの敵を、全力で殲滅せよ!』
つまりだ。これはもはや、『戦争』なのである。
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