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がんばれ空那の40分風呂地獄
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さすがはスイートルームである。
風呂は驚くほど広かった。二人どころか、四人は入れる広さであった。
ただ、だからと言って本当に四人が一度に入るのは、この風呂の設計上、想定されていないだろう。
女三人に男一人。身体にバスタオルを巻いた四人は、湯気の篭る浴室へと入ってゆく。
風呂の湯にはミルク色の入浴剤が溶けていて、浸かってしまえば身体は見えない。
空那は早速、湯船に入ろうとするが、後ろから腕を掴まれてしまう。雪乃だった。
「ちょっと、空ちゃん! みんなで入るんだから、先に身体を洗うのがマナーでしょう」
やはり、おかしい。どう考えても、おかしい。
この風呂に入るまでの一連の流れ……雪乃と砂月が口にしてたのは、完璧に屁理屈であった。完全に言いがかりであった。というか、アレは脅迫であった。極悪であった!
だが、決して嫌だと言い切れない、悪であった……。
……無理であるッ!
健全な男子ならば、このお風呂の誘いを断ることなど、絶対に不可能である!
イヤだと言い切る奴がいたら、そいつは女に興味がないに違いない!
空那は、首から上が燃えるような恥ずかしさの中、そう思いながら、チラリと横を見た。
……雪乃の大きな胸の谷間が、バスタオルの隙間から見て取れる。空那は知っている。あの胸の感触を、知っている……。
(バ、バカっ! こんな時に、なにを想像してんだ、俺は……!)
と、雪乃がそんな彼の視線に気づいて、顔を赤らめる。
「んもう、空ちゃん……どこ見てるのよう?」
「わ、悪い!」
「ううん、そうじゃなくって……見たいなら、バスタオルなんて、言い出さなきゃよかったのにって思ったのよ。……それとも、今から外す? 私はいいよ?」
「い、いや! 外さないでくれっ!」
空那は、あわあわと手を振る。
実は全員が付けてるバスタオル、彼の理性がギリギリで出した条件だった。
だってせめて、バスタオルでも装着してもらわなければ、耐えられないではないか!
今までは、なんとか二人のアタックを交わし続けてきた。
好き好き光線、効いてないフリした!
キスされても耐えましたとも!
おっぱい押し付けられても我慢したよ!?
太ももが擦り付けられても頑張った!
それもみんな、二人を大切に思ってたからだ。前世とやらでおかしくなってるのだから、そんなのに流されちゃダメだと考えたから。
だけど……間近で見る……裸だけは、ダメだ!
それはもう、絶対にアウトだ!
……しかも、一緒にお風呂だとぉ!?
そんな事になってしまったら、さすがに理性も思い出も家族愛も友情も吹っ飛んで、ただ肉欲のままに溺れてしまうだろう!
で、そんな想像していたら……あーあ、やっちゃった。
空那だって、男の子である。健康なんである。どうにもならない肉体の変化も、当然起こってしまうわけである。で、そうなった状態を、三人の乙女に見られるのは、あまりに恥ずかしい。
そしてそれは、バスタオル一枚では隠すのが、非常に難しい。
だから。慌てて椅子に座ろうとすると、尻がペロリと撫でられた。
思わず硬直すると、砂月がいやらしく笑ってる。
「ウヒヒ……昔を思い出すなぁ……。よく一緒に入ったよねぇ!」
その言葉に、雪乃の顔が蒼白になる。
「わけわかんないこと言わないでよっ!」
「わけわかんないこと言ってないし。昔って、子供の頃だし」
「子供が、そんないやらしい手つきするわけないでしょう!」
ぎゃいぎゃい言い合いを続ける二人を無視して、空那は気づかれないように前屈みになりながら、手早く身体を洗う。……ぜんぜん洗えている気がしないが、ここはとにかくスピード命だっ!
だって早く洗わないと、また砂月辺りが妙な事をしはじめて、それでどうにかなっちゃうかもしんない。
ふと視線を移すと、アニスはどこまでもわが道を行くように、ミストサウナのスイッチを入れて、出てくる霧に気持ちよさそうに身をゆだねている。その腹が見事に丸く膨れているのを見て、やはり、さっきの食べ物は全部あそこに入っているのだなぁ、と感心してしまう。
しかし……アニスは、いい……。
彼女はとってものんびり屋さんで、エロスだのなんだのから、どこまでも切り離された存在な気がする。
(あ……よかった。先輩みてたら、どうにか収まってきたぞ)
そんな風にボヘーっとしてると、突然、頭にシャンプーがかけられた。ビックリして振り向こうとすると、砂月が頭に手を伸ばしてきた。
「ね、おにいちゃん! 頭、洗ってあげる!」
「……い、いらない」
しかし、砂月は笑顔で返す。
「いらなくないよ! 必要だよ! かわいい妹のご奉仕だもん、遠慮しないでいいよ!」
「遠慮してない」
「お客様、かゆい所はございませんかー?」
「お前のその自分勝手な振る舞いが、精神的にすっごくかゆい」
度重なる抗議の声も空しく、砂月は勝手にシャンプーを泡立て始める。
ワシャワシャと軽い音が鳴り、頭皮を軽く爪で撫ぜられる。流れる泡に視界を塞がれ、空那は抵抗を諦めて溜め息を吐いた。
闇の中で、「あ、炙山先輩っ、背中流しますねえ」だの、「ほんっとバカ勇者、胸だけはデッカイわねー」だの、「おみずおいしい」だの、「炙山先輩!? そんな所に入ってる水、飲まないほうがいいですよ!」だのと言った声。
やがて、優しくシャワーがかけられ、砂月が、「終わったよ」と軽い調子で言う。
それから雪乃の「早く湯船であったまろ」に、砂月の「ねー、バスタオル、もういらないよね?」、アニスの「おゆ、しろい」、そして雪乃の「あ、炙山先輩。タオル、こっちにまとめちゃいますねー」
……続く、いくつかの水が跳ねる音。
「炙山先輩! 狭いんで、私の脚の間に座ってください。頭、胸に寄りかけちゃっていいですから……」
「やわらかい」
「ねえ、ちょっと。アタシの隣はおにいちゃんのスペースなんだけど……ほら、早く入ってよ! おにいちゃーん!」
砂月が呼びかける。だが、空那は動かない。
目を開ければ、きっとそこには、男子の本懐とも言うべき、肌色桃源郷な光景が広がっているに違いない。だから彼は……逆に、ギュッと目を閉じる。
(お、俺は勇気がないから開けないんじゃないっ! 勇気があるから、目を開けないんだ! ……だ、だって……さすがにこれ見たら、我慢できないじゃんっ!? 理性が本能にノックアウトされちゃうものっ!)
見たら終わり、見たら終わり、見たら終わり……茹だりそうな頭で思いながら、立ち上がる。
と、アニスが彼のバスタオルを、そっと引っ張った。
「まえみて、あぶない」
この状況。アニスの手は、まさに天から降りてきた蜘蛛の糸だ。
その手を握り、真っ赤な顔で敬礼すると、彼は叫んだ。
「ア、アニス先輩っ! も、申し訳ありません! 不肖、荒走空那! 現在、諸事情により目を開ける事ができません! よ、よ、よろしければ、誘導願います!」
まるで、仲間を守るため敵の前線に、爆弾持って片道決死の特攻かける、余命いくばくな負傷兵のような口調だった。アホ丸出しである。
実の所、この場に至って、空那もかなりパニックになっていた。
すると、パチャリと軽い水音の後、誰かが背後にぴたりとくっつく。
「こっち」
腰に巻いたタオル越しに、濡れた小柄な体と膨らんだ腹がピトリと密着し、腰に細い腕が回される。途端、空那は戦慄した。
「あ!? ああぁっ! せ、先輩っ! そ、それは、マズいでありますぅっ! 非常にマズいでありますーっ!」
なぜ、マズいかは……当然、湯船にいるであろう二人の視線だ。
直接は見えないが、いつか感じたような不穏なオーラが、ズモモーっと湧き出してるのが感じられる!
しかもしかも、さらにアウトなことに。アニスは背が低いので、前に回した手が、とってもアブないとこにある!
(せっかく、どうにか収まってたのに!?)
確かにアニスは彼にとって、エロスとは無関係の存在である。だが……直接触られれば、それはもはや単なる『刺激』であり、話が別だ!
「せ、先輩!? アニス先輩! そ、それは……あまりにも酷であります! ……ハッ、そうか!? もしや先輩は、この状況でも耐えて見せろと、そう仰られるのですね!? 心頭滅却すれば、火もまた涼しとっ! よ、よーし……尊敬する先輩のご命令とあらばっ! この荒走空那、見事やり遂げてみせる所存にございますッ! はんにゃーはら~みたじ~、しょうけんごうんかいくう」
で、無心になろうと直立不動で合掌し、タオル一枚で般若心経を唱え始めた。
まったく、この男も毎度、パニクるとよくわからん真似をするのであった。
さすがは砂月の兄というべきか、雪乃の幼馴染というべきか、やはり根っこは同じであり、こうなった空那はもはや、興奮した砂月に負けず劣らず、頭おかしい。と、
「空ちゃん?」
「おにいちゃん?」
とびきり冷たい二人の声と共に四本の腕が伸びてきて、バカ丸出しの空那は、乱暴に湯船に叩き込まれた。
地獄とも天国とも……いや! やはり間違いなく地獄と感じられる入浴から、さらに30分後……。
四人は、ようやく仮眠を取っていた。アニスは別のベッドに寝ているが、空那、砂月、雪乃の三人は同じベッドに寝ている。
他の部屋にもベッドはあったのだが……またぞろ「離れないほうがいい」だの、「子供の頃は一緒に寝た」だの主張しはじめ、いつまでたっても決まりそうにないので、三人で寝ることになったのだ。
両隣でスヤスヤ寝息を立てる、バスローブ姿のしどけない、二人の可愛い女の子。なのに、空那はぜんぜん楽しくない。
当然だった。起きた後の心配もあるが、どれだけ積極的に迫られても、空那はどちらにも手を出すことはできないのだ。まさに、生殺しの状態だ。
左右から漂う石鹸の清潔な香りと、絡み付いてくる柔らかな温もりの中、怒りともやるせなさとも取れる感情で、なんだか泣きたくなってきた。
(なんだよ、こいつらっ! こんな状況、寝れるわけねーだろっ!?)
そう思っていたが、体は充分に疲れていたらしい。
暗い部屋で目を閉じて、規則正しい二人の息遣いを聞くうちに……空那も、いつしか眠っていた。
風呂は驚くほど広かった。二人どころか、四人は入れる広さであった。
ただ、だからと言って本当に四人が一度に入るのは、この風呂の設計上、想定されていないだろう。
女三人に男一人。身体にバスタオルを巻いた四人は、湯気の篭る浴室へと入ってゆく。
風呂の湯にはミルク色の入浴剤が溶けていて、浸かってしまえば身体は見えない。
空那は早速、湯船に入ろうとするが、後ろから腕を掴まれてしまう。雪乃だった。
「ちょっと、空ちゃん! みんなで入るんだから、先に身体を洗うのがマナーでしょう」
やはり、おかしい。どう考えても、おかしい。
この風呂に入るまでの一連の流れ……雪乃と砂月が口にしてたのは、完璧に屁理屈であった。完全に言いがかりであった。というか、アレは脅迫であった。極悪であった!
だが、決して嫌だと言い切れない、悪であった……。
……無理であるッ!
健全な男子ならば、このお風呂の誘いを断ることなど、絶対に不可能である!
イヤだと言い切る奴がいたら、そいつは女に興味がないに違いない!
空那は、首から上が燃えるような恥ずかしさの中、そう思いながら、チラリと横を見た。
……雪乃の大きな胸の谷間が、バスタオルの隙間から見て取れる。空那は知っている。あの胸の感触を、知っている……。
(バ、バカっ! こんな時に、なにを想像してんだ、俺は……!)
と、雪乃がそんな彼の視線に気づいて、顔を赤らめる。
「んもう、空ちゃん……どこ見てるのよう?」
「わ、悪い!」
「ううん、そうじゃなくって……見たいなら、バスタオルなんて、言い出さなきゃよかったのにって思ったのよ。……それとも、今から外す? 私はいいよ?」
「い、いや! 外さないでくれっ!」
空那は、あわあわと手を振る。
実は全員が付けてるバスタオル、彼の理性がギリギリで出した条件だった。
だってせめて、バスタオルでも装着してもらわなければ、耐えられないではないか!
今までは、なんとか二人のアタックを交わし続けてきた。
好き好き光線、効いてないフリした!
キスされても耐えましたとも!
おっぱい押し付けられても我慢したよ!?
太ももが擦り付けられても頑張った!
それもみんな、二人を大切に思ってたからだ。前世とやらでおかしくなってるのだから、そんなのに流されちゃダメだと考えたから。
だけど……間近で見る……裸だけは、ダメだ!
それはもう、絶対にアウトだ!
……しかも、一緒にお風呂だとぉ!?
そんな事になってしまったら、さすがに理性も思い出も家族愛も友情も吹っ飛んで、ただ肉欲のままに溺れてしまうだろう!
で、そんな想像していたら……あーあ、やっちゃった。
空那だって、男の子である。健康なんである。どうにもならない肉体の変化も、当然起こってしまうわけである。で、そうなった状態を、三人の乙女に見られるのは、あまりに恥ずかしい。
そしてそれは、バスタオル一枚では隠すのが、非常に難しい。
だから。慌てて椅子に座ろうとすると、尻がペロリと撫でられた。
思わず硬直すると、砂月がいやらしく笑ってる。
「ウヒヒ……昔を思い出すなぁ……。よく一緒に入ったよねぇ!」
その言葉に、雪乃の顔が蒼白になる。
「わけわかんないこと言わないでよっ!」
「わけわかんないこと言ってないし。昔って、子供の頃だし」
「子供が、そんないやらしい手つきするわけないでしょう!」
ぎゃいぎゃい言い合いを続ける二人を無視して、空那は気づかれないように前屈みになりながら、手早く身体を洗う。……ぜんぜん洗えている気がしないが、ここはとにかくスピード命だっ!
だって早く洗わないと、また砂月辺りが妙な事をしはじめて、それでどうにかなっちゃうかもしんない。
ふと視線を移すと、アニスはどこまでもわが道を行くように、ミストサウナのスイッチを入れて、出てくる霧に気持ちよさそうに身をゆだねている。その腹が見事に丸く膨れているのを見て、やはり、さっきの食べ物は全部あそこに入っているのだなぁ、と感心してしまう。
しかし……アニスは、いい……。
彼女はとってものんびり屋さんで、エロスだのなんだのから、どこまでも切り離された存在な気がする。
(あ……よかった。先輩みてたら、どうにか収まってきたぞ)
そんな風にボヘーっとしてると、突然、頭にシャンプーがかけられた。ビックリして振り向こうとすると、砂月が頭に手を伸ばしてきた。
「ね、おにいちゃん! 頭、洗ってあげる!」
「……い、いらない」
しかし、砂月は笑顔で返す。
「いらなくないよ! 必要だよ! かわいい妹のご奉仕だもん、遠慮しないでいいよ!」
「遠慮してない」
「お客様、かゆい所はございませんかー?」
「お前のその自分勝手な振る舞いが、精神的にすっごくかゆい」
度重なる抗議の声も空しく、砂月は勝手にシャンプーを泡立て始める。
ワシャワシャと軽い音が鳴り、頭皮を軽く爪で撫ぜられる。流れる泡に視界を塞がれ、空那は抵抗を諦めて溜め息を吐いた。
闇の中で、「あ、炙山先輩っ、背中流しますねえ」だの、「ほんっとバカ勇者、胸だけはデッカイわねー」だの、「おみずおいしい」だの、「炙山先輩!? そんな所に入ってる水、飲まないほうがいいですよ!」だのと言った声。
やがて、優しくシャワーがかけられ、砂月が、「終わったよ」と軽い調子で言う。
それから雪乃の「早く湯船であったまろ」に、砂月の「ねー、バスタオル、もういらないよね?」、アニスの「おゆ、しろい」、そして雪乃の「あ、炙山先輩。タオル、こっちにまとめちゃいますねー」
……続く、いくつかの水が跳ねる音。
「炙山先輩! 狭いんで、私の脚の間に座ってください。頭、胸に寄りかけちゃっていいですから……」
「やわらかい」
「ねえ、ちょっと。アタシの隣はおにいちゃんのスペースなんだけど……ほら、早く入ってよ! おにいちゃーん!」
砂月が呼びかける。だが、空那は動かない。
目を開ければ、きっとそこには、男子の本懐とも言うべき、肌色桃源郷な光景が広がっているに違いない。だから彼は……逆に、ギュッと目を閉じる。
(お、俺は勇気がないから開けないんじゃないっ! 勇気があるから、目を開けないんだ! ……だ、だって……さすがにこれ見たら、我慢できないじゃんっ!? 理性が本能にノックアウトされちゃうものっ!)
見たら終わり、見たら終わり、見たら終わり……茹だりそうな頭で思いながら、立ち上がる。
と、アニスが彼のバスタオルを、そっと引っ張った。
「まえみて、あぶない」
この状況。アニスの手は、まさに天から降りてきた蜘蛛の糸だ。
その手を握り、真っ赤な顔で敬礼すると、彼は叫んだ。
「ア、アニス先輩っ! も、申し訳ありません! 不肖、荒走空那! 現在、諸事情により目を開ける事ができません! よ、よ、よろしければ、誘導願います!」
まるで、仲間を守るため敵の前線に、爆弾持って片道決死の特攻かける、余命いくばくな負傷兵のような口調だった。アホ丸出しである。
実の所、この場に至って、空那もかなりパニックになっていた。
すると、パチャリと軽い水音の後、誰かが背後にぴたりとくっつく。
「こっち」
腰に巻いたタオル越しに、濡れた小柄な体と膨らんだ腹がピトリと密着し、腰に細い腕が回される。途端、空那は戦慄した。
「あ!? ああぁっ! せ、先輩っ! そ、それは、マズいでありますぅっ! 非常にマズいでありますーっ!」
なぜ、マズいかは……当然、湯船にいるであろう二人の視線だ。
直接は見えないが、いつか感じたような不穏なオーラが、ズモモーっと湧き出してるのが感じられる!
しかもしかも、さらにアウトなことに。アニスは背が低いので、前に回した手が、とってもアブないとこにある!
(せっかく、どうにか収まってたのに!?)
確かにアニスは彼にとって、エロスとは無関係の存在である。だが……直接触られれば、それはもはや単なる『刺激』であり、話が別だ!
「せ、先輩!? アニス先輩! そ、それは……あまりにも酷であります! ……ハッ、そうか!? もしや先輩は、この状況でも耐えて見せろと、そう仰られるのですね!? 心頭滅却すれば、火もまた涼しとっ! よ、よーし……尊敬する先輩のご命令とあらばっ! この荒走空那、見事やり遂げてみせる所存にございますッ! はんにゃーはら~みたじ~、しょうけんごうんかいくう」
で、無心になろうと直立不動で合掌し、タオル一枚で般若心経を唱え始めた。
まったく、この男も毎度、パニクるとよくわからん真似をするのであった。
さすがは砂月の兄というべきか、雪乃の幼馴染というべきか、やはり根っこは同じであり、こうなった空那はもはや、興奮した砂月に負けず劣らず、頭おかしい。と、
「空ちゃん?」
「おにいちゃん?」
とびきり冷たい二人の声と共に四本の腕が伸びてきて、バカ丸出しの空那は、乱暴に湯船に叩き込まれた。
地獄とも天国とも……いや! やはり間違いなく地獄と感じられる入浴から、さらに30分後……。
四人は、ようやく仮眠を取っていた。アニスは別のベッドに寝ているが、空那、砂月、雪乃の三人は同じベッドに寝ている。
他の部屋にもベッドはあったのだが……またぞろ「離れないほうがいい」だの、「子供の頃は一緒に寝た」だの主張しはじめ、いつまでたっても決まりそうにないので、三人で寝ることになったのだ。
両隣でスヤスヤ寝息を立てる、バスローブ姿のしどけない、二人の可愛い女の子。なのに、空那はぜんぜん楽しくない。
当然だった。起きた後の心配もあるが、どれだけ積極的に迫られても、空那はどちらにも手を出すことはできないのだ。まさに、生殺しの状態だ。
左右から漂う石鹸の清潔な香りと、絡み付いてくる柔らかな温もりの中、怒りともやるせなさとも取れる感情で、なんだか泣きたくなってきた。
(なんだよ、こいつらっ! こんな状況、寝れるわけねーだろっ!?)
そう思っていたが、体は充分に疲れていたらしい。
暗い部屋で目を閉じて、規則正しい二人の息遣いを聞くうちに……空那も、いつしか眠っていた。
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