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二通目

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 二通目の手紙は、あれから三ヵ月後のことだった。
 今度は、旅人の男が託されてきた。彼は、街道沿いで手間賃の金貨と共に、この手紙を背の高い、ハンサムな男に渡されたと言っていた。それは、間違いなくイーサンだ。
 手紙を受け取った私は、急いで封を開けて覗き込む。


 サビーネへ。
 元気してるかい?
 今回もね、大ニュースがあるんだ!
 それを、ぜひ君に聞いてもらいたくってね!
 ふふふ。前置きはこれくらいにして……では、知らせてしまおうかな?
 実はなんと……僕に、『子供』が生まれたんだ!

 ……そう、子供だよ! しかも、男の子! 息子だよ!
 それで、こうしていても立ってもいられずに、君に知らせようと、ペンを走らせたってわけなのだ!
 僕の子……こいつは血をわけた、かけがえのない大切な存在さ!
 ああ、本当に可愛い……っ!
 ちっちゃな手足、生えかけの歯、どこまでも透き通った綺麗な目玉……うああ、美しいぃ……僕は今日ほど、生きていてよかったと思ったことはないね!

 だけど子供を産んだことで、妻はひどく衰弱してる。
 しばらく、つきっきりで看病しないといけないんだ。
 ここでの生活は、楽ではない。なにせ、ひどい田舎だからね。
 王都みたいに物がそろってないし、水も小川まで汲みに行かないといけない。時々、不届きな輩が入り込んだりもする……。

 でも……ただ、足ることを知れば、我、満ち足りたり!

 僕にとって、妻と子供に囲まれた不自由な生活は、百のメイドと、千の名声と、万の富に囲まれた生活よりも、ずっと幸せなのさ!

 それでは、サビーネ。
 今日はこの辺で……また、手紙を書くよ!

 イーサン=パーカーより。


 手紙を読み終えた私は、即座にアンジェリカ様のもとへ向かった。
 アンジェリカ様は、体調を崩されて、ベッドにふせせっておられた。
 手紙を読んだアンジェリカ様は、顔を覆って泣き出してしまう

「ああっ! イーサン=パーカー……なんて事なの……っ!」

 私は、おずおずと言う。

「あの、アンジェリカ様……。手紙を持ってきた旅人に、話を聞きました。どうやらイーサンは、南に至る街道沿いで、これを旅人にたくしたそうです」

 アンジェリカ様は、涙をボロボロと零しながら、頭を抱えた。

「わ、わたくしが……わたくしが、あの時、無理にでも引き止めていれば……っ! でも、イーサン! まさか、貴方がわたくしに、あんなひどい事を言うなんて……! だ、だってイーサン! 貴方はわたくしに、血の一滴すらも余さず捧げると、そう誓ったはずなのに……!? それが……ああ、こ、こんなの……残酷よっ! ひどすぎるわぁ!」

 私は思わず、アンジェリカ様の側へと走りよる。そして、その肩を支えた。

「ア、アンジェリカ様っ!」

 彼女の苦しみは、私にもわかった。
 あのイーサンに、子供が生まれてしまった……どこの誰とも、顔もわからぬ女が産んだ!
 こんなに残酷なことって、あるだろうか!?
 私の目からも、涙が零れた。

「アンジェリカ様……お可哀想に……! ……くぅっ! ど、どうか、アンジェリカ様のお心を、私ごときが推し量るなど、無礼とお思いになられませんように……っ!」

 アンジェリカ様が、私の肩に額を押し付け、叫ばれる。

「いいえ、いいえ! いいのです、サビーネ! ……ねえ、お願いです! わたくしを、貴女にすがらせてください……っ! 心が、寒くて寂しいわ……サビーネ! わたくしを強く抱いてっ!」
「お、お心のままにっ!」

 私は、アンジェリカ様を抱きしめた。肩の骨が浮き出して、あまりにも痛々しい。
 アンジェリカ様は、私にしがみついて号泣される。

「うああっ! ねえ、サビーネ! わたくし、どうしたらいいの!? もう、辛くて堪らないのよ! 息をするのも、嫌になってしまったわ!」
「ア、アンジェリカ様……っ! そ、そのような事は……どうか、仰らずに……っ!」

 真っ赤な顔で身を震わせ、泣き続けるアンジェリカ様を見て、私は胸が一杯になる。

 ……痩せたアンジェリカ様は、美しかった。
 目が落ちくぼみ、肌はかさつき、手足は骨の形が見えるほどになっているのに……それはしおれかけで、なお色を濃くする、薔薇の花に似ている。
 だが、かつての生気に溢れた、匂い立つ美しさを知っているだけに……この退廃的な美しさには、心が抉られるようだった。

 ああ、アンジェリカ様……っ!

 しおれかけの可憐な花を前に……ただ、放っておける人間が、いるのだろうか?
 ……水だ。水を、差し上げるのだ。
 また、かつてのように元気を取り戻し、笑って頂きたい。
 彼女の心を癒すために、私にできることは……なんだろう?

 ここにいるのは、いずれも想い人の男に逃げられ、傷ついた女二人である。
 私は、アンジェリカ様の御髪おぐしを撫ぜて、耳にそっと囁く。

「ねえ、アンジェリカ様。これは、貴女様のお心を癒すための、ただの遊戯にございます」
「……え? サビーネ……それって……どういう意味かしら?」

 私は鎧を脱ぐと、アンジェリカ様のベッドへと、体を滑り込ませる。

「サ、サビーネっ……? あなた、何を……!?」

 私は、唇の前で指を一本立てて、しぃーっと息を吐く。
 アンジェリカ様の喉が、ごくりと動いた。
 拒否は……なさらない。

 私には、アンジェリカ様を元気付ける水……『愛』を差し上げられる、自信があった。
 なぜなら同性との経験は、今まで何度もあるからだ。女だてらに騎士などやっていると、若い娘は熱を上げ、性の垣根を飛び越えて、私に愛してもらいたがる。
 それをどうか、汚い……などと、言ってくれるな。
 命を懸けて戦い終えた後、その身にあるのは、燃え上がった本能なのだ。
 いかな勇猛な騎士であろうと……いや! 勇猛だからこそ、それを抑えるのは難しい!

「アンジェリカ様……失礼いたします」
「ああっ、サビーネ……っ!」

 ……アンジェリカ様が、私の腕の中で、かわいらしく喘いでいる。
 表で侍女が聞いてるだろうが、止めにくる様子はない。
 私が男なら、即座に処刑されてたろうが……女同士なら、遊びで片付く。
 それでアンジェリカ様が元気になるなら、目を瞑ると言う事だろう……熱い夜は、更けていく。
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