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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない

4.洞窟から始まる

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 目覚めたら目の前に見知らぬ女性が座っていた。──裸の。


「ようやくお目覚めか。・・・・・・大丈夫か?」

「・・・・・・え?」


 どうやら、私は洞窟の中で寝ていたらしい。下から感じる土の冷たさに少し身じろぎすると、周りの土壁を見ながら起き上がる。
 改めて目の前の女性に目を向けた。──ボンキュッボンのナイスバディである。


 ・・・・・・私は裸に縁でもあるのだろうか。


 腰まである艶やかな黒髪。猫のようなつり上がった金目がこちらを見つめている。とても人間離れした美貌に、私はポカンと口を開いたまま固まった。

 彼女はそんな様子の私に一瞬首を傾げたが、しばらく考えると、ああ、と手を打った。立ち上がると、顔にかかった黒髪をかき上げ金に光る瞳で私を見下ろした。


「儂はさっきのドラゴンだ。今は万化のスキルで人間の姿になっている」


 確かに面影がないとは言えない。鋭い眼光を放つ金瞳などはドラゴンの時のままである。
 ようやく認識されたのを確認し、ドラゴンだという女性は改めて目の前に座った。


「──して、お主は何故この森にいたのだ? いや、そもそも親はいるのか?」


 存在しないはずの純血。何かの間違いだと願っても、彼女の口調からしてそれは無さそうだ。
 ──そんなこと私が聞きたいくらいだ、と言いたいが口を噤んで首を横に振った。


「実は記憶も無くて・・・・・・いつの間にかあの場所に」


 こんな付け焼き刃のような嘘が通じるのか、と心配したものの「やはりそうか」と女性は一言。意外にもあっさりと信じたようだった。


「ひとまず、お主の身柄は儂が預かろう。それまでは魔族らから身を隠すといい。・・・・・・純血が絡むと面倒くさくなるからな」


 そう言うと、ほれ、と何かを差し出してきた。受け取って見ると、チェーンの先に黒い鱗が付いたネックレスだった。
 これは? と聞けば魔道具マジックアイテムだと言う。


「その鱗には、ネックレスをかけている対象を〝人間〟に見せてくれる。幻属性魔法の一種だ、外さない限り効果は続く」


 対象自身にかけるタイプの魔法の為、ムラ・・はないらしい。
 女性の言葉が嘘とは思えないが、罠とも言いきれない──どちらにしろ私は彼女に従うしか道はないだろう。

 私は彼女の手からそれを受け取ると素直に首へとかけた。


「どうだ? 身体に異変はないか?」

「大丈夫・・・・・・みたい、です」


 特には何も感じられない。感じるのは冷たいネックレスの感触だけだ。
 それを聞くと、それは良かった、とほっと安心した表情で女性は微笑む。


「これからは儂もここに住むことにしよう。誰かと一緒に住むのは久しぶりだな・・・・・・そうだ、何か欲しいものはないか? 何でもいいぞ、すぐに買って来させよう」


 意外にも子供のようにはしゃいでいる様子。少なくとも、取って喰おう等と物騒な雰囲気ではない。目も何故かキラキラと輝かせている。
 それはともかく、欲しいものをくれるというのはかなり好都合だ。・・・・・・罠ではない事に限った話だが。

 なら、と私は小さく手を挙げた。さすがに我慢ならないものがある。
 ──言わずもがな、服装だ。


「・・・・・・できれば、服を貰えると助かるのですが」

「服?」


 しかし何故か浮かぶはてなマーク。こちらを見つめ少し考えた後、ああ、と納得した表情になった。


「そうか、魔族には服を着る習慣があるのだな。了解した、すぐに買いに行かせよう。他に必要なものはないか?」

「じゃあ、食べ物とかも・・・・・・」

「ふむ、確か魔族は雑食だったかな。ならば、果物でも用意させよう──バーバチカ、そこにいるのだろう?」


 彼女が洞窟の奥へとそう呼びかけると、瞬間、気配と共に小柄な姿が現れた。


「はい、母上様ここに」


 すっと視線を上げたのはゴスロリを着た灰髪の少女だった。緩く巻かれたツインテールが揺れる。
 そこには、まるでフランス人形のように作り物のような美しさがあった。

 女性に負けず劣らず本当に美しい。羨ましいくらいだ。

 ガラス玉のような蒼の瞳でこちらを一瞥し、少女は改めて姿勢を正す。頃合いを見て、女性が少女へと目を向けた。


「紹介しよう。名はバーバチカという──儂の息子・・だ」


 ・・・・・・はい?
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