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第2章 そんな規定は聞いていない
26.ランバディア帝国から始まる
しおりを挟む目を開けてみればそこには巨大な壁がありました──どこかのオープニングで流れてきそうなテロップである。しかし実際目の前には、天まで届くぐらいの壁がそそり立っていた。
とても頑丈そうである。
「ここがランバディア帝国か・・・・・・!!」
どうやら、無事に転移石は発動したらしい。大きな感動はないものの、それでも未知なる国を前にしてじーんと胸が熱くなっている私に対し、バーバチカは特に何も言わず、門番の元で入国手続きをし始める。
「・・・・・・、ねえ、チカちゃんはこう・・・・・・感動とかないの?」
「ないね。国なんてどこも同じようなものでしょ?」
当たり前のように答えて門へ向かう。
そういえば、バーバチカは森近くの人間の国に度々行っていると聞いた。・・・・・・確かに何度も訪れていれば、他国であっても感動も薄くなりそうだ。
入国許可が降りたのを確認して私も彼に続く。
「・・・・・・まずは身分証かな。それがないと色々困るから」
「身分証? どこで作れるの?」
駆け足で横に並ぶと、帝国管理協会、と一言返される。
「ボクはもう作ってあるから、コウの籍をランバディア帝国に置く。でも、地図によると帝国管理協会は王都にしかない」
「王都って・・・・・・」
「国の中心部だ、ここから大分離れている」
話を聞くと、不眠不休で歩き続けても1ヶ月はかかる距離らしい。
だから、とバーバチカは続ける。
「商人の護衛をしつつ、馬車に乗せてもらって移動するんだ」
「護衛って・・・・・・どこでその仕事を受けられるの?」
「──ギルドだよ」
幸いなことにギルドは街にひとつはある施設らしく、この街にもあるという。少し歩くらしいがそこまで気にする距離ではない。
「じゃあすぐそこに・・・・・・」
行こう、と続けようとした言葉が止まる。遠くの人混みに見慣れた姿を見たような気がしたのだ──黒髪を持つ紅眼の男性を。
だが、それはあっという間に人の壁に消され、あっという間に見えなくなっていた。
「どうしたの?」
「え、いや・・・・・・ううん、何でもないよ。──それよりも早くギルドに行こっか」
バーバチカは怪訝そうな表情を崩さなかったが、それでも「そう」と一言だけ答えてから先に立って歩き始める。深くは追求されずに済んで、ほっとしながらも私はそれについて行った。
あまり歩かないというのは本当のようで、ギルドには数分で着くことが出来た。
木製の大きめの建物に、剣の飾りがついた看板。そこには記号のような文字が書かれている。
・・・・・・やはり日本語は使われていないのか。
「ここがギルド?」
「そ、看板にも『国立ギルド支部』って書かれているでしょ?」
同意を求められたところで、残念ながら文字が読めないのである。記憶喪失でも文字は読めるよな──そう思いながら、私は曖昧な表情で頷いた。
中に入ると半獣の女性がにこやかに対応する。バーバチカも可愛らしい少女のような声音を作る。
「あの・・・・・・」
思わず二度見した。女装という生易しいレベルではない。もはや本物の少女である。
「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」
「王都まで行く商人の護衛の依頼はあります? 僕たち急いで行かなくちゃならなくて・・・・・・」
「もちろんございますが・・・・・・その前に、御二方の冒険者カードを頂けますでしょうか?」
受付嬢の声にピタリと動きが止まるバーバチカ。傍から見ても焦っている事が良くわかる。
横に並び、どうしたの、と声をかけても反応はない。震え声を絞り出して受け付けの女性に言う。
「・・・・・・あの、冒険者登録をお願いしたいのですが」
「えっ、あ、はい。少々お待ちください」
まさか冒険者登録がされていないとは思っていなかったのか、受付嬢が目を見開く。が、すぐに営業スマイルを浮かべると、奥の部屋へ姿を消した。
「・・・・・・チカちゃん、冒険者登録してなかったの?」
「依頼にカードが必要なんて知らなかったんだよ・・・・・・。いつもは毛皮とかを売って金を稼いでいたから」
換金するだけなら冒険者カードの提示は必要ないらしい。だから、換金のみを行っていたバーバチカは知らなかったのだ。
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