上 下
29 / 29
第2章 そんな規定は聞いていない

26.ランバディア帝国から始まる

しおりを挟む

 目を開けてみればそこには巨大な壁がありました──どこかのオープニングで流れてきそうなテロップである。しかし実際目の前には、天まで届くぐらいの壁がそそり立っていた。

 とても頑丈そうである。


「ここがランバディア帝国か・・・・・・!!」


 どうやら、無事に転移石は発動したらしい。大きな感動はないものの、それでも未知なる国を前にしてじーんと胸が熱くなっている私に対し、バーバチカは特に何も言わず、門番の元で入国手続きをし始める。


「・・・・・・、ねえ、チカちゃんはこう・・・・・・感動とかないの?」

「ないね。国なんてどこも同じようなものでしょ?」


 当たり前のように答えて門へ向かう。
 そういえば、バーバチカは森近くの人間の国に度々行っていると聞いた。・・・・・・確かに何度も訪れていれば、他国であっても感動も薄くなりそうだ。

 入国許可が降りたのを確認して私も彼に続く。


「・・・・・・まずは身分証かな。それがないと色々困るから」

「身分証? どこで作れるの?」


 駆け足で横に並ぶと、帝国管理協会、と一言返される。


「ボクはもう作ってあるから、コウの籍をランバディア帝国に置く。でも、地図によると帝国管理協会は王都にしかない」

「王都って・・・・・・」

「国の中心部だ、ここから大分離れている」


 話を聞くと、不眠不休で歩き続けても1ヶ月はかかる距離らしい。
 だから、とバーバチカは続ける。


「商人の護衛をしつつ、馬車に乗せてもらって移動するんだ」

「護衛って・・・・・・どこでその仕事を受けられるの?」

「──ギルドだよ」


 幸いなことにギルドは街にひとつはある施設らしく、この街にもあるという。少し歩くらしいがそこまで気にする距離ではない。


「じゃあすぐそこに・・・・・・」


 行こう、と続けようとした言葉が止まる。遠くの人混みに見慣れた姿を見たような気がしたのだ──黒髪を持つ紅眼の男性を。
 だが、それはあっという間に人の壁に消され、あっという間に見えなくなっていた。


「どうしたの?」

「え、いや・・・・・・ううん、何でもないよ。──それよりも早くギルドに行こっか」


 バーバチカは怪訝そうな表情を崩さなかったが、それでも「そう」と一言だけ答えてから先に立って歩き始める。深くは追求されずに済んで、ほっとしながらも私はそれについて行った。

 あまり歩かないというのは本当のようで、ギルドには数分で着くことが出来た。
 木製の大きめの建物に、剣の飾りがついた看板。そこには記号のような文字が書かれている。

 ・・・・・・やはり日本語は使われていないのか。


「ここがギルド?」

「そ、看板にも『国立ギルド支部』って書かれているでしょ?」


 同意を求められたところで、残念ながら文字が読めないのである。記憶喪失でも文字は読めるよな──そう思いながら、私は曖昧な表情で頷いた。

 中に入ると半獣の女性がにこやかに対応する。バーバチカも可愛らしい少女のような声音を作る。


「あの・・・・・・」


 思わず二度見した。女装という生易しいレベルではない。もはや本物の少女である。


「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」

「王都まで行く商人の護衛の依頼はあります? 僕たち急いで行かなくちゃならなくて・・・・・・」

「もちろんございますが・・・・・・その前に、御二方の冒険者カードを頂けますでしょうか?」


 受付嬢の声にピタリと動きが止まるバーバチカ。傍から見ても焦っている事が良くわかる。
 横に並び、どうしたの、と声をかけても反応はない。震え声を絞り出して受け付けの女性に言う。


「・・・・・・あの、冒険者登録をお願いしたいのですが」

「えっ、あ、はい。少々お待ちください」


 まさか冒険者登録がされていないとは思っていなかったのか、受付嬢が目を見開く。が、すぐに営業スマイルを浮かべると、奥の部屋へ姿を消した。


「・・・・・・チカちゃん、冒険者登録してなかったの?」

「依頼にカードが必要なんて知らなかったんだよ・・・・・・。いつもは毛皮とかを売って金を稼いでいたから」


 換金するだけなら冒険者カードの提示は必要ないらしい。だから、換金のみを行っていたバーバチカは知らなかったのだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(36件)

糸生,,しき布団

面白い…ハートの草もりもり食べちゃう主人公の可愛さが尋常じゃない…えっなに??その辺に生えてる草食べ歩きとか萌でしかなくない????え、????

解除
アイス
2018.06.26 アイス

お返事の花子さんの気持ちがとても分かりやすくて、笑みが零れましたw嬉しいです!
いつもありがとうございます!
無理せずに頑張ってくださいませ(*´ω`*)

厠之花子
2018.06.26 厠之花子

こちらこそ度々の返信と感想ありがとうございました・・・!
これからも頑張りますので、変わらず読んで下さると嬉しいです・・・❀(*´▽`*)❀

解除
アイス
2018.06.25 アイス

成長してもまた、ハート草食べてくれないかなー( ゚ ρ ゚ )好物になってればいいなーw

厠之花子
2018.06.25 厠之花子

ハート草はこれからも登場しますよ・・・・きっとw(∩ˇωˇ ∩)

解除

あなたにおすすめの小説

楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉

ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。 生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。 ………の予定。 見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。 気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです) 気が向いた時に書きます。 語彙不足です。 たまに訳わかんないこと言い出すかもです。 こんなんでも許せる人向けです。 R15は保険です。 語彙力崩壊中です お手柔らかにお願いします。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私の可愛い悪役令嬢様

雨野
恋愛
 私の名前はアシュリィ。どうやら異世界転生をしたらしい。  私の記憶が蘇ったきっかけである侯爵令嬢リリーナラリス・アミエル。彼女は私の記憶にある悪役令嬢その人だった。  どうやらゲームの世界に転生したみたいだけど、アシュリィなんて名前は聞いたことがないのでモブなんでしょうね。その割にステータスえらいことになってるけど気にしない!  家族の誰にも愛されず、味方がただの一人もいなかったせいで悪堕ちしたリリーナラリス。  それならば、私が彼女の味方になる。侯爵家なんてこっちから捨ててやりましょう。貴女には溢れる才能と、無限の可能性があるのだから!!  それに美少女のリリーをいつも見ていられて眼福ですわー。私の特権よねー。  え、私?リリーや友人達は気遣って美人だって言ってくれるけど…絶世の美女だった母や麗しいリリー、愛くるしい女主人公に比べるとねえ?所詮モブですからー。  第一部の幼少期はファンタジーメイン、第二部の学園編は恋愛メインの予定です。  たまにシリアスっぽくなりますが…基本的にはコメディです。  第一部完結でございます。二部はわりとタイトル詐欺。 見切り発車・設定めちゃくちゃな所があるかもしれませんが、お付き合いいただければ嬉しいです。 ご都合展開って便利ですよね! マナーやら常識があやふやで、オリジナルになってると思うのでお気をつけてください。 のんびり更新 カクヨムさんにも投稿始めました。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。