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序章 とある下働きの少女
16.以前のような日常が_2
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国の中央に位置する巨大ギルド──中央ギルドには多くの冒険者が集まる。その全てが戦慣れした者で、CランクやDランク、ましてやFランク等の青臭い初心者はまずいない。
中央ギルドには百戦錬磨の冒険者のみが集まり、常に中ではピリピリと肌を刺すような空気が漂っているのだ。
故に新参者は浮く。いつもの顔ぶれと違う者が入って来たことで、散漫していた注意が一点に集まる。そこにいたのは気の良さそうな青年だった。
青年はどこか品定めをするような視線を受けながら、恐る恐る受け付けへと向かう。受け付け口ではこの雰囲気に似つかわしくない、ニコニコと笑顔の半獣人がちょこんと座っている。
「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうかにゃ?」
「いや、先日ここでの冒険者引き継ぎ登録を終えたばかりで……。いつもこんな感じなのかい?」
「にゃ? こんな感じ……? 普段の光景と変わりませんのにゃあ」
キョトンとして答える受付嬢。張り詰めた空気をも気にせず終始にこやかな表情である。
「中央ギルドで異世界人と組めるパーティメンバーを募集していると聞いてね」
「お兄さんも大会エントリー希望ですにゃ? Bランク以上の冒険者のみの対象にゃけど……」
「大丈夫だよ。……はいこれ、冒険者証明」
懐から取り出された複雑な模様が掘られた金属を受付嬢が平たい石に乗せた。満足気に頷くと笑顔でそれを返す。
「……確認しましたにゃ! これがエントリー書類ですにゃ!」
ありがとう、とにこやかに青年が受付嬢から紙の束を受け取る。そこにはびっしりと文字が並んでいた。それらを大切に鞄へとしまうと、「じゃあまた」と会釈をした。
「大会頑張ってくださいにゃ~」
「ありがとう。……頑張るよ」
彼を見送り、一仕事を終えた受付嬢は呟く。ひくひくと小さな鼻を心配そうに動かしては、その度に小さなため息をついた。
「……倍率は相当な高さにゃあ、想像しただけでも大変だにゃ……よくエントリーするよにゃぁ」
◇◇
「──ジルロ、異世界人が召喚されたという話は本当なのか? しかも2人」
「……んーその前に机の上に座るのはやめて欲しいかなぁ」
「この話で冒険者らがザワついている。……実際はどうなんだ?」
「……、無視するなんておいちゃんは悲しいよ」
中央ギルド内の奥。本日の営業が終わった真夜中に、ビアンカはギルド長の元へと足を運んでいた。
部屋に入るなり、書類が散乱する机の上にどっかりと腰を下ろし、煙管を燻らすジルロを見下ろす。
あー、ハイハイ降りてくれないのね。はあ、とため息を付いて煙管から口を離すジルロ。1mmたりとも動かないビアンカを見上げた。
「──少なくとも召喚されたというのは、どうやら本当らしいねぇ……。ついさっき王様から……ほら、手紙貰っちゃったよ」
そう言って、ひらりと見せたのは王族の紋章が印された紙。丁寧に折り畳まれているソレには、確かにジルロ宛だと書かれている。
「そこには何が書かれているんだ?」
「……それは読んだ方が早いねぇ」
ビアンカが渡された紙に目を通す。数分で全体を確認しジルロに手紙を戻すと一言。
「……これはまた冒険者らが騒ぎそうな内容だな」
「でしょ? 召喚の成功が奇跡のようなものだから尚更、それにこんな機会滅多にないからねぇ」
「ふん、危険に晒されることは明白だというのに。──異世界人とのパーティなんて」
「まあまあ……その分待遇は良くしてくれるらしいよ。駒として使われたとしても、それなら満足なんじゃないの?」
「……、どうだか。例え自分の実力以上の相手だとしても、命令として強制的に挑ませられてしまう──命あっての物種とよく言うのにな」
吐き捨てるようにビアンカが言った言葉に、ジルロは無言で笑った。再び煙管を咥えると、ゆったり背もたれに寄りかかる。
「これは賑やかになりそうだねぇ」
全くだ、とその様子を見ていたビアンカも同意した。
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